第4話『昔もいまも、同じ空の下』
PART 1
練習前に大倉庫の整理をしているイメージ。梢が大倉庫の整理をしていたところに、花帆と吟子が手伝いに来てくれた形。 | |
吟子が倉庫の奥から戻ってきて、梢のもとにやってくる。花帆は大倉庫の奥の区画にいるので、声はするけれど姿は見えない。 | |
吟子 | 梢先輩、奥にあるダンボールはすべて検品が済みました。 中に入ってたものも書き出して、ラベルを貼っておきましたので。 |
梢 | あら、ありがとう。 ずいぶんと手際がいいのね、吟子さん。 |
梢に褒められ、どこか誇らしげな吟子。大人ぶっているが、その様子はむしろ子どもっぽい。 | |
吟子 | 棚卸作業は、実家でも手伝っていましたから。 |
さらに奥の一角にいる花帆から、声だけ届く。 | |
花帆 | 吟子ちゃーん! 来て来て、こっち! 芸楽部時代の衣装とか、残ってるよー! |
目を輝かせて食いつく吟子に、梢がクスクス笑う。 | |
吟子 | えっ、ほんまに? |
梢がクスクス笑う。 | |
梢 | ふふ。 |
吟子はハッと気づく。 | |
吟子 | ハッ。 |
吟子 | い、今は片付け中なので、遊んでる暇はありませんから! |
大倉庫の整理は一朝一夕では終わらないので、少しずつ進めていけばいいと思っている梢は、吟子にやんわりと告げる。 | |
梢 | 別に構わないのに。 |
吟子 | いえ……。 それに、他にも古くて珍しいものがたくさんありましたので、 あとでじっくり見に来ることにします。 |
梢 | そう。 くれぐれも迷子にはならないようにね。 |
遠くから花帆の声だけ聞こえてくる。 | |
花帆 | そうだよー! なんたって、毎年100人は迷って迷って この大倉庫から帰ってこれなくなっちゃうんだからー! |
おかしな冗談を言う花帆に、吟子は軽く眉を寄せるだけ。 | |
吟子 | そんなわけないじゃないですか……。 なんですか100人って。 |
もちろん梢は、沙知先輩のことを思い出して微笑んでいる。 | |
梢 | ふふふっ。 |
梢 | でも、あなたたちが手伝ってくれて、助かったわ。 定期的に片づけをしないと、紛失しちゃう衣装とかも、多いのよね……。 |
吟子 | それはもったいないですね……。 |
梢 | ええ。 例えばスクールアイドルクラブに名前を変えたばかりの 頃の衣装なんかは、ずいぶん失われてしまったと聞いているわ。 |
遠くから花帆の声が響いてくる。 | |
花帆 | もったいないー! |
梢 | だからね、なるべく次の代に残せるようにって、思って。 こういった雑務は、去年は生徒会長がやっていてくれたの。 |
吟子 | ああ、もう卒業された方ですよね。 去年のオープンキャンパスで、お見掛けしました。 |
23年11月の梢のカードの後ろ姿に、吟子が写っていることから。 | |
梢 | あら? そう、11月のオープンキャンパスに、吟子さんも来ていたのね。 |
吟子 | はい! アンブレラスカイのライブ、本当に素敵でした! |
梢 | でしょう。 あれは花帆が思いついたのよ。 |
素直に花帆を褒めることに抵抗のある吟子は、声を小さくして奥のほうにいる花帆に聞こえないようにつぶやく。梢はくすくす笑う。 | |
吟子 | むぐ……。 そ、そうですか! いいライブだったと……思います。 |
花帆 | 吟子ちゃんなにか言ったー!? |
吟子 | なんでもないから! いいから先輩は手を動かしてて! |
花帆 | は~い! ……はぁ、大倉庫暑いよ~! |
花帆をあしらう吟子に、梢は微笑みながら。 | |
梢 | なかなか素直にはなれない? |
思わぬ方向からの追及に、しどろもどろになる吟子。 | |
吟子 | へっ!? いや……そ、そういうんじゃ、ないですけど……。 |
吟子 | ~~っ……花帆先輩って、距離が近いじゃないですか。 |
梢 | そうね。 |
吟子 | でもあれは、花帆先輩のキャラだから許されるんですよ。 |
梢 | そうかしら? |
吟子 | そうです! 私まで乗せられて「なになに花帆ちゃんー♪」 とか言い出したら、そんなの! もう! |
吟子 | 無理です! 私が私に無理です! 背筋がぞわっとします! |
こじらせている吟子の言葉に、苦笑いする梢。 | |
梢 | そこまで言わなくても……。 |
吟子 | 向こうからグイグイ来る以上、ちゃんと後輩として 節度ある関係を保つためには、私が距離を取るしかないんです。 |
吟子 | これは、お互いのために必要なことです。 わかっていただけましたか!? |
梢はからかい半分、本気半分。『いつまで花帆さんの魅力に抵抗できるか、楽しみだわ』と言わんばかりにニコニコしている。 | |
梢 | どうぶつ喫茶の吟子さんは、とてもかわいらしかったと思うわ。 |
頭を抱えて死にたくなる吟子。 | |
吟子 | あああああああ! |
吟子 | 私なんかが、あんなかわいい衣装を……うう、私なんかが……。 |
梢 | そうそう、吟子さん。 せっかくだから、あなたに見せたいものがあって。 |
よろよろと起き上がり、梢の隣に並ぶ吟子。 | |
吟子 | は、はい……なんでしょう……。 |
ラブライブ優勝時の写真を見て、一瞬で目の輝きを取り戻す。 | |
吟子 | ! これ、まさか……ラブライブ!優勝の写真、ですか……!? |
梢 | あなたも目指しているのよね。 ラブライブ!優勝を。 |
吟子 | はい! |
吟子 | 金沢の誇るすばらしい伝統を、世界に広めるために。 いつか、私も……! |
吟子の言葉に、梢が微笑みながら告げる。 | |
梢 | 成し遂げましょうね、きっと。 |
写真を見上げる梢。 | |
眩しいものを見るような梢のきれいな横顔を見て、吟子はこの先輩の力になりたいと思う。 | |
吟子 | あの、私も、がんばりますので! 精一杯、先輩方のお力になれるように。 |
言った後で、自分なんかが偉そうに言ったかな……と語気を弱める吟子。 | |
吟子 | まだ入ったばかりの見習いスクールアイドル、ですけど……。 |
梢 | ふふふ、謙遜することはないのよ、吟子さん。 あなたももう、一緒に撫子祭を成功に導いたスクールアイドルよ。 |
お世辞ではなく、実際に吟子のパフォーマンスは、ずっと芸楽部を目指していたこともあり、去年の撫子祭時点での花帆を上回っている。 | |
後輩が成長していく姿を見ることは、とても楽しみな梢であった。 | |
梢 | 頼りにさせてもらうわね。 |
吟子 | ーーは、はい! |
吟子 | よっしゃ……。 がんばろっ……! |
そこにあわただしく花帆がやってくる。フレームイン。 | |
花帆 | っ吟子ちゃん! 吟子ちゃん! |
吟子 | わっ!? な、なに!? 今せっかく梢先輩といい話してたのに! |
花帆 | えっ!? 仲間外れにしないでよー! ーーじゃなくて! |
梢 | どうしたの? |
花帆 | あっ、梢センパイ! すごいんです! すごいの見つけちゃったんです! |
花帆 | 衣装ですよ! |
花帆 | スリーズブーケ、DOLLCHESTRA、みらくらぱーく!の、 伝説の衣装です! |