第3話『ゆえに、みらくらぱーく!あり』
PART 3
日付が変わって、何日か後。 | |
部室で、梢、綴理と瑠璃乃の会話。 | |
三人は席に座っていて、それぞれユニットメンバーを待っている。(本文中の描写はなし) | |
三人の前には、それぞれ紅茶カップが置いてある。梢が紅茶を傾けながら、言う。練習前のちょっとした団らんのお時間といった雰囲気。 | |
梢 | へえ。 それでみらくらぱーく!は、 ミニライブとゲーム大会を開くことになったのね。 |
綴理 | 大丈夫? めぐが閉じ込められてるのに、ふたりだけで。 手伝えることとか、あるかな? |
びしっと敬礼する瑠璃乃 | |
瑠璃乃 | あ、いえいえ! お気遣いアリアリっす! でも、ルリたちでなんとかやれると思いますので! |
びしっと敬礼する瑠璃乃に、梢も微笑む。部長である梢は、甲斐甲斐しい二年生組に色々と助けられている。 | |
梢 | そうね、瑠璃乃さんはしっかりしているわ。 要領もよくて、段取りだって。 一年生とも、すぐに馴染んでいたものね。 |
梢 | あなたはどう? 綴理。 一年生とは、うまくやれている? |
綴理 | さやが楽しそうだから、きっと大丈夫じゃないかな。 あ、ひめとはこないだ、パズルゲームで対戦したよ。 |
綴理がさらっと言った言葉に目を剥く瑠璃乃。 | |
瑠璃乃 | え゛!? 勝負したんですか!? |
綴理 | うん。 ボク負けちゃったけど、でも楽しかった~。 |
綴理 | なんか、この分野ならプロゲーマー目指せるんじゃ!? って言われちゃった。 |
瑠璃乃 | ほえ~……。 確かに綴理先輩、そういうのメッチャうまくなりそう……! |
綴理 | ぎんには、購買のおいしいアイスをオススメしたんだ。 ひんやりしたものが好きなんだって。 |
じゃっかん悔しそうな梢。 | |
梢 | あら、そう……。 私は知らなかったけれど……。 |
綴理相手に気にしたところで仕方ないことだとはわかっているので、冗談っぽく言う。 | |
梢 | なにかしら。 私ももっと、隙を晒したほうがいいのかしら。 |
綴理 | 目の前に寝転がって、おなかだして、にゃーんって。 |
梢 | やるわけないでしょう! |
綴理 | でも、こずも一年生と話してないわけじゃないよね? よく見かけるよ。 がんばってる。 |
梢 | がんばっているとあなたに見抜かれている時点で、 じゃっかん失敗している気がしないでもないのだけれど……。 |
梢 | まあ……綴理や瑠璃乃さんのように、 遠慮なく付き合える先輩としての姿にも、憧れがないわけじゃないけれど。 |
梢 | でも、いいのよ。 私には私の立場や役割があるとわかっているから。 |
微笑む梢に、じゃっかん首を傾げる綴理。 | |
綴理 | 今度一年生に、こずのかわいいところを伝えておこうか? |
梢 | どこからそんな悪魔のような発想が出てきたの!? 慈? 慈のせい? |
瑠璃乃 | あははっ。 |
瑠璃乃はぼんやり思い浮かべる。 | |
瑠璃乃 | あ~……でも、ルリも遠慮されてないわけじゃない、かもですねえ。 |
瑠璃乃 | なんかメッチャ遠慮してない!? |
姫芽 | そ、そんなことは~! |
戻ってきて、その言葉に、梢が首を傾げる。 | |
梢 | そうなの? |
梢に大げさに心配かけてしまうことを恐れて、両手を振る瑠璃乃。 | |
瑠璃乃 | あ、いや、でもいちおーうまくやってるんで! そこは、ご心配なく! |
綴理 | そういえばるり、最近またちょっとバッテリー大きくなった? |
瑠璃乃 | え? そですか? |
指で、これくらいの、おべんとばこに、のジェスチャーをする綴理。 | |
綴理 | 水筒から、お弁当箱ぐらいになってる。 |
うんうんと梢もうなずく。 | |
梢 | 確かに、言われてみれば。 少なくとも部室のダンボールはあまり使わなくなったわね。 |
瑠璃乃 | そっか~。 |
言われてみて初めて気づいたとばかりに、視線を斜め上に浮かべる瑠璃乃。 | |
瑠璃乃 | スクールアイドル始めて、みんなとの距離感ってヤツが、 ちょーっとずつわかってきたのかもかも! |
瑠璃乃 | カリフォルニアに行ったときは、 メチャメチャ『しゅぎょー!』って感じでしたけど。 |
瑠璃乃 | 今は、毎日ちゃんと楽しいですよ! 姫芽ちゃんにも、イロイロと支えてもらってるので! |
部長として、部員同士が仲良くしているのを見るのは、嬉しい。梢は微笑みながら。 | |
梢 | それは本当によかったわ。 |
梢 | 二年生は初めての後輩ができて、去年までとは大きく環境が変わって。 |
梢 | 特にあなたは、花帆やさやかさんの相談に乗ることも多いでしょうから。 もし、抱えきれなくなったときは、いつでも言ってちょうだいね。 |
梢 | 私でも、もちろん慈や、綴理でも構わないから。 |
綴理 | いっぱい聞くよ~。 |
瑠璃乃 | あはは、そのときはお願いしゃっす! |
そこで姫芽が教室に入ってくる。 | |
姫芽 | お疲れさまです~。 お待たせしました~。 るりちゃんせんぱい、いきましょ~。 |
席を立って、ぺこりと頭を下げる瑠璃乃。 | |
瑠璃乃 | あいあい~! じゃあ先輩方、いろいろありがとうございました! |
梢 | がんばってね、瑠璃乃さん。 |
綴理 | 落ち着いたら、また一緒に釣りいこうね~。 |
姫芽と廊下に向かっていく。 | |
瑠璃乃 | おー! こちらこそです! |
姫芽 | せんぱい方となにをお話してたんですか~? |
瑠璃乃 | ん~。 姫芽ちゃんがデキる子で、ルリはすげー助かってるなあ、って。 |
要約した瑠璃乃の言葉に、姫芽は目を丸くする。 | |
姫芽 | え~? ほんとですか~!? |
姫芽 | あ、いや、今の『ほんとですか?』は、 るりちゃんせんぱいのお言葉を疑ってるというわけではなく! |
姫芽 | 嬉しかった感情表現のひとつとして! |
めんどくさい説明をする姫芽に、瑠璃乃がツッコむ。 | |
瑠璃乃 | 伝わってるから大丈夫だよ!? |
空き教室に、姫芽と瑠璃乃。 | |
姫芽が両手を広げて、教室を見せる。 | |
姫芽 | というわけで、ここが目をつけてた空き教室です~。 こちらでゲーム大会を開催するのはどうかな~って。 |
瑠璃乃は辺りをきょろきょろとして、立地を確認する。 | |
瑠璃乃 | お、いいじゃん。 割と広いし、階段の近くだからみんなの通りもよさそう。 |
姫芽 | しかもすぐそばにパソコン室もあって、 PCを借りるときにも準備がしやすいかと~! |
グッと親指を立てる瑠璃乃の称賛の言葉に、デレデレの姫芽。 | |
瑠璃乃 | いいね~! 姫芽ちゃんやるぅ~! |
姫芽 | えへえへ~。 |
姫芽 | あとは、許可取りをどうすれば、って感じなんですが~。 |
瑠璃乃 | あ、そっちはルリがやっとくよ。 |
姫芽 | いいんですか~? |
瑠璃乃がドンと胸を叩く。 | |
瑠璃乃 | うむ。 いろいろとコツがあってだね。 任せておくれ! |
姫芽も感嘆の声をあげる。 | |
姫芽 | さっすがるりちゃんせんぱい~。 |
具体的な話をするようになって、ようやく実感がわいてきた姫芽は、しみじみとつぶやく。 | |
姫芽 | はぁ~……。 せんぱいと一緒にいると、学校でゲーム大会を開くのが、 ほんとに実現できそうな気がしてきます~……。 |
瑠璃乃 | ルリは最初からそのつもりだったけど!? |
姫芽 | アタシ一応、一芸入試で蓮ノ空に入った組なんですけど~。 |
姫芽 | でも、あの『蓮ノ空女学院』に、 まさかゲームで入れるとは思わないじゃないですか? |
姫芽 | いや、ゲームはとても素晴らしいものなんですけど~! |
瑠璃乃 | わかるわかる。 |
姫芽 | しかも中に入ってみたら入ってみたで、 ゲームに触ったことがない子も多くて~。 |
姫芽 | 周りの友達に布教とかがんばってるんですけど~、 でも実際やってもらう機会ってそう多くないから、だから。 |
姫芽はぐぐぐぐと拳を握って気合を入れる。 | |
姫芽 | これは、アタシの人生でも、めちゃくちゃすごいチャンスなんです! それこそ学生大会で初めて決勝に出たときのような! |
瑠璃乃 | そこまで!? |
姫芽 | はい! いずれ世界中の人にアタシの大好きなゲームを 遊んでもらうための、その夢への第一歩なんです~! |
黒板に向かう姫芽。そこにものすごい勢いで、この撫子祭において叶えたい項目を記入してゆく。 | |
(※本文に記入はありませんが、モニターを10台確保する、有線LANケーブルを引く、告知ポスターを作る、配信でも大勢の視聴者を集める、などなど) | |
姫芽 | な~の~で~! |
瑠璃乃 | おわわわ? |
姫芽 | アイディアだけは、いっぱい考えてきました~! |
姫芽 | できないこともたくさんあるとは思いますが、 でも、とにかく全力で! がんばりたいです~! |
姫芽 | 『ぜんぶやろう、やりたいことはぜんぶ!』って……。 |
姫芽 | るりちゃんせんぱいと、めぐちゃんせんぱいが、 背中を押してくれましたから~! |
その笑顔を見て、瑠璃乃がキュンとする。 | |
姫芽に聞こえないように独り言でつぶやく。 | |
瑠璃乃 | ……これが、後輩をもった先輩の気持ち……。 |
姫芽 | るりちゃんせんぱい? |
瑠璃乃もぐっとうなずいて、姫芽に微笑む。 | |
瑠璃乃 | なんかこう、いいね。 |
瑠璃乃 | 体の奥からぽかぽかしてくるっていうか。 その笑顔を、ぜったい曇らせてやるもんか、ってきもちになるってゆーか。 |
瑠璃乃 | うん、ルリもますますやる気出てきた。 |
姫芽 | ほんとですか!? ……あ! |
姫芽 | この『ほんとですか?』は、 るりちゃんせんぱいのお言葉を疑ったわけではなくーー。 |
瑠璃乃 | ウン! 大丈夫だから! 一緒にがんばろーね! |