第3話『雨と、風と、太陽と』
PART 4
花帆 | あたし……自分のせいで、いろんな人の期待を、裏切っちゃった……。 やっぱり、花咲くなんて、あたしにはムリなのかな……。 |
花帆 | ……ぜんぶ、だめにしちゃったよ……。 |
さやか | 花帆さん? |
花帆 | あ、さ、さやかちゃん。 |
さやか | どうしたんですか、こんなところで。 ライブの準備があるはずじゃ? |
花帆 | ……。 |
さやか | ……花帆さん? |
花帆 | ……それが。 |
さやか | そうですか……。 それは、大変でしたね……。 |
花帆 | うん……。ぜんぶ、あたしのせいで。 |
さやか | そんな、言い方は……。 |
さやか | 花帆さんは、今まであまり激しい運動をしてこなかったんですよね。 だったら、自分の限界を見誤ってしまうのだって、仕方ないことかと……。 |
花帆 | 仕方ないなんて、そんなの…… もうちょっとで、大事故になるかもしれなかったんだよ!? |
花帆 | あたしなんかのせいで、梢センパイが……。 |
さやか | ……そうですね。でも、今回はならなかったんです。 だったら、次からは気をつけましょう。 |
花帆 | ……そんなの……。 |
さやか | ……。 |
さやか | 花帆さん、あんなに朝練も嫌がっていたのに。 どうしてそんなにがんばったんですか。 |
花帆 | それは……。 |
花帆 | スクールアイドルが楽しくて…… でも、それだけじゃなくて。 |
花帆 | 最初は、ちょっとずつ上手になっていくことが、嬉しかったんだ。 |
花帆 | あたしが一人前のスクールアイドルになったら、今度こそ、 応援してくれるみんなを笑顔にできるぞ、って思って……。 |
さやか | ……。 |
花帆 | でも、梢センパイが、あたしのこといっぱい褒めてくれて……。 あたしと一緒に、夢だった衣装を着たいって言ってくれて。 |
花帆 | だからあたし、梢センパイの真剣な想いに、応えたいって思って……。 こんなんじゃぜんぜんだめだから、もっとがんばらないとって……。 |
さやか | 花帆さん……。 |
さやか | 花帆さんは、優しいですね。 |
花帆 | そんなことない。あたしなんて、自分勝手で……。 |
さやか | でも、自分が楽しむよりも、 乙宗先輩のためにがんばろうと思ったんですよね。 |
さやか | 厳しい練習の上、自主練習までして。 誰にだって、できることじゃありません。 |
花帆 | ……。でも結局、うまくできなかったよ……。 |
花帆 | いっぱい迷惑かけて、センパイにも、きっと、嫌われちゃった。 |
さやか | ……大丈夫ですよ。 乙宗先輩は、そんなことで花帆さんを嫌いになったり、しませんよ。 |
花帆 | ……。 |
さやか | ……乙宗先輩が戻ってきたら、あとでしっかりとお話ししましょう。 今は少し、休みませんか。 |
花帆 | ……うん。 |
さやか | お部屋まで、送っていきますよ。 |
花帆 | ……大丈夫。さやかちゃんも、練習中でしょ。 お話聞いてくれて、ありがとうね。 |
花帆 | おかげでちょっと……落ち着いたから……。 |
さやか | ……そうですか。 あの、あまり気を落とさないでくださいね! |
花帆 | うん……ありがとね、さやかちゃん。 |
花帆 | あ……。カバン、部室に置きっぱなしだ……。 |
花帆 | あったあった。 |
花帆 | ……って、 |
花帆 | おわわ!よっ、ほっ、はっ。 |
花帆 | こ、転んじゃうところだった……。 |
花帆 | えっと、段ボール……? |
花帆 | あれ、これって……。たまに梢センパイが開いているノートだ。 ええと……『スクールアイドルノート』……? |
花帆 | 連絡帳……かな?それとも、交換日記……? あたしたちより、もっともっと前の代の人が、使ってたみたい。 |
花帆 | ひょっとして、これ、ぜんぶ……? |
花帆 | センパイのセンパイの、それよりずっと前のセンパイから、 ずっと続いているノートなんだ。 |
花帆 | なに、このヘンな似顔絵……。 ふふっ、見つかったら怒られるんじゃないかな。 |
花帆 | あ。 |
花帆 | 『先輩のためになりたかったのに、力不足で悔しくて、 ひとりでいっぱい練習した。 先輩に迷惑をかけたくなくて、だけど』 |
花帆 | 『先輩は、喜んでくれなかった。私、ばかだった。 自分のことしか考えてなくて、本当は先輩ともっと……。』 |
花帆 | ……涙で、にじんでる。 |
花帆 | この子も、おんなじだ、あたしと……。 |
花帆 | もしかして、このたくさんのノート……。 |
花帆 | 今の代まで続いているんだったら、 梢センパイの書き込みも、あったりする……? |
花帆 | これじゃなくて、これじゃなくて……。 あった。これが、最新のスクールアイドルノート。 |
花帆 | ……あ。 |
花帆 | 梢センパイ、あたしのために、練習メニューを書いてくれてる……。 こんなに細かく……。なのに、あたしは勝手に……。 |
花帆 | これ……。 |
花帆&梢 | 『後輩の指導は思うようにいかないことばかり。 だけど、やりがいがあって、とても楽しい。 一日一日と成長していく彼女を見るのは、自分のことのように嬉しい』 |
花帆 | 梢センパイの……。 |
花帆&梢 | 『できればずっと、スクールアイドルを続けてほしい。 つらいことや、傷つくこともいっぱいあるだろう。 |
花帆&梢 | だけど、それを乗り越えた先には、きっと今まで以上に、 楽しいことが待っているはずだから』 |
花帆&梢 | 『ひたむきにがんばっているあの子を見ると、 胸が熱くなる。こんな気持ちは初めてだ。 後輩がこんなに可愛いってことも、知らなかった』 |
花帆&梢 | 『あの子のためなら、私はなんでもしてあげたいって思う』 |
花帆 | あたし……。このまま逃げてちゃ、本当にだめになっちゃう。 そんなの、やだ。 |
花帆 | センパイにしっかり謝って……、それから。 ちゃんと、言わなくっちゃ! |
花帆 | 綴理センパイ! |
綴理 | あ、かほ。 さやから聞いたよ、大変だったみたいだねーーって。 |
花帆 | あの、梢センパイのこと、見かけませんでしたか!? もしかしたら、学校に戻ってきているかもしれないんですけど。 |
綴理 | えっと。ごめん、見てないや。 |
花帆 | そうですか…… すみません、ありがとうございます! |
綴理 | あ。もし、校内でこずが見つからなかったら、 行く場所には心当たりがあるよ。 |
花帆 | えっ、それって? |
綴理 | 大倉庫。 |
花帆 | …………大倉庫? |
花帆 | な、な、なんなんですかここー!? |
花帆 | 蓮ノ空に、なんでこんな場所が!?迷路!?迷宮!? 梢センパイどこー!? |
花帆 | ぎゃあ、また行き止まり!いったん戻って…… あれ、ここさっきも通った!?どうなってるの!? |
花帆 | と、とりあえず一度戻って、 誰かに応援を求めて……。 |
花帆 | 出口……どこ……!? |
花帆 | だ、誰か~~~!誰かいませんか~~~!? |
沙知 | どったのー? |
花帆 | うわぁ!? |
花帆 | 迷宮の……妖精さん……!? |
沙知 | あ、キミって、スクールアイドルの子じゃーん! |
花帆 | え?あ……。 え!?生徒会長!? |
沙知 | それで、どうしてこんなとこに? |
花帆 | 生徒会長は、どうして……。 |
沙知 | あたし?あたしは、見回り兼荷物整理ってところかな。 |
沙知 | ここ、蓮ノ空の伝統がぜーんぶ詰め込まれているから、 めっちゃくちゃ広いしょ? |
沙知 | 毎年、大倉庫に迷い込んで骨になる一年生が、 ひとりや百人はいるからねぃ。 |
花帆 | 山だけじゃなくて、ここでも百人遭難してるんですか!? |
花帆 | あ、あたしは、出口がわかんなくなっちゃって……。 って、そうじゃなくて! |
沙知 | んんー? |
花帆 | あの、梢センパイ……じゃなくて、スクールアイドルの、 乙宗梢さんを見ませんでしたか!? |
花帆 | もしかしたらこの中にいるかもしれないんですけど! |
沙知 | ああ、梢ちゃん?んー。 いるとしたら、それはきっとーー。 |