第9話『ルリ・エスケープ』
PART 4
花帆 | ね、ねえー! 瑠璃乃ちゃーん! あの置き手紙ってなーにー!? |
瑠璃乃 | んぁ~……? ーーげ! |
さやか | はぁっ、逃げた!? |
花帆 | なんでー!? |
瑠璃乃 | ついてこないでほしーんだけどー!? |
花帆 | ねえ、どうして練習すっぽかしたの!? そんなに歌うの嫌だったー!? |
さやか | それとも、どこか具合悪いんですかー!? |
花帆 | でもその割には全速力じゃない!? 元気だよあれ! すごく元気! |
さやか | じゃあなんで逃げるんですか!? そしてなんでわたしたち追いかけてるんですか!? |
花帆 | 逃げられたら、そりゃ追いかけるでしょ!? |
さやか | わかりません! |
瑠璃乃 | ーーあーもー! |
さやか | 瑠璃乃さんが、バスに!? |
さやか | 花帆さん、これ以上は、ってーー。 |
花帆 | 行くよ! さやかちゃんー! |
さやか | って、なんでですかー!? |
瑠璃乃 | はぁ、はぁ……。 ま、まさか、追っかけられるとは……。 |
瑠璃乃 | …………なんで? |
さやか | なにひとつ、わかりません……。 |
花帆 | い、いきなり、逃げるから、だよ……。 ぜぇぜぇ、どうした、の。 なにが、あったの……。 |
さやか | たぶんなんですけど……。 ちゃんと話すまで、花帆さんはどこまでも追いかけてくると思いますよ……。 |
さやか | ひたむきなので……。 |
瑠璃乃 | ……。 |
瑠璃乃 | もーしわけございませんでした! |
花帆&さやか | えっ!? |
瑠璃乃 | はー……夏はやっぱコレだねえ。 |
花帆 | わっ、わわわ。 炭酸があふれてきちゃった! |
さやか | って、ラムネ飲んでいる場合ですか!? |
瑠璃乃 | いや、その節はまことに…… 申し訳ございませんでした……。 |
瑠璃乃 | 弊社といたしましては、 ちゃんとすぐ練習に戻るつもりだったんですが……。 |
瑠璃乃 | 御社の梢さま・綴理さまに置かれましては、 多大なご迷惑をおかけしましたことを、 |
瑠璃乃 | つつしんでおわびもうしあげます……。 |
花帆 | そんなガチめな謝罪、初めて聞いた……。 |
瑠璃乃 | ルリはミジンコなので……。 |
さやか | ……というか、なぜバッティングセンターなんですか? |
花帆 | え、えっとぉ! あたし、こういうとこ来たの初めて! なんか楽しいねー! |
瑠璃乃 | ははは、たのしーね! ……はぁ。 |
瑠璃乃 | やっぱ、だめだぁ。 充電、空っぽ。 |
さやか | ええと……諸々どうしてこんなことに……? |
瑠璃乃 | …………。 |
花帆 | えっ、そんなに言いづらいこと!? |
瑠璃乃 | ああ、ううん。 じゃなくて。 ちょっと今、人と話せるモードじゃなくて。 |
花帆 | どういうこと!? |
さやか | ひょっとして、瑠璃乃さん……。 今まで、無理をしていたんですか? |
花帆 | え? |
瑠璃乃 | ムリってゆーかー……。 |
瑠璃乃 | えー、あー。 じゃあ、あ、うん。 そう。 |
花帆 | 今、こみゅにけーしょんを諦めた音がしたよ!? |
さやか | 瑠璃乃さん。 |
瑠璃乃 | 話すのはぜんぜんいいけどー……。 ……べつにさ、面白くもなんともにゃーな話ですよ。 |
さやか | 聞かせて、もらえますか? 花帆さんはわたしが押さえていますので。 |
花帆 | なんで!? |
瑠璃乃 | ……ルリね、にぎやかなのも好きだけど。 でも、そればっかりだと、ヘロヘロになっちゃうんだよね……。 |
さやか | それはやっぱり、わたしたちが、 無理をさせていたのでは……? |
瑠璃乃 | ううん。 スクールアイドルクラブが楽しかったのは、ほんとだよ。 みんな、めっちゃいい人ばっかりで。 |
瑠璃乃 | だからかな。 構ってもらえたら、構ってくれた分のお返しもしたくなって、 それで余計にバッテリー消費しちゃって。 |
瑠璃乃 | 今、こんな機内モード。 |
花帆 | 気を遣いすぎちゃった、ってこと? だったらそんなの、気にしなくっても! |
瑠璃乃 | いやー……。 気にしないっていうのも、なかなかねぇ。 |
さやか | わたしは……なんとなく、 瑠璃乃さんの言葉、理解できます。 |
花帆 | だからって、そんな、 限界までがんばらなくても……! |
瑠璃乃 | やーほんとに、おっしゃるとおり。 なんだけど、こればっかりはどうしても、変わんなくて。 |
瑠璃乃 | せっかく一緒にいるんだったら、ルリだけじゃなくて、 みんなにも楽しいって思ってもらいたいから。 |
花帆 | そう、なんだ……。 |
瑠璃乃 | あはは……。 それで充電切れてたら、世話ないでしょって感じだけどさ。 |
さやか | 瑠璃乃さんのその、充電切れ、でしたか。 それは、だいぶ深刻そうなお話ですが……。 |
瑠璃乃 | こうなっちゃうと、自分じゃどーにもならないんだよねー……。 時間経過で回復するのを待つしかなくて……。 |
瑠璃乃 | それで周りに気を遣わせちゃうのも、 ルリ的にはめっちゃ嫌っていうか。 |
瑠璃乃 | フォローさせたら、みんなの楽しさが、 ちょっと減っちゃうでしょ……。 |
瑠璃乃 | だったら、独りでいたほうがよっぽどいいっていうか……。 |
さやか | 瑠璃乃さん……。 |
瑠璃乃 | あっ、でもね! 勘違いしないでほしーのはね、 ルリは独りでもぜんぜんたのしーってこと。 |
瑠璃乃 | おひとり様バッティングセンターとか、満漢全席って感じ。 ソロ焼肉とかよゆーで行くし、むしろウェルカムだし。 |
瑠璃乃 | だから、ぜんぜん、ぜんぜん。 基本、ひとりで平気っていうか! 強がりとかじゃなくってさ。 |
瑠璃乃 | ルリはルリの楽しみを、勝手に見つけられるから。 ほんとに! |
瑠璃乃 | ヘンなこと話しちゃって、ごめんね! ルリのせいで、こんな空気になっちゃって……。 あはは……。 |
瑠璃乃 | だから、その、これ。 |
さやか | ちょ、ちょっと瑠璃乃さん、 それは、退部届……!? |
花帆 | えぇぇぇ!? |