第5話『不完全で、未完成』
PART 2
小鈴 | よぉし……やるぞやるぞやるぞぉー。 映画のテーマは……そう。 |
小鈴 | チャレンジは楽しい! |
小鈴 | これまでの全部が間違っていたなんて思ってほしくない。 だって、チャレンジは楽しいものなんだ。 |
小鈴 | スクールアイドルクラブで徒町が頑張れてるのだって、 そのおかげなんだから。 |
小鈴 | この映画が完成すれば、 きっと雪佳ちゃんも思い出してくれるはず……! |
小鈴 | スマホセット良し。 ひとまず、チャレンジに成功するところを撮ろう! まずはやっぱり最初の成功……湖渡り! |
小鈴 | うおおおおおおおお!! |
姫芽 | お、やってるやってる~。 |
吟子 | なんで湖……。 |
小鈴 | うぉおおおおおお……おぼぼぼぼぼぼぼ。 |
吟子&姫芽 | 小鈴(ちゃ~~ん)!! |
小鈴 | あ、ありがと……。 |
吟子 | いや、危なすぎるでしょ! いくら夏だからって、水は冷たいんだよ? なにしてるの! |
小鈴 | す、すみません……。 服まで濡らしてしまって……。 |
吟子 | それはぜんぜんいいけど! |
吟子 | これで映画になるの? |
姫芽 | ずぶ濡れでも全然いいっていうのが、吟子ちゃんの良いとこだよね~。 |
吟子 | そこ、うるさい。 さっさと着替えるよ。 風邪ひかないうちに。 |
小鈴 | う、うん。 ごめんね、ありがと。 |
姫芽 | さて、そもそも録画は、と……ん? あー。 |
小鈴 | え、もしかして撮れてなかった!? 何度も場所変えて頑張ったんだけど! |
姫芽 | 撮れてはいるけど~。 |
小鈴 | わ、何も見えない。 |
吟子 | 映画にしようっていうのに、この画質じゃ厳しいんじゃないの……。 |
小鈴 | ぐぅぅ……じゃあもっと近くで、肩に乗せるとか。 |
吟子 | ブレが酷そうだし、そもそも一緒に沈んだらどうするのよ。 |
小鈴 | はー……吟子ちゃんはそういうとこ、すぐ気づいて凄いなあ。 |
吟子 | こ、このくらい普通でしょ! |
小鈴 | 徒町だったら、やっちゃってたから。 |
姫芽 | まあまあ、素直に誉め言葉は受け取っておこうよ。 マネジメントの天才~。 |
吟子 | だから、素直に受け取るには持ち上げすぎなの! |
吟子 | 実際、その映画の進捗はいかほどなの。 |
小鈴 | いや、まだ、全然。 |
吟子 | 友だちが行っちゃう日までに、間に合いそうなの? |
小鈴 | ヤバイデス。 |
小鈴 | うおー、全然だめだー!! |
姫芽 | 小鈴ちゃんのやりたいことは叶ってほしいと思ってるけど~、 映画って大変じゃん? |
姫芽 | もちっと分かりやすく、ビデオメッセージとかに変えたら? |
小鈴 | ……どーしても、映画が良くて。 映画を、完成させたくて。 |
姫芽 | その子が、映画監督目指してたから? |
小鈴 | も、そうなんだけど。 映画は初めてやったチャレンジなんだ。 |
小鈴 | 徒町は、家でも全然ダメダメで。 |
小鈴 | 小学校の頃、1回勝手に漁の手伝いしようとして大怪我しかけて、 それ以来お人形みたいなものだったんだ。 |
小鈴 | 学校でも、人と比べて長所なんてひとつもなくてさ。 |
小鈴 | 同じクラスだった雪佳ちゃんは徒町と真逆で、なんでもできて。 凄いなって思ってたんだけど、雪佳ちゃんが言ってくれたんだ。 |
小鈴 | 『小鈴はいつも、へこたれなくて凄い』って。 |
吟子 | まあ、それはすごくそう思う……。 |
小鈴 | えへへ、ありがと。 雪佳ちゃんに言われた時はピンとこなかったんだけど、 何かチャレンジしてみないって誘われて。 |
小鈴 | 目の前に居たのが映画監督目指してる雪佳ちゃんだったから、 つい映画撮ろうって言ったんだ。 |
姫芽 | それはうまくいったの? |
小鈴 | いやもう全然ダメ。 笑っちゃうくらい。 |
姫芽 | だめだったんか~い。 |
小鈴 | 徒町が主人公、雪佳ちゃんが監督だったんだけど、 もう徒町が失敗しまくって。 |
小鈴 | でもそうやって撮り直してる時に、言ってもらえたんだ。 「それだよ」って。 |
小鈴 | 雪佳ちゃんもね、肝心な場所で音が撮れてなかったことがあったんだけど…… 普段失敗しないから余計に凹んじゃってね。 |
小鈴 | そういう時徒町は「じゃあ次」って思うだけだからさ。 徒町のそういうところに元気貰えるって言ってくれたんだ。 |
小鈴 | できた映画は散々だったし、雪佳ちゃんに言わせれば大失敗、 だったんだけど……徒町にとってはいい思い出だったの。 |
小鈴 | これからもたくさん、チャレンジしようって思えたくらい。 |
吟子 | 小鈴がへこまないのが、元気出た理由……。 |
小鈴 | 吟子ちゃん? |
吟子 | ……小鈴が映画にこだわる理由も分かったけど、それってさ。 大事なのは、小鈴が頑張ることなんじゃないの? |
小鈴 | え? |
吟子 | うまく言えないけど……ひとりで頑張る必要、ある? |
小鈴 | ……吟子ちゃん。 |
小鈴 | ……ありがと。 でも、徒町は“気持ちを伝えること”を大事にしたくて。 |
小鈴 | さやか先輩から学んだんです。 徒町が気持ちを伝えなきゃいけないって。 だからーー。 |
さやか | そんな風に教えたつもりはありませんよ。 |
小鈴 | さやか先輩!? |
姫芽 | こんにちは~。 あ、もうこんばんは~。 |
綴理 | こんばんは~。 |
吟子 | ゆるい……。 さやか先輩、今の教えっていう話は? |
さやか | 小鈴さんが頑張らなきゃいけない、それは確かにそうです。 でも、人を頼ってはいけないなんてことを教えた覚えもありません。 |
さやか | ……いや、教えたっていうのはおこがましいんですが。 |
小鈴 | でも、さやか先輩! 徒町がみんなに頼っちゃったら。 |
小鈴 | スクールアイドルクラブのメンバーは、みんなすごいです。 |
小鈴 | やってる間も、みんなだったらもっとうまくできるだろうなって 何度も思いました。 さっきも、吟子ちゃんに。 |
吟子 | ……。 |
小鈴 | だから、結局徒町にできることは何もなくて、 それじゃあ気持ちは乗せられないって、思って。 |
さやか | なるほど。 アドバイスだけで良いと言ったのは、そういう理由もあったんですね。 |
小鈴 | はい……。 |
綴理 | 分かるよ。 |
小鈴 | えっ? |
綴理 | ボクも、気持ちは分かる。 居るだけで良いって言われたって、 みんなが頑張ってる横で、自分の色が乗っているとは思えなくて。 |
綴理 | でもね、すず。 みんなが手を差し伸べてくれるのは、すずの色があるからだ。 |
綴理 | 最初にきみが居て、みんなが居る。 だから、大丈夫。 |
小鈴 | 綴理先輩……。 |
綴理 | ねぇ、すず。 本当に伝えたい気持ちを、教えて。 ボクたちは、それに乗るから。 |
小鈴 | 本当に伝えたいのは……雪佳ちゃんに貰ったチャレンジする気持ちが、 間違いじゃなかったよってことです! |
綴理 | ん。 |