第4話『昔もいまも、同じ空の下』
PART 8
花帆 | ね、吟子ちゃん。 |
吟子 | すみません、あの。 |
吟子 | 花帆先輩、梢先輩。 少し、私に付き合ってくれませんか。 行きたい場所が、あるんです。 |
花帆 | ここは、昨日の……。 |
梢 | 在りし日の、芸楽部の写真ね。 |
吟子 | ……子どものころから、私にとってこの町の人は、 友達であり、家族だったんです。 |
吟子 | 私が遊びに行くと、みんな嬉しそうに思い出話をしてくれました。 それを聞くのが、私は好きでした。 |
吟子 | みんなが好きなものを、大事にしているものを、 私はただ、守りたいだけなのに。 |
吟子 | どうしてなにもかも、そのままではいられないんでしょうか……。 |
花帆 | 大丈夫だよ、吟子ちゃん。 |
花帆 | ね、あたしたちでやろうよ。 形を変えて残すんだよ。 同じだよ、Reflection in the mirrorのときと。 |
花帆 | 今度はみんなで、作ろう? |
吟子 | でも……! |
吟子 | 私の手で変えてしまったら……それは、 たくさんの人の想いをないがしろにしてしまうことには、 なりませんか……? |
花帆 | え……? |
吟子 | だって、今までせっかく残っていて、この先の人にも、 ちゃんと正しく伝えてあげなきゃいけなくて……。 |
吟子 | こんな、私なんかが……。 |
吟子 | 私の手が加わったものに、価値なんて、ありません……。 伝統を、誰かの想いを、汚しちゃう……。 |
梢 | そう、それがあなたの迷いだったのね。 |
梢 | あなたにとって、伝えられてきたものを守ることは、 自分よりもよっぽど大事なことなのね。 |
吟子 | ……スクールアイドルクラブのことだって、大事です……! でも、伝統は私のすべてで……。 私は……。 |
梢 | ……少し、聞いてくれるかしら。 |
梢 | 乙宗家はね、もともと音楽家の家系だったの。 多分に漏れず、私も様々な楽器を習わせてもらったわ。 |
梢 | 乙宗家の伝統を守り続けるのなら、今の私はいなかったでしょうね。 |
梢 | けれど私は、スクールアイドルを選んだわ。 |
吟子 | ……梢先輩はいつでも胸を張って、立派です。 |
吟子 | 私とは……違います。 |
花帆 | そんなことないよ、吟子ちゃん。 |
花帆 | 梢センパイだって、迷ったり、家族に反対されたりして…… それでも、自分はスクールアイドルになるんだって、決めたんだよ。 |
花帆 | 吟子ちゃんと、同じだよ。 最初から、立派だったわけじゃなくて……。 |
花帆 | たくさんの不安を乗り越えて、ここまで来れたんだよ。 |
吟子 | ……怖く、なかったんですか? |
梢 | もちろん、怖かったわ。 新しいことを始めるときは、いつだって。 |
吟子 | ……! |
吟子 | 『すごく不安だけど! でも、くじけたくないから! とにかく前だけ向かなきゃって、決めてるだけ!』 |
梢 | でもね、もう大丈夫。 今は、ひとりじゃないから。 |
吟子 | ラブライブ!優勝のために……。 |
吟子 | お話、聞けてよかったです。 |
吟子 | ありがとうございます! |
吟子 | ……。 |
吟子祖母 | いい先輩方やね。 |
吟子 | ……うん。 |
吟子 | 私なんかのために、一生懸命お話してくれて……。 |
吟子祖母 | 自分を卑下してしまう癖は、なかなか消えんね。 |
吟子 | う……。 だって……。 |
吟子祖母 | よっこいしょ、と。 |
吟子 | ……それ、伝統の衣装を作り直すための、生地? すごい、いっぱいあるね。 |
吟子祖母 | 芸楽部がなくなると聞いた日の話。 |
吟子 | え……? |
吟子祖母 | 年寄りの昔話や。 |
吟子祖母 | あなたぐらいの年の子たちが、うちにやってきてぇんね。 |
吟子祖母 | 芸楽部という名前を、スクールアイドルクラブに変えたいです、 って言いにきてん。 |
吟子祖母 | もちろん私にそれを止める権利なんてないやろ。 |
吟子祖母 | ほやのにどうしたんって聞くと、 その子たちはできるだけたくさんの卒業生を訪ねて、 直接伝えたかってんって。 |
吟子祖母 | 自分たちが新しい道に進むのを、応援してほしいから、って。 |
吟子祖母 | ほやからぁんね、私は衣装の作り方を彼女たちに教えてあげてん。 |
吟子祖母 | なにかを変えることは、とても勇気がいることや。 ほやけどぉ、過去は過去。 |
吟子祖母 | どんな時代やって、この今を生きとる人がいちばん偉いんやって、 そう胸を張ってほしくてぇ。 |
吟子 | そうやったんや……。 |
吟子 | この衣装は……。 先輩方が、おばあちゃんに教わって……。 |
吟子祖母 | 伝説だの、初代3ユニットだの言われていたけれどぉ。 私に言わせれば、今でも残っとるのが奇跡やわ。 |
吟子祖母 | あんな未熟な技術でね。 |
吟子祖母 | 久しぶりに見たあなたたちスクールアイドルクラブは、 あの日、我が家にやってきた子たちと、同じ瞳をしとったわ。 |
吟子祖母 | 未来へ向かって輝いとる瞳やよ。 |
吟子 | そんなことが……。 |
吟子祖母 | 覚えてないのも仕方ないねぇ。 |
吟子 | え? |
吟子祖母 | だってぇ、あなたはまだ赤ちゃんやったもん。 |
吟子 | 私も、会ったん……? |
吟子祖母 | ほや。 |
吟子 | ……昔の人が紡いできた想いを、未来に届けるために……。 |
吟子 | ねえ、おばあちゃん。 |
吟子祖母 | なんや? |
吟子 | 私、やりたいことがあるげん。 |