第11話『夢を咲かせる物語』
PART 4
セラス | むぐぐぐ……。 悪魔めぇ……。 |
吟子 | えっと……。 そろそろ取材の人たちが来る時間だけど……。 |
小鈴 | セラスちゃん、いけそう? |
セラス | ……あれはわたしが7歳のとき。 |
小鈴 | え!? |
セラス | 当時、天才ヴァイオリニストを目指していたわたしに、 テレビ局の取材がやってきた日のこと。 |
吟子 | なんか始まった……。 |
セラス | わたしはいつものように余裕しゃくしゃくに受け答えをして、 ひょいひょいと演奏をしてみせるはずだった。 |
セラス | しかしそこで、悲劇が起きた。 |
セラス | そう……大人たちに囲まれたわたしはとても緊張して、 本当にへたっぴな演奏しかできなかった。 |
セラス | そして後日テレビを見た人に、ものすごく気を遣われてしまったの。 |
セラス | そのことが悔しくて、むかついて、それ以降、 わたしはテレビというものがすごく苦手になった……。 |
小鈴 | そんな悲しい過去が……! |
吟子 | ぜんぶ八つ当たりじゃない!? |
セラス | だから本当は、配信もあんまり得意じゃない……。 誰かが一緒にいてくれるなら、まだがんばれるけど……。 ひとりだと……。 |
小鈴 | だったら! ね、吟子ちゃん! |
吟子 | 待って。 |
小鈴 | 徒町と吟子ちゃんも、一緒に取材受けるよ! |
セラス | そんな……。 いいの……? |
小鈴 | もちろんだよ! 徒町たちが力になれるなら! ね、吟子ちゃん!? |
吟子 | うう~……。 ぜったいこうなると思った~……。 なんでここに姫芽がおらんの……。 |
小鈴 | 失敗するなら、三人で派手に失敗しようよ! そうしたら、むしろ興味もってくれる人も増えるかもしれないし! |
セラス | 失敗して、興味を……。 そっか、そういう考え方もあるんだ。 |
セラス | すごい、目からうろこ。 |
小鈴 | えへへ、そう? |
セラス | すごいです。 小鈴先輩。 |
小鈴 | ーー!? |
小鈴 | せ、セラスちゃん……今、なんて……!? |
セラス | 小鈴先輩。 |
小鈴 | 徒町が…………先輩…………!! |
吟子 | 小鈴……? |
小鈴 | こんなちっちゃい徒町も、中学三年生のセラスちゃんにとっては、先輩……! だったら……! |
小鈴 | セラスちゃん!! 徒町がずっとそばにいるからね!! 徒町に任せてね!!! ちぇすと~!!! |
吟子 | 大きな声……。 |
セラス | はい。 小鈴先輩。 わたし、一緒ならがんばれると思います。 |
セラス | よろしくおねがいします、小鈴先輩。 がんばろうね、吟子。 |
吟子 | おかしいでしょ! |
吟子 | 私と小鈴で、どうして私のほうが呼び捨てなの!? この身長差で! |
セラス | だって吟子は、花ちゃんの後輩なんでしょ? |
吟子 | だったら小鈴だってそうでしょ! |
セラス | 緊張しないようにね、吟子。 大丈夫だよ。 失敗しても、それで興味をもってくれる人が、いるかもしれないんだから。 |
吟子 | こ、この……。 |
小鈴 | じゃあ、いこ! セラスちゃん! |
セラス | うん。 小鈴先輩。 |
吟子 | ああもう! どうなっても知らないんだからぁ! |
泉 | いやあ、なかなかどうして、うまくやったじゃないか、セラス。 |
セラス | 面白がってる、この人……。 最悪……ばか、あほ、悪魔……。 |
泉 | ひどい罵倒だね。 私は誰よりもセラスが適任だと思ったんだよ。 |
泉 | 誰よりもラブライブ!に出る理由があるのは、あなただ。 それなら、誰よりも情熱をもっているのは、あなたということだ。 |
泉 | それはそれとして、面白がってはいたけどね。 |
セラス | む~……。 |
泉 | でも、ご覧よ。 |
泉 | あなたがテレビ取材で夢を語り、それが成功したから、ほら。 |
泉 | 文化祭を開くことが、できたんだ。 |
花帆 | みんなー! きょうは来てくれて、ありがとうねー! |
さやか | 配信の方々も、どうぞ楽しんでいってくださいねー! |
泉 | このイベントによって、 さらに多くの人が、瑞河の現状を知ってくれるだろう。 |
泉 | これまでも、たくさんの支援があった。 交通手段や、機材の提供。 徐々に寄付も集まってきている。 |
泉 | 廃校自体は免れないとしても、プレーオフ成立までは、きっとあと少しだ。 |
セラス | うん。 |
セラス | わたしにできるのは、ここまで。 あとは泉に任せるから。 |
泉 | まだ残っているよ、あなたの仕事が。 |
セラス | え? |
泉 | あなたが受けたのは、文化祭を開くことについてのテレビ取材だろう? なら当日本番にだって、やってくるさ。 |
セラス | え、あんなにたくさん……? |
泉 | それだけ注目を集めることができた、ということさ。 ほら、がんばって。 |
セラス | ……今度は一緒じゃないと、やだ。 |
泉 | はいはい。 お姫様。 |
瑠璃乃 | こっちこっち! 瑞河の人の言葉を、聞かせてあげて! |
セラス | ……初めまして。 わたしは瑞河女子高等学校、附属中学校の生徒です。 |
セラス | 瑞河女子スクールアイドル部は、ラブライブ!全国大会に進みましたが、 そこで、学校の廃校決定に伴い、部活動ができなくなりました。 |
セラス | とても残念です。 このまま不戦敗で終わる…… そう諦めていたところで、蓮ノ空に声をかけてもらったんです。 |
セラス | 最後までもがいてみようよ、と。 その言葉に勇気をもらいました。 |
セラス | だからわたしも、最後までもがいてみたいです。 |
セラス | ひとりひとりは小さな力でも、集まってより大きな力へと変えるために。 今も、たくさんの方々が応援してくださってます。 |
セラス | そのおかげで……こうして、瑞河と蓮ノ空を繋ぐ文化祭……。 |
セラス | 『瑞蓮祭』を、開くことができました。 |
セラス | だからあともう少し……皆さんの、力を貸してください。 |
セラス | 本日は、どうもありがとうございました! |
姫芽 | いい挨拶だったよ~、セラスちゃん~。 |
小鈴 | 『瑞蓮祭』……。 蓮ノ空の名前も入れてくださって、とても嬉しいです! |
セラス | ごめん。 なんだか急に、思いついちゃって……。 |
姫芽 | ナイスひらめき~。 |
小鈴 | この文化祭が、ビシッと決まった感じがします! |
吟子 | 前の取材のときも、それぐらい堂々としていればよかったのに。 |
セラス | なんだろう……泉とステージにあがったからかな。 ドキドキしたけど、でも、それよりワクワクできたから。 |
泉 | さて、どうかな。 これから蓮ノ空の皆さんと、ステージにあがるのだけど。 |
セラス | 泉が? |
泉 | せっかくだから私たち、高校一年生同士で組もうという話になってね。 |
泉 | もしよかったら、セラスもどうだい? |
セラス | わたしが、ステージに……? |
小鈴 | う、うん。 一緒に、どう? |
セラス | ううん、ありがとう。 でもここは泉とみんなに任せるよ。 |
セラス | みんなを、楽しませてあげて。 |
姫芽 | そお? |
吟子 | うん、わかった。 任せて。 |
セラス | いってらっしゃい。 |
セラス | やっぱり……いいな。 スクールアイドルって。 |
花帆 | ……。 |
吟子 | ……。 |
慈 | ……。 |
綴理 | ……。 |
姫芽 | ……。 |
小鈴 | き、緊張感がぁ……。 |
さやか | はい……。 セラスさんたちは大丈夫でしょうか。 瑞河の理事長室に呼ばれてから、もう一時間は……。 |
梢 | ……。 |
花帆 | せっちゃん! どうだった!? |
セラス | うん。 |
セラス | 部活動停止措置は……、一カ月延期。 学校側も、認めてくれた。 |
セラス | プレーオフ、できるよ。 |
花帆 | や。 |
全員 | やった~~~~!!! |
さやか | やりました! やりましたね! |
小鈴 | おめでとー! 泉さん! |
泉 | うん、本当によかった。 |
泉 | あなたたちには、何度も長野に来てもらって。 本当に、本当に感謝してもし足りない。 |
泉 | どうも、ありがとう。 |
慈 | 私たちは自分のためにやっただけだよ! でもそのお礼はありがたくもらっておくね! 気分がいいからね! |
綴理 | よかったね、みんな。 |
瑠璃乃 | うっ……。 ルリ、目の奥があっつくなってきちゃいました……! |
綴理 | ふふ。 それも幸せだね。 |
梢 | それじゃあ、プレーオフまでの期間、精一杯練習しなくっちゃ! |
花帆 | ね、せっちゃん。 瑞河のみんなにも、報告しに行こ! |
セラス | うん。 いこ。 |
花帆 | いこいこ~! |