第10話『Believe your love. Believe your live』
PART 2
口数の少なくなっている花帆。 | |
心配げに見ている吟子に、花帆が口を開く。 | |
花帆 | すごかったね……勝つための、ステージ。 |
花帆の表情を窺いながら相槌を打つ吟子。 | |
花帆は帰りの新幹線の中でも、泉のパフォーマンスに圧倒されたままだった。 | |
吟子 | ……そうだね。 |
花帆 | あたし、そんなスクールアイドルがいるなんて、 考えたこともなかった。 |
花帆 | でも、そうだよね。 ラブライブ!は、スクールアイドルの出場する競技、なんだもんね。 |
花帆 | あれが勝ちにこだわってきた人の強さ、なんだ……。 |
花帆の言葉は理解できるものの、泉の強者っぷりを素直に認めたくない吟子は、張り合うように言う。 | |
吟子 | ……勝つための練習なら、私たちもしてきたよ。 |
花帆 | うん。 でもやっぱり……あたしたちとは、ちょっと、違うよね……。 |
花帆 | うまく言えないけど、 あたしたちは、スクールアイドルをやりながら勝ちたいっていうか……。 |
花帆 | ……勝てるのかな。 あんな風に、勝ちを積み重ねてきた人に……。 |
吟子 | 勝てるかどうかじゃなくて、勝つんでしょ。 |
不安な気持ちは吟子も同じだが、吟子は意地を張るのに慣れているので、ここでは気持ちを押し隠して花帆を励ます。 | |
吟子 | 確かに、すごいステージだったけど……私は、蓮ノ空のほうが好き。 |
花帆の目を見て伝える吟子。 | |
自分を励ましてくれる吟子の言葉と、そして理屈抜きに『勝たなければならない』という使命に背中を押されて、花帆は気圧されていた状態から、思考停止で『勝つんだ!』というモードに移行してゆく。 | |
吟子 | 私たちには、私たちの戦い方がある。 そうでしょ? |
花帆 | ……うん。 |
花帆 | そうだよね。 瑞河がどんなにすごくても、勝てるかどうかじゃない。 勝たなきゃいけないんだ。 |
花帆 | 約束したんだもん。 勝つって! |
グッと拳を握る花帆。 | |
花帆 | 去年、ラブライブ!に負けたとき……みんな、すごく、悔しがってた。 |
花帆 | あたしだって……今度こそ優勝するんだって、 その気持ちで1年間やってきたんだから! |
花帆 | なにより、梢センパイの夢のために……ぜったい勝たなきゃ! |
花帆 | 吟子ちゃん! |
吟子 | な、なに。 |
花帆 | あたし、吹っ切れたよ! ありがと! |
にっこり微笑む花帆に、吟子もホッとしつつ顔をそむける。 | |
吟子 | そ、そう。 |
花帆 | よし! |
花帆 | 帰って早速、作戦会議だね! やるぞー! |
くすっと笑う吟子であった。 | |
吟子 | ……相変わらず、オンオフのわかりやすい人。 |
吟子 | では、再生しますね。 |
吟子がぽちっとノートパソコンを操作する。 | |
流れるライブ映像。 | |
泉のすさまじいパフォーマンスに、絶句する部員一同。 | |
全員 | …………。 |
吟子 | ……これが、瑞河のパフォーマンスです。 |
全員のリアクションを予想していたかのように言う吟子。 | |
瑠璃乃が感嘆入り混じった細長い悲鳴をあげる。 | |
瑠璃乃 | うわぁ~…………。 |
梢 | ……とんでもないわね。 |
慈も、真剣な様子。 | |
慈 | これは、えぐいね。 聞いてたよりも、ずっと。 |
綴理 | うん。 |
綴理 | 赤い炎かな。 宝石の中で燃え盛る、消えない炎。 |
綴理 | 見入ってたら、いつの間にか石の中に閉じ込められてるような。 そんな風に見えたよ。 |
さやか | 凄まじいほどの執念と、そして自信を感じます。 |
さやか | 指の先まで、髪の毛の一本に至るまで、 『絶対に勝つんだ』という想いが、あふれて見えます。 |
姫芽 | こういうタイプ、アタシ知ってますよ。 『覚悟を決めた天才』ってヤツです。 |
実はここまでずっと息を止めてた小鈴、だんたん顔が青くなる。 | |
瑠璃乃 | こ、小鈴ちゃん!? だいじょぶ!? |
小鈴 | ぷ、ぷはあっ! |
小鈴 | すみません徒町、息するのを忘れてました! パフォーマンスを見てたら、つい……! |
小鈴 | それくらい、それくらいすごかったです……。 |
花帆 | あの……梢センパイは、どう思いましたか? |
梢 | そう、ね。 |
梢 | 負けられない戦いを積み重ねたせいでしょうね。 泉さんからは絶対の自信と、必死さ、いえ懸命さが両方感じられる。 |
梢 | おそらく何度も限界を超えながら、多くの舞台で、勝ってきたんだわ。 そして、まだ上を目指すのだと、彼女の瞳が言っているように見える。 |
梢 | 強い。 決勝の相手としては、そう言うしかないわね。 |
花帆 | それでも……。 |
花帆 | 優勝するためには、この瑞河に勝たなきゃいけないんです! |
花帆 | 泉さんに勝つことができれば、きっと優勝できるんですよ、あたしたち! だから、あともう一歩なんです! |
さやか | あと一歩……。 はい、そうですね! |
梢 | 九人それぞれがなにをするか、考えましょう。 悔いのないように。 |
花帆 | 勝つために……! |
梢 | ……。 ええ、勝つために。 |
姫芽 | あの~! |
姫芽 | アタシ、試合がしたいです~! いっぱいいっぱい、い~っぱい! |
瑠璃乃 | 試合って、スクールアイドルの? |
姫芽 | はい~! 勝つためには、とにかく実戦あるのみです~! |
姫芽 | 相手の真似をするわけじゃなくて、 アタシはこれまでずっとそうやって、勝ってきましたから~! |
姫芽 | 時間の許す限り、『たのも~!』って乗り込んでいってきます~! いろんな学校に……いえ、あらゆる学校に~! |
慈 | 待て待て待て。 姫芽ちゃんひとりで乗り込んでっても、先方の都合とかあるでしょ。 |
姫芽 | むぐ。 全国すべてのスクールアイドルに、片っ端から果たし状を……。 |
慈 | 効率が悪い! |
慈 | というわけで、私もついていってあげよう。 アポは任せなさい。 こう見えても、顔が広いんだよ。 |
姫芽 | めぐちゃんせんぱい……! |
慈 | それにね、私もここらで実戦のカンを研ぎ澄ませておきたいんだよ。 暴走姫芽ちゃんに押されてるようじゃ、優勝なんて夢のまた夢だからね。 |
姫芽 | お、おお……。 じゃあ、アタシとめぐちゃんせんぱいでも、勝負ですね~! |
さやか | あの、おふたりが邪魔でなければ、わたしもご一緒したいです。 |
姫芽 | さやかせんぱいも! |
さやか | はい。 本番に向けた練習は、しっかりと積み上げてきましたので。 あとは最適化を図るための調整に、時間を使いたいんです。 |
さやか | 綴理先輩と、小鈴さんがよろしければ、ですが。 |
小鈴 | もちろんです! 徒町は徒町でやりたいことがありますから! |
さやか | やりたいこと……? そうですか、わかりました。 |
綴理 | さやをよろしくね、めぐ、ひめ。 |
梢 | だったら……私は、綴理を借りてもいいかしら。 |
綴理 | おー? |
梢 | 私のコーチをしてほしいの。 |
綴理 | ボクが、こずの? |
梢 | ええ。 一年生のときに、少しやってもらったでしょう。 あの頃は私もまだまだ未熟で、あなたの足を引っ張っていたけれど。 |
梢 | でもね、今ならきっと、やりきれそうな気がするの。 |
梢 | もちろん、私からもあなたに教えられることがあると思うわ。 |
綴理 | うん、わかった。 楽しみだね。 |
梢 | ええ、ありがとう。 |
姫芽 | こ、これは、胸アツ展開~……! |
吟子 | 綴理先輩と梢先輩がマンツーマンで……。 ……すごいことになりそう。 |
慈 | るりちゃんはどうする? |
瑠璃乃 | ん~。 実は、ルリもやりたいこと思いついたんだ。 |
瑠璃乃 | みんなが個々のパワーアップをがんばるなら、 ルリはみんなのサポートがしたいな、って。 |
瑠璃乃 | 例えばだけど、ステージで誰かになにかあったとき、 ルリがすぐにカバーに入れるようになったら、 |
瑠璃乃 | みんな安心して自分のことに集中できるっしょと、ルリ思う。 |
慈 | さすが現代に生誕せし博愛の聖女! |
瑠璃乃 | なんでめぐちゃんまでそれを! |
吟子 | あ、だったら! 私も一緒に行ってもいいですか? 瑠璃乃先輩! |
瑠璃乃 | 吟子ちゃんも? |
吟子 | はい。 私、どうしても想定外の事態に弱くて……。 |
吟子 | だったら、あらかじめすべてのミスの可能性を頭に叩き込んでおけば、 動揺せずに済むと思うんです。 |
瑠璃乃 | あ~、なるほどねぇ。 でもいいの? 時間ないから、たぶん、けっこーハードになると思うよ。 |
吟子 | どんとこいです。 |
花帆 | みんな、すごい! すごく、レベルアップしそう……! |
さやか | 花帆さんは、どうするんですか? |
花帆 | えっ? う、うん。そのね。 もちろん考えてるよ! あたしはーー |
梢 | 花帆。 後で少し話があるのだけれど、いいかしら。 |
花帆 | は、はい? |
花帆 | あの、ええと、梢センパイ。 もしかして、わかっちゃいましたか……? |
梢 | なにか不安そうにしている、ということはね。 話してもらえるかしら。 |
花帆 | 迷ってる……んだと思います。 |
花帆 | 優勝するために何かしないといけないのに。 何をしていいのか、まだはっきりとわからなくて。 |
花帆 | で、ですけど! もう時間はないですし! まずは練習あるのみかなーって! |
梢 | もしよければなのだけれど。 この特訓期間中、あなたにはやってほしいことがあるの。 聞いてくれる? |
花帆 | えっ? |
梢 | それはね。 それぞれのグループの特訓に、 一回ずつ参加して、みんなの心に触れてくること。 |
梢 | そこで見つけてほしいの。 ラブライブ!優勝を目指す上で、今のあなたには足りないものを。 |
花帆 | 足りないもの……!? それはやっぱり、あたしの実力……!? |
梢 | そうじゃなくてね。 |
梢 | 歌に関してもダンスに関しても、あなたはこの二年で本当に成長したわ。 |
梢 | さやかさんや瑠璃乃さんにも引けを取らない。 ステージ上のパフォーマンスならそれこそ、誰よりも魅力的よ。 |
花帆 | そ、それはさすがに褒めすぎだと思うんですけど……!? でも、それじゃあ足りないものって……? |
梢 | ……大丈夫。 あなたなら、すぐにわかるわ。 |
花帆 | え!? 今、教えてもらえないんですか!? |
梢 | 今ぜんぶを言葉で説明しても、実感できないと思うの。 |
梢 | みんなのところを巡ってきて、そして最後に私の下へ帰ってきてくれれば、 きっと、答えがわかるから。 |
梢 | だから、がんばって。 |
微笑む梢。肩をポンと叩いて歩き去ってゆく。 | |
梢の意図:花帆がいっぱいいっぱいになりすぎて、今自分が言ったところで、聞いてもらえる気がしなかった。また、花帆が自分のためにがんばろうとしてくれているときに、その決意に水を差したくはなかった。 | |
回らせた理由に関しては、時間を置くためと、花帆の原動力が花咲かせることなのだから、他の人の夢と触れることによって思い出してほしかった。元のあなたに戻ってほしかった。 | |
梢の行方を見送りながら、ぽかんとつぶやく花帆。 | |
花帆 | あたしに、足りないもの……!? |