第13話『追いついたよ』
PART 3
さきの綴理慈に加え、梢が並んで湯舟に浸かっている。慈からおおよその話を聞いたイメージ。部室での心配している描写があるので、共有した形。 | |
梢 | ……なるほど。 綴理が実行委員になった理由は分かりました。 |
軽く言う慈。ただ、沙知先輩絡みの話をしようとしているので梢に居てほしいという判断でもある。 | |
慈 | 一応、梢にも話しておこうと思ったのと、それなら3人でいいじゃんって。 |
梢 | 私は綴理が持ってきたアイディアを見て、 あまり心配しすぎるのもよくないと反省したところなのだけれど。 |
綴理 | ひょっとしてボク、ふたりに心配されてたの? |
梢、目を閉じて呟く。情報共有がされたことを示す。 | |
慈 | まーねー。 ちゃんと話してくれたからほっとしてるけど。 |
梢 | ……さやかさんに置いていかれるかも、ね。 |
梢 | いえ、それで状況を変えるために頑張ろうという姿勢は、 素敵なことだと思うわ。 |
ちょっと言いづらそうに慈が問う。 | |
慈 | それで、さ。 |
慈 | 綴理が実行委員としてやりたいことは分かったけど、 それは実行委員になってから思いついたことでしょ? |
綴理の知らない情報、沙知のことを知っているからであり、またそれを今から伝えようとしているから。 | |
慈 | そもそも実行委員やりたいですーって言ったのは、 たまたまタイミングが良かったから? |
綴理 | ごめんなさい。 そうです。 |
梢は頷き、綴理は小首を傾げる。 | |
慈 | 謝る必要はないんだけど。 ……でも綴理は分かってるのかなって、私たちは気にしてたんだ。 |
綴理、少し目を見張る。 | |
梢 | この企画、生徒会主導なのよ。 学校説明会をオープンキャンパスにしたのは、沙知先輩。 |
綴理 | そっか。 |
慈 | 竜胆祭のとき、綴理ってば沙知先輩のやったことに……その。 微妙な顔というか。 こう、ピキっとしてたじゃん? |
慈 | だから、沙知先輩の下で頑張ることになるのは、不本意かなーみたいな。 |
綴理 | ……ありがと、めぐ。 こず。 |
綴理 | ボクは……嫌い、なんだと思う。 生徒会長……ボクを置いていった人のことは。 |
綴理 | ……でも、それとボクのやりたいことに変わりはないから。 |
ほっとした様子の慈に、綴理は続ける。 | |
慈 | そ。 |
綴理 | でも……めぐこそ、どうなの? |
慈 | 私? |
綴理 | 生徒会長と話すの、平気そうだから。 |
慈 | 平気……平気かあ……。 なんていうか、私は綴理と違って、 今になってどうこうってのはもう、あんまりないんだよね。 |
慈 | 私にはるりちゃんがいるし、そのおかげで踊れるようにもなったし。 |
慈 | それにほら。 沙知先輩が辞めたのって、私の怪我の直後だったでしょ? |
慈 | その時、死ぬほどキレたからさ。 私はもう吹っ切れたというか。 |
綴理 | そっか。 ……こずは? |
梢 | 私は……あの時沙知先輩が説明したことで少し納得できてしまったから。 |
梢 | 『生徒の自由を守るために生徒会長にならなければならない。』 |
梢 | 『それは理事長の孫である自分にしかできない。』 そしてーー。 |
梢 | 『この学校では、生徒会長は他の部活に入れない。』 『だからスクールアイドルクラブをやめなきゃいけない。』 |
若干憮然と慈が言う。昔のイライラ感を少し思い出した感覚 | |
慈 | ……うん、そんな話だったね。 |
梢 | もちろん寂しかったけれど。 あの人の立場もわかってしまった。 |
梢 | それに去年は私自身も、沙知先輩を責められる立場ではなかったし……。 だから割り切れているつもりよ。 |
口まで湯舟に使ってぷくぷくやりだす綴理。本人的には抵抗の意志。 | |
綴理 | そっか。 すごいね。 ボクはたぶん、むりだ。 |
梢 | ……ねえ、綴理。 私が割り切れたのは、あなたのおかげでもあるのよ? |
綴理 | ボクの? |
梢 | 正確には、あなたと、花帆さんと、さやかさん。 みんなのおかげで、私は前に進むことが出来たと思うの。 |
梢 | 慈にとって、瑠璃乃さんが居ることが支えになっているように。 だから私だけが凄いなんてことは、無いわ。 |
はっきり拒絶というか、分かりたくもないくらいのバランス。 | |
綴理 | ボクにも割り切れる、ってこと? ……ごめん、それは分かんない。 |
どうにかして綴理の気持ちも溶かせないものかと悩む梢と、そもそも前むきになれない綴理の間で沈黙。慈が手を打つ。 | |
梢 | ……綴理。 |
慈 | ……ま! 私は綴理が、沙知先輩の手のひらの上なんていやだー! ってならなくて、安心したよ。 |
慈 | オープンキャンパスを成功させるのは、綴理自身がやりたいから。 それで十分。 |
綴理 | ん。 |
慈 | よーっし。 だったら、今回の件は私が焚きつけたみたいなもんだしーー。 |
慈 | 全力で綴理に協力してあげようじゃん! ね、梢! |
梢 | ……そうね。 未来の後輩のためにスクールアイドルとして頑張りたい。 そういうことなら、私だって他人事ではないもの。 頑張りましょう。 |
綴理 | ありがと、ふたりとも。 |
慈 | というわけで! ラブライブ!地方予選の前に、 オープンキャンパスをスクールアイドルクラブが支配するよ! |
瑠璃乃 | 支配ときましたかー。 |
綴理 | ラブライブ!の準備は大事。 |
綴理 | でも……来年から学校に来る子たちのために、頑張れることがあるなら、 ボクはスクールアイドルとして、全力でやりたい。 |
慈 | だから、スクールアイドルクラブ独自のおもてなしを考えたいってこと。 纏まったら、綴理実行委員様がちゃんと会議で通してくれるってさ! |
花帆 | はい! とっても良いと思います! あたしたちに出来ることがあるなら、なんでも言ってください! |
綴理 | ん、ありがと。 ……さやは、どう思う? |
さやか | え、わたしですか? |
綴理 | うん。 |
さやかに気付かれない位置から、慈が両手をさやかの方に向けてオーラを送るイメージ。 | |
慈 | すごいと言え……ちょーすごいと言え……! |
さやかと綴理に視点が向く。 | |
瑠璃乃 | なにしてんのめぐちゃん。 |
さやか | もちろん、なんであれ綴理先輩のやりたいことを叶えるため、 誠心誠意協力させていただきます。 |
綴理 | ……ん。 |
さやかに見えない位置のみらくらぱーく! | |
慈 | だーもう! すぺしゃるわんだほーつづちゃん! とか言えばそれで全部解決なのに! |
瑠璃乃 | そのさやかちゃん、ルリじゃね? |
瑠璃乃は慈の奇行に首を傾げつつ、話題を進める。 | |
瑠璃乃 | オーキャンってさ。 もともとから参加するつもりだったって、 この前に梢先輩は言ってたケド。 |
瑠璃乃 | それと、めぐちゃんたちの言うことって何が違うの? |
梢 | 私は、会場で行われる部活紹介の時に、 ライブをやろうと思っていたのだけれど……。 |
梢 | ……綴理の気持ちを受けて、少し考えたのよ。 |
花帆 | あ、もう何かアイディアがあるんですね! |
慈 | よし、それじゃあ昨日夜通し考えたーー というか綴理が9割考えた案を披露しようじゃないか! |
慈 | さあ綴理さん、どうぞ! |
綴理 | ……ツアーガイド。 |
さやか | ツアーガイド、ですか? えっと、観光バスとかに居る、あの? |
綴理 | そう。 オープンキャンパスでやるイベントのブースに、みんなを連れて行く人。 |
綴理 | それを、スクールアイドルクラブから出していこうかなって。 |
慈 | バス1台に1人ペースならぎりぎり回るかなって思ってるんだよ。 そのへん、実行委員の綴理なら提案も通せるし。 |
慈 | ずっとついてくるガイド役が、 その日1日の楽しさを左右すると言っても過言じゃないからね! |
綴理 | そうやって案内した中学生のみんなに、最後にライブを見せたいんだ。 |
慈 | 話して、仲良くなって……。 |
慈 | キミたちを1日エスコートしたのは、こんなにカッコかわいい スクールアイドルなんだぞーって最後に見せるんだよ! |
花帆 | わぁ……! あたし、絶対ガイドの時に言います! 最後楽しみにしてて、って! それ、すっごく良いです! |
瑠璃乃 | なるほどなー! ちょー面白そう! |
瑠璃乃 | ちょー面白そうだけどもー……! へへっ……もってくれ……ルリの充電……! |
梢 | ツアーガイドの時にどれだけ期待を持たせられるかは、 みんなの頑張り次第よ。 |
梢 | もちろん私も含めてだけれど。 |
梢 | でも……今のみんなならきっと、うまくやれると思うわ。 |
綴理 | ん。 全部成功したら、すごく良い1日になると思うんだ。 |
花帆 | はい! |
話が纏まりかけたところですっと手が上がる。今まで黙っていたさやか。 | |
さやか | あのー。 |
慈 | え、さやかさん、なにかダメでしたか……!? |
さやか | いえ、ダメではないと……なんで敬語なんですか!? 先輩方で考えたというアイディアは、むしろ素敵なものだと。 |
さやか | わたしも、お任せいただけたなら、 その仕事を全うできるよう尽くしたいと思ってますよ! |
といって、綴理を見るさやか。 | |
さやか | ただ……綴理先輩は大丈夫ですか? 実行委員と、こちらでも忙しくして。 |
さやか | もし必要なら、いつでもわたしはーー。 |
綴理、覇気のないサムズアップ。 | |
綴理 | 大丈夫。 ボクは、頑張れる。 |
また頼ってくれない、と肩を落とすさやか。 | |
さやか | そうですか……。 |
がっと肩を組む慈。江戸の看板娘みたいな口調。 | |
慈 | まあまあまあまあ、私もついているから心配するんじゃあないよ! どーんと綴理に任せて、たまには素直に応援したりんさい! |
瑠璃乃 | めぐちゃん何キャラ!? |
花帆 | よーっし…… 当日に向けて、来た子たちを楽しませられる何かを考えてきます! |
花帆 | がんばろ、さやかちゃん! |
さやかも吹っ切れる。ここで凹んだりはしない。 | |
さやか | ……はい、そうですね。 |
さやか | せっかくの催し、わたしも成功させたいです。 |
綴理 | ん。 じゃあ、こず。 ひとことどうぞ。 |
梢 | ここは綴理が言うべきじゃないかしら。 ……今回主導するのは、あなたなんだから。 |
綴理、目を丸くする。 | |
綴理 | ! じゃあ……スクールアイドル、やるぞー。 |
花帆&さやか&梢&綴理&瑠璃乃&慈 | おー! |