第4話『昔もいまも、同じ空の下』

PART 4

私は一度きりだったけれど、母は何着も仕立ててもらっていたみたい。
吟子
へえー……お得意様だったんですね……。
花帆
でも、そんなにすごい人だったら、きっと直せますよね! 衣装!
瑠璃乃
うんうん!
吟子祖母
では、皆様。 この衣装はお預かりさせていただきます。
吟子祖母
作業に取りかかるのはぁ、明日からになるかと思いますが、
それまでは我が家で、ごゆっくりとお過ごしくださいね。
吟子
あ、うん。
おばあちゃん、いってらっしゃい。 気いつけて。
花帆
いってらっしゃいー!
吟子祖母
失礼しますね。
花帆
ふふっ、吟子ちゃんって、
おばあちゃんと話すとき方言になるんだね。 かわいい~。
花帆に「かわいい」と言われ、わずかに眉をひそめる吟子。照れ隠し。それから、わざとらしく慇懃な口調でみんなに言う。
吟子
む……。 これは、こういうものだから。
吟子
コホン……。 それでは皆さん、ここでしばしの自由時間となります。
どうぞごゆっくり、ご歓談ください。
旅館の人じゃないんだから。
花帆
久々の畳、長野のおうちに帰ったみたいで、落ち着くなあ。
吟子
あ、花帆先輩だけはこっち。
花帆
んー?
吟子に手招きされて、顔をあげる花帆。
吟子はカバンから冊子を取り出しつつ、淡々と。
吟子
いい機会だから、くらしの博物館の続き。
吟子
花帆先輩には、
金沢に伝わる伝統文化をさらに詳しく勉強してもらおうと思って。
花帆
えっ、勉強!?
吟子
伝統の力でラブライブ!に挑むんだったら、
伝統の文化を知らないままでいるのは恥ずかしいことですよね?
花帆
うっ……それは、確かに……!
でも、なんであたしだけ!?
吟子
この中で石川出身じゃないの、花帆先輩だけだし。
花帆
小鈴ちゃんだって違うもん!
小鈴
ぎく! 確かに福井ですけど……。
吟子
じゃあ、小鈴さんも。
小鈴
徒町たちまち巻き込まれました!?
小鈴、不安半分ドキドキ半分で、吟子を見返す。チャレンジさせてもらえることは、ちょっと嬉しかったりする。
吟子は冊子を花帆と小鈴にそれぞれ配る。
小鈴
で、では、なにをさせられるんですか……!?
吟子
大丈夫ですよ、とても楽しいことです。
こちらのしおりをご覧ください。 小鈴さんにも予備の一部をどうぞ。
花帆
なんか作ってる……。
面白そうな話につられて、小鈴のしおりを横からのぞき込んでくる面々。
小鈴
あ、ありがと……?
吟子
百生 吟子プレゼンツ、金沢の伝統工芸体験ツアーです。
吟子
この辺りには、たくさんの友達のじいじばあば……
もとい、職人の方々がいらっしゃいます。
吟子
そこで職人さんにお願いし、実際に文化を体験してもらおうかと。
吟子
例えば、4ページ。 加賀友禅の手描き体験。
6ページ。 金箔貼り体験など。
花帆
あれ? けっこう……楽しそう?
吟子ちゃんの罠??
吟子
花帆先輩が望むなら今からずっと座学でも私は構わないんだけど。
花帆
楽しいほうがいいなー!
小鈴
これは……チャレンジしがいがありますね!
瑠璃乃
えー、なにこれなにこれ、メッチャ楽しそう。
姫芽
ねえねえ~、吟子ちゃん吟子ちゃん~。
それってプレイ人数ふたりまでだったりする~?
吟子
え? いや、たぶん頼めば何人でもいける……と思うけど。
さやか
わあ、風鈴作り体験もあるんですね、綴理先輩。
綴理
おー、ちりんちりんだね。 かわいいよね。
へえー、こうして見ると、
地元民の私たちも伝統文化ってあんまり詳しくないよね。
これ県外でMCするときにも役立ちそうじゃない?
あなた、そういうお勉強については、真摯なのよね……。
でも、いい機会だわ。
吟子さん、せっかくだから、私たちもお邪魔して構わないかしら?
予想外の人気に、吟子は頬を紅潮させつつうなずく。
吟子
は、はい。
それは、もちろん。
吟子
あ、じゃあ!
30ページまであるので、皆さん好きな体験コースを選んでください!
吟子
決まったら、私が連絡入れますので!
えー、どれにしよっかなー!
吟子
なんやこれ……めっちゃ嬉しい……。
花帆
ふふふ、よかったね、吟子ちゃん!
吟子
うん……。
吟子
あ、花帆先輩は私と一緒にちゃんとぜんぶ回るからね。
花帆
……ぜんぶ?
吟子
ぜんぶ。
花帆
それ何時間かかるの!? 一日で終わらないよね!?
吟子
でもひとつも外せない大事な文化だから……!
大丈夫だよ、始めれば夢中になるから。
吟子
たぶんおゆはんまでには帰ってこれると思うし。 たぶん。
花帆
梢センパイ! 助けてください!
ええと。
吟子
でもこれは必要なことですよね!? 梢先輩!
花帆
梢センパイはあたしの味方だもん~! ねっ、ね~っ。
かわいい後輩ふたりに挟まれて、梢はどちらの味方をしようかと、しばし悩む。
両手にスリーズブーケの梢は、花帆に微笑んで。
そうねえ……。 確かに詰め込みすぎは、少し大変よね。
花帆
! ですよね~~! へへへ~。
吟子
ぐっ。
でも、学んだことは、きっとなにひとつ無駄にはならないわ。
がんばってらっしゃい。
花帆
がーん!!
吟子
雅やかな梢先輩になら、わかってもらえると思ってました!
花帆
梢センパイは、吟子ちゃんのほうが好きなんですか!?
そ、そういうわけではなくてね。
吟子
さあ、花帆先輩、行きましょう! 伝統のすべてを学びに!
苦笑いを浮かべる梢だった。
……ほどほどにしてあげて、ね?
スリーズブーケ加賀友禅
DOLLCHESTRA風鈴
みらくらぱーく!和菓子