第13話『追いついたよ』
PART 1
梢 | こほん。 ……それでは、改めまして。 |
ぴりっとした緊張感。結果発表前。 | |
花帆&さやか&綴理&瑠璃乃&慈 | ーーっ。 |
梢 | ラブライブ!地区予選ーー全ユニット突破しました!! |
諸手を上げて喜ぶ花帆と瑠璃乃。 | |
花帆&瑠璃乃 | やったー!!! |
慈 | よっし! |
安堵した様子のさやか。 | |
さやか | よ、良かったです……! |
花帆 | なんだかすっごく気持ちいいね! 合格発表みたい! |
さやか | 高校の、ということですか? |
頷くさやかも力が抜けていて、楽しそうに話している。 | |
さやか | 確かに自分たちのパフォーマンスに対する評価が下される、 という意味では、間違ってはいないかもしれませんね。 |
慈 | やめろやめろ! せっかくの楽しい気分を、 テストとか受験とか苦々しい記憶に引き戻すんじゃなーいー! |
瑠璃乃のテンション感も、やれやれといった感じながら明るめ。 | |
瑠璃乃 | ふつうそんなに苦々しい記憶ばかりじゃないんだよ、めぐちゃん……。 |
かしましい四人の後ろで、綴理が鼻歌を歌っている。 | |
綴理 | ~~♪ |
梢 | ご機嫌ね、綴理。 |
綴理 | こずも。 |
梢 | それはもちろん。 でも、あなたにはなにか、別にご機嫌の理由がありそうね? |
綴理、自分の足元を指さす。 | |
綴理 | まあね。 ……ここ。 |
梢が綴理の隣に立って振り返ると、ちょうど四人がわいきゃいやっているのが一番よく見えるポジション。 | |
梢 | ? |
慈 | 学力テストなんて人類の敵でしょ!? |
花帆 | じゃあそれを作ってる人は人類の敵……? |
瑠璃乃 | さやかちゃん、これ何の話? |
さやか | わたしに聞かないでくださいよ! |
綴理 | ……良い景色。 |
梢 | みんな楽しそうだから? |
綴理 | ラブライブ!で勝つことも、大事だけど。 |
綴理 | それが大事なのは、スクールアイドルクラブが誰も欠けずに、 スクールアイドルクラブで居られるからかな。 |
綴理は何の気なしに気持ちを呟く。梢は去年無理やり勝とうとしたことを思い出す。 | |
梢 | 去年とは、違うものね。 あなたの機嫌が良いのも、分かる気がしてきたわ。 |
梢 | ねえ、綴理。 竜胆祭では、 沙知先輩もなんだかんだ色々と手伝ってくれたように思うけれどーー。 |
綴理、被せるように。 | |
綴理 | 生徒会長は、関係ないかな。 あれはさやが頑張ってくれたんだ。 ボクも、さやが誇らしい。 |
梢 | ……そうね。 |
綴理、そのままさやかたちの方に突っ込んでいく。 | |
綴理 | どーん。 |
さやか | きゃっ、っ、綴理先輩!? |
後ろからさやかにどんとくっつく綴理。 | |
みんなの笑い声が聞こえてきて、〆。 | |
花帆&さやか&梢&綴理&瑠璃乃&慈 | あはははっ! |
梢が机で書類を纏めている。 | |
花帆がマグにお茶を入れてテーブルに置く。 | |
花帆 | おつかれさまです、梢センパイ。 きょうは忙しそうですねぇ。 |
梢 | また学校で新しいイベントがあるのよ。 |
梢 | スクールアイドルクラブも、参加表明だけはしておかないと、と思って。 何をするかはともかくとしても、ね。 |
花帆 | 新しいイベント? |
そこにさやかが入ってくる。 | |
さやか | オープンキャンパスですよ、花帆さん。 |
花帆 | あれ? そんなの去年あったっけ? |
さやか | 今年から、学校説明会がオープンキャンパスに変わるんです。 |
さやか | 蓮ノ空を目指す中学生に、単に説明会を開くだけでなく、 学校の楽しさを経験してもらおうというイベントだそうで。 |
花帆 | へー! 学校の楽しさを伝えるって、素敵ですね! |
花帆 | スクールアイドルクラブでも、ぜひなにかやりましょうよ! |
楽しそうだと目を輝かせる花帆にさやかは笑いかけ、それから梢に書類を手渡す。 | |
さやか | はい、なので……梢先輩。 こちら、必要書類のリストです。 |
梢 | あら……ありがとう、さやかさん。 こういうのは私がやることなのに……助かるわ。 |
さやか | いえ。 わたしも、一度梢先輩の立場を経験して、大変さが分かりましたから。 |
さやか | やり方を知ったものもありますし、これからはお手伝いさせてください。 |
花帆 | おお……。 |
そこに瑠璃乃と慈が入ってくる。 | |
瑠璃乃 | ぐぉー……つかれたー……。 |
慈 | 梢ー、地方予選用の提出物って、 みらくらぱーく!の分もやってくれてたりするー? |
梢 | あなたもやってないの……? |
梢 | まだ綴理もやってないらしいから、 DOLLCHESTRAとみらくらぱーく!の分も私が受け持つわ。 |
さやか | じゃあ、わたしがやりますよ。 DOLLCHESTRAの分はもう終えましたから、やり方は分かっています。 |
さやか | 梢先輩はお忙しいでしょうし。 |
梢&慈 | おお……。 |
そこで綴理が入ってくる。 | |
綴理 | さや、いる? |
さやか、笑顔で振り向く。 | |
さやか | はい、おります! |
綴理 | さっき、れいかさんから連絡来たけど。 |
さやか | あっ、はい。 あとでお話ししようと思ってたんですけど、 また綴理先輩と一緒に、近江町市場に来て欲しいってお願いされていて。 |
綴理 | おー。 いいね、いつ? |
さやか | 今週のどこかで、ということですり合わせしてくれるそうなので、 綴理先輩に聞いてからと思っていました。 |
綴理 | ん、わかった。 今日でもいいよ。 |
スマホを弄り始めるさやか。れいかさんに連絡しているイメージ。 | |
さやか | きょっ、っ……わ、分かりました。 じゃあそうしましょう! |
梢 | ……その調整も、さやかさんがやったの? |
顔を上げるさやか。 | |
さやか | へ? あ、はい。 やったというほどのことをしたわけではありませんが。 |
瑠璃乃 | さやかちゃん、なんかつよくない? |
さやか | つよいとは……? でも、そうですね。 竜胆祭のステージで、少し分かった気がするんです。 自分の気持ちが。 |
さやか | 誰かの期待に応えたい。 きっとそれが、 |
さやか | スクールアイドルでもフィギュアスケーターでも変わらない、 わたしがやりたいことなんだって。 |
瑠璃乃 | おおぅ。 |
慈、すすすっと綴理にすり寄る。 | |
慈 | ちょっとちょっと、どうしちゃったんですか、お宅のさやかちゃん。 |
綴理 | ? 誇らしい。 |
慈 | いや誇らしいったって、この前からちょっと凄すぎますわよ奥さん。 |
慈 | まずい、さやかちゃんが6人いれば 良いんじゃないかなとか言われないようにしないと。 |
綴理 | さやが6人……ダメ? |
慈 | なにがいけないの? みたいな顔! |
慈 | そしたら蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブは さやかちゃん6人グループだからね! |
綴理 | ! |
と、スマホを弄っていたさやかが顔を上げて、綴理の方へ声をかける。 | |
さやか | 綴理先輩! 今日で良いそうです! |
ぼうっと突っ立っている綴理。 | |
綴理 | さや6人は良い。 でもボク0人はダメ……。 |
さやか | 綴理せんぱーい? 置いていっちゃいますよ? |
隣に立つ人に焦がれる綴理にとって、自分が置いていくことも、置いていかれることも地雷。ましてや沙知に置いていかれた経験上、ユニットを組んでいるさやかに置いていかれるなど到底看過できない話。 | |
綴理 | 置いて、いかれる……!? そ、それはだめ! |
綴理、さやかに、ひしっとしがみつく。 | |
さやか | わぁっ。 な、なんですかもう。 行きましょう? |
綴理 | う、うん。 |
やばい、と焦る感じの顔をした綴理で〆。 | |
綴理 | 置いていかれるのは、だめだ。 こうなったら、ボクも何かーー! |
翌日の、綴理の教室。どよめく教室内で、上がっている手。 | |
綴理 | やります。 |
綴理 | ボクが、オープンキャンパスの実行委員、やります。 |
全員集合。 | |
花帆&さやか&梢&瑠璃乃&慈 | え~~~!? |
梢 | 綴理が……。 |
慈 | 実行委員~!? |
綴理 | そう。 意外でしょ。 |
梢 | どうして自慢げなのよ。 |
花帆 | えっと、実行委員ってどんなことをやるんですか? |
綴理 | 今日は座ってたよ。 |
梢 | 最初の集まりでしょうからね……。 |
瑠璃乃 | 綴理先輩綴理先輩、実行委員で何やろうと思ってる感じですか! |
綴理 | すごいことかな。 |
瑠璃乃 | お、おおー? 胸に秘めた野望、みたいな感じですかねそれは。 |
綴理 | ? 言ったよ。 |
黒板に自己紹介と書いてある。 | |
綴理 | 夕霧 綴理です。 すごいことをします。 おわり。 |
戻ってきて | |
花帆&さやか&梢&瑠璃乃&慈 | ……。 |
梢 | 大丈夫かしら。 |
慈 | あのー、それとスクールアイドルクラブの活動、兼任することになるけど。 それは綴理的には平気なの? |
綴理 | 頑張るよ。 |
我慢できなくなったさやかが進み出る。 | |
さやか | あの、綴理先輩っ。 |
綴理 | ? |
きらきらした目で頼られようとするさやか。 | |
さやか | もし大変そうなら、わたしがお手伝いしますよ! |
綴理、しばらく葛藤。 | |
綴理 | …………………………ひとりで大丈夫。 |
露骨にショックを受けるさやか。隣の慈に目をやる。 | |
さやか | あれ!? …………そんな。 |
さやか | ……何もする気が起きなくなってしまった時は、 どうすればいいんでしょうか。 |
慈 | えっ……るりちゃんはよくダンボールに入ってるけど……。 |
よろよろとダンボールに近づくさやか。 | |
さやか | じゃあそうします……。 |
瑠璃乃 | 入ってまーす。 |
さやか | ダンボールさんにも拒絶された……。 |
梢 | なにをしているのよ……。 |
慈の視線が綴理に向く。 | |
慈 | まあ、なにをしてるっていうと。 |
目をきらきらさせながら、ふにゃふにゃ拳を突き上げて気合を入れている綴理を見る。 | |
綴理 | さやが6人……ボクも、6人。 やるぞー。 |
慈 | こっちもこっちで、よくオープンキャンパスの実行委員になったなあ。 綴理ってば、ほんとに分かってるのかなぁ? |
梢 | というと? |
慈 | オープンキャンパス実行委員の上にあるのは何でしょーか? |
梢 | ……生徒会。 沙知先輩ね。 |
慈 | 最近の綴理、また沙知先輩とギスってたし? 少なくとも直接会わせるのは怖いかも。 |
梢 | いちおう、ふたりが顔を合わせる機会はほとんどないはずよ。 |
梢 | 忙しい生徒会が直接は携われないからこそ、 イベントの実行委員を組織したわけだし。 |
目を閉じる梢と、ふんすと腕組みする慈で〆。 | |
慈 | ま、念のため見守っとこーよ。 |
梢 | そう、ね。 |