すず……来てくれても、何もあげられないよ……？

大丈夫です！
徒町は綴理先輩を笑顔にするチャレンジをしに来ました！

……そっか。 ありがと。
ボクは、笑えるよ。

それならチャレンジ成功です。

……すずが居るから、笑えるんだ。

ぁぅ……。

えっと、その。 どう、したんですか？ 綴理先輩。

……あのね。

……ボクは、スクールアイドルになりたかった。

中学までのボクは、言われるがままに、
独りでただ踊ってただけだったから。

苦しいと思ってるだけなのに、それが凄いって、
ボクにもよく分からないところで持ち上げられて……ずっと、独り。

だから、スクールアイドルに憧れた。

スクールアイドルが、夢だった。
スクールアイドルに、なれたんだ。 この場所で。

それでいいと思ってたし……
未来にも、ボクの頑張れる場所は、あるんじゃないかって思った。

でも……違うんだ。 違ったんだ。
ボクだけがスクールアイドルになっても、意味がない。

ボクがスクールアイドルで居られるのは、大好きなみんなが居るから。
ボクが好きなスクールアイドルは、みんななんだから。

ふう……ショックだったんだ。
ボクはさっき気付いたよ。

ボクはあのスクールアイドルの部室が、
みんなが居る部室にいられるのが好きだったんだ。

ボクはここから居なくなる。
ボクがこの子を連れて行けば、この子も部室とお別れ。

ボクもこの子も部室に居る、
いつもみたいにみんなと居られる瞬間は……もう少ない。

未来に、すずも、さやも、みんなもいない……。
ボクの周りから、誰も居なくなっちゃうんだ。

……。

じゃあ、時間を止めるっ……チャレンジ……。

ふふっ……ありがと。

時計は、残酷だ。

ううううう……！

時間、止まれええええええええ！！！

……すず。

止まれ！ 止まれ！！
綴理先輩が……綴理先輩が泣いちゃうよぉ……！

っ……。

……ありがと、すず。
ほんとに……ありがと。

……綴理先輩。 小鈴さん。

さや……。

扉の向こうまで聞こえてましたよ。 小鈴さんの声が。

はぁ、はぁ……さやか先輩ぃ……。

小鈴さんのまっすぐさは、
いつだって、わたしたちの心に沁みますね。

……うん。 本当に。
いつまでも……見ていたいよ。

そうですね。 わたしも、同じ気持ちです。

わたしも、小鈴さんも、みなさんも。
……綴理先輩のことを、ずっと見ていたい。

ボク……？

スクールアイドル夕霧 綴理を、ですよ。

っ……さや。
それが、もうできないのは、つらいよ。

……。
綴理先輩。

わたしは、綴理先輩はご自身がスクールアイドルで居続けたいのだと、
思っていました。

そしてそれなら……卒業後も、気持ちのありようではないかと。

職業体験で、この3年間培ったあなたの経験が発揮されていたこと……
それは、わたしにとっては確信でしかありませんでしたから。

うん……ボクも、ボク自身がスクールアイドルでなくなってしまうのが、
怖かった。 でも。

はい、でも違った。

あなたがスクールアイドルで居られるこの場所から離れること……
この場所から、あなたの好きなスクールアイドルが去っていくこと……。

それが、怖かった。

……うん。

わたしたちに、それはどうしようもありません。

っ……分かってる。 分かってるよ。
それが、正しいってことも。

ただしいから、なんだぁ……！

すず……。

……ふぅ。

ボクは、どうすればいいの？

……それを、わたしが決めることはできません。

どうして？
ボクは、さやとなら……。

わたしだって……。

さや？

わたしは、綴理先輩の幸せを一番に願っています。

そんなの、分かってる。 分かってるけど。

じゃあ、先輩。
わたしが明日死んだらどうするんですか？

……へっ？

さやか、先輩？

あり得ないことじゃないでしょう。 明日の自分がどうなるかなんて、
分かったものじゃないんですから。

明日にはわたしは居ないかもしれません。
その時、綴理先輩はどうするんですか。

さや、が……。
待って、待ってさや。 聞きたくない、苦しい。

たとえあなたが溺れそうになったとしても、
言わなきゃいけないじゃないですか！

わたしだけじゃありません、
小鈴さんも……みんなだって同じことです。

どんなに一緒に居るって言ったって、
未来に何が起こるかは分からないんですよ！

さやか先輩！ 綴理先輩がっ……。

……うぅ。

さやか先輩、そんなの極論じゃないですか！

……。

……さや。

だったら、なおさらずっと一緒に居ようよ。
明日も明後日も、何も……取りこぼさないように。

それをいつまで続けられると思うんですか。
仕事も、家でも、ずっと一緒なんてできませんよ。

っ……でもっ。

そこでわがままには、なれないんですよ。
この先ひとりになったら、どうするんですか。

独りっ……！

そ、そんなの……ボクは、ボクは……。

……どうして？

どうしてそんなひどいこと言うの！！

っ、たとえわたしがあなたにどう思われても、
それがいつか来ることだからですよ！

もしもそんなときが来たら、
ボクはもう消えてなくなるしかない！！

っ、あなたがそんなだから今言いたくもないこと言ってるんです！

言いたくないなら言わないでよ！

っーーこのっ。
どうして分からないんですか！！

分からないよ！！ 分かりたくもない！！
置いていくなら、振り返らないでよ！！

違う！
たとえひとりになったあとでも、あなたがつらいのは嫌なんです！

はぁ……はぁ……。

……なんで。 居なくなるのに、なんで。

……たとえ誰もいなくなったとしても、
それでもあなたには、幸せになってほしいからですよ。

それでも、幸せに……。

それが達成されるなら、もうあとはなんでもいいんです。

難しいことを言う。 とても、難しい……。

……でも、徒町も、そう、思います。

……たとえ何があったとしても、
これから先、綴理先輩が笑ってたらいいなって。

さやか先輩も。 みんなも。

……無理だ。 みんなと離れても幸せなんて。

ボクにそんな力はない。
ないよ……。

……ああ。
さやが言いたいこと、分かった気がするよ。

ボクは、これから……ボク自身を、幸せにしなきゃいけないんだ。

そう、ですね。
きっとそれが、わたしの望みです。

そっか、そうなんだね。

ボクはこれから、ボク自身で何かを決めなきゃいけないのか。

それは、大変だ。 本当に……大変。
正しいか分からないことをするのは……。

……綴理先輩！

でも、忘れないでください！
独りじゃないです！ いつだって！

こうしたいと思って失敗することは、
ほんとのほんとに、たくさんあるけど……。

一緒に居る誰かを捕まえることだって、
綴理先輩のチャレンジなんですから！

……うん。 ありがとう。

じゃあひとつ、わがまま良いかな。

ボクが……未来に進むために、
必要なことがしたいんだ。

それがボクの……最初に、自分で決めて、やりたいことだ。

……はい。 なんでも。