第1話『花咲きたい!』
PART 5
えな | 花帆ちゃーん……って。 |
花帆 | うわあああああ! |
花帆 | み、見た……? |
びわこ | み、見てないよ!?ぜんぜん!さっぱり! |
しいな | ごめん、見ちゃった……。 |
えな | 見ちゃったね。 |
びわこ | う…………実は、見ちゃった。 |
花帆 | そっか~……。 |
えな | 今の転入届、だったよね……。 |
びわこ | ……花帆ちゃん、学校辞めちゃうの? |
花帆 | それは……。 |
花帆 | あたし、たった一度の高校生活……。 後悔、したくなくて。 |
えな | うん。 |
びわこ | この学校じゃ、叶えられないの? |
花帆 | …………。 |
しいな | そんな暗い顔、することないでしょ! いいじゃん新しい学校!どれも楽しそうで! |
えな | だよね!?蓮ノ空とはぜんぜん違って……。 って、いや、これはその、皮肉とかじゃなくて! |
びわこ | そ、そうそう。ただ、その……。 寂しいな、って。 |
しいな | でも、私たちは諦めちゃってるから、 行動しようとしてる花帆ちゃんのこと、すごいって思うな。 |
花帆 | ……え? |
えな | うん、楽しいこと、きっと見つけてね。 |
びわこ | 友達だよ、私たち。 |
花帆 | うん……。ありがとう。 |
花帆 | ご、ごめん……あたし、またお手伝いがあるから、行くね! |
花帆 | じゃあねみんな、またね! |
花帆 | …………はぁ。 |
梢 | なにか、心配事?もうライブは明日よ。 |
花帆 | そーですね……。 でも、あたしが出るわけじゃありませんし……。 |
梢 | だったら出てみる? |
花帆 | えっ!? |
梢 | うふふ。 |
花帆 | じょ、冗談、ですよね? |
梢 | そうね。 でも冗談かどうかは、あなた次第。 |
花帆 | それは……? |
梢 | これまで、たくさん手伝ってもらったわね。 |
梢 | でもそうしてくれたのは、今までずっと、ただの親切だけ? |
花帆 | そ、そうですよ!梢センパイが困っていたから、 だからあたしは、少しでもお役に立てたら、って! |
梢 | 本当に? |
花帆 | え……。 |
梢 | 本当に、それだけだった? |
花帆 | …………。 |
梢 | 私はね、あなたの胸の内に、 強い気持ちが眠っているように見えたわ。 |
梢 | 今にも飛び出したくてうずうずしている、そんな気持ちが。 |
梢 | 新しい世界を見せてあげる。 あなたにそう言ったことは、間違いじゃなかった。 |
梢 | だけど、私にできるのは、ここまで。 |
梢 | ここから先は、あなた自身が踏み出さなければ、 始まらない物語なの。 |
花帆 | あたしは……あたしは。 |
花帆 | ……。あの、梢センパイ。 |
花帆 | あたしの……友達の話!なんですけど。 |
梢 | ええ。 |
花帆 | 実は、まだ学校を辞めたいって思ってて……。 |
花帆 | あたしはそれを止めたいのか止めたくないのか、 よくわからないんです。 |
花帆 | その子は、新しい世界に飛び出したくて。 |
花帆 | それは、梢センパイに言ってもらったのとは ちょっと違っているんですけど……。 |
花帆 | だけど、もしかしたらその子は、 ただ逃げてるだけなんじゃないかって思ったりもするんです。 |
花帆 | 楽しいことがしたかっただけなのに……。 梢センパイの見せてくれた景色も、本当に眩しくて。 |
花帆 | その先があるなら、あたしは……あたしは……。 |
花帆 | あたしは、どうしたらいいですか、梢センパイ……。 |
梢 | 前にも、言ったわよね。私の家系はみんな音楽をしているって。 父も母も、祖父も祖母も。 |
花帆 | はい。 |
梢 | ……だからね、最初、スクールアイドルをやりたいって言ったときには、 ずいぶんと反対されちゃったの。 |
花帆 | えっ、そうなんですか?あんなにすごいのに!? |
梢 | ありがとう。 |
梢 | でも、今までたくさん習い事に通わせてもらったのに、 私はその中からではなく、スクールアイドルを選んでしまった。 |
梢 | あまつさえ、 衣装作りのために指に傷を作って針仕事をしているなんて知られたら、 もしかしたら卒倒しちゃうかも。 |
花帆 | それじゃあ、どうしたんですか。 やっぱりセンパイも、親の反対を押し切って!? |
梢 | いいえ。 |
花帆 | えっ……。 |
梢 | ちゃんと親と話し合ってね。 自分のやりたいことを、正直に伝えたの。 |
梢 | 全部を理解してもらえたとは思わないけれど、 でも、好きな気持ちはきっと伝わったはずだから。 |
花帆 | 自分のやりたいことを、正直に……。 |
梢 | もし親の反対を押し切ってスクールアイドルを続けていたら、 それはきっとどこかで、親に反発するための活動になっていたから。 |
梢 | それが本当に私のやりたかったことだとは、 思えないの。 |
花帆 | ──! |
梢 | だからね、スクールアイドル活動だって、立派な芸術。 音楽なんだって。 |
梢 | そうわかってもらえれば、いつかはきっと 私を認めてくれるはずだから。 |
梢 | それなら私は、好きなことをただひたむきに、 続けていけばいい。 |
花帆 | センパイは……センパイは、 スクールアイドル、楽しいですか? |
梢 | ええ、とっても。 |
梢 | ねえ、日野下さん。 |
梢 | あなたのお友達が花咲くために必要なことって、 本当はどんなことなのかしら。 |
梢 | 他の学校に移ること?それとも。 |
花帆 | ……それは。 |
花帆 | あの! |
梢 | わ。 |
花帆 | お話聞いてもらって、ありがとうございます! |
花帆 | ただ、あの、もうちょっとだけ、 待ってもらってもいいですか!? |
梢 | え、ええ、それはもちろん。 |
花帆 | センパイのライブまでにぜんぶ、 気持ちの整理をつけてきますから! |
花帆 | だから、その、とにかく、がんばりますから! |
梢 | ええ、わかった。待ってるわ。 |
花帆 | はい!それじゃあまた明日、おつかれさまでした! |
さやか | あの、乙宗先輩。 |
さやか | 今、すごい勢いで花帆さんが出ていったんですけど、 なにかあったんですか? |
梢 | なにかが起こるのは、これから、かしらねえ。 |
さやか | ? |
梢 | でも、よかったわ。 |
梢 | もしかしたら、無駄にならずに済むかもしれないから。 |
さやか | 先輩、これって……! |
花帆 | あたしが、ほんとはどうすればよかったのか──! |
花帆 | あたし、花咲きたい。 だけど、諦めてた。 |
花帆 | この学校じゃムリだって、ここは日の光も差し込まない日陰なんだって、 勝手に思い込んでた。 |
花帆 | でも……ほんとは、違うのかも! |
花帆 | 梢センパイみたいにきれいに咲いている人がいて……。 だからきっと、どこにだってヒカリはあって。 |
花帆 | あたしがそれを、掴めるかどうかなんだ。 |
花帆 | 星の光でも咲く花はあって、 まっすぐに手を伸ばせば、きっと! |
花帆 | 好きってその気持ちだけで、 どこでだって花咲けるはずなんだ! |
花帆 | 光を、雨を、風を、待ってるだけじゃない! あたしはあたしの力で、咲いてみせる! |
花帆 | あたし、決めた。 あたし──もう、逃げないから! |
花帆 | やるぞー!!! |
えな | どうしたの、花帆ちゃん。 こんなところに呼び出して。 |
びわこ | まさか、もう転校しちゃうから、 きょうでお別れのご挨拶、ってこと!? |
しいな | そ、そうなの!? |
花帆 | うん、実は……。 |
花帆 | これを、 |
花帆 | こうしてやるんだ! |
クラスメイトたち | ええー!?!? |
花帆 | あたしね、学校やめるの、 やめることにする! |
えな | どうして、花帆ちゃん……!? |
びわこ | まさか、私たちとの別れを惜しんで!? |
しいな | えええっ、そ、そんな…… そりゃ、行かないでくれた方が嬉しいけど、 でも、離れてても友達だから……! |
花帆 | ありがとう! |
花帆 | うん、でもそうじゃなくて! あ、ちょっとはそうだけど、でもほんとはそうじゃなくて! |
花帆 | ごめん! |
花帆 | あのね、あたしね…… 今まで、ちょっと、かっこ悪かった。 |
花帆 | ぜんぶ蓮ノ空のせいにしてた。 |
花帆 | 環境が悪いから仕方ないんだって、 そう思い込んでた。 |
花帆 | でもね、 まだまだあたしにもできることがあるんだって、 わかったんだ。 |
えな | でも……。 |
びわこ | そんなこと言っても、この学校じゃ。 |
しいな | 他の学校に比べて、できることも限られちゃうし……。 |
花帆 | できるよ! |
えな | できるって……どうするつもりなの? |
花帆 | あたしが、この学校を変えてみせる! |
花帆 | あたしがもっともっと、 この学校を楽しくしてみせるから! |
花帆 | どんな都会にも負けないぐらい! |
クラスメイトたち | えええっ!? |
花帆 | あたしが花咲いて…… |
花帆 | ううん、あたしだけじゃなくて! |
花帆 | みんなで花開くの! そしたらもっと楽しくなるよ! |
花帆 | みんなで花開くの! そしたらもっと楽しくなるよ! |
花帆 | あたし、この学校を、みんなの笑顔で満開にしてみせる! だから──。 |
花帆 | あたしに任せて! ぜったいに楽しませてみせるから! |
梢 | 日野下さん。 |
花帆 | あたし、いっぱい考えて、それで。 ほんとはどうしたかったのか、わかったんです。 |
花帆 | この学校を笑顔でいっぱいにしたい。 あたしが楽しいだけじゃなくて……。 |
花帆 | この学校で同じように退屈を感じてる子たちを、 楽しませたい。 |
花帆 | あたしが梢センパイに、 そうしてもらったみたいに! |
梢 | ええ。 |
花帆 | だから、決めたんです。 |
花帆 | あたし、スクールアイドルやります! |
花帆 | みんなを花咲かせるスクールアイドルに、 なります! |
梢 | なんだか不思議ね。 |
花帆 | なにが、ですか? |
梢 | 不思議と、こうなる気がしていたの。 |
梢 | あなたが私と一緒に、 スクールアイドルをやってくれるような気が。 |
梢 | ステージの上に立って、あなたを見たときから。 |
梢 | いいえ、もしかしたら、 あなたと初めて会ったときから、だったのかもしれないわ。 |
梢 | 花帆さん、あなたを歓迎するわ。 ようこそスクールアイドルクラブへ。 |
花帆 | 梢センパイ!ありがとうございます。 |
梢 | そしてこれは、私からあなたへ、 最初の贈り物。 |
花帆 | わあ……! |
梢 | それじゃあ、いきましょう。 あなたと私で、新しい世界へ。 |
花帆 | はいっ! みんなの、笑顔を咲かせに! |
えな | ライブすごかった!花帆ちゃん! |
花帆 | わ、わわわ!そ、そうかな? |
びわこ | うん!、すっごくかっこよかったよ! ドキドキしちゃった! |
花帆 | えへへ、嬉しい。 |
しいな | ね、ね、サインちょうだいよ、サイン! |
花帆 | ええーっ!? |
梢 | 早速、応援してくれる人ができたのね、 日野下さん。 |
花帆 | あはは、そうみたいです。 |
花帆 | でも、これからもっともっとがんばりますから。 |
花帆 | 退屈なんて感じる暇がないくらい、 夢中にしてみせるから! |
花帆 | あたしは、願えばどこだって花咲ける。 |
花帆 | 今はまだ、ひょっこり芽が出たばかりの、 ちっちゃなお花でも。 |
花帆 | まずはこれが、第一歩! |
花帆 | みんなも一緒に、ここで花咲こうね! |