第5話『眠れる海のお姫様!』

PART 1

制服姿のセラスが、息を切らして学校まで走っているイメージ。
セラス
はっ……はっ……。
制服姿のセラスが、息を切らして学校まで走っているイメージ。
セラス
はっ…………はっ…………。
ガラッとドアを開いて、セラスが部室に入ってくる。
セラス
はぁ……はぁ……。
……ふ、ふふ。きょうも朝練いちばん乗り!
わたしがいちばん!
びしっと指を突き上げるセラス。
残念。 2番だ。
すでにトレーニングウェア姿の泉がさらっと現れ、セラスが絶句。
セラス
なっ……!?
セラス
泉に負けた……っ!
ああああああああああ!
床を叩いて絶望するセラス。
そんなに?
ふらっと立ち上がるセラス。
セラス
いやでも待って。
泉はスクールアイドルがあまりにも楽しいから、
セラス
朝早くから練習しようとしてたんだよね。
それってわたしの影響だよね。
セラス
つまり、結果的にわたしの勝ち!
ウィナー! セラス 柳田 リリエンフェルト!
勝ち誇った顔で、泉に指を突き付けるセラス。
……朝から楽しそうだね、あなたは。
セラス
バカにしてる!?
いや、この点に関しては褒めてるよ。 羨ましいぐらいだ。
セラス
ならよし。
セラス
わたしもすぐ着替えるから、練習しよ。
もちろん、良いとも。
セラス、着替えのために一度距離を離すイメージです。
セラス
ふふっ。
どうどう? そろそろ、スクールアイドル、好きになってきた?
泉、少しの間をとって、と片目をつむる。
さてね。
セラス
逆張りは恥ずかしいことなんだよ、泉。
……あなたは本当に、朝から元気だね。
ストレッチをしているセラスと泉。
泉に背中を押されている中、セラスが泉に尋ねる。
セラス
んぐぐ……。
背中を押されて声が漏れるセラス。まだまだ体の硬いセラスである。
泉がぱっと手を離す。もとの位置に戻りつつ。
セラス
そ、そういえば、泉。
例の宿題、進んでる?
ああ、Edel Noteの新曲の話だね。
セラス
そう。 今月のFes×LIVEで披露する新曲。
お互い、案を持ち寄ろうって言ってたやつ。
できてるよ。 3曲。
セラス
……できてる?
完成させたってこと?
ま、とりあえずね。
セラス
……スクールアイドルしゅきしゅき♡人間じゃん。
思いついたから作ってみただけだよ。
実物があったほうが、話が早いだろう?
セラス
ツンデレなの? 吟子先輩ってこと?
スマホ見せる?
曲、聞いてみるかい?
セラス
ききたいききたい!
シーン内時間経過(ワイプするイメージです)
どうかな?
スマホを手に、うつむいているセラス。
セラス?
セラス
……違う。
ぼそっとつぶやくセラス。
それから勢いよく。
セラス
だから違うんだってば!
おや……。 敗北感で胸がいっぱい、という雰囲気ではなさそうだね。
お気に召さなかったかな。
セラス
曲はどれもいい曲だけど! そういうことじゃなくて!
セラス
いつもクオリティにねじ伏せられてきたけど、きょうこそは言うからね!
泉は自分のできることばっかりやるから、だめ!
意味がわからないとばかりに首をひねる泉に、
ん……? んん……??
指を突き付けるセラス。
セラス
あのときも!
トレーニングウェア姿のふたり。
ここから回想。
セラス
泉、わたしの考えてきた新しい振り付け、どうだった?
ふむ……なるほど、なかなか悪くない。
だけれど、こういうのもどうかな?
どうかな? の後、軽くステップを踏んで、それっぽい振り付けをする泉。
驚いた顔のセラス。
セラス
え、待って、むちゃくちゃクオリティ高い……。
セラス
……って、そうじゃなくて!
セラスがなぜ否定してきたのかわからず首を傾げる泉。
一度、回想が終わり、現代のセラスに戻ってくる。
悔しそうなセラスの声。
セラス
あのときも!
部屋着のセラスと、泉。
また別の回想に。
セラス
ね、泉。
新曲の衣装のイメージ書いてきたんだけど、見て見て。
スケッチブックに書いた衣装を泉に見せるセラス。
へえ、いいじゃないか。
でも、あなたはもう少し、こういうほうが似合いそうだけれど。
その場でさらさらと紙に書いてみせる泉。
セラス
は……? ファッションセンス、神すぎん……?
一回驚いた後、ハッとして首を横に振るセラス。
セラス
……って、違う違う! そういうことじゃなくて!
??
戻ってきて。
セラス
泉はいつだってそう!
ラブライブ!優勝しそうなことしかしない!
悔しそうに叫ぶセラス。
泉は、ハテナマークをさらに浮かべて。
ひょっとしてものすごく遠回しに褒められているのか?
セラス
違う!
すーはーと深呼吸をするセラス。
一度、元のテンションに戻って。
セラス
今から、ものすごくめんどくさいこと言うね。
普段通りってことじゃないか。 それがセラスだろう?
セラス
そうだね。 わたしめんどいもんね。
っておーーーい。
『そうだね、わたしめんどいもんね』には爽やかな笑顔のニュアンスを入れてください。
「っておーーーい」はあくまでも平坦なテンションでノリツッコミをするイメージです。
セラス
わたしは、もっと“桂城 泉”が見たいの。
私を……?
セラス
そう。 振り付けでも、衣装でもそう。
世界中で、泉にしか作れない、泉が作ることに意味がある曲。
セラス
蓮ノ空の先輩方みたいな……そういう、オンリーワンの曲。
真剣なセラスに、顔を引き締める泉。
私だけの曲……か。
常により良いものを作ろうと思っていたつもりだったけれど……
その観点は確かに、なかったかもしれないね。
セラス
……ごめんね。
いぶかしげな泉に、セラスが今度はぼそっと謝る。
……なぜあなたが謝るんだ?
セラス
泉は去年1年間、わたしの夢を叶えるために努力してくれた。
セラス
ラブライブ!で優勝するための曲は、
みんながいいなと思ってもらえる曲じゃないとだめだから。
セラス
それがもう、泉のスタンダードになっちゃってるんだよ。
セラス
泉はずっと、わたしのためにそうしてくれてたから。
気を揉むセラスの気持ちを和らげるために、微笑んで聞き返す泉。
確かに、私のスクールアイドルとしてのスタイルを定めたのは、
あなたとの1年間だった。
だが、別にそれが悪いわけじゃないだろう?
シリアスなテンションのまま、続けるセラス。
セラス
そうだけど。 でもこないだね、
セミに追いかけまわされて半泣きで最悪な気分になったとき、気づいたんだ。
なに言ってるんだろうこの子は……という泉と、手を組んで小鈴に感謝するセラス。
セミに……。
セラス
ほんといやだったけど、小鈴先輩が助けてくれた……。 神……。
小鈴先輩は頼りになるね。
セラスはまた真剣な口調に戻る。
セラス
うん。 それで、
寮に帰ってからも怒りが収まらなくて『セミ滅べ』って曲を作ってたら、ふと思ったの。
セラス
そうか、泉は“余裕があるからだめ”なんだ、って。
フランクにツッコミを入れる泉。
それ話繋がってる?
セラス
泉は曲作りだって、振り付けだって、
衣装デザインだってなんでもうまくこなせちゃうから、
自分を出す必要がないんだ。
セラス
出さなくても、今までずっと勝ってきたから。
出す必要性が、なかったんだ。
セラス
泉がスクールアイドルを楽しめてないのも、
ずっと、自分を出してないからなんじゃないかって思って……。
ぐぐぐと溜めてから、セラスが泉に宣言する。
セラス
だから! そのために……わたしはどうにかして
泉にギャフンと言わせなきゃいけないんだよ!
セラス
わたしが泉の、セミになってあげる!
またあなたは……面白いことを考えてきたね……。
呆れているように聞こえるが、泉は関心している。
その気持ちは、セラスも受け取った。
セラス
でしょう?
セラス
4月から数えて、もう4か月。
セラス
なんの成果も出ないまま、1年の3分の1が過ぎちゃったんだよ。
人間の寿命で考えると、60歳だよ!
私は180歳まで生きるのか……。
セラスの無茶苦茶な物言いを、とりあえずはそのまま受け取ってあげる泉。
頭を抱えるセラス。
セラス
今の泉は、60歳! これじゃ、スクールアイドルが楽しくなってきた途端に
Edel Noteが終わっちゃうよ!
セラス
ね、泉。
わたしが、泉の壁を壊してあげる。
セラス
スクールアイドルがみんな、自分の想いを前に出した曲を作るのは、
それが自分たちにとっていちばんの武器だからだよ。
セラス
泉の作る新しい曲は、きっと、いい曲になるって信じてるから。
セラス
だから、素の泉の歌を、聞かせて。
そうしたら泉も……もう一段、スクールアイドルが好きになれると思うから。
……なるほど、ね。
あなたの言いたいことはわかったよ。
罪悪感を覚えていることも、私のために言ってくれていることも。
セラス
『セミ滅べ』でもいいよ。 泉の気持ちが乗ってるなら。
きっとラブライブ!優勝を目指す曲より、泉らしい曲になるよ。
あいにく、人生でセミに殺意を覚えたことはないんだ。
セラス
あんなに最悪なのに……!!
口元に手を当てて考え込む泉。
でも、本当になんでもいいってことか。
セラス
うん。
とりあえず悩むより飛び込む主義の泉は、大きくうなずく。
まあ、その考え自体は、受け入れるよ。
具体的には、どうすればいいんだい?
セラス
そう、具体例。
そこでわたしは、さらに考えました!
ずいぶんたくさん考えてくれるじゃないか。
セラス
一応、あなたのパートナーですから。
セラス
夏合宿の話、聞いた?
ああ、来週だったね。
セラス
じゃあ、それが蓮ノ空だけじゃなくて、
近隣のいろんな高校のスクールアイドルと合同で合宿しようって話が
持ち掛けられてることについては?
初耳だ。
セラス
ふふん。 まあね。
きょうの朝、わたしにお誘いの声がかかったばかりだからね。
ドヤ顔で腕組みをするセラス。
それは……まだ誰にも言ってないんじゃないかな。
セラス
うん……。 これから花ちゃんに、お願いしにいかないとなんだけど……。
セラスもごにょごにょしてから、開き直ったように。
セラス
ほら、去年、武者修行でいろんな高校を巡ったでしょう?
そこで知り合った人が、ぜひ、って。
セラス
わたしたちが蓮ノ空に入ったことも知ってたから、
よければ皆さんでご一緒に、って声をかけてくれたの。
セラス
わたしは、やってみたいな、って。
セラス
たくさんのスクールアイドルに、もみくちゃにされて、
スクールアイドルの情熱をいっぱい受け取って……。
セラス
泉が自分のスクールアイドル道を見つめ直す、
すごくいいきっかけになると思う。
セラス
ついでに、合同合宿の卒業試験を
『各自、ひとつ自分の曲を完成させること!』ってすれば、
セラス
わたしたちみんなFes×LIVEで披露する曲も作れるし。
セラス
慣れない子が一生懸命に曲を作ってる姿を見れば、
ほら……泉もグッとくるでしょ!
セラス
そういうのが泉は大好きなんだから! 情熱マニア!
否定はしないけれど。
セラス
その上! 夏合宿で、わたしが数々の試練を与えて泉にギャフンと言わせたり、
『もうむりぎぶあっぷー!』って言わせられたら、
セラス
泉も『このやろー!』っていうやる気に満ちあふれること、
間違いなし!
セラス
泉は『このままじゃだめだ……! もっと強い私にならなきゃ……!』
と歯を食いしばって、泥臭く手段を選ばなくなった結果、
セラス
本当の言葉で曲を綴れるようになるんだよ!
セラス
はぁ、はぁ……どう!? 泉!
本当に、いろいろと考えてくれたんだね、セラス。
セラス
泉はわたしのお姫様だからね!
胸を張った後、顔をそらして頬を赤くして、ぽろっと本音を漏らす。
セラス
……去年、泉にしてもらったことを考えたら、まだまだだけど。
セラス
泉は、どう?
まっすぐ問いかけられて、泉は一瞬顎の下に手を当てて考え込む。それから口を開く。
……うん。
私の作る、私だけの歌、か。
そそられる響きだ。
おお、と目を開くセラス。
セラス
じゃあ。
壁を壊したいと、私自身も願っているんだ。
あなたからの申し出、嬉しく思うよ。
ぜひ、やらせてほしい。
セラス
よっし!
この夏は、生まれ変わったEdel Noteを見せてやろうー!
しかし、問題がひとつある。
セラス
え……?
わざと負けるわけには、いかないんだろう?
だったら……あなたが私にギブアップと言わせる未来が、見えないな。
セラス
……。 今、挑戦状をたたきつけてきたね?
申し訳ないが、ただの事実なんだ。
セラス
ふふふふふ……。
その言葉、後悔させてあげるから。
セラス
それじゃわたしは早速、花ちゃんにお願いしに行ってくるから。
びしっと泉を指差して。
セラス
せいぜい今だけ余裕ぶってるといいよ。
さようなら、生まれ変わる前の、桂城 泉。 グッバイ!
捨て台詞を吐いて、笑いながら走り去ってゆくセラス。
セラス
あははは!
なにをする気なんだ……。
汗ジトでつぶやいた後、くすっと笑う泉。
ふふっ。
それから微笑ましいものを見るように、セラスを見送る泉。
まったく……あなたといると、飽きないよ。 セラス。
合宿、楽しみだ。