第2話『Dream Match!』
PART 3
さやセラ編とは別日設定。空き教室にPCを置いて、姫芽が花帆と小鈴を連れてやってきた。 | |
姫芽 | さてさて、空き教室からPCを借りてきて、かほせんぱいと小鈴ちゃんに、 実際ゲームで遊んでもらったわけなんですが~。 |
姫芽 | いかがでした~? |
頭を抱える花帆。3Ⅾ酔いになる小鈴。 | |
花帆 | 銃で撃つゲーム、難しいー! |
小鈴 | 徒町は、目が回ってしまいました~……。 |
花帆 | こういうゲームほとんどしたことないのに……。 こんな複雑なの、できっこないよぉ! |
小鈴 | 乗り越えるべきハードルが、あまりにも、 あまりにもたくさんあります……。 |
姫芽 | あはは。 でもそうだよねえ。 慣れてないと、やっぱりそうなっちゃうよねえ。 |
花帆 | 姫芽ちゃん~……。 なんであたしたちが、試遊台で遊ぶお客さんの対応係なの~? |
姫芽 | もちろん、ちゃんとした理由がありますよ~。 でもその前に~。 |
姫芽 | おふたりは、このゲームのCPU戦をやってみて、 どうでした~? |
花帆 | どう、って……。 |
花帆と小鈴が顔を見合わせる。 | |
花帆 | 銃がぜんぜん当たりませんでした! |
小鈴 | なにもわからずやられ続けました! |
嘆くふたりに、姫芽はウンウンとうなずく。 | |
姫芽 | それが、おふたりを選んだ理由なんですよ~。 |
ええー?という表情の花帆と小鈴。 | |
姫芽 | ここに、チェックシートがあります~。 アタシが作りました~。 |
花帆 | えーっと。 |
小鈴 | 『カメラを動かして相手を視界に収める』 『照準を合わせる』『スキルを使う』……。 |
小鈴 | いっぱい項目があります! |
姫芽 | おふたりにはゲームを遊びながら、少しずつでもいいので、 このチェックシートを埋めていってほしいんです~。 |
姫芽 | FPSは、大きな枠組みで言えば、アクションゲーム。 |
姫芽 | そしてアクションゲームというのは、 “できないことができるようになっていく”ゲームなんですよ~! |
花帆 | できないことが、できるようになっていく……! |
小鈴 | なんだか、いい言葉だね! |
ふたりが話に乗ってきて、ニコニコする姫芽。 | |
姫芽 | でしょ~? |
姫芽 | アタシがこれを言うと意外に思われるかもしれませんが…… |
姫芽 | 実は、勝つか負けるかっていうのは、 いちばん大事なことじゃないんです~。 |
姫芽 | だって、勝つか負けるかは二分の一。 |
姫芽 | 対人戦だったら、相手の人だって努力してるわけですから。 二分の一でつまんなかったら、そんなのやですよね~。 |
姫芽 | 勝つことを目標として、できないことが一個ずつできるようになってゆく。 その成長を実感できた瞬間が、いっちばん気持ちいいんです~! |
姫芽 | それが、ゲームなんです~! |
小鈴 | お、おお……! |
姫芽 | ですから、試遊台にやってきた方には、ぜひぜひ、 できないことができるようになったその快感を味わってもらいたくて。 |
姫芽 | そのためには、 ひとまずおふたりに実体験として学んでもらおうと思ったわけです~。 |
花帆 | ……なるほど! |
花帆 | 確かに、あたしたちスクールアイドルも、 最初から歌ったり踊ったりできるわけじゃないもんね。 |
花帆 | 一個ずつ振りを覚えて、それを組み合わせて、 ようやく曲を踊れるんだもんね! |
小鈴 | でもでも、練習してるときも、楽しいです! |
花帆 | うん! 最初から勝とうとするんじゃなくて、 自分のできることを増やしてく…… |
花帆 | そうしたら、いつの間にかきっとダンスができるように……じゃなくて! 勝てるようになってるんだ! |
小鈴 | さすが花帆先輩! 徒町もそういうことが言いたかったです! |
花帆 | そっか……。 ゲームって、そういうものだったんだ……。 あたし、なんだかわかった気がする! |
姫芽 | ……。 |
花帆 | だから姫芽ちゃん、スクールアイドルもあんなに上達早かったんだね! |
正面から笑顔をぶつけられて、心の中の対抗心がちょっとだけ燃え上がる姫芽。目をそらしつつ、曖昧に笑う。 | |
姫芽 | そうかもですね~。 |
だったらさ、からは小鈴に向かって提案しているイメージです。 | |
花帆 | だったらさ、このチェックシートを埋めるときに、 |
花帆 | あたしたちがどんな風に練習したらできるようになったのかも、 一緒に書いておくのはどうかな? |
花帆 | そうしたらほら、試遊台で苦戦してるあたしたちみたいな人に 『こうしたらできるようになったんですよ~』って、 |
花帆 | アドバイスなんかもできちゃったり。 |
小鈴 | わあ! いいアイディアだと思います! |
花帆 | やったぁ! |
姫芽 | ……やっぱりかほせんぱいは、やりますね~。 |
えへへと笑う花帆。 | |
花帆 | え~、そうかな~? 姫芽ちゃんの説明が、すっごくわかりやすかったからだよ。 |
花帆 | だからあたしと小鈴ちゃんっていうのも、納得だね。 |
小鈴 | はい。 徒町は、部に入ったばかりの頃は、なんにもできませんでしたから。 |
花帆 | きっとその代わり、できるようになったときの感動は、 誰よりも味わってきたんだよ、あたしたち。 |
笑い合うふたりを見て、姫芽も微笑む。 | |
小鈴 | 花帆先輩と並べていただいて、恐縮です! でも、それはもう! バッジもたくさん増えましたから! |
胸を張る小鈴。 | |
姫芽 | おふたりは、もう大丈夫そうですね~。 |
姫芽 | では、たびたび様子を見に来ますので、がんばってくださいね~! |
花帆 | うんっ。 |
小鈴 | ありがとー! |
手を振って、廊下に出る姫芽。 | |
ひとり、ぎゅっと拳を握る。 | |
姫芽 | 呑まれないために、夢をでっかく……! |
姫芽 | ひとまずは、全力でイベントの成功を目指して……! そうすればきっと、アタシにも見えてくるはずだから~! |
姫芽 | やるぞ~! |
おー、と拳を掲げて、次の人たちのもとへ向かうのだった。 | |
姫芽が部室に吟子と泉を呼び出した形。 | |
姫芽 | ね、お願い、吟子ちゃん! |
両手を合わせている姫芽。ここを説得するのがいちばん大変だろうと思っている。 | |
想像通り、吟子は渋い顔をしている。 | |
吟子 | イベントコンパニオン……。 |
泉 | ゲームに登場するキャラクターのコスプレをして、 お客さんを案内したり、ゲームのアピールをする役割だね。 |
姫芽 | いやあ『吟子ちゃんのコスプレ姿が見てえ~』ってわけじゃなくて~。 |
姫芽 | ほら、衣装を作れる人がコスプレしなきゃじゃん~? 採寸とか調整とか大変だしさあ~。 |
姫芽 | だから、ふたりにお願いしたいんだよぉ~。 |
吟子、引き続き難しい顔。 | |
吟子 | ……。 |
スマホを操作してキャラクターの画像を見る泉。 | |
泉 | なるほど、このキャラクターが主役格なのか。 |
泉 | 確かに背丈も雰囲気も、私たち8人の中ではいちばん吟子さんに似ている。 |
姫芽 | でしょでしょ~? だから~、吟子ちゃん~。 |
吟子 | うん、わかった。 |
姫芽 | そう言わずにさぁ~~……って! いいの!? |
私を鬼かなにかだと思ってるの?とちょっと釈然としない吟子。だが、すぐにいつもの真面目な顔に戻って。 | |
吟子 | なにその反応……。 |
吟子 | 衣装づくりできる人が、コスプレしたほうがいいんでしょ。 だったら私がやったほうが、効率いいと思うし。 |
姫芽 | ありがと~! |
顔色をうかがう姫芽。 | |
姫芽 | あ、でもけっこ~露出あるかもだけど~……。 |
吟子は、自分でもスマホを見つつ。 | |
吟子 | まあ、これぐらいなら……。 私だってもう二年生になったんだし、やったほうがいいなら、やるよ。 |
吟子 | ……それに、今回は、姫芽の夢のためだし。 |
吟子を拝む姫芽。 | |
姫芽 | 吟子ちゃぁん~! 大好き~♡ |
吟子 | はいはい……。 |
吟子 | でも、姫芽は別に、私のコスプレ姿が見たいわけじゃないんだよね。 いいけど。 |
わざと冷たく言う吟子。思わず姫芽は動揺してしまう。 | |
姫芽 | あれ!? アタシ選択肢間違った!? 見たくないわけじゃないよ~!? |
吟子 | ……ふふっ。 |
吟子 | 引っかかった引っかかった。 |
くすくす笑う吟子。姫芽はからかわれたことを知り、く~、という顔。 | |
姫芽 | 冗談かよぉ~……。 |
そのままにっこりと泉を向いて。 | |
姫芽 | それじゃあ、いずみんもお願いね~。 残りから、好きなキャラを選んでくれていいから~。 |
姫芽 | あ、でもアタシのおすすめは~。 |
姫芽がおすすめキャラを告げようとしていると、泉は顎に手を当てて、面白くなさそうに目を細める。 | |
泉 | ふぅむ。 |
泉 | つまらないな。 |
姫芽 | えっ!? |
話がまとまりかけてたのに水を差してきた泉に、吟子が眉を吊り上げる。わがまま言わないの!と。 | |
吟子 | こら。 なに言い出してるの。 |
泉 | 私がイベントコンパニオンをすれば、かなりの集客は見込めるだろうね。 きっと様になるはずさ。 大勢の目を楽しませるだろう。 |
姫芽 | そりゃ~も~。 |
泉 | だから、つまらないな、って。 あまりにも順当すぎる。 |
吟子 | ええ~……? |
泉 | 適材適所なのだろうけれど。 もっと他の役割はないのかな、姫芽ちゃん。 |
姫芽 | え~と、え~と……ハッ。 だったら、面白くなればいいんだよね~? |
姫芽 | 吟子ちゃんと泉ちゃん、どっちがよりすばらしいコスプレ衣装で 人の目を惹きつけられるか~! っていうのはどう~!? |
吟子 | ちょ、ちょっと姫芽……!? |
姫芽 | いずみんは、吟子ちゃんの衣装づくりにかける情熱を、 まだ知らないでしょ~? |
泉が興味を惹かれたように目を細める。 | |
泉 | ほう。 |
姫芽 | 吟子ちゃんはね、すっごいんだよ。 |
姫芽 | 加賀繍の職人だし、作る衣装にもいっぱいこだわりがあってね。 もう、高校生レベル超えちゃってるんだから~! |
吟子 | 職人はまだ、言いすぎ! |
姫芽 | そんな吟子ちゃんと、衣装づくりで張り合うの~。 |
姫芽 | あとで『どっちの衣装がよかったですか~?』って、 アタシが運営スタッフさんからアンケート取っちゃうから~! |
泉 | なるほど。 |
泉 | それは……面白そうだね。 |
姫芽 | ふふふ、でしょう~? |
吟子 | なに勝手に……。 |
泉が不敵な笑みを浮かべる。 | |
泉 | おや……。 吟子さんはスクールアイドルの衣装は作れても、 コスプレ衣装を作るのは、自信がないかな? |
吟子 | 見え透いた挑発すぎるでしょ! |
姫芽 | あれぇ~? 吟子にゃんは負けるのがこわいのかにゃ~? |
吟子 | 姫芽がそっちにつくのもヘン! |
やれやれとため息をついてから、ふたりに目を向ける吟子。 | |
吟子 | まったくもう……。 |
吟子 | いい? コスプレ衣装だって、基本は変わらないからね! |
吟子 | キャラクターの三面図からデザインを起こして、 なるべく再現度が高い素材を用意して、あとは型紙を作成! |
吟子 | 裁断して縫製! 本物に近づくよう調整を重ねていくだけ! |
吟子 | 普通に考えて、私が後れを取るはずないから! |
にっこり笑う泉。 | |
泉 | なら、いいじゃないか。 私はあなたの情熱を、近くで感じたいだけなんだよ。 |
吟子 | だったらこんな形じゃなくても! |
泉 | あなたとしては、万が一にも負けるわけにはいかない。 “本気”になるだろう? |
はぁ、はぁ、と息を切らせる吟子。 | |
吟子 | 私はいつだって本気やし! |
それからジト目になって泉を見やる。 | |
吟子 | ……いいよ、わかったよ。 一度ぐらいは、泉さんをコテンパンにするのも悪くないし。 |
泉 | ふふふふふふ。 |
吟子 | うわ急にすっごいニヤニヤしてる……。 |
姫芽 | ふー……。 じゃあ、そのようにお願いできれば、と~……! |
泉 | ああ、でも吟子さん。 |
吟子 | なに? |
泉 | 私は衣装づくりの経験はまだほとんどないんだ。 一から教えてもらっていいかな? |
吟子 | あんたほんまになんなん!? |
姫芽 | あはは……。 アタシ、るりちゃんせんぱいのところに行ってくるね~! |
怒鳴る吟子と、はははと笑う泉。そんなふたりから、逃げるように立ち去ってゆく姫芽であった。 |