第1話『Brand New Stories!!』
PART 6
セラスがぶらぶらと学校を散策していると、吟子と小鈴が中庭のベンチに座ってランチを食べているところに遭遇する。 | |
セラス | あ。 |
小鈴 | あれ? セラスちゃん? |
吟子 | ほんとだ。 |
頭を下げて、ふたりの輪に入ってくるセラス。 | |
セラス | こんにちは。 |
セラス | 小鈴先輩。 吟子……先輩。 |
小鈴 | わ、すごい! こないだより吟子ちゃんへの先輩呼び、慣れたね! |
吟子 | なんなん……。 |
吟子 | 別に、嫌だったら無理に呼ばなくてもいいよ。 |
ふるふると首を横に振るセラス。 | |
セラス | いやじゃないよ。 |
セラス | ただ、最初の印象が、花ちゃんの後輩だったから、 まだ適応できていないだけ。呼んでるうちに、慣れる……と思う。 |
まあセラスがそう言うならもう少し様子を見るか、と納得する吟子。 | |
吟子 | ふぅん。 |
セラス | それか新たなあだ名を作るかのどっちか。 |
小鈴 | えっ、面白そう! |
吟子 | 嫌な予感しかしないんだけど……。 |
セラス、少し考えて。 | |
セラス | ……おぎんさん。 |
吟子 | ほら! |
小鈴 | かわいいじゃん! 吟子ちゃんの持ってるぬいぐるみみたいで。 |
小鈴の口をふさぐ吟子。 | |
吟子 | なんでもない! なんでもないからね! |
セラス | ? |
吟子 | まったく……。 |
小鈴 | あ、そういえば泉ちゃん、 うちのクラスに編入してきたんだけど……すごいんだよ! |
吟子 | ああ、うん。 なんか、キャーキャー言われてた。 |
セラス | ほほう。 |
小鈴 | 蓮ノ空にも、もともと泉ちゃんのことを知ってる人、けっこういてね! |
小鈴 | なんというか、こう…… もし芸能人が同じクラスだったら、こんな感じだったんだろうなー、って! |
吟子 | まさしくそうなんじゃないの? あの人。 |
小鈴 | 吟子ちゃんって、泉ちゃんにちょっと冷たい気がするんだけど、 徒町の気のせい? |
吟子 | うぇ!? そ、そんなことないがいね! |
ひとしきり慌てた後、言い訳するように口ごもる吟子。 | |
吟子 | ていうか、小鈴と姫芽が、仲良くなるの早すぎっていうか……。 小鈴もいつの間にかタメ口で、ちゃん付けになってるし……。 |
吟子 | それに……泉さんって、近寄りがたいところある感じして。 |
小鈴が首をひねる。 | |
小鈴 | んーそうかなあ? 泉ちゃんはなんとなくだけど、姫芽ちゃんに似てると思うけど。 |
吟子 | ええっ? 似てない似てない。 ぜんぜん似てないよ。 姫芽はもっと、こう……ネジがゆるい。 |
小鈴 | あはは、それはそうだね! |
小鈴が今度はセラスに話を振る。 | |
小鈴 | でもさ、セラスちゃんって、泉ちゃんの前だと、 なんだか砕けた感じに見えるっていうか、素っぽいなって思うし。 |
去年一年を振り返って、遠い目になるセラス。 | |
セラス | まあ、いろいろとございましたから……。 |
小鈴 | ふたりで一緒に転校してくるなんて、 セラスちゃんは泉ちゃんとすっごく仲良しなんだね。 |
なにを言われたかわからないように、聞き返すセラス。 | |
セラス | なか、よし…………? |
吟子 | そこ疑問形なの? |
この際だ。きっぱりと否定しようとするセラス。 | |
セラス | そもそも、わたしと泉は、 一緒に蓮ノ空に来ようねって話してたわけじゃないんです。 |
セラス | わたしは泉が行かなくても蓮ノ空に行くつもりだったし、 泉はわたしが行かなくても蓮ノ空に行くつもりだった、って言ってた。 |
セラス | たまたまかぶっただけ。 |
小鈴 | たまたまだったら、逆に絆の強さを感じちゃうなあ~。 |
しかし、セラスは素直に『そうだね!』とは言いがたい顔。 | |
セラス | 泉は……なんというか、究極的には、 わたしのことをどうでもいいと思ってるから。 |
小鈴 | どうでも……? |
セラス | 泉にとってわたしは、 手を差し伸べたたくさんの『お姫様』のうちの、ひとりなんだよ。 |
セラス | 泉の仕事は、助けるまで。 助けた後には、興味ないの。 泉は、そういう女。 |
小鈴 | ええー!? 1年も一緒にがんばってたのに!? |
吟子 | なんか……冷たい人、みたいに聞こえるんだけど。 |
セラス | そう、泉は冷たい。 あいつは、ひどい女。 |
セラス | わたしがどんなに泉を想ってても、泉はわたしをポイと捨てる。 |
吟子はセラスの言うことをどこまで信じればいいのか、という顔。 | |
小鈴 | セラスちゃんかわいそう! |
泉 | やあ、お三方で、お昼ごはん中かな? |
泣き真似する小鈴。 | |
小鈴 | ひどいよ、泉ちゃん! そういうの、無責任って言うんだよ! |
セラス | よよよ……。 かわいそうなわたし……。 でもいいの、泉はわたしを助けてくれたナイト様だから……。 |
小鈴 | そんな! セラスちゃん! 気持ちはぜんぶぶつけたほうがいいよ! 一方通行なんて、つらいよ! |
泉、いきなり責められて、笑顔に冷や汗。 | |
泉 | ええと……。 ここで『そうだよ、私は悪い女なんだ』 って話に乗ったら、まずいことになりそうだね。 |
泉 | これは、なんの話かな。 |
吟子に話を振る泉に、吟子はやれやれという顔。 | |
吟子 | 今、ほんのちょっとだけ、 泉さんと仲良くなれそうかも、って思ったよ。 |
泉 | それは、どうも……? |
セラス、じっと泉を見つめる。 | |
セラス | ……。 |
泉 | セラス? |
セラスは泉からプイと視線を逸らす。 | |
セラス | ……感謝は、してるから。 すごく。 |
泉はよくわからないと首を傾げるのだった。 | |
泉 | ……ありがとう? |