第7話『センパイとコウハイ』
PART 2
花帆 | さやかちゃーん! 梢センパイも綴理センパイも、入学したばかりの時から凄かったみたい! |
さやか | 聞きました! 乙宗先輩は体育の成績も一番良かったとか。 |
さやか | 学級委員も務めていたそうですね。 皆さん乙宗先輩のことを話す時は凄く誇らしげでした。 |
花帆 | そうそう! 綴理センパイったら 入学式の時に一人だけ寝ちゃっておんぶされて教室に戻ったみたい。 |
花帆 | でもその時から、 すっごい綺麗な人が居るって言われてたって! |
さやか | ふたりとも最初からスクールアイドルとしてとても人気だったみたいで、 撫子祭も凄く盛り上がったそうですよ。 |
さやか | 去年の一年生の中でも、すごく目立つふたりだったとか。 |
花帆 | うん、ふたりともスクールアイドルクラブだったから、 ライブの時にはみんな見に来てたって。 |
花帆 | 梢センパイ、いつも綴理センパイのことを 会場まで連れてってあげてたみたい。 |
さやか | 休日はたまに近江町市場でお手伝いをしていたみたいで、 外でふたりに会えたらラッキー、みたいな願掛けのようなことまで されていたみたいです。 |
花帆 | 大人気じゃん……!! |
花帆 | よーっし、この調子でもうちょっと色々去年のこと探ってみよう! |
さやか | そうですね、逸話には事欠かないおふたりですし。 きっとすぐに色んなことが聞けますよ! |
さやか | ふう、これでだいたい一通り、話を聞くことが出来ました。 |
花帆 | おつかれさまー! やー、センパイたち凄かったねえ。 |
さやか | そうですね。それこそ、夏のライブでも凄い人数が応援に行ったとか。 乙宗先輩の水着風の衣装がとても綺麗だったそうですよ。 |
さやか | それを一番自慢していたのが綴理先輩だったらしくて、 素敵な関係だなと思いました。 |
花帆 | そうだねえ。綴理センパイが清掃ボランティア中に、 気が付いたら色んな人に囲まれてライブになっちゃってたって話も凄かったよ。 |
花帆 | 梢センパイ、最初は慌ててたけど、 なんだかんだ最後は会場整理とかしちゃったみたい。 |
さやか | それから…… 去年の冬には綴理先輩が沢山ライブをし始めたらしいですね。 |
花帆 | 梢センパイもねー、冬の時期にたくさん色んな部活の助っ人して、 みんなからすっごく頼りにされてたんだって! |
さやか | 冬の時期は他にもいろいろ、 綴理先輩が雪の中でライブをしている写真ですとかーー。 |
花帆 | こっちも梢センパイがライブをやってるやつあったよ! 雪だるまの隣で! |
さやか | 本当ですね。かわいい。 |
花帆 | ……。 |
さやか | 花帆さん? |
花帆 | あ、ごめんごめん。 いや、なんか……あれ? |
写真をスクロールする花帆。 | |
花帆 | ……なんか、思ったんだけど。 |
さやか | どうかしましたか? |
花帆 | 最初の頃はいつも一緒に居た感じしない? |
さやか | ……言われてみれば。 |
さやか | でも、ソロでやるのも、所属のユニットが違うのですからーー |
さやか | あれ、そもそもユニットっていつ決めたんでしょう。 |
花帆 | ……分かんない。分かんないけど、秋くらいに決めたのかなあ。 それからずっと、ソロっぽい? |
さやか | ふむ……。 |
花帆 | あ、梢センパイ、お疲れ様です! |
梢 | ええ。遅くなってごめんなさいね。 |
花帆 | 会議、大変でした? |
梢 | それはもう大変だったわ。 やっぱり、みんなステージの枠が欲しいから……戦いよ。 |
花帆 | た、たたかい……! |
梢 | 花帆さんも、お願いしていたことは進められたかしら。 |
花帆 | あ、はい! さやかちゃんと一緒に、記事のためのいろんな……情報収集してました! |
梢 | あらあら、頼もしいわね。楽しみだわ。 |
梢 | じゃあ、今日は遅くなってしまったし、 準備運動を終えたら軽く合わせだけしましょうか。 |
花帆 | あ、はい! |
梢 | とはいえ、簡単に終わらせるだけでもよくないし…… 撫子祭に向けて、配信をしましょう。 |
花帆 | わ、練習配信ですね! |
梢 | ええ。 いつも配信を見てくれている皆さんも、心待ちにしているはずだから。 |
梢 | スリーズブーケが撫子祭のステージに立てるということを、 ちゃんとお伝えしないとね。 |
花帆 | あ、そっか…… 立てない可能性があったんですね……! |
梢 | 全体部活会議は、要はステージの利用枠争いだったから。 |
花帆 | た、戦いのすえにもぎ取った成果……! |
梢 | ふふっ。だからいっそう、胸を張って報告しないとね。 えーっと、これをこうして。 |
スマホをとりだす | |
スマホを弄り始める梢。花帆がわたわたと手を振る。 | |
花帆 | あ、あたし! あたしがやります! 梢センパイはどうぞごゆるりと準備運動を! |
梢 | いやねえ、私だって配信くらいできるのに……。 |
花帆 | そ、そういうのは一年生がやりますから! ね!? |
梢 | ……まあ、そういうことにしておきましょうか。 |
花帆 | じゃ、はじめまーす! |
梢 | ふぅ。 ……というわけで、今日の練習配信は以上です。 |
梢 | 今度蓮ノ空女学院で行われる撫子祭では、 ちゃんと私たちスリーズブーケの出番もありますので、 どうぞ応援よろしくお願いしますね。 |
花帆 | お願いします!! きっとすっごいライブにします! 梢センパイの後輩として、一年生として、精一杯頑張りまーす! |
花帆 | じゃあ、配信切りますね。 みんな、またねー!! |
スマホを手にした花帆が、何かに気付く。 | |
花帆 | ……ん? |
花帆 | ……。 |
梢 | 花帆さん? 配信終わったの? |
梢 | それとも……ええと、故障? |
花帆 | そう簡単に故障なんてしませんよ!? |
花帆、スマホをしまって。 | |
花帆 | そうじゃなくて…… 今ちょっと気になるコメントがあって。 |
梢 | コメント? |
花帆 | 梢センパイって、去年は綴理センパイと一緒にステージに立ってたんですよね? |
少し表情を強張らせる梢。 | |
梢 | っ。 |
花帆 | もうふたりは一緒にやらないのかなーって、 そういうコメントがあってですね。 |
花帆 | 確かに梢センパイが綴理センパイと一緒にやるなら、 それはそれですっごく見てみたいなーというか……。 |
梢 | それは申し訳ないわね。 |
花帆 | えっ? |
少し目を伏せた梢。 | |
梢 | コメントをしてくれた人に申し訳ないと思ったのよ。 |
上目遣いの花帆。 | |
花帆 | えっと……それはつまり、やっぱりもうやらないっていう……? |
梢 | そうね。 もう二度と綴理とふたりでステージに立つことはないわ。 |
梢、小さく首を振って、切り替えるように微笑む。 | |
花帆 | え……、それは、どうしてですか? |
梢 | 今の私には花帆さんが居るもの。 |
梢 | あなたと一緒に、スクールアイドルとして磨きをかけるのに精いっぱいよ。 がんばりましょうね、花帆さん? |
顔を近づけての梢の圧。 | |
花帆 | わ、わー! それは、その、がんばりまーっす! |
さやか | そうですか。そんなことが。 |
花帆 | うん……。 確かにあたしも、梢センパイと一緒に頑張りたいんだけどね! |
花帆 | でも、なんというか。 さっきの梢センパイの言い方が、ちょっと気になって。 |
さやか | ……わたしも。 |
花帆 | え? |
さやか | わたしもさっき、綴理先輩と少し話したんです。 記事にするにあたって、去年の話に触れた時……。 |
花帆 | そ、そっか。 ……それで、綴理センパイはなんて言ってた? |
さやか | はぐらかされちゃいました。 |
花帆 | ……。 |
さやか | でも綴理先輩ですから、なんていうか話の誤魔化し方も下手っぴで。 だから余計に、触れられたくないんだろうなって……。 |
花帆 | 触れられたくない……か。 それはもしかしたら、梢センパイと一緒なのかも。 |
さやか | ただ……寂しそうだったんです。 乙宗先輩は、どうでしたか? |
花帆 | ……あたしも、思った。 なんか、うん。寂しそうだった。 |
さやか | もしかして……対立しているとか? |
花帆 | えっ!? |
花帆、驚いてから少し考える。 | |
花帆 | それは……それはぁ……! |
さやか | 花帆さん? |
花帆 | それはやだな!! |
花帆、立ち上がる。 | |
さやか | ちょ、ちょっと花帆さん!? |
花帆 | さやかちゃんもそう思わない!? |
さやか | それは……もちろんそうです。 実はおふたりの仲が悪いなんて、考えたくもないです。 |
花帆 | だよね! |
強く頷いたあと、何かに気付いて腕組みする花帆。 | |
花帆 | でも、うーん……直接聞くのはちょっとよくないかなあ。 |
さやか | ……それに、綴理先輩はともかく、 乙宗先輩は「どうしてそんなことを聞くの?」ってあっさり返されそうですね。 |
花帆 | ……っ、確かに! そう言われて回れ右するあたしが目に浮かぶよ! さやかちゃん、梢センパイのことよく分かってるね! |
さやか | そ、そうでしょうか。 そうですね……。 |
花帆 | うん、じゃあ……ふたりに、 お互いのことどう思ってるかって、かるーく聞いてみよう! |
さやか | それとなく探る、ということですね。 分かりました、やりましょう! |
花帆 | うん! あたしたちの勝手な想像かもしれないし!! |
花帆とさやか、顔を見合わせて頷く。 |