第13話『追いついたよ』
PART 2
翌日のイメージ。実行委員が集まっている、ざわざわとした会場。 | |
遅々として進まない会議。どよどよとした、ちょっと気落ちしたざわめき。 | |
綴理 | オープンキャンパスの会議って、進まないんだね。 |
えな | え、あ。 そうですね! あたしも実行委員は初めてなので、他の委員がどうかは分からないですけど! |
えな | 今年からのイベントですし、 学校のことを知ってもらうってけっこう難しいのかもしれませんね! |
綴理 | この学校のことを知ってもらう、か。 |
えな | 綴理先輩? |
綴理 | えな。 キミからさやに伝えてほしい。 ボクは今から、すごいことをするって。 |
綴理が立ちあがる。 | |
えな | ん? はい。 綴理先輩、なにをーー。 |
ざわざわざわざわ。なんだろう的な感じ。 | |
綴理 | みんな聞いて。 |
綴理 | ーーボクの歌を。 |
えな | ここで!? |
さやかがクラスメイトと机をくっつけてお弁当を食べている。 | |
さやか | えっ、綴理先輩が? |
えな | そー! すっごいの。 実行委員の集まりの時にね。 |
えな | こうした方が良いんじゃない? ってさらっと色々アドバイスしてくれて。 |
えな | 歌で。 |
さやか | 綴理先輩、オープンキャンパスの経験なんて無かったはずですけど…… ん? 今、なんか変なこと言いませんでした? 歌? |
えな | でもっ大活躍! ほんとに! |
ちょっと寂しそうながら微笑むさやか。 | |
さやか | そ、そうですか。 |
えな | あれ? あんまり嬉しそうじゃないね。 綴理先輩の話なのに。 |
さやか | いえ。 綴理先輩が頑張れているなら、なによりなんですけど。 |
えな | お母さんかなにか……? |
さやか | なんだか最近少し、避けられているような気がして。 朝の着替えも手伝わなくて良いと……。 |
えな | 朝の着替え手伝ってる方があれじゃない? えー、なんだろー…… 綴理先輩が、さやかちゃんのことをその……もう……。 |
さやか | ああ、それはないですよ。 嫌われたとか愛想を尽かされたとかではないです。 |
けろっというさやかだが、続く言葉で少し恥ずかしくなってくる。 | |
さやか | これは単にわたしがその……寂しい、だけです。 |
さやか | こういう風に言うと物凄く恥ずかしいですし、お世話してる側の わたしがそういう気持ちになるのはまことに遺憾なのですが。 |
えな | お、おー。 あいや、それはそれが一番なんだけど。 どうして言い切れるの? |
自分でも言語化していなかった感覚だから、考えながら話している。でも、根底には綴理への信頼がある。頬杖をつきながら思いを馳せるさやか。 | |
さやか | どうして、ですか。 そうですね……信じているから、でしょうか。 約束したこととか、一緒に練習した時間とか、あげるときりがないですけど。 |
さやか | なのでまあ。 綴理先輩は何があってわたしを避けているのかな、と。 理由が分からなくて、それが目下の悩みなんですよねー……。 |
梢が書類をぱらぱら見ながら目を丸くしている。 | |
梢 | これ、本当に綴理が考えたの? |
綴理 | ボクの自信を削らないでよ。 |
梢 | ごめんなさい。 でも、なんというか、あまりにちゃんとしててーー。 |
綴理 | ボクの記憶が本当かどうかなんて、ボクが一番疑ってる。 |
梢 | 削れたのは記憶力の自信だったのね……。 じゃなくて、とってもよくできていると思うわ。 |
書類に目を通しながら。 | |
梢 | 発想は綴理らしい素敵なものだし、 ちゃんと書類にもまとめられていて、正直驚きよ。 |
梢 | イベント企画も、当日に行うレクリエーションも、 うん、いいんじゃないかしら。 |
梢 | これならきっと来てくれた人も喜んでくれるわ。 |
綴理 | ん、頑張った。 みんなに手伝ってはもらったけど。 |
梢 | みんな? |
綴理 | そう。 実行委員の人たち、みんな優しい。 |
まとまった書類を眺める梢。 | |
梢 | ……。 |
梢 | 綴理、皆が優しいのはその通りだと思うわ。 でもね、それだけじゃなくて。 あなたにはきっと人望があるのよ。 |
綴理 | ? |
梢 | こんなに素敵な企画をたくさん思いつくんだもの。 |
梢 | 慣れないことにも本気で取り組んでいるのが、 他の人にもちゃんと伝わっているんだわ。 |
梢 | だから皆が、あなたを支えてくれるのよ。 |
梢が優しく言って、綴理がわずかに自信を抱く。 | |
綴理 | うまく、やれてる? |
梢 | これ以上ないほどにね。 私も少し、ほっとしたわ。 |
綴理がひとり歩いている。 | |
綴理 | ふう。 放課後も会議増えるのか……、ふぅ……疲れたな。 |
綴理 | でもけっこう、やれてるかな。 どうかな。 頑張れてる気もするけど、もっと頑張れる気もする。 なら、もっと……ん? |
慈が校門に寄りかかって待っている。 | |
慈が笑って手を上げる。 | |
慈 | やっほ。 |
慈と綴理がふたりで歩いている。 | |
慈 | あのさ、私のせい、だったりする? |
綴理 | なにが? |
慈 | やー、綴理が今バタバタ頑張ってるのって、 私が余計なこと言っちゃったせいかなーって……。 |
慈 | ほら、さやかちゃんが6人いればそれでいいって言ったじゃん? |
綴理、ぴくっと反応する。慈は前を向いているので気付かない。 | |
綴理 | うっ。 |
慈 | それで、さやかちゃんに負けないようにしないとー! って思わせちゃったかなーって、めぐ思うゆえにめぐあり。 |
慈 | ……なんて言ってみたり。 私の気にしすぎかな? |
慈の視線を受けて、だんだん表情が渋くなる綴理。 | |
綴理 | ……。 ……。 ……。 ……はいそうです。 |
慈 | 綴理の正直なとこ、好きだよ。 |
慈 | なんだか、ごめんね。 綴理にもそういう気持ちがあったのは、ちょっと意外でさ。 |
綴理 | 負けたくない、じゃないんだ。 |
慈 | ん? |
綴理 | さやは、約束してくれたんだ。 ボクの隣に立ってくれる……って。 でも。 |
綴理 | さやはもっと前に進んで……ボクの隣どころか、もっと遠くに。 今はさやの背中が、小さい。 |
慈 | ……私はそんなことないと思うし、さやかちゃんも思ってないだろうけど。 でも、なるほど。 それで実行委員を始めたわけだ。 |
綴理 | そうだね。 こんな気持ちで、 未来の後輩のための仕事をやっていいのかって言われると、ボクはもう……。 |
綴理 | ……つつかれれば丸まるしかないダンゴムシだ。 |
綴理 | ころん。 |
ちらっと慈は綴理を見る。丸まって凹んだ様子の綴理に、慈は笑いかける。 | |
慈 | で、でも、綴理が思い詰めてる割には評判良いじゃん。 |
慈 | 楽しいアイディアを思いついて、おかげでみんなのやる気も出て。 事務的なとこはちょこちょこ失敗するけど、それも可愛い。 |
綴理 | めぐの話? |
顔を上げて、素でそういうことを言う綴理に対して、慈はジト目。 | |
慈 | キミの話だよ。 |
慈 | 失礼しちゃうな。 私はもっとメリハリ付けて可愛いんだから。 ……って、私の話は良いんだよ。 とにかく、綴理はうまくやれてるって話! |
慈 | たとえ最初の理由が不純なやつだったとしても、 うまくやれてるんだから胸張って良いよって言いたいの! |
綴理 | あ、ありがとう。 めぐ、優しい。 |
ふんす、と腕組みする慈。照れ隠し。 | |
慈 | 私はいつも優しい。 |
綴理 | めぐ、珍しく素直に優しい。 |
慈 | そういうとこだけ具体的にするなー! |
綴理 | でも、めぐの言う通りかも。 |
慈が腕を組んだまま、ちらっと綴理に目をやる。 | |
慈 | ……なにが? |
綴理 | 始めた理由は、ボクが焦ってたからだけど。 うまくやれてるかも、とも、思うんだ。 |
綴理 | これから蓮ノ空を目指す子たちに、この学校の魅力を伝える。 それがオープンキャンパス実行委員の仕事なんだって。 |
綴理 | だったらそれはもう……ボクにとっては、スクールアイドルと同じ。 ボクがスクールアイドルとしてやりたいことだ。 |
慈 | スクールアイドルクラブとしての活動じゃなくても? |
綴理 | うん。 スクールアイドルクラブじゃなくても、スクールアイドル。 みんなは、どう思うか分かんないけど。 |
慈 | ……ふーん。 ま、ちゃんと出来てる裏側には、綴理なりの気持ちがあったわけだ。 |
慈 | 取り組みはばっちり成功しそうだし。 |
慈 | あとはさやかちゃんが「やっぱり綴理先輩がサイキョーですぅ!」 とか言えば綴理の動機もふくめて全部解決か! |
綴理 | さやはそこまで変じゃないよ? それに、褒められたいわけじゃないし……。 |
慈 | うるさいな! 綴理に足りないのは自信でしょうが! |
綴理 | めぐ。 |
慈 | なに! |
綴理 | 心配してくれてありがとう。 |
慈、目逸らし。 | |
慈 | ……綴理の、いっつも見抜いた風なセリフを言うとこは、きらいだなー。 |
綴理 | えっ………………きらい…………? |
慈 | いちいちショック受けるんじゃないよ! ただの照れ隠しだから! 説明させるな! |