第18話『いずれ会う四度目の桜』

PART 4

ここで近江町市場の外観が見えて、さやかの目的地が分かるイメージ。
ざわざわと、いつもながら賑やか。
綴理
ねえ、さや。
さやか
はい。
市場をきょろきょろ見渡しながら、綴理は語る。
綴理
DOLLCHESTRAというユニットは、劇場の名にふさわしく、
舞台の上で人々に想いを伝える“居場所”そのもの……。
綴理
さちは、そう言ってた。
さやか
……。
さやかは近江町市場を見渡して、柔和に微笑む。
さやか
そうですね。 DOLLCHESTRAは、わたしの居場所です。
ちょうど、ここがそれを教えてくれたようにも、思います。
さやか
スクールアイドルを応援してくれる人たちがいて、教えてくれた。
ここが、わたしたちの舞台なんだって。
綴理も微笑む。
そして序章5話と同じことを、あの時よりずっと優しい声色で語る。
綴理
ボクは……居るだけで良いって、言われたんだ。
さやか
それを言ったのは、沙知先輩だったんですね。
綴理、頷く。
綴理
うん。 何も返せないまま、いなくなって。
綴理
全部さちが正しいから、言われた通りにしてて……
ボクに後輩ができたときに、頑張ればいいって言われてて。
綴理
去年さちが教えてくれたこの場所で、
今年のボクは、ボクで居て良いんだって思えたんだ。
綴理
来年素敵な出会いがあればボクもスクールアイドルになれる……
そう言われた場所で、ボクはスクールアイドルになれたから。
綴理
だからここは、ボクにとっても、きらめきを教えてもらった場所。
綴理
そのきらめきは、さちに何かを返せるって、そう言ってる。
きらめき=さやかなので、さやかが当たり前のように返事をするイメージ。
さやか
はい。
綴理
でも、ボクはまだ、ちゃんと分かっていない気がするんだ。
綴理
居るだけで良いって言われた理由、
DOLLCHESTRAをやろうって言われた理由……。
綴理
そのどれも、ボクが勝手に分かった気になっているだけで。
さちがくれたものを、ひなどりみたいに受け取っているだけで。
さやか
わたしには、そうは見えませんけど……。
それを分かるために、雨上がりを探していたんですか?
ざわざわと、市場の人たちの声が聞こえる。
綴理
雨が上がるときはいつも、ボクはボクで居て良いんだって思えた気がした。
だから、今日それを感じて、意識して……。
綴理
今度こそ、言葉にしたいんだ。
さやかはそれに気が付いて周囲を見渡す。
さやかが応対していると、綴理がくるっと振り向く。
さやか
あ、皆さんこんにちは。
いえ、雨宿りというわけでもないんですが。
綴理
やほ。 みんな。 あ、ほんと?
雨が上がるまで居て良い?
周囲の人々に綴理はお礼を口にする。
綴理
……ずっと居て良い? そっか。 ありがと。
さーさー、と雨音が響いている。
少しだけ雨宿りに時間を割いたイメージ。
綴理
みんな、怒らないね。
さやか
ずっと居て良いって、言ってくれましたからね。
綴理
ん。 みんないつも、居て良いって言ってくれる……。
そこで、雨が上がる。
雨あがりに気が付き、思わず声を漏らすさやか。
さやか
雨が……。
実感がこもったように空を見上げ、もう一度お礼を口にする綴理。
綴理
ああ……そっか。
さやかが綴理を見る。
さやか
先輩?
綴理
さや。 ボク、ようやく分かった気がする。
綴理
……雨上がりの時に、ボクがボクで居て良いんだと思えたのは、
その瞬間が大事なんじゃないんだね。
綴理
それまでに積み重ねた、みんなとの関係……気持ち。
ボクをボクで許してくれる、みんなの顔。 この胸の内の温かさ。
綴理
この市場みたいに、みんなが居る場所が……
ボクの居場所なんだって今は分かる。
綴理
今のボクの周りには、みんなが居る。
だってボクは、スクールアイドルだから。
空が映り、雨が止んでいる。
一筋の光が、雨上がりに差し込む。
さやか
……沙知先輩への気持ちをまとめるためのリボン、見つかりましたか?
綴理
うん。 さちが、居るだけで良いって言った理由。
DOLLCHESTRAを選んだ理由。
綴理
それは、ボクに“スクールアイドル”を教えるためだったんだね。
いつかボクがボク自身を、スクールアイドルだと思えるように。
綴理
……リボンは、すごく簡単だった。
綴理
『ボクにスクールアイドルを教えてくれて、ありがとう』