第16話『Special Thanks』

PART 1

花壇の前にしゃがみ込んで、ウンウンとうなっている花帆。
頭を抱えている花帆に、通りがかった沙知が声をかけるシーンから。
花帆
うーん、うーん。 うーーーん。
沙知
悩んでるねい、一年生。
花帆
うわっ! せ、生徒会長。
びっくりさせないでくださいよ……。
沙知
ごめごめ。 でも、どしたん?
なんかすっごい眉間にシワ寄せてたよ。
花帆
それが、その~……なにか忘れてる気がするんですよね~……。
すごく、大事なことのような~……。
沙知
ほうほう。 勉強? 人間関係?
それともスクールアイドルのこと?
思いっきり頭を悩ませた後、ようやく思い出す花帆。
花帆
それはたぶん、スクールアイドルの~……。
ああっ、そうだ!
沙知
お。
花帆
地方大会の『テザLink!ライブ』を手伝ってくれた人たちに、
落ち着いたらなにかしたいなーって思ってたんですよ!
花帆
ドタバタしてて、すっかり忘れてました!
沙知
へー、いいことじゃん。 なにするの?
花帆
ん~~……とりあえずは、お礼……!
いっぱい、お礼を言いたいです!
花帆
地方大会の件もそうですし、この1年あたしたちを支えてくれた人にも、
ありがとうございまーす! って!
花帆
ほんとは優勝できたら、
もっとちゃんとお礼になったのかなーって思うんですけど……!
デリケートな話題なので、沙知は花帆の様子を窺う。
しかし花帆はグッと拳を握り直す。
沙知
あーねえ。
花帆
でも、いいんです!
それは来年、成し遂げてみせますから! うおおー!
その前向きなやる気を見て、沙知が目を丸くする。それから、にっこりと笑って。
沙知
へー……。 もっともっと落ち込んでるかと思った。
やる気満々だねい。 いいぞいいぞ。
花帆
あ、生徒会長、それで心配して声をかけてきてくれたんですか?
優しいところありますね~!
ニヤニヤする花帆の質問に答えず、沙知は話を変える。
沙知
でも、同じように考えてる人、たくさんいるんじゃないかなー。
沙知
ちゃんと元気な姿を見せてあげたら、
応援してくれてた人も、安心すると思うよ。
花帆
元気な姿……。 ってことは、ライブですね!?
沙知
お、おお? そうだねい?
立ち上がって、だっと走り去ってゆく花帆。
花帆
わかりました! あたし、みんなにお礼のライブしたいって言ってきます!
ありがとうございます、生徒会長!
その後ろ姿に、沙知が笑って一言。
沙知
ははっ、元気すぎー。
花帆がバーンと部室に走り込んでくる。
部員五人がホワイトボードの前に集まっていて、その輪に花帆が入っていく。
花帆
いいこと考えましたー!
あら、どうしたの、花帆。
そこでぴたと止まる花帆。梢に照れ照れ。
花帆
えっ、あっ。
そーですよ、花帆ですよー……えへへ……。
花帆の態度にメチャメチャ恥ずかしくなる梢。しかしそれを表に出さないように、圧をかけて花帆を急かす。
言い方としては『ど・う・し・た・の?』
ゴホン。 ど、う、し、た、の?
花帆
そ、そうでした!
あのですね! 閃いたんです!
花帆がそう言うと、みんなが顔を見合わせて笑う。
花帆
お世話になった人たちに、お礼のライブをしませんか!?
花帆
あたしたちがそもそもラブライブ!の全国大会に出場できたのも、
皆さまのおかげなので!
さやか
ふふっ。
花帆
えっ、なに!?
瑠璃乃
今その話してたんだよ、花帆ちゃん!
花帆
えっ?
考えることは、みんな一緒だねー。
綴理
うれしい。
ホワイトボードに『お礼のライブ!』など書いてある。
やりましょう、ライブイベント。
今年度の私たちを支えてくれた方々のために、ぜひ。
花帆が嬉しそうにうなずく。
花帆
はいっ!
花壇の前にしゃがみ込んで、再びウンウンとうなっている花帆。
頭を抱えている花帆に、通りがかった沙知が声をかけるシーン。
花帆
うーん、うーん。
うーーーーーーーん。
沙知
あれっ!? また悩んでる!
花帆
生徒会長~……。
花帆
実は~~~……。
わずかな時間経過。
沙知がほうほうとうなずく。
沙知
へー。 応援してくれた人にお礼の言葉を伝えたいから、
自分が作詞するって言っちゃったんだ。 いいことじゃん。
花帆が苦悩して頭を抱える。
花帆
なんですけどー!
花帆
あたし、ひとりで作詞したことないんですよ!
沙知
へー……。 じゃあ、なぜ言った?
もはや泣くように叫ぶ花帆。
沙知はそんな花帆を生暖かい目で見つめる。
花帆
かっこつけたかったからですよぉ!!
沙知
あっははは!
花帆
だってだって梢センパイのこと、ラブライブ!で優勝させるって、
宣言しちゃったんですもん……。
花帆
それなのに、作詞のひとつもできなかったら、
これまでと変わらないじゃないですか……。
花帆
梢センパイは優しいからなにも言わないと思いますけど!
花帆
『やっぱり花帆、相変わらずダメダメなのね……。
これは来年も優勝はムリね……』
花帆
ってガッカリするに決まってますよー!
沙知
……で、進捗はいかほど?
花帆
……………………。
とりあえず、ノートは1冊ダメにしました。
沙知
うーん。 努力賞はあげよう!
よくがんばりました!
花帆
がんばるだけじゃだめなんですよぉ!
死にそうな顔でつぶやく花帆。
沙知は腕を組む。
沙知
まあまあまあ。 ほら、あれだ。
気分転換とか、大切じゃないかな!
沙知
部のみんなと話してみて、インスピレーションをもらったりとかね?
精一杯花帆を励ます沙知。
花帆はゾンビみたいに立ち上がって、のろのろ歩く。
花帆
そうですね……。
見栄を張って自爆してるミジンコの花帆は、一度、部に戻ります……。
沙知
充電切れたダンボールちゃんみたいになってるねえ!
花帆がとぼとぼと部室に戻ってゆく。
その後ろから、冷や汗苦笑いしつつついていく沙知。
今度は、部室には梢しかいない。
花帆
おつかれさまでーすー……。
片手を挙げる沙知に梢が驚く。
沙知
やぁ、梢。
あら、花帆と一緒に、どうしたんですか? 沙知先輩。
沙知
いやー、みんなが応援してくれた人に
お礼のライブをやるって聞いてさ。
沙知
これはぜひとも生徒会長として激励したいと思って。
ほら、あたしも無関係じゃないし!
ふふ、それはありがとうございます。
梢は嬉しそうに両手を合わせる。
そうだ、聞いてください、沙知先輩。
沙知
なになに? いいことあった?
今回は、花帆が作詞をするんですよ。
それも私の力を借りず、たったひとりで。
大げさに驚く沙知。後ろの花帆はどよーんとしている。
沙知
へーー! そいつぁいいねぇ!
普段は私が先に曲を作ってから、
二人三脚で作詞をしているんですけれど、今回は花帆の作詞が先なんです。
この形式で曲を作るのは私も初めてなので、
ふふっ、とっても楽しみで。
沙知
Oh……これは、梢の方もなかなか!
沙知
いやあ、大した後輩だねえ、花帆!
わざとらしく褒める沙知。
花帆はこわばったまま、顔をあげて、ニコリ……と笑う。
花帆
そ、そーなんですよー……。
その元気のない態度を見て、梢が心配そうに首を傾げる。
……花帆、本当に大丈夫?
もしなにか困っていることがあったら、なんでも相談してね。
花帆
こーー。
花帆
こ、こまったことなんてあるわけないじゃないですか!
すっごく順調ですよ!
花帆
アイディアがタンポポみたいに咲き誇っちゃって、
候補を絞り込むのに苦労してるぐらいです!
花帆
あたしにドンと任せてくださいね、梢センパイ!
うっとりと花帆を見つめる梢。頭に手を当てて笑う花帆。その背中で死ぬほど汗をかく。
そして、胸が痛々しい沙知。なぜこんな地獄のような状況に……。
そこに、テクテクと瑠璃乃がやってくる。
まあ……。
さすがだわ、花帆。
瑠璃乃
こずこず先輩ー!
ルリも招待状、書き終わりました!
あら、ありがとう。 これで全員分揃ったわね。
沙知
ほう、招待状? 素敵な響きだねぃ。
ええ、せっかくですので、
直接声をかけた方々には招待状を送ろうと思いまして。
できれば時間を見つけて、手渡しで届けたいのですが……。
瑠璃乃
それじゃルリはいそいそステージ制作に戻ります! ビシッ!
見ての通り、準備に大忙しで。
花帆
あ、あの! あたしもなにかお手伝いを~……。
梢が優しく微笑む。
あら、いいのよ花帆は。
その代わり、作詞をがんばってちょうだい。
みんな、あなたの歌詞を楽しみにしているんだから。
追い詰められる花帆。
そこで見かねた沙知が花帆の腕を取って。挙手する。
花帆
ふぐぅううぅ~~!
沙知
じゃあ! その招待状は、あたしと花帆で届けてくるよ!
え?
寝耳に水だよ!? という花帆の叫び声で、シーン終了。
花帆
えええっ!?