第18話『いずれ会う四度目の桜』
PART 1
桜がちらほらと咲き始め、春の到来を実感させる。 | |
登校してきた沙知が、花開く桜の花に気付いて顔を上げ、笑みを作る。 | |
これまでを懐かしむように優しく微笑む。 | |
沙知 | ふっ……四度目の桜だねぇ。 |
沙知 | 一度目、二度目、三度目…… 会う度にキミはあまり変わっていないのに、どうしてだろうね。 |
沙知 | あたしはキミに抱く気持ちが変わる。 |
沙知 | 今年のあたしは、キミに聞きたいことがあるんだ。 毎年みんなを見ているキミにさ。 |
沙知 | あたしは、今までの先輩方から受け継いできたものを…… 台無しにしなかっただろうか。 |
沙知ははにかみ、困ったような笑顔で弱音を零す。 | |
沙知 | ちょっと、自信がないんだよね。 |
二年生三人が部室にいる。 | |
ぼーっと窓の外を眺めている綴理と、ソファに転がっている慈。 | |
梢 | んっ……ん~……ふぅ、綴理、慈、ちょっといい? |
慈 | どしたー? |
ちらっと目だけを向ける綴理と、転がったまま返事をする慈。 | |
梢 | ちょっとふたりに話しておきたいことがあって。 3月末の……蓮華祭のことなのだけれど。 |
そう言うと、慈はむくりと身体を起こす。 | |
慈 | 二年だけってこと? |
綴理 | 一年生に、サプライズ? |
綴理の言葉に、梢は苦笑い。 | |
梢 | それはまた別の機会にね? |
それから真面目な顔に戻る。 | |
梢 | 沙知先輩が、卒業するでしょう? |
綴理 | ……。 |
慈 | おっけー、理解した。 そうだね。 三年生にとっては蓮華祭が、うちの生徒で居られる最後の日だもんね。 |
梢は慈に頷いてから、そっと自分の胸に手を当てて目を閉じる。 | |
梢 | ……だから、蓮華祭で、沙知先輩に何かを返したい。 とはいえ、具体的な案があるわけではないのだけれど。 |
そう困ったように微笑む梢。 | |
慈 | まぁこればっかりは、私たち二年生が考えるべき問題だよね。 んー……なんかプレゼントでも作る? |
綴理は、この光景をぐるっと見渡して呟く。 | |
綴理 | ふたりのこと見てたら、ちょっと思いついたよ。 |
慈&梢 | ! |
慈 | なんだよもー、やるじゃんつづりーん。 |
梢 | 聞かせてもらえる? |
綴理 | ん。 ……曲をね、作るんだ。 新しい曲。 |
慈 | 新曲……私たちを見て思いついたってなに? |
綴理 | 去年の部室はいつも、こずがそこに居て、 めぐが転がってて、それからさちが入ってきてたなー、って、思ったらさ。 |
綴理 | いつだったっけ…… 入ってきたさちが言ってたことを思い出したんだ。 |
次の台詞で、ひとりひとりにカメラが向くイメージ。 | |
綴理 | 歌は、こず。 ダンスは、ボク。 言葉は、めぐだって。 |
綴理、自信を持って言う。 | |
綴理 | そして……さちが知ってるボクたちより、 今のボクたちはすごいことができるはずだと思う。 どうかな。 |
慈と梢、顔を見合わせて笑う。 | |
慈 | ふっ……やってやろうじゃん。 |
梢 | それぞれ責任があって、それだけにやりがいもある…… ええ、それでいきましょう。 |
慈 | 私たちから、沙知先輩に贈る曲……あの余裕たっぷりなちっちゃいのを、 感動でズタボロに泣かしてやるんだから! |
3人が頷いて、〆。 | |
梢が荷造りを終えたところに、花帆が乱入してくるパート。 | |
梢は旅行鞄の前に立って、苦笑い。 | |
梢 | あー……この荷物は、ちょっと大げさかしらね。 |
ドンドン、と切羽詰まったノックの音。振り返る梢。 | |
梢 | あら? |
ドアを開く。 | |
梢 | このノックは……花帆? どうしたのーー。 |
花帆 | 梢センパイ、どういうことですかー!? |
梢に置き去りにされたと思う花帆が、動転して梢に迫る。スマホを突きつけて、そこにメッセージ。 | |
花帆 | 『実家に帰ります』って! |
花帆 | なにがあったんですか!? 梢センパイ、蓮ノ空を辞めちゃうんですか……!? |
梢、予想外の花帆の反応に、うろたえながらも答える。 | |
梢 | ええと……。 |
梢 | それは、お休みに実家に帰ろうと思っただけ、なのだけれど……。 |
今度は花帆が目をぱちくり。 | |
花帆 | えっ……? |
大きくため息をつく。 | |
花帆 | はぁー……なーんだぁ……そうだったんですかぁ……。 |
梢 | ご、ごめんなさい。 文面だとつい言葉足らずになってしまうのは、私の悪い癖ね。 |
花帆 | こちらこそ、誤解しちゃってごめんなさい。 |
花帆 | あと一歩で、危うく梢センパイの実家まで押し掛けるところでした……。 |
花帆がキャリーバッグを見せつける。 | |
花帆 | ほら、見てください! あたしの旅行鞄! |
早合点した花帆がかわいくて、思わず笑みをこぼしてしまう梢。 | |
梢 | ふふっ……ごめんなさい。 そうね、それはびっくりさせちゃったわね。 |
なんでもないことのように言う梢に、むしろ花帆がしんみりしてしまう。 | |
梢 | 別に隠すつもりはないの。 沙知先輩のために、曲を作ろうと思って。 |
花帆 | あ……そうですよね。 もう卒業ですもんね。 |
梢 | せっかくだから、実家で集中的に作曲をするつもりだったの。 ただ、それだけよ。 |
花帆 | 梢センパイのご実家……! 兼六園ぐらいありそうですね! |
梢はそこで思案して、花帆に頼む。 | |
梢 | ……。 ねえ、花帆。 よかったら一緒に来る? |
花帆 | え? |
梢 | ぜったいに、いい曲に仕上げたいの。 力を貸してくれると、嬉しいわ。 |
梢 | もちろん、あなたに予定がなければ、だけれど。 |
花帆、目をぱちくりした後に、頼りにされた喜びが実感としてわいてきて、梢の手を取る。 | |
花帆 | はい! あたしのできることでしたら、ぜひ!! |