第13話『いずれ会う約束の桜』
PART 6
さやか | あれ? まだ、誰か居る……? |
瑠璃乃 | さやかちゃーん。 花帆ちゃん知らない? |
さやか | 花帆さんですか? いえ……どうしました? |
瑠璃乃 | アルバムの写真、欲しいやつがなくて、 花帆ちゃんのとこ混じってるかなーって。 |
瑠璃乃 | ほら、花帆ちゃん確かまだアルバム作ってたでしょ? |
さやか | そうでしたね。 というか、ふたりともなんでまだ終わってないんですか! 蓮華祭ぎりぎりになっちゃいますよ! |
瑠璃乃 | あはは……あぁ、あれ花帆ちゃんじゃない!? |
さやか | 瑠璃乃さん! |
瑠璃乃 | 花帆ちゃーん。 ルリの撮った写真、そっちに混じってない? |
さやか | あと、もう部室は締める時間ですよー。 |
花帆 | ……。 |
瑠璃乃 | あり、花帆ちゃん? |
花帆 | ……あ、瑠璃乃ちゃん。 さやかちゃんも。 |
さやか | ど、どうしたんですか!? |
花帆 | ご、ごめんなんでもない! |
瑠璃乃 | その顔で何もないってことはないでしょ、大丈夫? |
花帆 | うん、ほんとに、ほんとにだいじょぶ。 |
花帆 | あ、でも……ちょっとふたりに、聞いてもいいかな。 |
花帆 | えっと……あのね。 アルバム、編集してたんだけどさ。 凄く……良いものになってきたとも、思うんだけどさ。 |
さやか | そうですね。 バランスも良く、この3年間を辿って……。 |
さやか | 昨日までの楽しい思い出も、 最後に詰め込んだ、宝物のようにきらきらしていると思います。 |
瑠璃乃 | うん。 すごいよ花帆ちゃん。 ルリ、もっと構成考え直そうかなー。 |
花帆 | でもさ……ふたりは思わない? こう……やっぱり全然足りないなー、なんて……。 |
さやか | 足りない、ですか……。 |
花帆 | うん。 ふたりもそう思うなら、 蓮華祭のぎりぎりまでまだまだ遊んで、さ? |
さやか | それは……確かに、遊びたいは遊びたいですが。 |
花帆 | じゃ、じゃあ、明日からもセンパイたちに頼んで、 もっとみんなで遊ぶ時間を増やしたりーー。 |
瑠璃乃 | で、でも花帆ちゃん。 |
瑠璃乃 | アルバム、あと1ページしかないよ? |
花帆 | それはっ……その……もう1冊、とか……さ。 |
さやか | ……花帆さん。 |
花帆 | ……うん、分かってる。 分かってるよ、無茶だって。 もうどうしたって、時間はないんだって。 |
瑠璃乃 | ……花帆ちゃん、それで……泣いてたの? |
花帆 | いちページいちページ……大事に作ってたんだ。 |
花帆 | 楽しかったこと、大変だったこと、もうダメかもって思ったことも…… みんなの力で乗り越えられたこと。 たくさん、思い出あったよ。 |
花帆 | でもね、そうやってアルバムが完成に近づくんだ。 |
花帆 | 本の終わりと、同じ。 読んでないページがどんどん減って、終わりに近づく。 |
瑠璃乃 | ……花帆ちゃん。 |
花帆 | あと1ページになって……胸がきゅっと締め付けられた。 |
花帆 | どうにか隙間を埋めて、空白のページを増やせないかって、 頭から読み返していったら……余計に心が痛くなっちゃってさ。 |
花帆 | たくさん、思い出あったよ。 あの時は、全然足りないなんて言ったけど…… ほんとはそんなことなかったんだ。 |
花帆 | やっぱり、みんなでもっと思い出作ろうっていうのも、わがままだったんだ。 あたしがただ、寂しかっただけ。 |
花帆 | ……離れたくなかった、だけなんだって。 離れるしかないのに、あたしは……。 |
さやか | ……ね、花帆さん。 |
さやか | そんなに自分を責めないでください。 たとえあなたのわがままであったとしても……。 |
さやか | そのおかげで、 わたしは本当に大切な思い出を増やすことができましたよ。 |
瑠璃乃 | うん。 それに、さ。 絶対悪いことじゃないよ! |
瑠璃乃 | 離れたくない、寂しいってことは……それだけ、 先輩のことが好きだってことだもん。 |
瑠璃乃 | 今は、凄くつらいかもしれないけど……。 |
花帆 | ありがとう……ごめんね、そんな顔させて。 寂しいのは、あたしだけじゃないのに……。 |
さやか | わたしは……いえ、わたしも、 寂しい気持ちがないと言えば、ウソになりますか……そうですね。 |
瑠璃乃 | きょうはさ、ゆっくり休も? 今完成させる必要はないんだし! |
花帆 | そう、だね。 うん。 ありがと。 |
瑠璃乃 | それこそさ! 行っておいでよ! |
花帆 | え、どこに? |
瑠璃乃 | めぐちゃんたち、ラウンジで楽しそうに話してっから! 混ざっておいで! |
花帆 | あ……。 |
さやか | はい。 いってらっしゃい。 鍵はこちらでやっておきますから。 少しでも、寂しさを埋めちゃいましょう。 |
花帆 | ……うん、そうする。 |
花帆 | ……センパイ。 |
梢 | 花帆? どうしたの、そんな顔して。 |
花帆 | あの……寂しくなっちゃって! |
慈 | あはは、すーなおー。 まあでも、それだけ思われてるみたいだぞ? 羨ましいことで。 |
梢 | ええ、そうね。 ほら、花帆にもお茶を出してあげましょう。 |
慈 | こいつ、さらっと……。 |
綴理 | るりも呼んでこようか? |
慈 | 私が寂しいみたいじゃん! |
綴理 | それで、かほはどうしたら寂しくない? |
花帆 | ちょっと……言い出しにくいというか……その。 えっと! センパイがたは、なんの話をしてたんですか? |
慈 | ふうん? |
梢 | ちょうど、沙知先輩から卒業おめでとうってメッセージが届いてね。 |
花帆 | わ、沙知センパイ! 元気してました!? |
梢 | ええ。 さっそく設計についていろいろ勉強して、いくつか実践して、 なんて話を聞いたから。 |
梢 | ……なんだか、相変わらずとんでもないことをしているみたいよ。 |
花帆 | へー……卒業後も、頑張ってるんですね。 ていうか、そっか。 センパイたちは、ちゃんと連絡取ってるんですね! |
梢 | そこまで頻繁じゃないけれどね。 |
慈 | あの人も夢に向かって頑張ってる最中だからねー。 |
花帆 | そ、っか。 |
花帆 | ……えっと、そうだ! 沙知センパイ、蓮華祭に来られたりはしないんですか!? |
綴理 | 来るのは無理だけど、ちゃんとスクコネで見るよって。 かほたちにもよろしくって、言ってた。 |
花帆 | そ、っかあ。 ……ちょっと残念だけど、見ててくれるなら、嬉しいです! |
慈 | よっぽど忙しいんだろうね。 ま、私は安心したけど。 今度は好きなことやれてるみたいで。 |
綴理 | そうだね。 やりたくてもできないことが多かった分…… 今はその翼をめいっぱい広げていてほしい。 |
慈 | 私たちは今もやりたいことやって、 そのうえで天使の翼をはためかせて飛び立つけどねー。 世界へ! |
梢 | ……あなたが本当に外国で生活を送れるかどうか、 蓮ノ空女学院一同、不安しかないけれど。 |
慈 | 主語大きいな! できるに決まってるじゃん。 ジョーシキありまくりだよ? 私。 |
梢 | 英語の勉強、進んでいる? |
慈 | 喋る方は、割と。 |
花帆 | おお~。 |
梢 | ……やるときはやるものね、あなたは。 |
慈 | でしょ? 梢ってば、私のことわかってるじゃん! |
慈 | それに、心配するなら、綴理の方じゃない? 先生は大変だぞ~。 |
花帆 | 先生……? えっ綴理先輩って、先生目指してるんですか!? |
綴理 | うん。 がんばる。 |
綴理 | ……大変なの? |
梢 | そうよ。 補習すらも隙あらばサボろうとする生徒とか、 そのくせテスト前に配信する生徒とかいるんだから。 |
慈 | 急に早口になるじゃん……。 |
花帆 | あははっ。 |
綴理 | それってめぐのことでしょ? めぐだったら大丈夫だよ。 |
綴理 | めぐは、いいところがいっぱいある。 勉強しなくても、ボクはめぐが大好きだから。 |
慈 | コイツ、生徒に好かれそうだな……。 |
梢 | そうね……。 綴理は、いつだって寄り添ってくれるものね……。 |
慈 | ほんとに。 スクールアイドル辞めなくてよかったねえ。 |
梢 | っ。 ま、まさかあなた、先月のこと、慈に話したの……? |
慈 | ~♪ |
綴理 | 言わない方が、よかったのかな? |
慈 | いいんだよ。 もう卒業するのに、今さら隠し事したって、仕方ないでしょ。 |
花帆 | ……。 |
綴理 | こずは、歌の勉強を続けるんだよね。 |
梢 | え、ええ……。 |
梢 | ……そうね、また一から学び直すつもり。 本格的な声楽は初めてだから、もちろん不安はあるけれど。 |
梢 | でも、どこでだってがんばるって、決めたから。 吹っ切れたのかしらね。 今はワクワクしているの。 |
梢 | まるで、スクールアイドルに憧れていたあの頃、みたいに。 |
綴理 | ああ、眩しいね。 |
花帆 | ……っ。 くすん。 |
梢 | か、花帆!? |
慈 | ……おっと。 |
綴理 | ……もしかして、寂しくなった? |
梢 | ……花帆。 |
花帆 | だいじょうぶ、です。 ごめんなさい。 |
花帆 | あたしは……もっともっと、センパイたちと一緒に居たいんです。 |
梢 | そう……。 花帆、でも。 |
花帆 | 分かってます。 センパイたちの夢の話を聞いちゃったら、 もう、あたしは何も言いたくないです……! |
綴理 | 寂しくて、いいんだよ? |
梢 | ……ええ。 私だって、もちろん寂しいわ。 あなたと離れ離れになるのは。 |
花帆 | でもっ……でもあたしは、あたしは本気で離れたくないんです! センパイたちの寂しいとは、違う……! |
梢&綴理&慈 | ……。 |
花帆 | センパイたちの夢は、素敵なものです……! なのにあたしは……あたしはっ。 |
花帆 | ずっと一緒にライブがしたい! 明日も、明後日も! 来年も、再来年も! 学校で、ステージで、どこでだって! |
花帆 | ずっとスクールアイドルをしていたいんです! |
花帆 | そのためにやれることがあるなら、 なんだってしたいって思っちゃうくらいに! |
綴理 | ……。 |
慈 | ……ほんと、素直だね。花帆ちゃんは。 |
梢 | 花帆。 |
梢 | その気持ちは、とっても嬉しいわ。 |
梢 | それだけ私たちの存在が、あなたの中で大きくなっていたことを…… 誇りに思う。 |
花帆 | ううっ……。 |
梢 | でも……それは、できないの。 |
花帆 | っ。 |
梢 | 私たちは、あと少しで卒業。 スクールアイドルでは、なくなってしまうから。 |
梢 | いつまでもあなたと、ライブをしていたかった。 その気持ちは、一緒よ。 あなたとの日々があったからこそ、私は新しい夢を見つけられたの。 |
梢 | ごめんなさい。 あなたを置いて、卒業してしまって。 |
花帆 | う、ううう……うぁあ……。 |
梢 | ……でも。 |
梢 | 綴理、慈。 私、やりたいことがあるのだけれど。 |
綴理 | いいよ。 |
慈 | ま、あそこにふたり、心配そうに覗いてるのもいるしね。 |
花帆 | へ……? |
さやか | ……花帆さん。 |
花帆 | さやかちゃん、瑠璃乃ちゃん……。 |
瑠璃乃 | えっと、これは何がどうなって……? |
梢 | ええ、あなたたちにも聞いていってほしい。 |
慈 | ちょうどできたところだしね。 |
綴理 | うん。 もともと、蓮華祭できみたちに聞かせたかった曲だから。 |
梢 | 私たちが遺す最後の曲。 |
梢&綴理&慈 | 新しい、Dream Believers。 |