第13話『追いついたよ』
PART 6
綴理 | ボクたちも行こう、さや。 |
さやか | ……綴理先輩。 |
さやか | 沙知先輩が探してましたよ、綴理先輩のこと。 |
綴理 | っ……それは、雨のあと? |
さやか | はい。 降り始めてからのことです。 具体的に、綴理先輩を探している理由までは聞きませんでしたけど。 |
綴理 | ……きっと、ライブ中止にしろって話だ。 |
さやか | えっ? |
綴理 | 気にしなくていい。 行かなければ、中止にしろとも言われない。 |
さやか | ちょ、ちょっと待ってください。 |
さやか | じゃあライブ決行の判断は、生徒会の許可が下りたわけではなく…… 沙知先輩にはそもそも話を通していないと? |
綴理 | ……なにか、ダメ? |
さやか | ダメというか! |
さやか | もしも沙知先輩がライブを中止にするつもりなら、 そこには何か理由があるんじゃないですか? |
綴理 | ……雨は、いつ止むか分からないから。 |
綴理 | だったら雨が止むまで待つより、みんなが帰ってくれた方が、 良い一日で終われるとか。 たぶん、そういう。 |
綴理 | でも、ボクは雨の中だって踊れる! 野外ステージだって、雨で溶けたりしない! |
さやか | 見に来てくれる皆さんもずぶ濡れですよ、先輩……。 |
綴理 | だから、それをどうにかしたいんだ。 さやも……ボクがおかしいと思う? |
さやか | わたしも、というのは、誰とわたしなんですか? |
綴理 | っ……。 さや。 |
綴理 | ボクはただ、今回のイベントを最高のものにしたいだけなんだ。 雨で中途半端とか、そんなの嫌だってだけなんだ。 だからーー。 |
沙知 | オープンキャンパス実行委員、夕霧 綴理。 オープンキャンパス実行委員、夕霧 綴理。 至急、生徒会室までー。 |
綴理 | ……ボクは、行かない。 |
さやか | ライブをしたい気持ちは分かります。 わたしだって、今日の1日を素敵なものにして終えたかった。 |
さやか | でもこの状況で、 手立てがないまま中学生の皆さんを待たせるわけにも……。 |
綴理 | だからその手立てを探す、じゃあダメなの、さや? 生徒会長のところに行く時間がもったいないよ。 探しに行こう? |
さやか | 綴理先輩! |
さやか | どうして、どうしてそこまで沙知先輩とは壁を作るんですか。 |
さやか | 中止の話だったとしたら……生徒会や学校の許可なしに準備をしても、 結局ライブは出来ないかもしれません。 |
さやか | せめて話し合いを……わたしも一緒に行きますから! |
綴理 | ……分かってるんだ。 |
さやか | ……綴理先輩? |
綴理 | ボクはやりたいって気持ちだけ。 向こうの方が正しい。 分かってる。 ボクが、おかしいんだ。 ボクも、さやも、そう思ってる。 |
さやか | ……っ。 |
綴理 | 生徒会長が正しい。 去年、スクールアイドルクラブを辞めた時も。 |
綴理 | あの人が生徒会長にならなきゃ、 今頃ボクたちは放課後に市場に行くことも出来なかったし、 スクコネも使えなかった。 |
綴理 | 他の部活だって、合宿も試合もできなくなってた。 ……みんな、生徒会長に感謝してる。 |
さやか | 経緯は、詳しくは知りませんでしたけど……。 |
綴理 | 生徒会長は、いつも正しい。 だから行ったら、ボクは何も言えないんだ。 |
綴理 | 中止、って、たった一言言われたら、ボクはおしまい。 分かったって、言うしかない。 |
綴理 | ーーいつか、辞める、って言われた時みたいに。 |
さやか | ! |
さやか | ……どうして、何も言えなかったんですか? |
綴理 | だって……きっと正しいのは、生徒会長の方だから。 |
綴理 | 怪我したばっかりのめぐを、置いていっても。 そのせいでこずまで、おかしくなっても。 |
綴理 | いきなり、ボクの前からっ……居なくなっても……。 |
綴理 | それでも、おかしいのはボクの方なんだ……。 だってこずも、めぐも、生徒会長と話せてて……。 |
綴理 | さやもっ……! さやだって……色々されても、感謝してた……。 |
さやか | そう、ですね。 |
綴理 | ボクがおかしいんだ。 分かってる。 分かってるけど……。 |
綴理 | ボクは、ボクがおかしいんだって、 ボク自身に言い聞かせるのが、痛いよ……。 |
さやか | 綴理先輩。 |
さやか | ……沙知先輩って、そんなに冷たい人ですか? |
綴理 | 分からない。 ボクはあの人のことが、分からない。 |
綴理 | あんなに楽しかったスクールアイドルクラブを、 あっさり辞められた時から……もう、分かんない。 |
さやか | ……本当に、あっさりだったんでしょうかね。 |
綴理 | さや? |
さやか | わたしは、去年のことを知りません。 |
さやか | でも、竜胆祭の時に沙知先輩とお話しをした限りでは、 綴理先輩をばっさり切って捨てるような 冷たい人には思えませんでした。 |
さやか | ねえ、綴理先輩。 ……後輩に、そこまで無体になれるものですか? |
さやか | わたしは、きっと裏では沙知先輩もすごく悩んだんだと思います。 |
綴理 | ……どうして、そう言い切れるの? |
さやか | そうですねぇ。 |
さやか | わたしがどんなに綴理先輩に突然距離を置かれたって、 きっと何か事情があるんだろうなって、 信じられるからでしょうか。 |
綴理 | ! |
沙知 | 夕霧 綴理ー……待ってるよ。 |
綴理 | ……ねえ、さや。 |
さやか | はい。 |
綴理 | ボクはやっぱり、ライブを成功させたい。 |
さやか | はい。 |
綴理 | それからね。 ボクはいつもさやに頼りっぱなしで…… 隣に立ってくれるどころか、さやに置いていかれそうになって、怖かった。 |
さやか | はい。 |
綴理 | 今もまた、さやには助けられてばっかりだけど……待ってて。 頑張って、追いつくから。 |
さやか | ……はい。 いつまでも、一緒に頑張りましょう。 |
綴理 | 必ず、ライブできるようにする。 だから。 |
さやか | はい、それまでに必ず、どうにかして見つけます。 ライブをする方法。 |