第1話『未来への歌』
PART 1
ピピピピと目覚ましが鳴る。 | |
花帆がもぞもぞしながら、寝ぼけて目覚ましに手を伸ばす。 | |
ピ、と目覚ましが止まる。 | |
花帆 | うぅん~……。 |
花帆 | お母さん、今、何時~……? |
返事がない。 | |
甘えるような口調の花帆。 | |
花帆 | お母さぁん……? お母さぁん~……。 |
少しの間があって、ガバッと花帆が目を覚ます。 | |
ドタバタと準備を整える花帆。 | |
花帆 | って……はっ……! きょう、始業式! 遅刻遅刻ーっ! |
同じクラスになれたさやかが、嬉しそうに話しかけてくる。 | |
花帆は初日から頭を抱えている。 | |
さやか | 今年も同じクラスになれましたね、花帆さん! |
花帆 | うん……そうだね、さやかちゃん……。 よかったねえ……。 |
テンション低い花帆を見て、いつものことだと慣れたさやか。 | |
さやか | もう。 始業式そうそう、きょうはどうしたんですか? |
花帆 | ふえーん。 あたし、きょうから二年生なのに、遅刻しちゃうところだったし……。 |
花帆 | なんか、成長してないなあ、って……。 |
さやか | そんなことありませんよ。 |
さやか | 花帆さんは、その…………すごく成長してますよ! ひとりで起きて学校に来られるなんて、すごいです! |
綴理と比較されて、納得いかない花帆。 | |
花帆 | 喜んでいいのかなあ、それ! |
花帆は頭を抱えてから、ぎゅっと拳を握る。 | |
花帆 | 決めた! あたし、もっとしっかりする! 二年生らしくなる! なりますわ! |
さやか | ええっ? |
急にお嬢様語を使い、ふぁさぁと髪をなびかせる花帆。 | |
花帆 | というわけで、さやかさん。 今年も1年、よろしくお願いいたしますわ。 |
さやか | なんなんですか、その言葉遣い……。 |
そこに瑠璃乃もやってくる。 | |
瑠璃乃 | あーら、花帆さん、さやかさん! おはようございますザマス! |
さやか | 瑠璃乃さんまで!? |
三人で学食へ。 | |
いったん落ち着いたムードで話に。 | |
瑠璃乃 | でもよかったぁ~。 ふたりとも同じクラスで。 |
花帆 | うふふっ、そうですわね! |
さやか | まだやっているんですか……? |
瑠璃乃 | でも、ルリわかるな~。 |
瑠璃乃 | だって、スクールアイドルクラブにも 新入部員が入ってくるかもって話じゃん? |
愕然とする花帆に、フィギュアスケートの練習で先輩慣れしているさやかは、涼しい顔。 | |
花帆 | そ、そうだよさやかちゃん! あたしたち『先輩』になっちゃうんだよ!? |
さやか | それは、そうですね。 |
花帆 | 去年の梢センパイと、同い年だょ……? |
さやか | 梢先輩は、いろいろと別格な気がしますが……。 ちなみに綴理先輩とも同い年ですよ。 |
瑠璃乃 | つづパイセンも、かなりトクベツな気がします! |
さらっと言うさやか。 | |
さやか | それに。 新入部員が入ってこない可能性だって、全然ありますしね。 |
花帆 | え? そうなの? |
さやかは綴理と意思が通じ合ってるかのように、こともなげに言う。 | |
さやか | 少なくともDOLLCHESTRAで積極的に勧誘はしないと思うんです。 |
さやか | スクールアイドルは、やらされるものではありませんから。 |
さやか | 入りたいという気持ち、ここで何かをしたいという気持ちがある子が、 居るか居ないか……それ次第ですね。 |
花帆 | そうなんだー……。 え? みらくらぱーく!は? |
瑠璃乃は腕を組みながら、しょーがないなー、の顔で告げる。 | |
瑠璃乃 | ん~~~。 うちは、入るんじゃないかなあ、新しい子。 |
瑠璃乃 | なんか最近のめぐちゃん、ちょーぜつやる気なんだよねー。 新入生勧誘企画を立ててるっぽいし。 |
瑠璃乃 | 『人数多いほうが、つよつよに決まってるじゃん!』って。 |
瑠璃乃 | ……みらくらぱーく!が30人ぐらいになっちゃったら、どーしよ。 |
花帆 | あはは……。 名前を覚えるの、大変そうだね……! |
瑠璃乃 | スリーズブーケは? |
花帆 | え、わかんない。 そういえば梢センパイと、新入生の話、したことなかったかも。 |
さやか | では、花帆さんはどうなんですか? |
考えながら語る花帆。 | |
花帆 | あたしはー。 |
王子様に憧れるようにキラキラの目で語り出す花帆。 | |
花帆 | 期待しちゃうかな……。 いい、出会いに。 去年、梢センパイと巡り会えた運命みたいに! |
その頭を、瑠璃乃がよしよしと撫でる。 | |
瑠璃乃 | 花帆ちゃんはきょうもピカピカで、かわいいねえ~。 |
叫ぶが、瑠璃乃にされるがままの花帆。 | |
花帆 | 違うよぉ! オトナにならなきゃだめなんだよ! |
さやか | つまり、それぞれのユニットごとにそれぞれ方針が違うという話ですよね。 みなさん同じである必要はありませんし、そのための3ユニットですから。 |
花帆 | そうだねー! さやかちゃんも案外、ビビっと来る出会いがあったりするかもよ? |
ニコニコするさやか。 | |
さやか | でしたらそれはそれで、もちろん楽しみですよ。 |
瑠璃乃 | じゃあじゃあ~、ピカピ花帆ちゃんはどんな後輩に入ってきてほしい~? |
体の前で両手を組んでまたまたキラキラの視線を浮かべる花帆。 | |
花帆 | それはね、それはね! |
花帆 | すらっとしてて、かっこよくて、声がきれいで、しっかりしてて、 でもたまに抜けてて、かわいいところもあって~。 |
瑠璃乃 | うわあ起きて夢見てる! |
花帆、にっこり笑顔。 | |
花帆 | でもでも、いちばんは! |
花帆 | スクールアイドルがんばりたいって思ってくれてる子! |
さやか | ふふ、ふふふ。 |
花帆 | え、なになに? |
さやか | いえ、ごめんなさい。 |
さやか | 去年の今ごろ、朝練を代わってほしいと花帆さんにお願いされたのを、 急に思い出してしまって。 |
瑠璃乃 | 花帆ちゃんにもそんな時代が……! |
顔を赤くする花帆。 | |
さやかは(フィギュアスケートで何人もの同期が辞めていったのを見ているので、続けることがどれだけ難しいかを知っているため)友達の花帆がスクールアイドルに一生懸命なのを、心から嬉しく思っている。 | |
花帆 | わ、わあああ! 忘れてよ、さやかちゃん! |
さやか | 大丈夫ですよ。 ちゃんと成長してますよ、花帆さん。 毎日、スクールアイドルがんばってるんですから。 |
花帆 | そ、そうかなぁ……。 |
さやか | はい。 素敵な出会いがあるといいですね。 |
瑠璃乃 | それはそう! |
三人で微笑み合う。 | |
花帆 | ……うんっ。 |