第18話『いずれ会う四度目の桜』
PART 3
綴理とさやかが、レッスンルームで練習中。 | |
綴理の振り付けを見ているさやかの図。 | |
綴理 | こうやってこうなって、こうなって。 |
あれこれと忙しなく動き回る綴理の振り付けを、困惑しながら見ているさやかが映る。 | |
綴理 | で、こうなって。 |
終わらない綴理の振り。 | |
さやか | な、るほど。 それで〆ですか? |
まだ動く綴理が、ようやくここで動きを止める。 | |
綴理 | から、こうやってこう。 |
さやか | えーっと! |
綴理 | 感想募集中。 |
さやか | 沙知先輩に贈る曲の振り、なんですよね。 |
綴理 | そう。 |
さやか | そう、ですね。 ひとつひとつの振りに想いが感じられて、 積み重ねたものが表現されているような気がします。 |
綴理 | きっとこずもめぐも、伝えたいことはいっぱいあるからね。 |
さやかが考え込むようにして呟く。 | |
さやか | とはいえ……。 |
さやか | んー……正直に言うと、あまり纏まりがないような……。 |
綴理 | やっぱり? ボクもそう思う。 でも、どれも外せないんだー。 どうしたらいい? |
突然物凄い責任がのしかかってきて頭を抱えるさやか。 | |
さやか | っ、どうしたらいい!? ええ~っと、それは……!! |
ただ、ふと思うことがあった。 | |
さやか | ……あの。 これってでも、 二年生から沙知先輩に贈る曲、っておっしゃってましたよね? |
綴理 | うん。 |
さやか | わたしに話して良かったんですか? |
綴理、首を傾げながら当たり前のように即答する。 | |
綴理 | うん、だってボクの全力を出さないといけないから。 |
さやか | そ、そうですか。 ではわたしも、一助になれるよう粉骨砕身努力しなければいけませんね。 |
さやか | んー……僭越ながら、やっぱり振りが多すぎるのと、 どれもばらばらなのが気になります。 |
綴理 | でも、多いのは、1個も落としたくないんだ。 全部、思い出だから。 |
さやか | それは。 |
綴理 | だから、そうだね。 さやの言う通り、ばらばらなのをどうにかできればいいね。 |
綴理 | 1本のリボンがほしい。 |
さやか | ……それはつまり、 この振りをまとめるための軸のようなものでしょうか。 |
綴理は頷く。我が意を得たり。さや最強。みたいな感じで。 | |
そっと己の手を握りしめ、それを見つめる綴理。その手のうちにリボンを握りたいと思っている、そんなイメージです。 | |
綴理 | うん。 気持ちを詰め込んだプレゼントの…… 1番大事な見た目の部分。 |
さやか | ……分かりました。 お手伝いできることがあるなら、なんでも言ってください。 |
綴理 | ありがと、さや。 じゃあ、行こう。 |
さやか | はい。 ……ぅ、え? どこにですか? |
綴理とさやかのふたりが歩いている。綴理は空を見上げながら。 | |
綴理 | 向こうの方だ。 |
あゆみを進めようとする綴理を、さやかが差し止める。 | |
さやか | 綴理先輩、赤信号です、危ないですって。 |
綴理 | あ、ごめん。 止まるべき。 |
さやか | はい、止まるべきです。 学校出てからずっと空見上げて……どこ行こうとしてるんですか? |
綴理 | 雨降ってるとこ。 |
さやか、一緒に空を見上げてぼやいてから、はたと綴理の真意に気が付く。 | |
さやか | ……雲、追いかけてたのかあ……。 |
さやか、すかさずスマホを取り出す。 | |
さやか | ……雨、降ってるとこ。 そっか、そういうことですか。 |
さやか | ちょっと待ってくださいね。 今、金沢全体の天気を……。 |
アメダス的なものを見たイメージです。一時間後くらいまでの雨雲レーダーが分かる代物。 | |
あえて“綴理先輩の目的”と言ったのは、雨降っているところ、という綴理の台詞からさやかが綴理のみたいものを察したから。見たいものは、雨のやむ瞬間。 | |
さやか | ! 見つけました! 雨の降っている場所。 小雨ですが……きっと、行く価値はあります。 |
ふたり、歩きながら。 | |
綴理 | ほんと? よし、行こう。 |
さやか | でも……ふふ。 綴理先輩が、 沙知先輩と楽しくお話しするようになって、本当に良かったです。 |
綴理 | そうだね、さやのおかげ……本当に。 |
さやか | ……元通りになったのなら、それが一番素晴らしいことかと思います。 |
はにかむさやかに、綴理は首を横に振る。 | |
綴理 | 元通りじゃあ、ないんだ。 昔のボクは、ろくにお礼も言えない子だったから……。 |
綴理が空を見上げ、曇り空が映る。 | |
それから画面が暗転し、過去回想へ。 | |
綴理と沙知が居る。 | |
今以上に感情の読めない綴理が、沙知の前に立つ。 | |
綴理 | ねえ、さち。 |
沙知 | ん、どうしたんだい。 |
きょとん、と首を傾げる綴理に、沙知は腕を組む。 | |
綴理 | 言われた通り、スクールアイドルクラブに入ったよ。 あとはどうやったら、ボクはスクールアイドルになれるの? |
どうしよっかなー、と悩む沙知だが、深刻な顔を綴理に見せるわけにもいかないのでゆるい表情は保ったまま。 | |
沙知 | んーんーんー。 |
沙知 | スクールアイドルっていうのは、自分がスクールアイドルだと思えれば、 みんなスクールアイドルなんだけども……。 |
綴理 | ? |
沙知 | そもそもキミ有名人だろ? |
沙知 | 外部のダンスクラブ含め、引く手あまただろうに、 どうしてスクールアイドルクラブを選んでくれたんだい? |
綴理 | みんなでやりたいし。 |
沙知 | みんなで……。 |
少し考え込む沙知。 | |
沙知 | なるほど。 ……孤高の存在として持ち上げられていた裏側……なんて、 仰々しいことを言うつもりはないけども……。 |
沙知が綴理を見あげると、綴理は首を傾げる。 | |
綴理 | ? |
沙知 | キミはもう、いつでもスクールアイドルで良いんだぜ? |
綴理 | んー……だとボク、たぶん今「ス」だから。 |
沙知 | スクールアイドルの「ス」ってこと!? み、道は険しいねぇ!? |
綴理 | スクールアイドル見習いのスだよ。 |
沙知 | 道は果てしないねえ……。 でも、そうだねぃ。 こういうのは、ぱっと出来るものでもないか。 |
沙知 | あるいは……ひとつひとつ、積み重ねていく他ないのかも……。 |
少しだけ、己の無力を噛み締めるような表情になる沙知。 | |
綴理 | さち? |
沙知 | 安心したまえ、綴理。 キミはこの3年の間に、必ずスクールアイドルになれる。 |
綴理 | ほんと? |
顔を上げ、沙知が笑う。 | |
沙知 | ああ。 まず、その一歩目は……。 |
にかっと笑ってVサインした沙知が映って、〆。 | |
沙知 | あたしとーーDOLLCHESTRAをやろう。 |
近江町市場のほど近く。 | |
ぽつり、ぽつり、と雨が降り始める。 | |
綴理 | あ、降ってきた。 |
さやか | 今日この辺りは、少しだけぱらつくみたいです。 とはいえ、傘がないので、入りましょうか。 |
綴理 | 入る……あ、そっか、この辺って。 |