第6話『わがままon the ICE!!』
PART 3
さやか | 夕霧先輩。 レッスンの前に、少しお話良いですか? |
綴理 | え、なに。こわい。 聞かない方が良さそう。 |
さやか | そんなっ。 |
綴理 | 聞くけど。 |
さやか | ……あはは。 ありがとうございます。少し、力が抜けました。 |
さやか | ごめんなさい。 |
さやか | わたしがスクールアイドルクラブに入りたいと思った理由は…… |
さやか | 夕霧先輩の技術を学びたいと思った理由は、 全部フィギュアスケートで結果を出せていないからでした。 |
綴理 | ……。 |
さやか | 夕霧先輩に、多くのことを学ばせてもらって。 わたしは本当に日々成長を実感しています。 |
さやか | でも……でもわたしは、そんな夕霧先輩にその恩を返すばかりか、 ずっとそんな不純な動機でスクールアイドルをやっていたんです。 |
綴理 | それは……知ってたよ? |
さやか | えっ? |
綴理 | 知ってた、というより分かってた? |
綴理 | スクールアイドルを知らないのに、 ボクにパフォーマンスを教えてほしいって言ってたし。 |
さやか | そ、それはそうですが。 |
綴理 | うん。えっと、じゃあ練習にしようか。 次のライブもあるしーー。 |
さやか | 夕霧先輩。 夕霧先輩のおかげで、わたしは本当に多くの成長が出来たのだと思います。 |
さやか | わたし今、すごく充実しているんです。 |
さやか | 自分の動画を見直しても、 暗い気持ちにならなくなって……初めて優勝も出来て…… |
さやか | お姉ちゃんのためにも頑張るって誓った、あの日の自分にも胸を張れる。 だから、お礼を言いたかったんです。 |
綴理 | そっか。うん、良かった。 じゃあ練習を。 |
さやか | さ、さっきから! そんなに切り上げたがらなくてもよくないですか!? |
綴理 | だって。 |
さやか | だって? |
綴理 | 今そんなことを言われても、あまり嬉しくない。 なんか、まるで、もう終わりみたいだ。 |
さやか | え、スクールアイドルは辞めませんが!? |
綴理 | えっ。 |
さやか | 辞めたりしませんよ、なんてこと言うんですか! |
綴理 | いや、だって今…… スクールアイドルを始めた理由は、って。 |
さやか | ……。 |
さやか | そう、言われると。 |
綴理 | うん。 |
さやか | ひょっとしてお別れの挨拶みたいになってましたか? |
綴理 | ボクそう言ってる。 |
さやか | ふっ……あはは。 |
さやか | ごめんなさい。 そんなつもりは全く無かったんです。 |
さやか | わたしって本当に……もう、愚か者ですね。 |
さやか | スクールアイドルとして頑張って来られたから、今のわたしがあるんです。 そして、今のわたしで完成しただなんて思ったことはありません。 |
さやか | ですからどうか、これからも宜しくお願いします。夕霧先輩。 わたし、これからも頑張りますから! |
綴理 | そっか。 |
さやか | はい、そうなんです。 |
綴理 | 分かった、変なこと言ってごめん。 じゃあ、やろうか。 |
さやか | はい! |
梢 | 綴理。急なのだけど、あなたにも確認してほしいものが…… |
梢 | あら? |
綴理 | そう。合ってる。 |
さやか | はい! こんな感じでどうでしょう! |
綴理 | ……ん。 ボクも、そのダンスは好き。 |
さやか | ありがとうございます、まだまだいけますよ! |
綴理 | 分かった……楽しいね。 |
さやか | はい! |
梢 | ……ふふ。 本当に村野さんは良い動きをするようになったわね。 |
梢 | またあとでにしましょう。 ああいう時間は、楽しいものね。 |
さやか | ふぅ……うん、良い感じ。 疲れは……あるけど。 |
さやか | でも、身体が軽い。 昔のわたしじゃ、考えられない。 |
さやか | こうやって、自分で納得できる自分になりたかった。 そのために一年以上、つらくても頑張ってきた。 |
さやか | わたしのこと、見ててね。お姉ちゃん。 |
花帆 | 良かった、まだ居たー! |
さやか | 花帆さん!?どうしてここに! |
花帆 | えへへ、迎えにきちゃった! さやかちゃんのことが心配で……。 |
さやか | ありがとう、ございます? |
さやか | でもちゃんとバスが出ているので、あまり危なくはないですよ? |
花帆 | そういうことじゃなくてね! さやかちゃんが無理して頑張ってるんじゃないかって思ったの。 |
花帆 | 今日も綴理センパイとみっちりやってたし、 あんなに練習したあと体力残ってるのかなあってさ。 |
花帆 | ほらその……おーばーわーく、とか……。 |
さやか | ふふっ。 |
花帆 | わ、笑わなくてもいいのに! |
さやか | いえ、ごめんなさい。 花帆さんを笑ったわけじゃないんです。 |
さやか | つい……嬉しくて。 |
花帆 | うっ……。 |
さやか | ご心配、痛み入ります。 |
さやか | でも大丈夫です。 こう見えて、花帆さんと違って子どもの頃から鍛えていますから。 |
花帆 | ううっ……。 ほら、タオル!! |
さやか | ありがとうございますっ。 もう終わりますから、着替えて一緒に帰りましょう。 |
さやか | わたしを迎えに来てくれた花帆さんを、 門限破りにしてしまうわけにはいきませんから。 |
花帆 | ううん。 無理のない範囲で頑張ってね!無理のない範囲で! |
さやか | そうですね。約束します。 良かったら最後の一回、見て行きますか? |
花帆 | えっ…… うん!もちろん! |
さやか | はい。では、行きますね! |
花帆 | 頑張ってー! |
花帆 | 本当に、凄いなあ……さやかちゃん。 |
さやか | もう少し、指先の表現にメリハリをつけるべき……か。 ……味も少し弱いかな。 |
さやか | あとは……。 |
さやか | こっちは少し動きに無駄があるというか。ジャンプ…… スクールアイドルの時のくせが出てる。気を付けないと。 |
さやか | もう少しじっくり……お芋もじっくり。 |
さやか | うん、良い感じ。 |
さやか | 花帆さんにああ言った手前、怪我だけはしないように。 今日から、少し柔軟の時間を増やして……。 |
さやか | 頑張らなきゃっ。 |
さやか | ……お姉ちゃん? |