幕間

『Bloom the stars』

小鈴
綴理先輩! 徒町、やってやります!
綴理
ん。 きっと良いフェスになるんだろうな。 いいなぁ。
さやか
しっかり、この旅行中に作詞も完成させます。
綴理
それも楽しみにしてる。
さやなら、できるよ。
さやか
はい!
アナウンス及び音楽が鳴り響く。
時間ね。 私たちはもう行くわ。
また来週~!
綴理
ばいばい。
はぁ……。
うわなに、いきなり~?
大丈夫だよ、つよつよるりちゃんがついてるんだから。
綴理
さやもいる。
かほもいるよ?
ええ、だから心配はしていないわ。
……はぁ。
平然と答える梢。しかしすぐにまたため息をつく。
じゃあなんなのそのため息は!
私がついていれば、さやかさんや他の子たちの負担を
半分にすることができたのに、というだけでね……。
言っても仕方のないことだけれど。
わかってんじゃん。
さすがにね。 最上級生ですから。
よっしゃ、それじゃ気分を変えて、全力で楽しむモードに切り替えるんだよ!
この瞬間から私たちは! スクールアイドルじゃなくて、
修学旅行を楽しむただの高校三年生!
綴理、自己矛盾によってフリーズ。宇宙猫と化す。
綴理
ボクたち……スクールアイドルじゃ、なくなる……?
や、今のは、たとえでね!?
綴理
ボクは、なに……?
人間……?
と、とにかく! なんか楽しいことしよ!
ほらトランプとか!
とりあえず……あなたたち、
ちゃっかり座っているけれど、自分の席に戻った方がいいんじゃないかしら。
学校に追い返されないうちに。
追い返されたら、敦賀ライブに出られるかな。
綴理
よし。
と言って立ち上がる、綴理。
真面目な顔で悪だくみをする慈と綴理に、梢がツッコミを入れる。
戻りなさい!
初日の夜、綴理の部屋に遊びに来る慈。
部屋は四人部屋。たまたま他の子がいなかった、という設定。
こんこーん、つーづりー。
あら、慈。
あれ? なんでいるの?
まさか、私に隠れて密談……!?
それは、よくわからないのだけれど……。
戸惑う梢の後ろから、綴理が顔を出す。
綴理
みてみて、こずが買ってきてくれた。
つーづりーの好きなお菓子。
沙知の好きだったお菓子、まねっこドーブツを持って、嬉しそうな綴理。
梢は恥ずかしい気持ちを隠しつつ、普段の調子で答える。
売店を覗いていたら、たまたま見つけてね。
それで、なんとなく。
……へー。 ふーん。
梢が慈の手に持つものに気づく。同じく、綴理も。
……なによ。
って、あなた。
綴理
あ、めぐも買ってきてくれたんだ~。
ありがと~。
……なんとなくだよ、なんとなくー。
梢と考えていることが一緒とはねえ、と思い、憮然としつつ答える慈であった。
三人、適当な場所に座りつつ、まねっこドーブツをつまむ。
(※綴理がベッドで、慈と梢がそれぞれ椅子を引っ張ってきて、など? 詳細な位置関係はお任せいたします)
修学旅行先に来ても、どうして私たち3人で一緒にいるのかしら。
そういう星の下に生まれたんじゃない? 知らないけど。
星……ね。
そこで手を挙げる慈。
それでは。
え~、第1回102期生・大暴露大会~!
なに? 急に。
楽しそうな雰囲気に、よくわからず拍手する綴理。
綴理
わ~。
せっかくの修学旅行なんだから、3人で普段しなさそうな話しようと思って。
ほら、いつもは言えないようなことを、ほら、ほらほら。
カモンカモンの手つきをする慈。
いつもは、言えないようなこと……。
そうね、ならちょうどいいわ。
お、なんかネタある?
綴理
その言い方は、お説教じゃないとみた。
ラブライブ!の話なの。
綴理
ラブライブ!……。
でもボクは今、スクールアイドルじゃないから……。
今だけ戻っていいよ。
綴理
慈からの許可が出て、ボクはスクールアイドルだ……!と気合が入って、思わず立ち上がる綴理。
踊るのは後にするんだよ!
なにも言わずに座り直す綴理。
一連の流れを生暖かい目で見つめつつ、口を開く梢。
……今年は最後のチャンス。 だからこそ、優勝を目指したい。
それはわかる、の慈。
ん。
でもそれは……あくまでも、私たちの事情。
それはどういうこと? の慈。
ん?
今年、スクールアイドルクラブに入部してくれた新入生にはね。
まずスクールアイドル活動を楽しんでもらいたいの。
スクールアイドルにとって、ラブライブ!出場は
選択肢のひとつに過ぎないわ。
ただ好きなようにライブをしてもいいし、配信だけをしていてもいい。
曲も衣装だって、自作しなくてもいい。 スクールアイドルは、自由だから。
彼女たちが自分の意志でラブライブ!を目指してくれるのなら嬉しいけれど、
部長としてみんなに強要はしたくなくて。 同じユニットの子であってもね。
だから、今年もいつも通り過ごしたいのだけれど……。
梢、ちらりと慈と綴理の様子を窺う。
……おかしいかしら。
慈、肩をすくめる。
いやー。 再確認したよ。
相変わらず面倒な性格してんね、あんた。
慈にだけは言われたくないのだけれど……。
どう? 綴理は。
綴理
こずは、みんなにかほと同じことをしてあげたいんだね。
……そうね。 きっと、そうだわ。
その上で、こちらがやりたいことは、いずれちゃんと伝えるつもり。
私と花帆のときみたいに、お互いがすれ違ってしまわないように。
今はね、彼女たちが花咲けるような、そんな部になればいいと思っているの。
梢がちゃんと考えたことなら、と綴理は柔らかく微笑んでうなずく。
綴理
うん、こずの気持ちはいいと思う。
綴理
でも、みんなで同じ目標に向かってがんばるのは、
それはそれで楽しいとも、思うよ?
ふふっ……ありがとう、綴理。
じゃ~、次~。
つづたんなんかある?
綴理
うん。
1個、思い出した。
お、なになに?
まねっこドーブツのパッケージを眺めつつ。
綴理
ボクはね、さちになりたい。
……沙知先輩に?
綴理が、珍しいこと言うじゃん。
綴理
うん。 さちみたいに、今年入ってきたすず、ぎん、ひめのことを……
スクールアイドルとして立たせてあげたい、かな?
立たせてあげたいというのは……
さやかさんにあなたがしてあげたこととは、違うのかしら。
綴理
さやには、ボクのままでよかったんだ。
でも、これからのボクはもっと頑張りたい。
綴理
隣に立てなくてもね、見ててあげたい。
日陰にうずくまっていたら、日向の場所を教えてあげたい。
綴理
さちがしてくれたことが、すごく、嬉しかったから。
そういうものに、ボクもなりたい。
……素敵ね。
……シャッフルユニットのときさ、るりちゃんのこと、
先輩として親身になってくれたじゃん?
綴理
? してないよ。
じゃあ、一緒に悩んでくれた。
綴理
それは、したかも。
私からもありがとうって、言ってなかったなって。
綴理、実はそういうの向いてると思うよ。 ちゃんと悩んでくれるから。
なんだったら、私や梢より上手かも。
軽口を叩く慈に、なぜか落ち込む梢。
そうね……。 きっと、そうだわ……。
上手よ、綴理は……。
なにダメージ受けてんの!
気にしてたの!? ごめんて!
でも立派だわ、綴理。
がんばりましょうね、一緒に。
綴理
うん。
まあ、ボクはさちにはなれないんだけどね。
伸びすぎた。
身長の問題かい。
ま、綴理がそういうスタンスなら、私は安心して好きにやらせてもらうよ。
やっぱ先輩ってのは、偉大な背中を見せなきゃいけないからね。
誰もが憧れる最強のスクールアイドルが身近にいたら、
後輩のモチベ爆上がりでしょ?
これはめぐちゃんにしかできない役目だからね☆
ポーズを取ってウィンクする慈。
綴理
めぐかわいい~。
それってつまり、今までとなにも変わらないってことね。
それってつまり、
梢はめぐちゃんを最強のスクールアイドルだって認めてるってこと~?
~~はい、私と綴理が言ったんだから、最後は慈よ。
照れ隠しに話を進める梢に、ニヤニヤする慈。
言いたいことを言い合えている親密な空気に、綴理もほっこり。
綴理
なんか、いいね、暴露大会。
毎日やりたい。
それはちょっと……。
それじゃあねー。
んー、これは暴露ってか、思ってたことなんだけど。
ルール違反よ。
遊びに厳格になるな!
あのさあ、あるじゃん、ホワイトボードに。 梢の戒めスター。
綴理
戒めスター。
え、ええ……。
あれさ、3色追加したいなって思って。
綴理、真っ先に賛同。ぱちぱち拍手する。
綴理
おー。
まー、まだみんな入ってきたばかりってのはあるけど。
6色ってのが気になるんだよねなんか。 せっかくの後輩ができたのにさ。
剥がして捨てることも考えたけど、
そしたら梢が拾って部屋に貼っちゃうだろうし。
人を、巣の材料が足りないスズメかなにかだと思っているの?
綴理
ボクは賛成。
みんなの色があったほうが、きれいだよね。
……どっちみち、私が意見を言える立場ではないわ。
あれは綴理がしてくれたことだから。
そういうのを取っ払って意見を言うと?
……私たちの愚かしさに、104期生のみんなを巻き込むのも。
だから、新しい意味を作るの。
嫌な思い出はいい思い出に。 いい思い出は、もっといい思い出に。
沙知先輩が、私たちに八重咲ステージを残してくれたみたいに。
ま、あの規模に比べたら、ぜんっぜんだけどね。
……そうね、そういうことなら。
ありがとう、慈、綴理。
いいってことよ。
じゃあ綴理、なにか思いついて。
えっ……丸投げ……?
綴理
わかった。
いくら綴理でも、そんなパスじゃ……。
考え込む綴理。
少しの間。
見守る梢と慈。
そして綴理がすぐに顔をあげる。
綴理
んー……ん、思いついた。
天才じゃん。 天才だったわ。
すごいわね……。 それで、どうするの?
綴理
うん。
こずの言う通り、みんなが花咲ける場所を、作るんだ。
綴理
星の花を、咲かせよう。
こういうことね。
綴理
きれいだね。
……素敵だわ。
夢の種が、花咲いたみたい。
なんか今の、歌詞っぽくなかった?
え? そう?
綴理
なんだかちょっと、かほっぽかったね。
あ。
どこからか一年生や二年生の笑い声が響いてくる。
場所はそのまま、台詞の字幕なし。
ここまで字幕なし。
梢、慈のほうを向いて嬉しそうに言う綴理。
綴理
帰ってきた。
よし、それじゃ敦賀ライブの感想会でもやっちゃおうか!
ふふ、9人分のお茶を入れるのは、大変だわ。