第7話『わがまま色の存在証明』
PART 7
- 沙知
それではこれより、DOLLCHESTRAによるパフォーマンス勝負を開始する!!
- 沙知
ルールは単純、どちらの方が優れたパフォーマンスをするか、それだけだ。
- 沙知
審査員はこのあたしと、志願してくれた泉ちゃん。
- 沙知
それから駆けつけてくれたさやかのセコンド。
- 沙知
そしてもうひとり。
- つかさ
来たよ。
- さやか
ありがとう、お姉ちゃん。
- つかさ
わたしを魅せてくれるの?
- さやか
ううん。
ただ、見届けてほしいだけ。 - つかさ
分かった。
- 小鈴
泉ちゃんも、先輩方も、見ててくださいね!!
- コメント
花帆が元気に手を振り、瑠璃乃も隣で微笑んでいる。
- 花帆
頑張れー!
- 泉
ところであなたは?
- 沙知
小鈴の、即席師匠みたいなものかな?
- 泉
ふうん? あの小鈴さんの師匠か、大きく出たね。
期待させてもらうよ? - 沙知
はは、きみほどの子に言われるとそれなりにプレッシャーかな?
- 小鈴
まさか、竜胆祭の前にこんなステージをやることになるとは
思いませんでしたけど……こうなった以上、ここで徒町の全力を示します! - さやか
はい。
準備期間が足りなかった、ということはないですか。 - 小鈴
もちろんもっともっと練習できたかもしれませんけど……
今のこの気持ちはきっと、竜胆祭でも得られないくらい熱いから!! - さやか
ですか……では、挑ませていただきます!
- 小鈴
こちらこそ!
- 小鈴
まずは今までよりも一歩大きく!
- さやか
!
そんな体に合わない動きをっ。 - 小鈴
それでもやる、さやか先輩に、すごいって思って貰うんだ……!
- コメント
視点が客席へ。
- つかさ
小鈴ちゃんってあんな動けるの!?
- 泉
あれは本来の小鈴さんの動きではないね。
ただ……。 - 沙知
なりたい自分、だよ。
未来の自分をイメージして踊るようにさせたのさ。 - コメント
視点がステージへ。
- さやか
繊細さはない、勢い任せでまだまだ粗い、
でもーーこの子の動きが人の目を奪う……! - 小鈴
くっ、このおお!
- さやか
わたしには分かる、これこそがーー。
- コメント
視点が客席へ。
- 泉
小鈴さんだけの魅力。
- コメント
泉、したり顔で頷く。流石小鈴さん。
- コメント
その隣で沙知が苦笑い。
- 沙知
とはいえ、かなり粗削りだねぃ。
- コメント
瑠璃乃はふたりともすごい、と感嘆しながら呟く。
- 瑠璃乃
流石に技術はさやかちゃんの方が上だけど……。
- コメント
ここからだろう?とばかりに沙知が笑う。
- 沙知
さて……やれるかい、小鈴。
- コメント
視点がステージへ。
- 小鈴
ついていくだけで、精一杯……!
これが本気の、さやか先輩……! - 小鈴
やっぱりいつもは、徒町に合わせてくれてたんだ……!
- さやか
ふっ……!
- 小鈴
勝たなきゃいけないのに……徒町はっ!
徒町は勝たなきゃいけないのに! - 小鈴
さやか先輩が求めてくれてるんだ、
徒町はさやか先輩の求める徒町じゃなきゃ……!! - さやか
そんなのどうでもいい!
- さやか
わたしは、そのままのあなたから学びたいものが、得たいものがあるんだ!
- 小鈴
っ!
- 小鈴
……やってやる!!
- コメント
観客席に視点が映る。
- コメント
花帆が口元を押さえて驚いている。
- 花帆
小鈴ちゃん……。
- 沙知
はっ……はは、いいなあ。
- コメント
感慨深く呟く沙知。羨むように。
- 泉
何がだい?
- 沙知
強いて言うなら……舞台の上で魅せる不完全でも熱を持った芸術……かねぃ。
本当に、良い子たちだよ。 - 泉
まるで終わったみたいな感想だね。
- コメント
泉はステージから目をそらさず呟く。彼女が一番、このステージに見入っている。
- コメント
沙知は一瞬泉に視線をやる。
- コメント
それからステージへ目を向けて、驚きに目を見開く。
- 沙知
おいおい、嘘だろう?
- コメント
ステージに視点が映る。小鈴がぐっと体を縮めたところ。
- 小鈴
沙知先輩には、これはいつかできれば良いって言われた。
でもーーそのいつかは、今にする! - 小鈴
できないかもしれない、大失敗するかもしれない、
でもーー本気でさやか先輩を上回ってやる!! - 花帆
うそ。
- 沙知
やれるのかい……!?
- 泉
魅せてくれ。
- さやか
これだ。 この無茶だ。
わたしに足りない……強い意志。 - 小鈴
徒町はさやか先輩のおかげで“何者か”にはなれた。
でもここからはひとりで、その先にもいかなきゃいけないんだーー!! - さやか
“何者か”になっても、満足しない。
できなくても、失敗しても、手を伸ばす勇気。 - さやか
そうなんですね、小鈴さん。
わたしはただ……臆病だったんだ。 - さやか
誰かの期待に応えられないこと、誰かに失望されること、失敗すること。
わたしはそれから、逃げていたんだ。 - つかさ
さやか……?
- さやか
わたしもーー一歩を踏み出す時なんだ!!
見ていて、わたしの踊りを! - コメント
小鈴が回ろうとする横で、さやかが二回転ターンをする。
- 小鈴
ふぇ……!?
- コメント
客席が映る。
- つかさ
そんな、リンク外で!
- コメント
沙知が思わず立ち上がろうとする。つかさも悲鳴じみた声。
- コメント
泉が沙知を制している。その泉は、沙知を見ることもせず食い入るようにステージを見つめたまま。
- 沙知
あぶなーーこら!
- さやか
ぁ……。
- コメント
ステージ上で、ふたりが転んでいる。
- さやか
さあ、もう一度です!!
- 小鈴
あーーはい!
もう一回です! - さやか
勇気を出すって……怖いことですね。
- 小鈴
へ?
- さやか
でも、あなたのおかげで分かった。
こんなに、楽しいことなんですね。 - さやか
わたしはあなたの隣に立っていることを、誇りに思います!
- 小鈴
あ……はい!
- コメント
客席が映る。
- コメント
五人横並びで拍手をしている。
- 花帆
あはは、すごいよふたりとも。
- 瑠璃乃
隣り合って、楽しそうだね。
- つかさ
やりたいこと、できたね。 さやか。
- 沙知
まったく……気を休ませてくれないね、後輩たちは。
- 泉
ふふ。
でも、あなたのおかげなんじゃないかな。 - 沙知
あたしじゃないさ。
あるとしたら、八重咲く蓮ノ空のおかげだよ。 - 小鈴
ありがとう……ございましたぁ……。
- さやか
礼を言うのはこちらですよ。 小鈴さん。
学ばせていただきました。 心から。 - さやか&小鈴
うふふ。
- 沙知
さて。
勝負の結果がどうとかいうのは無粋かな。 - さやか
今回は本当にありがとうございました。
勝負の結果は……そうですね。 - さやか
まあ、言うまでもなくわたしの負けですよ。
- 小鈴
そ、そんなことはっ。
- 泉
良いじゃないか。 受け取っておけば。
- 小鈴
泉ちゃん……?
- 泉
勝たなきゃいけない戦いで勝ったんだ。
あなたは自分を誇るといい。 - 小鈴
……そう、かな。
……ありがとう。 - 小鈴
初めてさやか先輩に勝ちました。 にひ。
- さやか
でも。 そうですね。
- 小鈴
ヴぁ?
- さやか
わたしはあなたの憧れでいたいから。
ほんの少しだけ、悔しいと思いました。 - 小鈴
しぇんふぁい……。
- さやか
だから小鈴さん。
これからも隣で努力させてください。 - 小鈴
あ。
- さやか
いつか一緒に二回転ができるようになりましょう。
- 小鈴
はい!!
- さやか
花帆さんと瑠璃乃さんも……見届けてくれて、ありがとうございました。
- 花帆
ううん。 良い物見れたって、ね!
- 瑠璃乃
そだね。 何よりも……。
- 瑠璃乃
ルリにとっては、さやかちゃんがすっきりした顔をしているのが、
何よりの報酬かな。 - 花帆
あはは、よっヒーロー。
- 瑠璃乃
へへへ。
- さやか
お姉ちゃんも……来てくれてありがとうね。
- つかさ
ううん。
……いいもの、見せてもらったよ。 - つかさ
さやかがまっすぐに、やりたいことを見せてくれた。
わたしから見せてって言ったわけじゃないものをね。 - さやか
うん。 わたしが見てほしかった……それだけだから。
小鈴さんに勝てなくて、悔しいんだ。 - さやか
沙知先輩も、本当にありがとうございました。
- 沙知
一応、理由を聞いておこうかな。
きみのお礼に関しては。 - さやか
……沙知先輩の言う通りだったと思ったからですよ。
- コメント
さやかが頭を下げて、面接室を立ち去ろうとしたところで足が止まる。
- コメント
扉から廊下に向けて背を向けたところで、正面に立っている沙知の姿。
- コメント
沙知の視線の先、廊下を歩むさやかと、さやかを挟むように話す花帆と瑠璃乃の立ち去る後ろ姿が映る。沙知がそれを見届けているという描写。
- 沙知
本当はあの日、あたしの大学に来ないか誘うつもりだったんだ。
- 沙知
うちのフィギュアチームがどうしても村野さやかが欲しいって聞かなくてね。
そのために蓮ノ空に戻ってきた。 - さやか&花帆&瑠璃乃
!
- 花帆
沙知センパイの大学……。
- さやか
そうだったんですね。
わたしはそこまでされるほどの選手ではないとは思うんですが……。 - 沙知
それでも村野さやかの表現力に着目したんだとさ。
- さやか
少し前なら、すぐにでも頷いていたかもしれません。
でも今はーー。 - 沙知
今は返事を聞くつもりはないよ。
いったんあたしが様子を見てくるとだけ言ってきたから。 - 沙知
どのみちこの時期のスクールアイドルは色々と考えることが多いからねぃ。
……想像していたのとは違う形でお節介を焼いてしまったが。 - さやか
……はい。 ありがとうございます。
- 沙知
余計なお世話かもしれないが、つい“先輩”になってしまった。
大学ではまだ二年生のぺーぺーだし、久々のことだったねぃ。 - 沙知
これでも「誰かのために」で身を粉にしすぎた、苦い経験のある身だ。
放ってはおけなかった、というわけさ。 - 沙知
そんなわけで方々で情報収集の旅だった。
小鈴を見つけられて良かったよ。 - 小鈴
そ、そっか……沙知先輩は、最初からさやか先輩のために……。
全て計算の上……。 - さやか
変わりませんね、そういうところは。
- 沙知
変に持ち上げるんじゃないよ、大変だったんだぞ?
- さやか
ふふ。
……改めて、お手数をおかけしました。 もう、大丈夫です。 今度こそ。 - さやか
残り半年、いちから出直します。
この子と一緒に。 - 沙知
あい分かった。
その礼、確かに受け取ろう。 - つかさ
じゃあ、わたしは帰るね。
さっちゃん、お茶でも行く? - 沙知
お、いいですねー。
- さやか
ここもなんかもう馴染んでる……。
- 花帆
あ、沙知センパイ! つかささん!
良かったら竜胆祭もしっかり見ていってくださいね!! - 沙知
ああ。
- つかさ
もちろん!
- 沙知
そうだ、竜胆祭で思い出した。
- 沙知
あの時のRunwayは、本当に素晴らしかったよ。
- さやか
はい。 もう、決してあの日の誓いそのものが間違いだとは思いません。
あの日誰かの期待に応えたいと思ったからこそ、今のわたしは。 - さやか
怖いですけど……自分の期待に応えてみせます。
- 沙知
そっか。
……じゃあもう、OGが言うことなんか、なにもないな! - さやか
……ふう。
小鈴さんには、無茶をさせてしまいましたね。 - さやか
小鈴さんに限らず、沙知先輩、泉さん……お姉ちゃんにも。
みなさんに、たくさん心配をかけて。 - さやか
勇気を、出した。 結果としてすっきりしたのは、わたしだけだけど……。
本当に、これで、良かったんだよね……。 - さやか
……。
- 綴理
星を見てるの?
- さやか
……え?
- さやか
……どうして、ここに?
- 綴理
さちが許可取ってくれたよ。
寮母さんも入っていいって。 - さやか
そうではなく!!
- 綴理
さちがさ……さやのことを心配してたんだ。
ボクだって、気にもなるよ。 - 綴理
もちろん……スクールアイドルのことは
スクールアイドルが解決するのがいいとは、ボクも思うから。 - 綴理
さちにはそう言ったんだけど……どうなった、かな?
- さやか
沙知先輩の言っていた情報収集って、あなたからだったんですね。
- 綴理
そう。
- 綴理
だから、さっきさちから聞いたこともあるけど……。
さやに、聞きたいんだ。 - 綴理
どうかな……さやの欲しいものは、手に入ったかな?
- さやか
はい。 ただ……そのために、たくさんの人を振り回してしまった。
今はそれが、少し怖い。 - さやか
誰の期待がなくとも、勇気を出して自分を貫いてみる。
やるべきことは、見えたつもりなんですが。 - 綴理
自分のしたことが、期待の反対に……失望に、なるかもって?
- さやか
っ。
- 綴理
ねえ、さや。
- 綴理
ーーわがままってそういうことだよ。
- さやか
ぁーー。
- 綴理
自分で自分の道を決めて、飛び立っていく。
ボクや、お姉ちゃんの失望が怖いなら、あの日の言葉を思い出して。 - 綴理
きみはいつでも、わがままになっていいんだって。
ボクたちのことを、考えなくていいんだって。 - 綴理
きみも……鳥籠の外へ出たんだよ。
- さやか
わたしっ……わたし。
- さやか
あなたが言ったことを心から理解するのに、三年もかかっちゃいました。