第17話『ルリ思う。』
PART 6
シャッフルユニット当日。会場もざわざわと盛り上がっている。 | |
梢 | まさか、こんなにたくさんの方にライブ会場へ来てもらえるなんて。 シャッフルユニットは、予想以上に注目されていたようね……。 |
綴理 | るりが、期間限定には弱いって言ってた。 |
梢 | きっとそれは飲み物か何かの話だと思うのだけれど。 今回の件とあながちズレていないのが、諭しづらいわ。 |
花帆 | うわー、ライブ緊張してきたー! いつもより、下手なこと出来ないって言うか……! |
さやか | ふふ。 外から見る梢先輩に期待していてくださいね。 花帆さんの目にかなうものをお見せしますから。 |
花帆 | なんか複雑~~! 楽しみだけど! |
一方で、瑠璃乃と慈が向き合う。 | |
瑠璃乃 | めぐちゃん。 |
慈 | ん? |
びしっと慈を指さして、瑠璃乃は宣戦布告。 | |
瑠璃乃 | 今日はめぐちゃんをびっくりさせるから! 見てろよ! |
慈 | るりちゃんこそ! |
慈 | やっぱりめぐちゃんさいきょーすぎ! 一生ついていきますー! って言わせてやるんだから! |
沙知 | ほいほい、それじゃー始めようぜい。 いやー、楽しみだねえ諸君! |
沙知 | 蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ、 ワンデイシャッフルユニット・スペシャルステージの始まりだー! |
わー、と歓声が上がる。花帆慈の曲が終わったところ。 | |
花帆 | やりたいことだけ突っ走れ! そんな感じでお届けしました! |
花帆&慈 | かほめぐ♡じぇらーと、でした!! |
慈 | カワイイの全力、受け止めてくれたかな♡ |
梢 | 以上、 |
梢&さやか | 蓮ノ休日でした。 |
さやか | わたしたちのこれまでを……表現できたでしょうか。 |
梢 | どうかこれからも、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブを。 |
梢&さやか | よろしくお願いします。 |
綺麗に一礼するふたりで暗転。 | |
さやか | 最後は綴理先輩と、瑠璃乃さんですか……! |
慈 | ま……お手並み拝見、かな。 |
歓声とともに場面が明けて、瑠璃乃と綴理が立っている。 | |
瑠璃乃 | ほいじゃあ最後にーー。 |
瑠璃乃 | っと、ちょっと待って綴理先輩。 |
綴理 | ん? ……あ、今ペンライトの色変えてる子、まだいるね。 |
瑠璃乃 | ちょっと待ってあげて……よし。 みんなだいじょぶそー。 |
最後の「聞いてって」をしっとり可愛く。普段見せている雰囲気とのギャップがある、優しくて穏やかなものに。 | |
瑠璃乃 | それじゃ今日の最後! ルリがみんなに伝えたい気持ち、綴理先輩が形にしてくれたんだ。 だから良かったら……聞いてって。 |
綴理&瑠璃乃 | 「Colorfulness(カラフルネス)」。 |
瑠璃乃 | これが……るりのとゆかいなつづりたち、の全力だぜっ。 みんなせんきゅー! 今日は最後まで付き合ってくれて、本当にありがと! |
綴理 | こっちのライブも……楽しかったね。 みんなも、そうだよね。 |
瑠璃乃 | ……だれひとり、今日を嫌な気分で終わることがないように、 ルリは祈ってます。 |
瑠璃乃 | あ、座っていいよ。 まずルリが座る。 |
綴理 | じゃあボクも。 |
瑠璃乃 | 綴理先輩いえーい。 |
瑠璃乃 | みんな楽しかった? 楽しかったら、声上げたり、 ペンライト振ったりしてほしい。 どぞ! |
ショックを受けたような顔の慈 | |
慈 | ……。 |
ステージ上の瑠璃乃は、穏やかでしっとりとした雰囲気。いつくしむように、ステージから配信カメラと、客席を見つめて語り掛ける。 | |
瑠璃乃 | ありがと。 今日初めて来た人も、そうじゃない人も。 |
瑠璃乃 | それから、配信で見てくれてる子も。 みんなほんとにありがとね。 おかげですっごく楽しかった。 |
瑠璃乃 | みんなには、楽しかったって、元気になって帰って欲しい。 それで次来るときを、次の配信を、楽しみにしてて欲しいなあ。 |
瑠璃乃 | あとね。 ルリからみんなに、お願いがあるんだ。 |
瑠璃乃 | もしも今、楽しいことが何もなくて、 なんにもする気が起きない子がいたらーー |
瑠璃乃 | 誘ってあげて欲しい。 声をかけてあげて欲しいんだ。 ルリたちのライブを、見に来てって。 配信画面を開いて、ってさ。 |
瑠璃乃 | そしてこう伝えてあげて。 |
瑠璃乃 | 『大丈夫、全然疲れないから。 嫌な思い出なんて、ひとつも残さない。 ルリたちが、ちゃんと楽しい思い出にするから、任せて』 |
瑠璃乃 | ーーってさ。 |
綴理 | るり。 |
瑠璃乃が振り返る。 | |
綴理 | るりの気持ちしか届かない人も、いる気がした。 いて……今、届いたと思う。 |
瑠璃乃が微笑む。 | |
瑠璃乃 | よかった。 |
瑠璃乃 | じゃあ、今日は本当に、おつかれっしたー!!! |
慈が諦めたような笑み。瑠璃乃のことを見くびっていたと認めたイメージ。 | |
慈 | これが、るりちゃんのやりたかったこと。 ……凄いね。 間違ってたのは、私みたい。 |
翌朝のイメージ。練習中の梢と花帆のところに、事後処理の話をしにきた沙知。梢が応対している。 | |
沙知 | やー、お疲れお疲れ。 まさか年度末にこんな面白イベントがなだれ込んでくるとはねぃ。 楽しませてもらったぜー。 |
梢 | 沙知先輩も、忙しいでしょうに。 設営も片付けもしてもらって……ありがとうございました。 |
沙知 | いやいやこちらこそー。 良い企画だった! |
ひらひらと手を振って沙知が去っていく。 | |
梢が沙知を見送っていると、花帆がやってくる。 | |
花帆 | 梢センパーイ! はやくはやく、練習の続きしましょう! |
梢 | あら、気合たっぷりね。 |
花帆がスマホを見せると、花帆と梢がさっき撮った練習動画。 | |
花帆 | だって、見てくださいこれ! さっき合わせたところ、撮ったやつです! |
梢 | ……これは。 |
花帆 | 昨日の梢センパイとさやかちゃんを見て、 あたしも色々動きを考えてみたんですけど……その。 |
梢 | 確かに私も、花帆と慈のパフォーマンスには考えさせられるものがあった。 今日はそれを意識してやってみたのだけれど……。 |
花帆&梢 | 大成功(です)ね。 |
梢 | シャッフルユニット……面白い案だとは思ったけれど、 やってよかったわね。 本当に。 |
花帆 | 今日からまた、スリーズブーケ張り切っていきましょう! かほ党とこず党、いっぱい増やしましょうね! |
梢が首を傾げて、場面転換。 | |
梢 | ……かほ党と、こず党。 ふふっ、そうね。 |
さやかが練習中。ステップを踏んでいた足を止める。 | |
さやか | ふう。 どうでしょうか、綴理先輩! |
綴理 | ん……綺麗。 |
さやか | 良かったです! 梢先輩の隣で踊っていると、なんだかわたしも“正しい動き”というものが はっきり掴めた気がしたんです。 |
さやか | 身が引き締まったといいますか。 |
綴理 | うん。 こずさや。 |
さやか | 褒め言葉なんですよね!? |
綴理 | さやが減ってないから、増えただけ。 褒めてる。 ……もう少し、こずに頼んでみる? |
さやか | いえ、大丈夫です。 確かにとても勉強になりましたし、 また機会があればお願いしたいとも思いますが…… |
さやか | それ以上に、今は早くDOLLCHESTRAとして、 試したいことがたくさんあるんです。 |
綴理 | そっか。 うん、ボクも同じ気持ちだ。 |
さやか | それに……瑠璃乃さんは今回の恩もありますが、 わたしのライバルになったので……! |
綴理 | ? |
さやか | 頑張りましょう、綴理先輩! |
綴理 | ん。 ……るりには、お礼をしないとね。 やって良かった。 |
慈と瑠璃乃が合わせをやっている。 | |
ほかの二組と違って、笑顔はない。 | |
瑠璃乃 | ……ふう。 |
慈 | うーん……ごめーん、いったんタイム。 |
瑠璃乃 | うん。 ルリこそ、ごめん。 |
慈がスマホをいじりながらそう言う。練習の録画を見返す。 | |
それを瑠璃乃が後ろからのぞき込む。 | |
慈 | るりちゃんは悪くないってば。 ちょっと見返してみるね。 |
瑠璃乃 | なんか、前のが良かったね。 |
慈 | ……そうだね。 |
瑠璃乃 | やっぱりごめん。 |
慈 | ……ごちゃまぜユニットのこと言ってるなら、あれは大成功。 綴理も梢も、あって良かったって言ってたじゃん。 |
慈 | 実際、るりちゃんと綴理のライブ、文句の付け所なかったし。 すごかったよ、るりちゃん。 ほんとに、見直した。 |
瑠璃乃はそんな慈の影のある笑顔を見て、そんな顔が見たかったわけじゃないのに、と自分のしたことの結果に凹む。 | |
瑠璃乃 | ……でもルリは。 |
慈 | んー? |
そんな顔をしてほしかったわけじゃない、と言いたいけど、同時にどの口が、と思ってしまう。寂しげな瑠璃乃の顔に、慈は一息。 | |
瑠璃乃 | ルリはめぐちゃんに……。 |
慈 | ……ふぅ。 ね、そんな顔しないでよ、るりちゃん。 |
立ち上がり、ぐっと伸びをした慈が笑う。 | |
慈 | ……ちょっと休憩にしよ? 待っててー。 |
そう言って、慈が立ち去る。 | |
残された瑠璃乃が唇を尖らせる。 | |
瑠璃乃 | どうしてこんななの? |
瑠璃乃 | もっとこう、ルリにもできることはあるんだって、 胸張って言えると思ってたのに。 |
時間経過の演出。 | |
ベンチに座って、足をぷらぷらさせていた瑠璃乃が顔を上げる。 | |
瑠璃乃 | めぐちゃん、遅いな……。 どうしたんだろ。 |