第10話『ルリめぐ・ファンファーレ』

PART 4

場面転換、海での練習風景。慈と瑠璃乃。瑠璃乃は慈の前でダンスを踊っている。
慈はずっとローテンション。居心地の悪さと、幼馴染との居心地の良さの間に挟まれて、まだ自分の立ち位置を把握できてないような態度。かたや瑠璃乃はニッコニコ。
ここから水着に着替えた慈が、瑠璃乃を指導する。
はい、ワンツー、ワンツー。 よーし、そこまで。
瑠璃乃
はぁ、はぁ、はぁ。
どうかな、めぐちゃん。
うん。 体力ついたね、るりちゃん。
ダンスも、上手になってる。
瑠璃乃
えへへっ、いっぱい修行してきたし。
……それって、やっぱり、私とスクールアイドルをやるため?
瑠璃乃
うん!
……そっか。
るりちゃんは昔から、私のこと大好きだったもんね。
瑠璃乃
相思相愛ってヤツだねー!
私がいないと、すーぐ充電切れになってたし。
瑠璃乃
むぐ。 武者修行してきて、
だいぶバッテリー長持ちするようになったもん! 大容量ルリちゃんだよ!
どーだかねー。
瑠璃乃
女子、三日会わざれば刮目してウォッチング、っしょ!
瑠璃乃
うふふっ、そーいえば小学生の頃もこんな風に、
めぐちゃんにいっぱいダンス教えてもらったよね。
本当は覚えているのに、シラを切る慈。
……そんなことあったかなー。
瑠璃乃
えー!? めぐちゃん忘れちゃったの!?
はいはいごめんね、忘れっぽくて。
じゃあ、いったん休憩。 水分補給しておいで、るりちゃん。
たったかと走っていく瑠璃乃。瑠璃乃を見送ってから、慈がくるりと振り返る。
瑠璃乃
んもー! いってきまーす!
それで、キミたちはさっきからなにをしているのかな。
物陰から姿を現す花帆とさやか。
花帆&さやか
ぎくっ。
私がちゃんとコーチできているかどうか心配で、様子見に来た?
さやか
それは……いえ、申し分のないご指導だったと思います。
花帆
……でも、ほったらかしにしたら、
また瑠璃乃ちゃんに冷たいこと言うんじゃないかなーって思って。
え? あ、ああ、そー……。
※ここの慈は、自分の後ろをついて回ってきた瑠璃乃がいつの間にか独り立ちしていることに対しての安心がメインで、あと本人も気づかないぐらいの嫉妬が5%ぐらい混じっているイメージです。
ふーん、るりちゃん、ちゃんと友達作れてるじゃん……。
慈、両手を振って白旗をあげるようなニッコリ笑顔。
まあ、あの態度はちょっと大人げなかったかなって、反省したよ。
ごめんね。
ほらほらぁ、仲直りしよ、ほーら☆
花帆
どうする? さやかちゃん。
さやか
わたしは構いませんけど……。
さやか
それに、ただでさえわたしたちがぎくしゃくしていると、
また瑠璃乃さんが気にしてしまうのではないかと。
しかたないかー、という顔の花帆。
花帆
むむむ~……。 それはあるかも……。
そこに戻ってきた瑠璃乃。
瑠璃乃
あ、花帆ちゃん、さやかちゃん、どうしたの?
花帆
え!? いや、ちょっと慈センパイにご挨拶をと!
さやか
ええ、ええ! そうなんですよ!
瑠璃乃、その場の雰囲気を目ざとく察知。じーっと見つめながら、ぼそっと。
瑠璃乃
……なんか、距離ある?
媚びるような声をあげる花帆と、ヤケクソみたいな満面の笑みで頭を下げるさやか。そのふたりを両腕に抱きしめる慈。
花帆
め、慈せんぱぁい!
今度あたしにもぉ、コーチしてくださいねぇー♪
さやか
はい! ぜひぜひ、ぜひ、お願いします!
うーん♪ かわいい後輩めー!
花帆が瑠璃乃には聞こえない声でささやく。
花帆
る、瑠璃乃ちゃんのためですからね……っ!
おっけおっけ、じゃあそれでいこ。
瑠璃乃が疑問を浮かべる。
瑠璃乃
いつの間にそんなに仲良くなっちゃってぇ……!?
堂々と決め顔で言う慈に、じゃっかんイラっとする花帆とさやか。
私の人徳、かな☆
花帆がジト目で話を変える。
花帆
……慈センパイって、梢センパイや綴理センパイと一緒に
スクールアイドルをやっていたんですよね。
うん、そうだよ。
私と梢、それに綴理の3人はね、
かつて蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブに輝く希望の星ということで、
蓮ノ大三角って言われてたんだ。
花帆
蓮ノ大三角!
瑠璃乃
かっこいい!
そこで、花帆とさやかがなかなか戻ってこないので、様子を見に来た梢と綴理が現れる。これで六人集合。
……同じように『問題児』とも呼ばれていたわね。
むっ。
綴理
そうだね~。 こずもめぐも、手のかかる子だったぁ。
梢&慈
綴理が言わないで!/綴理が言うな!
いっつも先輩に食ってかかったのは、梢でしょ!
『こんな練習で本当にラブライブ!優勝できるんですか』ってぇー!
花帆
梢センパイが……!?
慈のほうこそ、本当に目立ちたがりで、
先輩を困らせてばっかり。
『この曲はもっと私を推したほうが、ぜったい人気出ますよ☆』
だったかしら?
瑠璃乃
めぐちゃんがー!?
綴理
それが今じゃふたりとも、こんなに立派になって。
……そうね、
綴理もちゃんと時間通り練習に来るようになったものね。
綴理が……!?!?
無表情で両手でピースサインをする綴理。
綴理
ぴーす。
綴理
さやのおかげだよ。
よかった、自覚があって本当によかったわ。
さやか
そんな、わたしはなにも。
……って、本来なら言うべき場面なんですが。
いいのよ、さやかさん。
嘘をついてまで上級生を立てる必要はないわ。
綴理
じゃあ、さやが上級生ってことにする?
さやか
それはどういう!?
綴理
さやせんぱい。
さやか
いやです!
わたしは後輩のダンスを見て、自信を打ち砕かれたくないです!
綴理
さやせんぱーい。
いつもやっていてお手の物とばかりに甘えてくる綴理に、ノリツッコミをするさやか。
さやか
やめてください、綴理ちゃん! ではなく!
あなたたち、仲がいいこと……。
それを言うなら、梢たちもだよねー?
なにが?
前に金沢ライブのリハーサルで、
梢がステージ上から落ちちゃって、私がお見舞いにいったときさ。
もうずーっと『花帆さん、花帆さん……』
って、泣きじゃくっちゃって。
顔を赤くして叫ぶ梢。
泣いてはいなかったでしょう!
私は最初から知ってたよ。梢は同年代や上には厳しいけど、
下級生には激甘になっちゃうだろうなーって。
そんなことないわ。 私はちゃんと鬼って思われていますから。
ねえ? 花帆さん?
取り繕う梢に、戦々恐々とする花帆。
花帆
根に持ってるー……!
そこで花帆が話を変えるように言う。
花帆
で、でも! あのときは大変でしたね!
花帆
あたしをかばった梢センパイが大怪我したんじゃないかって、
すっごく心配しちゃいました。
大事に至らなかったことも、あなたを助けられたことも、
不幸中の幸いだったわね。
花帆は慈と梢を交互に見やる。
花帆
あ、もしかして、
ずっと怪我には気を付けるようにって言ってくれてたのって……。
静かな沈黙が訪れる。慈も目を逸らす。二年生組が苦い空気を漂わせているところで、花帆が切り出す。
……ええ、そうよ。
もう仲間を失うのは、懲り懲りだもの。
花帆
あ、あの!
花帆
慈センパイって、もう、ダンスできないんですか!?
慈がなにか言おうとしていたさやかを手で制して、微笑む。
さやか
花帆さんーー。
うん、そうだよ。
花帆
でも、瑠璃乃ちゃんに教えているときは、できてましたよね?
ステージ上じゃなければね。
花帆
……でも、それって、治ったりとか。
慈はもう乗り越えたというよりは、諦めた微笑み。
しなかった。 あるいは、いつかは治るのかもしれないけれど、
それがいつになるかはわからないかな。
……慈。
スクールアイドルをするのは、楽しかった。
私にとっては、いい思い出だよ。
花帆
だったら、ダンスができなくても、
スクールアイドルにはなれますよね!?
さやか
花帆さん、さすがにそれは!
急に人の事情に踏み込みすぎた花帆をたしなめるさやか。
花帆
でも、でも、だって……。
人にはそれぞれ、その人にとってのスクールアイドルがあるんだよ。
もちろん、ダンスをしないスクールアイドルがいてもいいと、私は思うよ。
けどね、それは私の思い描いた夢の形じゃないんだ。
梢、綴理。
素敵な後輩が3人も入ってきてくれて、よかったね。
ずっと心残りだったのはさ、
私がいなくなったら華もなくなっちゃうでしょ?
それで新入生が来なくなって、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブが
廃部になっちゃうんじゃないかーって。
……なに言っているの。
そんなわけ、ないでしょう。
うん。 梢も綴理も仲直りしたみたいだし、よかったよかった。
寂しそうな雰囲気を漂わせて、あっけらかんと笑う慈。
これで私が思い残すことも、もう、あんまりないかな。 ふふっ。
そこで、瑠璃乃が声をあげる。
瑠璃乃
ルリ! ちょっと走ってくる!
えっ、なに、急に。
瑠璃乃
まだ……まだ、ルリは諦めてないんだから!
いくぞー! メラメラー!
花帆
あ、あたしも行く! まだまだがんばれるよ!
一年生組が海に向かって駆けていき、砂浜をランニングする。
さやか
では、わたしもお供します!
一年生組が海に向かって駆けていき、砂浜をランニングする。
その光景をしばらくぽかんと眺めてた慈に、梢が微笑む。
ふふ……。 みんな本当に、素敵な後輩なのよ。
……そうみたい、だねえ。
慈が胸を押さえて、わずかな痛みを我慢するみたいに、少し眉を寄せる。そのことに綴理は気づいていたが、なにも言わなかった。
綴理
……。