第15話『夢を信じる物語』
PART 5
屋上に寝そべって、雲を見上げている綴理。 | |
綴理 | ……。 |
梢 | 寒いでしょう、こんなところで。 |
綴理 | そうかも。 どこなの、ここは? |
梢 | 屋上よ。 ていうか、この毛布はどこから持ってきたの? |
綴理 | それはこの毛布に聞いてみないと。 |
花帆 | たぶん、さやかちゃんですよ。 綴理センパイが風邪を引かないようにって。 |
綴理 | そっか。 ありがと、さや。 |
こそこそと花帆は梢にささやく。 | |
花帆 | なんだか綴理センパイ、どよーんとしてますね……。 |
梢 | ……そうね。 |
同じように雲を見上げる。 | |
梢 | それで、どうしたの。 私はさやかさんみたいに、優しくはないわよ。 |
綴理 | ……よく、わからないんだ。 |
綴理 | ちゃんとさやに、どういう気持ちなのか伝えようって、がんばったんだけど。 喉を通った端から崩れていくんだ。 ちょうど、今の雲みたいに。 |
梢 | それをそのまま、伝えればよかったんじゃない? いつものように。 |
綴理 | ラブライブ!に出られて、幸せだったんだ。 |
梢 | ええ。 |
綴理 | さやが隣に立ってくれたんだ。 ボクはもう、他になにもいらないと思ってた。 なのに。 |
綴理 | どうしてだろう。 ボクは、ぜんぜん満足できてないんだ。 これじゃあ、さやに嘘をついてたみたいじゃないか。 |
綴理 | そんなの、だめだ。 だから、さやにだけは、まだ……言えない。 |
梢 | ……そう、それで。 |
綴理 | こずは、わかる? |
梢 | 難しいわね。 私は綴理じゃないから。 |
綴理 | そうだよね。 こずがつづだったら……。 ふたりで雲を見上げてたかな。 |
梢 | 去年の、あなたは。 |
梢 | このままラブライブ!本戦に出るわけにはいかないって言って、 ふたりで出場を諦めた。 |
梢 | けれど、今のような顔はしていなかったわ。 |
梢 | 今年は、なにが違うのかしら。 |
綴理 | 楽しいよ。 去年が楽しくなかったわけじゃないけど、今年はもっと楽しい。 |
綴理 | かほとるりがいて、めぐとこずがいて。 ボクの隣に、さやが立ってくれてる。 |
綴理 | スクールアイドルになれたんだ。 |
綴理 | だから……。 |
花帆 | ……だから? |
綴理 | だから、ボクは。 ……あぁ、そっか。 そうなんだね。 |
綴理 | 蓮ノ空が、好きみたいだ。 |
その言葉を聞いて、嘆息するように相づちを打つ梢。 | |
梢 | なにかわかったみたいね。 |
うつむく綴理。 | |
綴理 | うん。 ボクは……欲張りになっちゃったんだ…………。 |
花帆 | えっ!? さっきより落ち込んじゃいましたよ!? |
綴理 | 蓮ノ空が好きだから、ボクにとって蓮ノ空がいちばんだから。 みんなにも、そう思ってほしかったんだ。 |
ぎゅっと拳を握る綴理。 | |
綴理 | ボクが優勝できると思っていたのはきっと、 蓮ノ空がいちばんだっていう気持ちがあったからで。 |
綴理 | それを届けられなかったから…… ボクは、悔しかったんだ。 |
ハッキリと『悔しい』と口にして感情をあらわにする綴理に、梢が柔らかく微笑む。 | |
梢 | 自分の好きなものを、みんなにも好きになってほしい、ね。 まさかあなたが、そんなことを口にするなんて。 |
綴理 | ……おかしい? |
梢 | いいえ、素敵だわ。 |
綴理 | ……そっか。 うん、よかった。 ボクは、さやに嘘をついてたわけじゃなかった。 |
ほっと胸を撫で下ろす綴理は、しかし、ガーンとショックを受けたような顔をする。 | |
綴理 | あれ……でも、ボクは欲張りで……。 どうしよう。 どっちが悪いんだろう。 |
梢 | それこそ、さやかさんに聞いてみたら、どう? |
綴理が立ち上がる。 | |
綴理 | ……うん、そうする。 そうしたい。 |
丁寧にお辞儀をする。 | |
綴理 | ありがとう、こず。 かほも、話を聞いてくれて。 |
花帆 | いえ、そんな。 あたしはなにも。 |
綴理は手を振り、屋上から立ち去ろうとして、足を止める。 | |
綴理 | 次はがんばろうね、こず。 |
梢 | ……ええ、そうね。 |
そのまま、軽やかに走ってゆく綴理の背を見送る、花帆と梢。 | |
花帆 | 綴理センパイも元気になってくれて、よかったですね。 さっすが梢センパイです。 |
花帆 | これでみんな、明日からまた練習がんばれますよね。 |
梢 | ねえ、花帆さん。 もうちょっとだけ、付き合ってくれる? まだ話したい人がいるの。 |
花帆 | いいですけど……。 |
梢がじっと花帆に微笑みかける。花帆は驚いたように自分を指差す。 | |
花帆 | えっ? それって、あたしのことですか? |
花帆の手を取る梢。 | |
梢 | 部室に戻りましょう。 |