第18話『いずれ会う四度目の桜』
PART 5
慈がベッドに寝転んで、瑠璃乃がベッドに背中を預けるように寄りかかっている。 | |
慈 | あ~~……。 |
瑠璃乃 | えー、大沢 瑠璃乃です。 ただいまめぐちゃんは、 ルリのベッドを占領して、“降りてくる”の待ち、です。 |
慈 | あ~~~~……。 |
瑠璃乃 | このめぐちゃんは、たぶんルリ以外は知らないレアめぐです。 脳をフル回転させてて、こういうのもかわいいです。 |
瑠璃乃 | でも、先輩に贈るための曲の作詞なんて、プレッシャーやばいんじゃない? だいじょぶ? |
慈 | や、できてるはできてる。 |
瑠璃乃 | あっ、そーなの? |
慈 | 3案。 |
瑠璃乃 | え、すごっ。 めぐちゃん天才! |
慈 | こういうのって、パターンだからね。 最初にテーマを決めて、それぞれの切り口で作るだけだよ。 |
慈 | 例えば卒業ひとつ取っても、 お別れの歌、旅立ちに背中を押す歌、遺される側の歌。 |
慈 | あとは軸にするキーワードを決めて、 その周りに言葉を配置していくだけ。 |
瑠璃乃 | めぐちゃん、どうして勉強できないの……? |
慈 | 私ができないってことは、勉強のほうが間違ってるんだよ。 じゃなくて。 |
慈 | 普段の作り方なら、これでいいんだけど。 ほら、今回は二年生から贈る曲ってことになってるじゃん? |
瑠璃乃 | うん。 |
慈 | 作曲や振り付けはまだいいとしてもさ。 |
慈 | 歌詞を作るんなら、私の想いだけじゃなくて、 梢と綴理からの想いも盛り込んだ歌詞にしなくちゃいけなくってさ。 |
慈の言いたいことがわかって、瑠璃乃はコクコクうなずく。 | |
慈は徐々に真剣な顔つき。 | |
瑠璃乃 | あー……たいへんそう。 |
慈 | 私は梢や綴理じゃないから。 |
慈 | ふたりが沙知先輩にどんな言葉を贈りたかったのかは、 想像しなくっちゃいけない。 |
慈 | もしかしたら、いなくなってせいせいするぜ! って言いたいかもしれないし。 |
瑠璃乃 | それはないと思うけど! |
瑠璃乃 | でも、にゃるほど。 それで悩んでたの? |
ドドド風に問いかける慈に、瑠璃乃も乗っかる。 | |
慈 | んー。 それじゃ、ここで質問! あなたがこの作詞を任されたらどう戦いますか? |
瑠璃乃 | はい。 ルリは梢先輩や綴理先輩にいっぱい思い出を聞いて みんなの意見を合わせてがんばって平和的解決を図ります。 |
慈 | ぶー! |
はしごを外されたような顔をする瑠璃乃。 | |
瑠璃乃 | ぶーとかあるんだ……。 |
慈 | 正解は、そんな小手先のパターンとか関係ないから、 私の考える最強の歌詞をぶつける! です。 |
瑠璃乃 | つえー! |
慈 | だってこれは、みんなが私を信じて任せてくれたんだよ。 |
慈 | それなら120点のものをぶつけて、 その完成度で梢と綴理を納得させてやらなくっちゃ。 |
瑠璃乃 | なんたるパワー系。 それでこそルリのめぐちゃん……! |
慈 | というわけで。 |
慈 | ここに100点の3案があるのに! そのどれかひとつを120点にしなくちゃいけないんだよ……! |
よしよしと慈の背中を撫でる瑠璃乃。 | |
瑠璃乃 | たいへんそう! |
瑠璃乃 | ねえねえ、ルリにできること、なにかある? それとも、めぐちゃんひとりでやり通したい? |
慈 | いいものができるなら、なんでもいいー! |
慈 | パワーが足りない……。 大賀美 沙知をズタボロに泣かせてやるような、そんなパワーが……。 |
瑠璃乃 | そんな殺意込めて歌詞作ってたの!? |
駄々っ子慈はしばらくベッドの上でバタバタした後、天井を仰ぐ。 | |
天井に手を伸ばしつつ、うめく。 | |
慈 | 感動させられるならなんでもいいの! |
瑠璃乃 | えぇ……? で、どーする? |
瑠璃乃 | 好きなスクールアイドルのチャンネルとか見る? ルリもね、最近まったり系スクールアイドル見て、べんきょーしててねー。 |
慈 | えらいねーるりちゃん! よーしよしよしよしよし。 |
瑠璃乃 | るぅあ~~。 |
慈 | スクールアイドルからパワーをもらうか……。 それもありだな……って、ん? 待てよ……? |
瑠璃乃 | めぐちゃん? |
慈 | ……それしか、ないか……? |
慈 | いや、でも、あまりにも私の体に負担が……。 けど、いいものをつくりたい……! |
慈 | ありがとう、るりちゃん。 おかげで見つかったよ、パワーのありか。 |
瑠璃乃 | おー! |
慈 | 私は禁断の力に……手を伸ばす! |
瑠璃乃 | お? おー……? |