幕間

『蓮ノ大三角☆』

さって、次は移動教室、っと。
音楽の授業だけは、まあまあ好きっかなー。
あ、慈。 ちょうどよかった。
んー?
きょうの放課後、練習が終わったら部室に残ってくれないかしら。
え、いいけど……?
それじゃあ、また後でね。
う、うん。
……え、なに? 呼び出し?
綴理
きょうは風が柔らかいから、雲ものんびりさんだね。
夜は星たちも、きっとご機嫌。
綴理
夜……うーん……暗い……暗い暗い……消灯……うーん……お布団……。
なんだかボクも、ねむくなってきちゃった。
綴理、ちょっといいかしら。
綴理
ん。 こずもお昼寝?
部活が終わった後、話があるから。
綴理
え……?
それだけ。 じゃあ、よろしくね。
綴理
……ボク、またなにかした……?
綴理
あ、風、ちょっと冷たくなってきた……かも……。
ふたりとも、居残ってくれて、ありがとうね。
……でも、どうしてそんなに遠くに座っているの?
いや……。
綴理
お説教、心当たりがない……。
説教? 私があなたたちに? どうして?
そりゃ、あんな呼び出し方されたら! そう思うよ!
ええっ……。
普通に声をかけたつもりだったけれど……。
いいや! 完全に生活指導の先生だったね!
綴理
よく似てたよ。
……あなたたち、
そんなにしょっちゅう生活指導されているの?
いえ、それはいいわ。 きょうは少し、
あなたたちにとっても愉快ではない話をしようと思って……。
綴理
やっぱりお説教なんだ……。
ここに、2枚の紙があるわ。
……私と綴理の、退部届……!? ……ハッ!
素行不良の部員を追い出して、クリーンな部を作るつもり!?
綴理
ごめんなさい。 明日からまじめに授業を聞きます。
綴理
教科書ぜんぶ忘れてきても、まあいっか、
って思ったりせず、寮に取りにいきます。
それはぜひそうするべきだと思うけれど……。
というか、違うの、誤解しないで。
きょう話そうと思ったことはねーー。
綴理
これ、3人での約束……。
……全国大会の出場辞退と、
これ以上関わらないようにしようっていう、不干渉条約。
北陸大会を突破したその後、3人で決めたこと。
文面を慈が作って、私たちがみんなでサインをした。
去年は、そうすることがいちばんいいと、信じていた。
慈が怪我をして、沙知先輩がいなくなって。
私は部を守りたくて、地方大会の決勝で、綴理を傷つけた。
綴理
……。
何度も意見を衝突させて、
信念とは決して呼べないようなエゴをぶつけ合った。
これは私たちが未熟だった証拠、
さしずめ……若木証明書。
……一度、ちゃんと話をしたいと思って。
ふたりがまだ、私になにか言い足りないことがあるのなら、
それもすべて受け止めるつもり。
私がもう少し、いろいろなことが上手に、できていたら……。
上手にできてたら、私は怪我しなかった、って?
1年間、くすぶった時間を過ごすこともなかった?
それは。
梢は、傲慢だよね。
綴理
めぐ。
私が怪我をしたのは、ただ私が怪我をしたから。
踊れなくなったのも、私が踊れなかったから。
それだけ。 そこに意味なんてない。
なのに、ふたりはいつまでも私のリハビリに協力して、
自分の練習時間も、それ以外の時間も削ろうとした。
だから私はスクールアイドルを辞めることにした。
それは、私が決めたこと。
見えない?
ここに3人のサインが書いてあるのが。
今の梢は部長かもしれないけど、私たちにとってはあの頃の梢も今の梢も、
ただ周りの人より少しだけしっかりしてるだけの同級生だよ。
それなのに、なんでもかんでも、
自分で背負い込もうとしないでよ。 ムカつく。
……慈。
綴理
ボクには、めぐみたいに言う資格はないと思う。
だって、こずが無理をしてたのは、ボクのせいだったから。
綴理
去年の今頃を思い出すと、今でも体が沈んでいく。
海の中で、だんだん光が見えなくなるみたいに。
綴理
それが後悔という名前なら、ボクはずっと後悔してるよ。
もっとこずと、ちゃんと話せればよかった。 もちろん、めぐとも。
ん。
綴理
そしたら今はボクが部長を代わってあげられてたかも。
それはムリだと思うけど……!
…………ふたりとも。
はい、これで辛気臭い話は終わり! 3人とも若かったし、
ヤなこと続いちゃってたよね! 以上! 文句ある!?
でも……。
なんかヤなの!
だってこれからもことあるごとに『あの頃はごめんね……』
って言われそうじゃん!?
今の私は幸せなんだから、蒸し返さなくていーの!
綴理
こずはもうちょっと軽い人を見習った方が良いと思う。
雲とか。
人間関係も、勉強も、スクールアイドルも、梢にとっては同じなんだよね。
できないことがあるなら、できるようになるまでやる。
できないのは自分の努力が足りないからだ、って。
そ、それは……なんだって、そういうものでしょう?
私が梢だったら、1時間で心折れてる。
綴理
ボクなら5秒。
でも……私も、嫌なのよ。
私の力が及ばなかったばかりに、誰かが悲しい顔をするのは。
私は、できるなら、
音楽のように完璧なものになりたい。
五線譜の上、たったひとつでも構成要素が欠けていたら、
それはもう完璧ではなくなってしまうの。
綴理、梢のほっぺをひっぱっちゃえ。
綴理
むにー。
ひょっほ!?(ちょっと!?)
これで完璧じゃなくなったね!
理想から遠ざかったよ!
もう! 人がせっかく真面目に話しているのに!
……まったく……ふふ。
……でも、ありがとう。
少し、心が軽くなったわ。
綴理
少しだけなんだ。
しょうがない。
梢は結局、背負い込むのも好きなんだから。
そ、そういうわけじゃ……ないと、思うわ。
綴理
それじゃあ、この若木証明書? ってやつ。
どうしよう。
んー、ビリビリに破いて捨てちゃう?
残しておいたら、梢が自室に飾って『戒めよ』とか言いそうだし。
で、でも、過去に犯した過ちに向き合うのは、
成長のために必要なことで……。
ほんとにやるつもりだったの!?
自罰的も行き過ぎるとそういう趣味の人みたいなんだけど!
別にやりたくてやっているわけじゃないわ!
綴理
ん。 とりあえず、持って帰ろうか。
周りになんにもない学校だから、星だけはきれいなんだよねえ。
私は好きよ。 この帰り道。
春夏秋冬、いろんな星が見られて。
綴理
あれ? そういえば紙って2枚あったよね?
もう1枚は? ボクの想像にしかいなかった?
……忘れてたわけじゃないわ。
見せるタイミングがなくて。
ラブライブ!のエントリーシート!
綴理
去年も見たやつだ。
もちろん、去年とは違うわ。
去年出場をしたのは、私と綴理だけだったけれど。
今年は6人、3ユニット!
綴理
DOLLCHESTRAで出れるんだ。
そういうこと。
本当にやりたかったことが、できるようになるわ。
いえ、もちろん、綴理と出場したラブライブ!も、
あれはあれで勉強になったけれど……そうじゃなくてね。
綴理
なんかその言い方、さやみたい。
みらくらぱーく!で、世界を塗り替える日が来たかー!
私たちスリーズブーケならきっと、最高のスクールアイドルに手が届く。
そう、あの日に夢見たような。
誰が勝っても負けても、恨みっこなしだからね。
ええ、もちろん。
綴理
でも、ボクとさやがいちばんだよ。
それって勝利宣言かー!? この天才がー!
うふふっ。
あなたたちって、仲がいいんだか悪いんだか……。
……でも、きっとかけがえのない関係なのよね。
だって、誰が欠けても成り立たない。 『蓮ノ大三角』ですもの。
綴理
蓮ノ大三角。
綴理ー?
綴理
いいこと考えた。
綴理
星を折ろう。
梢&慈
花帆
きょうもがんばりましょー!
瑠璃乃
じんこーみつどが低い! 居心地ヨシ!
さやか
おはようございます。
きょうもよろしくお願いします。
花帆
あれ? なんですか、この折り紙のお星さま。
瑠璃乃
ほんとだー。 昨日はなかったよね?
綴理
それは、もともと若木だった。
でも今は、お星さまなんだよ。
瑠璃乃
さやかちゃん、翻訳ぷりーず!
さやか
えっ、すみません、わかりません!
綴理
そして名を、蓮ノ大三角と言う。
花帆
星1個だけなのに!?
……なんか、楽しそうだけど。
いいんじゃないかしら。 あの頃の想い出が星になるなんて。
破くよりも、よっぽどいいわ。
……まっ、そーかもね。
ええ、それじゃあ……みんな!
きょうも練習、がんばりましょうね!
花帆&さやか&綴理&瑠璃乃&慈
はーい!