第1話『未来への歌』

PART 18

花帆
吟子ちゃん! 来てくれたんだ。
吟子
……もう一度だけ話したいと、言われたら。
私も、いろいろと迷惑をかけたし。
花帆
迷惑なんて、そんなことないよ。
でも、ありがとうね。
吟子
……それで、なんの話?
スクールアイドルクラブのことなら、もうきっぱり言ったはずだけど。
花帆
あのね、見つかったんだ。
花帆
吟子ちゃんのおばあちゃんが……吟子ちゃんが、大好きだった曲が。
吟子
……え?
花帆
逆さまの歌。
今に伝わってる名前は、こう。
花帆
あたしが、スリーズブーケになれた後、初めて歌った曲。
あたしの大好きな歌。
花帆
ーーReflection in the mirror
花帆
花帆
吟子
そんな……。
吟子
そんなの……ぜんぜん違う!
吟子
歌詞だって違うし、メロディだって!
おばあちゃんの愛した曲じゃない! 別物だよ!
花帆
そうかもね。
吟子
そうかも、って……。
花帆
最初にあった曲が、長い年月をかけて、
少しずつ変わっていって、今じゃタイトルも違う。
花帆
残ってる部分のほうが少ないかも。
花帆
あたしは同じ曲だと思うけど……
吟子ちゃんにとっては、違うかもしれない。
吟子
だったら……!
花帆
でも、思うんだ。 それでもこの曲が今も伝わってるのは、
みんな、この曲が大好きだったからだ、って。
吟子
……!
花帆
最初に逆さまの歌を変えた子は、この曲をもっと素敵な歌にしようと、
がんばったんだよ。 頭を悩ませて、一生懸命。
花帆
次の子も、その次の子も、ずっとずっと。
花帆
この曲は、ただ変わったんじゃない。
花帆
スクールアイドルの積み重なった想いで、
姿と形を変えていったんだ。
花帆
吟子ちゃんのおばあちゃんが愛した曲は、誰も忘れてなんかいない。
こんなにもたくさんの人に愛されて、今に繋がってるんだよ。
吟子
おばあちゃん……。
花帆
スクールアイドルだって、おんなじ。 あたしはそう思う。
花帆
時代が変わっても、人が変わってもね。
蓮ノ空で過ごすみんなの気持ちは、一緒だよ。
花帆
あたしがセンパイから教わって、
センパイがそのまたセンパイから教わって……。
花帆
泣いたり笑ったりを繰り返して、みんな、今を駆け抜けてきたんだ!
花帆
それが、芸楽部の魂ってことじゃないかな!
吟子
……なんで。
吟子
なんでですか、先輩……。
どうして私に、ここまでしてくれるんですか……。
吟子
ただの、知り合ったばかりの後輩のために、こんなに……。
花帆
あたし、先輩だもん!
花帆
それに、吟子ちゃんみたいな子を笑顔にしたくて、
あたしはスクールアイドルをしてるんだよ。
花帆
それがあたしにとっての、花咲くってことだから。
花帆
ね、吟子ちゃん。
ここは、ちゃんと吟子ちゃんの知ってる芸楽部だよ。
花帆
だからもう、大丈夫。 心配いらないよ。
なんだって、できるんだよ。
花帆
だから……その上で、
もし吟子ちゃんがスクールアイドルをしたいんだったら、
一緒にやろうよ! スリーズブーケ!
花帆
ぜったい、楽しませてみせるから!
花帆
一緒に、想いを未来に届けよう! 吟子ちゃん!
吟子
はい。 よろしくお願いします……。
私の、先輩。
花帆
お、おお……。
吟子
……これで、どうでしょう。
うん、とても素敵ね。
吟子さんにアレンジをお願いして、よかったわ。
せっかくReflection in the mirrorを披露するのなら、
この衣装じゃなくっちゃ。
吟子
昔の写真で、見たことがあります。
これもどこか、おばあちゃんの着てた衣装の面影があります。
きっと、衣装が古くなるたびに、新しいものを作り遺していったのよ。
私も大好きな曲だもの。
吟子
そう、なんですね。
……なんだか、嬉しいです。
花帆
……でも、こんなにアレンジしちゃって、いいんですか?
この伝統衣装は、梢センパイの夢だった……。
いいのよ。 私の想いは、あくまでも私の想い。
積み重ねてきたスクールアイドルの、
そのうちのひとりになれるのなら、嬉しいわ。
それに、吟子さんの想いが加わって、
ほら、こんなにも綺麗になった。
花帆
……そうですね! すごく素敵な衣装です!
吟子さん。
吟子
はっ、はい!
ようこそ、スリーズブーケへ。
吟子
梢先輩……! あ、あの!
私は、この蓮ノ空女学院に入学することが、夢でした!
吟子
この学校で、
立派なスクールアイドルになりたいです!
吟子
若輩者ですが、目標はラブライブ!優勝、です!
おばあちゃんの愛した蓮ノ空の伝統を世界に伝えるために!
吟子
全身全霊でスクールアイドルをがんばります!
ふふ、そんなに固くならないで。
まずは次のライブに向けて、これから一緒にがんばりましょう。
吟子
はい、梢先輩!
よろしくご指導お願いいたします!
花帆
……なんかあたし相手とちょっと態度が違くないかな?
吟子ちゃん。
吟子
そんなことないけど?
花帆
ぜんぜん違うよね!?
吟子
友達のノリでいいって言ったのは、花帆先輩でしょ!
今さら変えられないし!
花帆
たまには梢センパイみたいに敬われたいときもあるの!
……こういうの、まるで孫ができた気分って言うのかしら。
そうね、だったら……。
吟子さん。 好きなお茶の銘柄はある?
吟子
すみません、紅茶はあんまり知らなくて。
梢先輩にお任せします!
なら、最初は飲みやすいものをいれてあげる。
吟子
あ、手伝います!
食器具の位置とか、勉強させてください!
じゃあ、軽く説明するわね。
花帆
あっ、大丈夫です、梢センパイ!
それぐらいあたしが!
いいのよ。 私がしてあげたいの。
吟子
そうそう。 花帆先輩は座って待ってて。
花帆
……。
あら、吟子さんはコーヒーに詳しいのね。
吟子
はい。 おばあちゃんがコーヒー党なんです。 私もその影響で。
今度、私の好きな豆を持ってきますね!
花帆
吟子ちゃん! だめだよ!?
あんまりあたしの梢センパイを取らないでね!?
吟子
さっきから、なにいっとらん!?
梢先輩は、スリーズブーケのものでしょ!
花帆
そうだけど!
でもちゃんと手続きであたしを通してもらわないと!
ふふっ。
もう、ケンカしないの。
……これが、新しいスリーズブーケ。
今年もずいぶん、楽しくなりそうだわ。