第6話『わがままon the ICE!!』
PART 1
さやか | ん……んぅ。 |
さやか | えっと、今日は朝練でしたっけ……。 |
さやか | ぁ……。 |
さやか | そっか。……週末、大会があるんだ。 |
さやか | ……そうだよね。今日こそ、行かなきゃ。 |
さやか | さあ、今日も頑張りましょう!よろしくお願いします、夕霧先輩! |
綴理 | ん。いい気合。びっくり。 |
さやか | そりゃあもう。なんだか最近、身体が軽いんです。 もっとこんな風にしたらどうか、こうやってみたらどうか。 |
さやか | やりたいこと、見せたいことが色々浮かぶといいますか。 |
綴理 | うんうん、素晴らしいスクールアイドルだね。 |
さやか | っ……。 はい、なのでもっともっと、やれることを全力でやりたいんです。 |
綴理 | じゃあ、やっていこうか。 とりあえず、さや踊ってみて。 |
さやか | えっ、わたしからですか? |
綴理 | うん。……少し、思ったんだ。ボクが毎回先にやってるから、 さやがやる時に変にボクが見えてたのかなって。 |
さやか | 夕霧先輩が見えてた……ですか。 |
綴理 | そう。ボクに合わせちゃうと、やっぱりさやが活きないことも多い。 それがさやを不必要に傷つけたかもしれない。 |
綴理 | さやとボクじゃ、身長もスタイルも違うのに。 |
さやか | 先輩先輩、傷ついてます。今すごい傷ついてます。 |
綴理 | なんで……!? |
さやか | はあ……まあ、いいです。 |
さやか | 悪気はないのは分かってますし…… 全力を出したいのは本当ですから。 |
綴理 | 待って。置いてかないで。 ボクはさやを傷つけたりなんかしたくない。 |
綴理 | さやが活きないっていうのは、死んでるって意味じゃない。 |
さやか | そこじゃないです! もう、良いから見ててください! |
さやか | ふふっ。もう…… じゃあ、いきますね。 |
綴理 | ……。 |
さやか | ふぅ……と、どうでしょう。 |
綴理 | うん、とても良いと思う。 |
さやか | 本当ですか! それは……それは、良かったです。 |
綴理 | さやの、良さが詰まってた。いいよね。 |
さやか | ……も、もう少しこう、具体的には……。 |
綴理 | ……水色。 |
さやか | 水色? |
綴理 | そう……さやは、そんな感じがする。 いいよね。 |
さやか | は、はあ……。 |
綴理 | えっと……なんというか。 さやは、頑張り屋さんで一生懸命で、いつも自分に厳しくて、それから。 |
綴理 | 正面から向き合ってくれる、まじめでまっすぐな、そういう水色。 |
さやか | まじめで、まっすぐ……。 |
さやか | ありがとう、ございます。夕霧先輩。 |
綴理 | ん。 |
さやか | あの。今日の放課後はお休みでしたよね。 |
綴理 | ん? ん。どっか行く? |
さやか | あ、いえ。 |
さやか | わたしは少し、出かけてこようと思います。 |
綴理 | ?……そう。 えっと、なんの宣言だろう。 |
さやか | 一人で帰れますか? |
綴理 | ボクなんなの。 |
花帆 | 練習場所、全部空いてないや…… このあとどうしようかなー。 |
花帆 | ……あれ。 |
花帆 | ! |
花帆 | さやかちゃーん!! |
さやか | むぎゅ! |
さやか | か、花帆さん!なんですか急に! |
花帆 | あはは、ごめんごめん。 一人で歩いてるとこ見つけたからさ。珍しいなーって。 |
さやか | そうですか? |
花帆 | うん。だいたい綴理センパイと一緒…… 綴理センパイを連れて……綴理センパイを持って? |
さやか | 一緒で大丈夫です……。 |
花帆 | そっか! じゃあ、綴理センパイと一緒なのになーって。 |
さやか | そうですね。 今日ちょうど練習がお休みだったので、ちょっと外に出るつもりなんです。 |
花帆 | え、お買い物!?美容院!?都会!? |
さやか | 都会ってなんですか。違いますよ。 |
さやか | 久しぶりに……リンクに顔を出そうかと思って。 |
花帆 | リンクって……。 |
さやか | スケートリンクです。 |
花帆 | 楽しそう!! え、ついていってもいい!? |
さやか | 花帆さんがですか? あー……んー……。 |
花帆 | 花帆は今日、練習も練習場所もなくて暇なのです……。 |
花帆 | あ、でもそっか。フィギュアスケートの練習だもんね。 遊びに行くわけじゃないし、あたしお邪魔だよね。 |
さやか | そんなことはありませんよ。 わたしもブランク明けの調整ですし、一緒に行きましょうか。 |
花帆 | え、ほんとにいいの!? |
さやか | はい。……わたしとしても、そうですね。 花帆さんが見てくれているのなら、滑りがいもありますから。 |
花帆 | えへへ。やったー! さやかちゃんが滑ってるの見るのも初めてだし、すっごく楽しみ! |
花帆 | へー!ここなんだー! |
さやか | はい。行きましょうか。 花帆さんスケート初めてなんですよね。 |
花帆 | 長野にはスケート無かったからね! |
さやか | たぶんあると思うんですけど……。 では、先に靴を借りにいきましょうか。 |
花帆 | はい先生! |
さやか | せ、先生はやめてください! |
さやか | えっと、花帆さんの靴のサイズは……。 |
花帆 | えっとねー。 |
さやか | とりあえず少しサイズの小さいものから試していきましょうか。 |
花帆 | さやかちゃんって、ずっとスケートやってるんだよね? |
さやか | そう、ですね。 かれこれもう、十年になりますか。 |
花帆 | 十年!ベテランだね! |
さやか | そんなに珍しい話じゃないですよ。 フィギュアスケーターは物心ついた時には気づいたらリンクの上だった…… なんてことだってよくあるみたいですから。 |
花帆 | へー。さやかちゃんはどうだったの? |
さやか | ……わたしの場合は、たぶん……お姉ちゃんがやってたからです。 あんまり覚えてないですけどね。 |
花帆 | あ、そっか。お姉ちゃん居るって言ってたもんねぇ。 さやかちゃんのお姉ちゃんって、なんか真面目そうな感じする! |
さやか | お姉ちゃんが真面目……ふふっ。 |
さやか | むしろ、花帆さんと似ているかもしれません。 元気で、明るくて、気づいたらとんでもないところまで行ってしまうような。 |
花帆 | さやかちゃんの中のあたしどーなってるの……? |
さやか | ごめんなさい。でもわたしとは全然似ていませんよ。 自由で、綺麗で……お姉ちゃんの演技は、みんなを夢中にする。 |
花帆 | さやかちゃん、お姉ちゃんのこと好きなんだねえ。 |
さやか | へ?な、なんですか急に! |
花帆 | お話ししてる時、凄く優しい顔してたからさ。 |
花帆 | ねえ、さやかちゃん。 |
さやか | はい? |
花帆 | ありがとね、来て良いって言ってくれて。 |
さやか | えっ?いえ、それは全然。……どうして今そんなことを? |
花帆 | や、なんだろ。ここに来るの、久しぶりなんでしょ? |
さやか | はい。 |
花帆 | 改めて、ここはさやかちゃんの大事な場所なんだなーと思ってさ。 |
花帆 | ついてきて良かったなーって思ったのと、 つれてきてくれてありがとーって。 |
さやか | ……。 |
花帆 | さやかちゃん? |
さやか | あ、いえ……。 そうですね、大事な場所……。 |
さやか | 今日来られたのは、スクールアイドルを頑張れたからです。 だから、花帆さんのおかげでもあるかもしれませんよ。 |
花帆 | へ?あたし? |
さやか | さて、どうですか。きつかったり…… 特に指先が痛かったりしたらサイズを調整してみましょう。 |
花帆 | え、あ、うん!平気平気! |
花帆 | おっとっと! |
さやか | っと。 |
花帆 | あ、ありがと! |
さやか | いえ。慣れるまでは大変ですからね。 少し待っていてください。 |
さやか | はい。準備できました。足元に気を付けて行きましょう。 ……スケート、リンクへ。 |
花帆 | さやかちゃん! |
さやか | あ、はい? |
花帆 | 楽しいスケート、教えてね! |
さやか | そうですね。楽しいスケートにしましょう。 |