第4話『昔もいまも、同じ空の下』
PART 6
吟子 | はぁはぁ、梢先輩……やっぱり、速い……。 |
梢 | ふふ、ふう、お疲れ様。 |
梢 | 吟子さんは地元の方々に、なかなかの声援を浴びていたわね。 まるで駅伝選手みたいだったわ。 |
吟子 | うっ……。 みんな朝早いんだから……。 別に、ぜんぜんですからね。 |
梢 | あら、いいじゃない。 励みになるでしょう? |
吟子 | それは、まあ……。 |
梢 | 花帆は……まだ少し、かかるかしらね。 |
吟子 | あの、梢先輩。 |
吟子 | 去年のラブライブ!って、どうだったんですか? |
梢 | ずいぶん突然ね。 |
吟子 | す、すみません。 えっと……私も、より具体的な目標としてラブライブ!を目指すために、 |
吟子 | なにかこう、心構えなどをご教授願おうかと……。 |
梢 | それはいい心がけだわ。 でも、そうね……。 言葉にして伝えるのは、少し難しいわね。 |
吟子 | というと……? |
梢 | 私にとってラブライブ!の決勝は憧れの舞台、 そこに立てたのは嬉しかったし、誇りでもあったわ。 |
梢 | けれど、まだなにかを成し遂げられたわけじゃないから。 |
梢 | あなたに言えることがあるとすれば、怪我には気を付けて。 クラブの仲間を大切に。 |
梢 | 一歩ずつ研鑽を積み重ねましょう。 そんな、当たり前のことばかりね。 |
吟子 | でも、どれも大切なことですよね! ありがとうございます! |
梢 | じゃあ今度は私の番。 吟子さんは、どうしてそんなに伝統の文化が好きなの? |
吟子 | えっ? それは……。 花帆先輩には、ちょっとお話したんですけど……。 |
吟子 | 私、子どもの頃から、 このあたりの職人さんたちが友達で、よくしてもらってたんです。 |
吟子 | けん玉、あやとり、いろんな遊びを教えてもらいました。 どれも、私と同年代の子は、知らないものばかりかもしれませんけど……。 |
吟子 | すごいんです、職人さんたちは。 みんな、私の生まれるずっと前から、ひとつのものに打ち込んでいて。 |
吟子 | 気が遠くなるぐらいの年月、勉強し続けて。 |
吟子 | 本当に尊敬します。 私なんて1か月の刺繍で、 指が痛くなっちゃうのに……。 格好いいと、思います。 |
吟子 | だから好き、なんですけど……。 答えは、これで大丈夫ですか? |
梢 | 素敵な答えだったと思うのだけれど、大丈夫、というのは? |
吟子 | あ、いえ。 梢先輩の聞きたいことに答えられたら、いいんです。 |
吟子 | ……だから私は、ラブライブ!に優勝したくって。 |
吟子 | 職人さんたちみんな……おばあちゃんだってそうです。 加賀繍の技術は、ちっぽけな私なんかより、ずっとずっと価値があって……。 |
梢 | ……。 |
吟子 | だから、私が伝統の文化にできることはなんだろうって考えたら、 これを伝えることなんだ、って。 |
吟子 | 昔の人が紡いできた想いを、未来に届けるために。 |
梢 | そう……。 その志は、立派だと思うわ。 |
吟子 | それに……。 |
吟子 | わ、私だって、梢先輩のお力になりたいです。 一緒に過ごした時間は、 花帆先輩には、ぜんぜん、勝てないかもですけど……。 |
梢 | まあ。 ……ありがとうね、吟子さん。 |
吟子 | いえ、すみません……私なんかが調子に乗って、出過ぎた発言を……。 |
梢 | その気持ちが嬉しいわ。 あなたも私の、かわいい後輩だもの。 |
吟子 | ……っ。 |
吟子 | わ、私! |
吟子 | 慈先輩のことも、綴理先輩のことも尊敬してますけど、 でも、いちばん尊敬してるのは、梢先輩ですから! |
梢 | あら……。 いちばんは花帆じゃなくて? |
吟子 | えっ!? なんで花帆先輩の名前が!? |
花帆 | やっとついた~~~! |
梢 | がんばったわね、花帆。 |
花帆 | あたしがんばりましたぁ~~~! 梢センパ~~~イ! |
梢 | よしよし。 でもいいの? 後輩が見ているわよ。 |
花帆 | うう~。 このままじゃくじける5秒前なので…… 背に腹は代えられません~……。 |
吟子 | ……まったく、花帆先輩は。 |
吟子 | ほら、ちょっと休憩したら、またもうワンセットいくよ! |
花帆 | え~!? あと1時間ぐらい休んでからにしようよお~! |
梢 | ふふ、やる気だこと。 |
梢 | でもそうね……。 私も最近、さやかさんに長距離走で抜かれそうになってきたのよね……。 |
梢 | また一から鍛えなおそうかしら。 ねえ、花帆。 |
花帆 | それはぜひ、おふたりで張り合っててください~! |