第9話『ルリ・エスケープ』
PART 2
瑠璃乃 | 大沢瑠璃乃だよ! みんなー、よろよろー! |
花帆 | あっ、瑠璃乃ちゃん、同じクラスだったんだ。 |
さやか | ということは、昨日はまだ転入する前に部室に来てたんですね……。 |
花帆 | やる気満々だね! |
花帆 | いい? さやかちゃん。 |
さやか | え、なんですか、真剣な顔で。 |
花帆 | 瑠璃乃ちゃんは『スクールアイドルクラブの』瑠璃乃ちゃんなんだからね。 |
さやか | というと? |
花帆 | ぜーったいに、他の部活に取られちゃだめだからね……。 あくまでもうちの、大事な大事な新入生なんだから……! |
さやか | ふふ、大丈夫ですよ。 だってあんなにスクールアイドルクラブに 入りたがっていましたし。 本人の意思は固いはずです。 |
瑠璃乃 | バレーボール? あー確かに、それも楽しそうかもかもー! バスケ? いいじゃんいいじゃん、ルリってけっこう球技得意なんだぜー! |
さやか | 花帆さん!? どうしてですか、あんな目移りして! |
花帆 | あのね、さやかちゃん……。 世の中の人間は、さやかちゃんみたいに、 こうと決めたら一直線って人ばかりじゃないんだよ……。 |
花帆 | むしろ、誘われたらなんとなくそっちに行っちゃう人がほとんどだよ! あたしとか! |
さやか | そんな……。 わたしたちは、どうすれば……。 |
花帆 | こうなったら、仕方ないよ……! |
えな | ねーねー! 大沢さん、合唱部に興味ないー? |
瑠璃乃 | 合唱? おっきな声で歌うの、きもちよさそー! |
花帆 | ちょいあっ! |
えな | ちょっ、いきなり割り込んできて! なにすんの、花帆ちゃん! |
花帆 | ね、ねえ! 瑠璃乃ちゃんってまだ学校に来たばかりだよね! だったら、あたしとさやかちゃんで、校内を案内してあげるから! |
瑠璃乃 | あー、それめちゃめちゃ助かっちゃうなー! |
花帆 | いこっ! 瑠璃乃ちゃん! すぐいこっ! 早くいこっ! |
えな | あー! こらー! せっかくの、時期外れの新入部員が獲得できるって思ったのにー! |
さやか | 考えることは、どこも一緒ですね……。 |
瑠璃乃 | いやー、ありがとありがとー。 蓮ノ空っておっきくて広いから、昨日も部室見つけるの大変でさー。 |
花帆 | ううん、どういたしまして。 |
瑠璃乃 | 見つからなかったらそのまま諦めて帰って、違う部活入っちゃおうかなー、 とかルリ思っちゃったよね。 あはは、ほーんとギリギリだった。 |
花帆 | お昼休みで、徹底的に校内を案内するからね! 目をつむってても歩けるぐらい! |
瑠璃乃 | うぇーい! |
花帆 | まずはここ! 蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブの部室だよ! |
瑠璃乃 | おっけー! 覚えた! |
花帆 | この子が、カワウソちゃん。 みんなに餌もらっているから、ぽてぽてしてるんだよ。 |
瑠璃乃 | きゃわいい! ナデナデしていい!? |
花帆 | ここは、大倉庫……。 クラブの伝統の品は、だいたいここに保管されているんだけど……。 ほんっとに迷っちゃうから、ひとりで入っちゃだめだからね!? |
瑠璃乃 | えーなにここ、お化け屋敷みたいー! たのしー! |
花帆 | あっ、瑠璃乃ちゃん! 奥行っちゃだめだよ! お昼休み中に帰ってこれないよー!? |
花帆 | そ、そしてここが……わあ! こんなところにスクールアイドルクラブの部室がー! |
花帆 | 蓮ノ空でいちばん楽しくて、いちばんかっこよくて、 いちばんすごいところだね! |
さやか | 花帆さん、勧誘が露骨です! |
瑠璃乃 | あははっ! |
花帆 | ってわけでね、いろいろ紹介したけど、 すっごく伝統を大切にしているのが、この蓮ノ空女学院なんだよ。 |
瑠璃乃 | 伝統かぁー。 正直、あんまわかんないっていうか、 伝統よりお砂糖のほうが好きと、ルリ思う。 ゆえに、ルリあり。 |
花帆 | うっ、そ、それはあたしもそうかも! |
瑠璃乃 | 日本に帰ってきて、コンビニスイーツがおいしいのなんのって……。 |
花帆 | わかる! でもカロリーやばいんだよー! |
瑠璃乃 | なにをゆーか! 向こうの鬼カロリーえっぐいかんね!? 毎朝のランニングが趣味からノルマに変わっちったんだから! |
花帆 | ひえー!? |
さやか | ……なんだかこのふたり、似た匂いを感じますね。 なんというか、すごくかしましいと言いますか……。 |
花帆 | なにか言った? さやかちゃん。 |
さやか | あ、いえ。 おふたりとも、 まるで昔からのお友達みたいだなって思っただけです。 |
花帆 | えへへ、なんか瑠璃乃ちゃん、すっごく話しやすくて。 |
瑠璃乃 | ルリもルリも! やっぱあれかなー! 毎晩がんばって花帆ちゃんの夢に出たかいがあったかなー! |
花帆 | それ生霊ってこと!? |
さやか | すっかり仲良しさんですね、ふふふ。 |
瑠璃乃 | いえーすいえす! あいむふぁいんせんきゅー! べすとふれんど! いえーい! |
花帆 | わわっ、聞いた? さやかちゃん! 本場の英語だよ! 帰国子女の英語、すごいね! |
さやか | その割には、とてつもなく聞き取れたような……。 |
花帆 | すっごーい! 瑠璃乃ちゃん、もっと言って! なんか言って! |
瑠璃乃 | へへっ、おっけーおっけー! でぃすいずあぺん! あいむすくーるあいどる! べりーべりーないすがーる! |
花帆 | きゃーきゃー! |
瑠璃乃 | ……うっ。 |
さやか | 瑠璃乃さん? |
瑠璃乃 | うぇいと、あ、りとる……。 あいむ、えっと……。 |
瑠璃乃 | あ、これもう充電やばいかも。 |
花帆 | え、それはどういう意味? |
さやか | 充電……? |
瑠璃乃 | ごめん! ルリちょっと二年生の教室に用事あったんだ! 先に帰ってて! ぐっばーい! |
さやか | ……行っちゃいましたね。 |
花帆 | どうしたんだろ、急に。 |
花帆 | ハッ…………まさか!! |
さやか | え? |
花帆 | あたしたちの見てない隙に、他の部活見学に行くつもりじゃ!? 追いかけなくっちゃ! |
さやか | でも、花帆さん……。 もし仮にそうだとしても、部活動の選択はその人の自由では……。 |
花帆 | うっ。 さやかちゃん~……。 せっかくの新入部員だよぉ……? |
さやか | そ、そんな目で訴えても、ダメなものはダメです。 綴理先輩じゃないんですから……。 |
さやか | もちろんわたしだって、瑠璃乃さんがスクールアイドルクラブに 入ってくれたらいいなって思いますけど……。 |
花帆 | ……なるほど、わかったよ、さやかちゃん。 |
花帆 | つまり、妨害するんじゃなくて、 ちゃんとスクールアイドルクラブの魅力で勝負しなさいってことだね! |
さやか | え? ええ、まあ……そういうこと、ですね! |