第8話『Not a marionette』
PART 8
綴理 | 旅の終わりだ。 お片付け……。 いや、違うな。 ボクの旅は、これから始まるのか……。 |
綴理 | ん? |
小鈴 | さあ、すっきりした気持ちでお片付けです! 今日中に終わらせましょー! |
瑠璃乃 | 大変だとは思うけど、頑張ろうねー。 今日のことは今日、区切りをつけておこうじゃん。 |
花帆 | そうじゃなくても、年末はこれから大忙しだからね! |
小鈴 | おーらい、おーらい……あ、綴理先輩! |
花帆 | おつかれさまでーす! |
瑠璃乃 | どーもです! |
綴理 | 3人とも、みんなとお片付けの途中? |
小鈴 | はいです! みんなも、徒町も、とってもすっきりしたので…… 明日からは、またいつもの学校生活に戻れるように、 今日中に全部お片付けをと! |
花帆 | おかげさまで、ありがとうございました。 |
綴理 | そっか……。 かほも、言いたいことは言えた? |
花帆 | はい。 終わってみると、ちょっと…… いや、かなり、恥ずかしかったですけど……。 |
瑠璃乃 | いやー、照れちゃいますなあ。 |
花帆 | えー!? 瑠璃乃ちゃんはちゃんとしてたじゃんー! あたしたちのほうが、子どものワガママみたいなー! |
小鈴 | そうですそうです! や、徒町と花帆先輩一緒にするのはよくないですけど! |
花帆 | そんなことないよ、一緒に瑠璃乃ちゃんと戦おう! |
瑠璃乃 | た、戦う……? |
瑠璃乃 | でも、綴理先輩にはまた、俯いている誰かの気持ちの底を、 救い上げてもらいましたね。 |
綴理 | また? |
瑠璃乃 | ありゃ、忘れちったんですか? |
瑠璃乃 | ルリは、2月のあの日…… スクールアイドルとして大切なことを、教えて貰えたと思ってますよ。 |
綴理 | ……ぁ。 |
小鈴 | 徒町も、みんなで頑張ることの楽しさは、 綴理先輩から教えてもらいましたよ! |
花帆 | あたしもあたしも。 |
花帆 | 梢センパイのトレーニングにへこたれそうになってたとき、 内緒でお菓子くれたりして……。 |
花帆 | センパイってみんな、こんなに優しいんだ! って、 感動しちゃいました。 |
綴理 | そっか。 ……そっか。 |
小鈴 | ……。 |
瑠璃乃 | あ……。 ね、花帆ちゃん。 あとはお掃除、ルリたちでやっておこーか。 |
花帆 | んー? ……あ! うん! 今すっごくお掃除したい気分かも! |
瑠璃乃 | ちゅーわけで、小鈴ちゃん。 あとは大丈夫だから。 ね? |
小鈴 | えっ? |
花帆 | それじゃあ、また明日ね! |
小鈴 | えっ。 えっ? |
瑠璃乃 | さあ、気張っていこうねー! |
花帆 | ふーらわー! |
綴理 | さっきも、思ったけど。 ……ふふっ、なんかいいね、みんなが頑張ってるの。 |
小鈴 | あ、はい! そうですね! |
綴理 | みんなが、気持ちをひとつにして、頑張ってる。 スクールアイドルじゃない子たちも、スクールアイドルみたいだ。 |
綴理 | ……まぶしい。 |
小鈴 | ……綴理先輩は、これで前に進めそうですか? |
綴理 | ……心配してくれてる? |
小鈴 | してます! |
綴理 | そっか。 ありがと。 正直に言うとね、不安はあるよ。 怖くもある。 |
綴理 | 卒業どころじゃなく、明日どうなってるかも分からない…… それに、気づかされたから。 |
綴理 | でも……すずのおかげで、ボクはもう一つのことにも気づけたよ。 |
小鈴 | え、なんだろ。 徒町が、何を。 |
綴理 | ボクも、すずみたいに……目の前のことに、全力になろうって。 自分で、自分のために、頑張ってみようって。 |
小鈴 | そですかっ…… それなら徒町、何でもチャレンジしてきた甲斐がありました! |
綴理 | ん。 |
さやか | ここに、居たんですね。 |
綴理 | さや。 |
さやか | まずはお礼を。 わたしも……必要な機会をいただけました。 |
綴理 | ……聞いても、いいかな。 |
さやか | はい。 綴理先輩の思う通りに。 |
綴理 | うん。 さっきのさやの気持ちは……本当なんだよね。 |
さやか | はい。 先輩に幸せになってほしい気持ちも、 離れたくないわたしの気持ちも、本音です。 |
綴理 | ……ん。 ありがと。 |
小鈴 | うぅ~……さやか先輩、だったら……。 |
さやか | 小鈴さん、ごめんなさい。 ご迷惑をおかけしましたね。 |
小鈴 | 迷惑ってわけじゃないですけど! でも。 |
綴理 | ん、大丈夫だよ、すず。 ふたりに教えてもらえたことは、ボクにとって必要なことだったんだ。 |
綴理 | だから、そう。 |
綴理 | スクールアイドルでなくなっても、ボクは、ボクだ。 |
小鈴 | はい! |
さやか | たとえ蓮ノ空を卒業したとしても、スクールアイドルでなくなっても。 |
小鈴 | はい! 徒町にとって綴理先輩は、 スクールアイドルとか関係なく、大好きな先輩です! |
さやか | わたしの好きな、夕霧 綴理です。 |
慈 | ……眠れぬ子羊ちゃんがいるかな? |
綴理 | めぐ。 あのあと……るりとひめは、どうだった? |
慈 | あの場所で起きたことは言いっこなしだよ。 話自体はするつもりだけどね。 |
慈 | 綴理が創った場所は、そういうところでしょ。 |
綴理 | そっか……じゃあ、めぐは? |
慈 | んー? |
綴理 | めぐは、るりとひめの気持ちに、どう思った? |
慈 | 最近の綴理は聞きたがりだねー。 |
綴理 | あ、ごめん。 |
慈 | いいよいいよ。 私は綴理のこともかわいがってるから。 |
慈 | 私は、みんなと一緒にいるのも、悪くないとは思ってるけど。 でも、ずっとどこかに縛られてるのは嫌かな。 |
慈 | 変わっていく風景を見るのも、変わっていくみんなの姿を見るのも、 けっこう好きなんだよね。 |
慈 | 未来は明るいって、信じてるからさ。 |
綴理 | ……そっか。 |
慈 | ん。 そう。 |
慈 | ……で、手に持ってるそれは? |
綴理 | 進路調査票。 書いたんだ。 |
慈 | ついに。 |
綴理 | ……ねえ、めぐ。 ボクも、ちゃんと卒業するよ。 |
慈 | 前向きになった? |
綴理 | なった。 |
慈 | だったら、それがいちばんだ。 しょうがないから卒業しなきゃ、なんて答えは、私も好きじゃないからね。 |
慈 | 未来は勝ち取るものだよ☆ |
綴理 | ……そう、だね。 |
綴理 | ボクは今日、それを初めて出来た気がするから。 |
慈 | ……綴理は、振り回されっぱなしだったもんね。 |
綴理 | え? |
慈 | この3年間。 綴理は言わないけどさ、大変だったでしょ。 |
慈 | スクールアイドルがやりたくて入ってきたのに、 梢にラブライブ!だーって引っ張りまわされたり、 沙知先輩にDOLLCHESTRAに誘われたり。 |
綴理 | それは、楽しかったよ。 |
慈 | 私が怪我して、沙知先輩に置いてかれて、 梢にも気持ちを裏切られて。 |
綴理 | ……。 |
慈は微笑みながら語る。 | |
慈 | ごめんごめん。 そんな顔しないでよ。 ほら、きょうのビッグボイス選手権、その延長ってことでひとつ。 |
慈 | あのときは……手を離しちゃって、ごめんね。 |
慈 | でも、綴理はくじけず……少しずつ変わっていった。 前に向かって、そう、少しずつ。 |
慈 | わかるよ。 ずっと見てたから。 綴理を大好きなのが、後輩だけだと思うなよー? |
慈 | だから私が言いたいのは、自分でやりたいことができた綴理に、 おめでとうってことの方。 |
綴理 | ……ありがと。 |
慈 | 今回のイベント、良かったと思うよ。 ほんとにね。 綴理、こういうの向いてるんじゃない? |
慈 | オープンキャンパスの時も思ったけど…… 誰かのための場所を作ってあげる、みたいな。 |
綴理 | ボク、迷ってるんだ。 |
慈 | 綴理? |
綴理 | 卒業したあと、ボクは何をするんだろうって。 |
綴理 | スクールアイドルだった夕霧 綴理に…… ただひとりの夕霧 綴理にできることは、なんだろうって。 |
綴理 | ……場所を作るっていうのは、ちょっと思ったけど…… さちみたいにできるとは、思えない。 |
慈 | なるほど、なるほどねぃ。 私はちょっと違うと思うよ。 綴理の考えてること。 |
綴理 | え? |
慈 | 沙知先輩が作る場所と、綴理が作る場所はそもそも違う。 |
慈 | 修学旅行のときにちょろっと話したけどさ。 綴理は、沙知先輩にはなれないからね。 |
綴理 | うん。 今は、なんとなくわかる。 |
慈 | お、成長したじゃん。 |
慈 | 私もね、別にならなくてもいいと思うよ。 なんていうかな。 綴理は、みんなの気持ちを導くのが上手いんだよ。 |
綴理 | そうなのかな。 それは、まだなんとなくわからない。 |
慈 | ま、べつにわからなくてもいいんだよ。 やりたいことならやればいい、でしょ? |
慈 | それを今日できたばっかりなんだからさ。 |
綴理 | ! ……ボクの、やりたいこと。 |
綴理 | そっか。 どうなるとか、どうするとかじゃないんだね。 ボクの未来は、ボクがやりたいことで、決めるのか。 |
慈 | そういうこと。 |
慈 | キミがあの日、 スクールアイドルクラブのドアを叩いたときのように、ね。 |
綴理 | だったらーーあるよ。 やりたいこと。 |
綴理 | 場所を作るとかを考えたのも、そうだけど…… ボクは、誰かのきらめきを見るのが、好きなんだ。 |
綴理 | 頑張ろうとしている誰かの、きらめく瞬間を見ること。 それが……ボクのやりたいことだ。 |
慈 | ……あはは。 あははは! |
綴理 | なぜ笑う。 |
慈 | ごめんごめん、すっごく良いなと思ってさ。 |
慈 | ……あれだけダンスを評価されてきた綴理がやりたいことが、 綴理のパフォーマンスを活かすことじゃないんだもん。 |
綴理 | えっと? |
慈 | だから。 頑張れ、私の親友。 夕霧 綴理。 |
綴理 | ん。 |
慈 | で、実際、調査票にはなんて書いたの? |
綴理 | ……。 |
見たこともないようないたずらっぽい表情で綴理が言う。 | |
綴理 | 秘密。 |
さやか | 以上、DOLLCHESTRAでした! |
小鈴 | ラブライブ!北陸大会も、 蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブを、宜しくお願いします! |
綴理 | みんなありがとねー。 楽しかったよー。 |
小学生 | あ、あの!! |
小学生 | い、いまのすっごくかっこよかったです! |
綴理 | ん、それは良かった。 |
小学生 | そ、それで! あなたみたいなスクールアイドルには、どうやったらなれますか!? |
綴理 | ……。 |
綴理 | ……そうだなあ。 |
綴理 | ボクはね、いつかスクールアイドルの大会で、言われたことがあるんだ。 ボクはただの夕霧 綴理であって、スクールアイドルじゃないって。 |
綴理 | 今思うと……あれは半分合ってて、半分間違ってたと思うんだ。 |
小学生 | えっと……。 |
綴理 | 大丈夫、きっとキミはなれるよ、スクールアイドルに。 |
綴理 | なろうと思ったらいつでもなれる。 スクールアイドルは、特別なものじゃない。 |
綴理 | 必要なのは、キミのきらめきたい気持ちだけ。 |
綴理 | それさえあれば、この先の未来は、ずっと明るいはずだから。 |