第9話『みらくる・ざ・ゆにばーす!』
PART 6
慈 | まあまあ、るりのちゃん。 今は私がついてるでしょ? ね? |
瑠璃乃 | うん……。 |
慈 | しばらくママに会えなくてさみしいのは、わかるけど……。 あ、ほら! うちのママもお仕事で、おうちに帰ってくるの、 いっつも私が寝たあとだったりするし! |
瑠璃乃 | ……めぐみちゃんも、さみしい? |
慈 | ん~……。 私は、あんまり、かな? |
瑠璃乃 | やっぱり、めぐみちゃんはオトナ、だから……? |
慈 | っていうより~……。 あ、そうだ! だったら、いいもの見せてあげる! |
瑠璃乃 | なーに? |
慈 | ふふふ、じゃーん! |
瑠璃乃 | おお? お、おおお……! |
瑠璃乃 | ピカピカだ! |
慈 | きれいなネックレスでしょ。“ジュエリーアクセサリー”っていうんだよ。 ママが作ったの。 |
瑠璃乃 | すげー……! 魔法こうげき力とかあがりそう……! |
慈 | ……るりのちゃん、やっと笑ったね。 |
慈 | このむらさき色の宝石は、12月……私の生まれた月の、たんじょう石なんだ。 キラキラしてて、きれいで、みんなが夢中になっちゃうような。 私がいちばん好きな宝石なの。 |
慈 | うちのママはね、夜遅くまでがんばって、 こんなにきれいなものをいっぱい作ってるんだ。 ママががんばればがんばるほど、世界にきれいなものが増えてくんだよ。 |
慈 | だから、ちょっとぐらいさみしくても……ガマンできるの! こんなにすごいママは、私の自慢のママだから! |
慈 | るりのちゃんのママも、こんさるたんと? なんでしょ? たくさんの人が助けてもらってるって、うちのママに聞いたことあるよ。 |
慈 | だからね、私たちは外でがんばってるママたちのこと、応援してあげなきゃ! |
瑠璃乃 | ……うん。 |
瑠璃乃 | ……ね、ひょっとしてこれ、ラピスラズリ? |
慈 | るりのちゃん知ってるんだ? |
瑠璃乃 | うん。 ええっと……。 |
瑠璃乃 | ルリの名前……“瑠璃”って、ラピスラズリのことなんだって。 |
慈 | えー!? そうなの!? じゃあこれ、るりのちゃんってこと!? |
瑠璃乃 | ルリはこんな風に、ピカピカだったりはしにゃいけどぉ……。 |
慈 | ラピスラズリちゃん! |
瑠璃乃 | 外国人みてー! |
慈 | じゃあ、“るりちゃん”! |
慈 | ふふふ、いいじゃん、るりちゃん。 すっごくきれいな響き。 |
瑠璃乃 | う~……。 |
慈 | そっかぁ。 るりちゃんは、いつかママが作ったアクセサリーみたいに、 いろんな人を夢中にさせちゃうんだね。 |
瑠璃乃 | なんかあんまり、想像つかないけど~……。 |
瑠璃乃 | ルリは、めぐみちゃんみたいに、かわいくないし……。 |
慈 | ……ね、るりちゃん。 |
慈 | 宝石って、ただそれだけじゃだめなんだよ。 ママが言ってたんだ。 |
慈 | 石を支える土台とか、いしざ? っていうのがあって、 初めてミリョクをハッキするんだ、って。 |
慈 | ふたつの力が組み合わさったら、みんなが夢中になる。 きれいな宝石を、もっともっと輝かせることができる。 だから自分は、ジュエリーデザイナーが大好きなんだ、って。 |
慈 | だからね! 私といっしょなら、大丈夫だから! |
瑠璃乃 | ええっ!? |
慈 | プラチナみたいに輝く私と、ラピスラズリのるりちゃん! ふたりそろえば無敵! さいきょー! |
慈 | そしたらさ、もうずっと! 一生さみしくないよ! みんながるりちゃんのこと、大好きになるんだもん! |
慈 | 世界中が、私たちに夢中になっちゃうよ! |
瑠璃乃 | 世界中が……。 |
瑠璃乃 | それは……楽しそうかも! |
慈 | でしょ! |
瑠璃乃 | この、ピカピカなアクセサリーみたいに……。 |
慈 | うん! |
慈 | ふふっ……すごいでしょ? ママの作ったアクセサリーは。 |
瑠璃乃 | うん。 |
瑠璃乃 | ありがとうね、めぐみちゃん。 |
慈 | めぐちゃん。 |
瑠璃乃 | え? |
慈 | ふたり合わせてルリめぐ! |
慈 | だから、今度からそう呼んで。 |
瑠璃乃 | う、うん……。 |
瑠璃乃 | ルリも……ルリもがんばるからね。 “めぐちゃん”。 |
慈 | ふたりで、世界に羽ばたいていこ! |
瑠璃乃 | うんっ。 |
慈は机に寄りかかって、うたたねをしていた。 | |
瑠璃乃のノックの音で、ゆっくりと夢の中から帰ってくる。 | |
瑠璃乃 | めぐちゃん、めぐちゃん。 開けて。 ルリだよ~。 |
姫芽 | いや勝手に開けてますね~!? |
瑠璃乃 | まあ、一声はかけるけど、だいたいそーゆーもんだからね! |
姫芽 | さすがおふたりの関係性……。 心のドアのカギを共有してる~……! |
瑠璃乃 | あ、起きてた? |
慈 | ちょっと寝てた~。 |
慈 | なんか、昔の夢見た。 |
姫芽 | なんの夢ですか~? |
慈 | ん~~……。 かわいいるりちゃんが、かわいい夢。 |
姫芽 | え~!? さらにかわいく~!? |
慈 | あんなに寂しがりだったるりちゃんが、 今やソロでキャンプいっちゃうような子に育っちゃって…… 嬉しいやら寂しいやら……。 |
瑠璃乃 | めぐちゃん、まだ寝ぼけてる? |
慈 | 夢見てる最中なのは、間違いないかな。 |
瑠璃乃 | んじゃ、そんなドリーミンなめぐちゃんに、お出前。 抹茶ドーナッツいかがっすか~? |
慈 | わ、ありがと! |
姫芽 | めぐちゃんせんぱい、曲の進捗のほうはいかがですか~? |
慈 | そっちは順調。 やっぱ私はこれだわって感じ。 |
姫芽 | 作詞も作曲も、授業よりよっぽど難しいのに~……! |
慈 | 途中で切り替えてほんとによかったよ。 あのままじゃ危なかった。 梢みたいにお勉強しかできないやつになるところだった。 |
瑠璃乃 | こずパイは、作詞も作曲も勉強もできるんだよなあ……。 |
慈 | あー……。 だけど、ごめんね? 急に『私に曲作らせろー!』なんてワガママ言って。 |
慈 | 北陸大会でママを倒すためには、どうしても新しい曲が必要でさ。 |
姫芽 | いえいえ、ぜんぜん~! |
瑠璃乃 | もともと新しい曲作らなきゃーって話はしてたからねえ。 それに、今回のワガママはいいワガママだから、ヨシ! |
慈 | うーん私のるりちゃんが抹茶ドーナッツより甘い! |
瑠璃乃 | はいはい。 |
慈 | ま、梢と綴理も手伝ってくれてるし、いいものはできるはず! |
慈 | ていうか今回はね、もうやばいよ。 かなり自信ある。 私の3年間の集大成になりそう。 |
姫芽 | おお……! 全宇宙に響き渡るような超大作……!? |
慈 | イントロ流しただけで北陸大会突破するかも……。 |
姫芽 | いけちゃいますね~! |
瑠璃乃 | ムリだよ! 去年は突破したからって、調子に乗らないの! メッ! |
慈 | あはは、ごめんごめん。 |
慈 | でも、やっぱ勉強途中で打ち切ってよかったよ。 おかげで自分のやりたいことに、1000パーセント打ち込めるもん。 |
姫芽 | 楽しみです楽しみです~! |
姫芽 | アタシ、めぐちゃんせんぱいの作る曲、大好きなんですよ~。 なんていうか、気持ちがほんとウルトラストレートに伝わってきて~! |
慈 | それが私のウルトラいいところだからね! |
慈 | ていうか聞いて! |
慈 | 北陸大会の話をしたら、ママがさ! |
慈 | 『慈ちゃんってば、まだ反抗期なの~? 子供っぽーい☆』 |
慈 | とかなんとか言いやがって! 私のことほんとナメてる! |
姫芽 | 倒してやりましょう~! |
慈 | そうだよ、ぶっ飛ばしてやるんだよ! スクールアイドルの力で、あのわからずやを! |
瑠璃乃 | ……。 |
瑠璃乃 | ……でも、おばさんは、 一応めぐちゃんのことを心配してたりするんじゃないかなー、 なんて思ったりもするけど。 |
慈 | いいや違うね。 あの人は、いつだって自分のやることが正しいと思ってるだけ! |
慈 | 私を蓮ノ空に押し込んだのが、いい証拠だよ! |
慈 | そりゃ、ママの作ったアクセサリーはすごいから、 自信満々になるのもわかるけど! |
慈 | 経験も実績も今はまだ敵わないかもしれないけど! |
慈 | だからって、私の夢を奪わせたりはしないよ! これから一生、避けては通れない相手に、ここで完全勝利して……! |
慈 | 私は、自由をつかみ取る! そしてひとり暮らしもする! |
瑠璃乃 | めぐちゃん……。 |
姫芽 | ……どうしたんですか~? るりちゃんせんぱい。 なんだか、こないだから言いたいことがありそうな~……。 |
慈 | え? そうなの? |
瑠璃乃 | ルリは、ただ……。 |
慈 | ん? るりちゃん……? |
瑠璃乃 | ルリは……。 |
瑠璃乃 | ……あ、もおだめかも……。 |
姫芽 | るりちゃんせんぱい~!? |
慈 | は? |
慈 | えっ、うそでしょ? |
慈 | まさか、充電切れ……!? |
慈 | 私と一緒にいるのに!? |