第13話『追いついたよ』

PART 7

沙知
……来てくれたねぃ。
綴理
……中止?
沙知
まぁ、そうだよ。
綴理
っ……。
沙知
綴理。 中止という言い方もよくない。
実際、ここまで綴理のおかげで最高の催しになったと思うよ。
沙知
天候というものはどうしようもない。
胸を張って、みんなを送ろう。
沙知
帰りのバスの手配は、もう済ませてあるから。
綴理
……今ならみんな、満足して帰れる?
沙知
ああ、十分すぎるほどにね。
沙知
でも今ライブを強行して雨足が強まったりしたら、
せっかくの良い思い出は台無しだ。
沙知
……説明会に使った体育館はステージができるような状況じゃないしさ。
滑ったりしたら危ないのは、キミもそうだし、大事な後輩もだ。 そうだろ?
綴理
分かってる。 分かってるよ。
沙知
……?
綴理
生徒会長の言うことは、やっぱり正しいんだ。
綴理
でもさ。 ひとつ聞かせてほしい。
今までボクは怖くて、聞くこともできなかったけど。
沙知
綴理?
綴理
生徒会長はさ。
……すぅ、ふぅ。
綴理
……ライブができるなら、やりたいと思ってくれてる?
沙知
なっ……。
綴理
ボクたちのこと、どうでもいいって思ってない?
正しければなんだって良いわけじゃ、ない?
綴理
ボクたちを置いていった時、あっさりじゃなかった?
沙知
そっ、そんなの。
沙知
……バカだな、あたしは。
そんな、機械みたいに思われていたのか。
沙知
そのことに気付きもせずに……
あたしは嫌われて当然、って、蓋をして……。
沙知
あたしはライブができるなら、やりたい。
正しいことを、しなきゃいけないからやってた。
沙知
スクールアイドルクラブのことは大好きだ。
……辞める時、部室で泣いた。 一年生には内緒だぞ。
綴理
……ぁ。
沙知
今日だって、できることなら、みんなに最高の1日を届けたい。
キミたちに……最高の1日を作ってほしい。
沙知
キミたちの全てがうまく行ってほしいと、いつも思ってるよ。
綴理
……そっか。
沙知
ごめんねぇ……勝手に、いなくなったりして。
置いて、いったりしてさ。
綴理
ボクはただ、わかんなかったんだ。
さちがどんな気持ちだったのか。
沙知
あたしがバカだったんだ。 ……あたしの気持ちなんて、
言う資格ないと思ってたからさ。
沙知
結局離れるのに、つらいなんて……ムカつくだろう?
綴理
ううん。 それが……それが聞きたかった。
ボクは、そんな簡単なことも、聞けなかったんだ。
沙知
……気付いてやれなくて、ごめんね。
綴理
それも、いい。 ボクも気付けたのは、ついさっき。
さやが、教えてくれたからだから。
綴理
離れるのは、誰だってつらいことだって。
今は、さちのことすごいと思う。
ボクだったら、離れることを選べない。
沙知
ありがとう、綴理。
綴理
……ねえ、さち。
ボクは、このまま終わらせたくないよ。
沙知
その気持ちは、分かるけど。
綴理
今はもっと強く思う。 みんなに伝えたい。
雨は、止むものなんだって。 ……違うな。
綴理
ーー止むまで待たない。
ボクたちの気持ちで、どうにでもなるんだって。
綴理
一緒に来て。 さち。
綴理
ボク……追いつけた?
さやか
はい。 待ってました。
花帆
綴理センパイ、聞いてください! 色々考えたんです!
瑠璃乃
名付けてーー野外ステージにデカい傘計画!!
綴理
生えるの?
瑠璃乃
生やす!
ほら、アンブレラスカイ!!
アンブレラスカイっていうのは、確か晴れた日にやるものだったはずだけど、
でも発想はそこから。 花帆ちゃんがね。
花帆
はい! あたし、思ったんです!
花帆
みんなの心に、大きなお花を咲かせるって約束したんだからーー
どうせなら、傘も大きな花みたいにしちゃおうって!
さやか
たくさんの傘を繋ぎ合わせて、
屋根みたいにしようというお話です。
花帆
お花ね、お花!
花帆さんのアイディアには賛成だし、
実現できるのなら素晴らしいものができると思うのだけれど……。
さやか
沙知先輩はどう思います?
沙知
……当たり前みたいに聞くじゃないか。
ふつう中止だよ、これ。
だったら綴理と一緒に来ないでしょ。
ま、それ以前に、『綴理先輩が必ず沙知先輩を説得してきますー』
って言って回ってた子が居たからなんだけど。
さやか
だ、誰でしょうね……!
沙知
大量の傘と、それを繋ぎ止める人手が欲しい。
そうだね?
花帆&さやか&梢&瑠璃乃&慈
はい!
沙知
あい分かった。
実行委員会を動かそう。
沙知
そして、学院事務に傘のストックは山ほどあったはずだ。
それを使いたまえ!
沙知
……すごいなあ、みんな。
これじゃ1人中止考えてたあたしがバカみたいだねぃ。
綴理
んーん。 ……スクールアイドルクラブのみんなのおかげ。
……スクールアイドルクラブが、残ってたおかげ。
沙知
そっか。 ……そっか。
沙知
……行っておいで、綴理。
キミたちの手で、最後まで最高の日を作りに。
綴理
ん。
沙知
それから、もしよかったらなんだけど。
……これ、持って行って。
沙知
随分前に作ったんだけど、
結局渡せなかった、キミたちのために作った曲。
あたしが好きな……雨が止むやつだ。
綴理
……あのとき歌ってた、曲。
綴理
ありがとう、さち。