第10話『Believe your love. Believe your live』

PART 4

瑠璃乃と吟子は大倉庫にこもっていた。(大倉庫は冷えるので、衣装は制服の上にコートを羽織っている)
資料をいろいろとひっくり返している瑠璃乃のそばに座って、話を聞いていた花帆。
花帆
じゃあ、蓮ノ空の過去の映像を見たりしてたんだ?
瑠璃乃
うん!
吟子
それに瑠璃乃先輩は、
メンバー全員のパートと振りを覚えようとしてるんです。
花帆
えっ、全員分!?
瑠璃乃
もしかしたらそれで、
誰かがミスってもカバーできるようになるかもだしねえ。
瑠璃乃
面白いんだよ、いろんな発見があって。
瑠璃乃
例えば梢先輩パートはバレエの動きがたくさん取り入れられていて、
手足をこんな風に伸ばす動作が多かったり。
瑠璃乃
実際やってみるとね、あ、こういうところが大変なんだな、ってわかったり。
瑠璃乃
よりその人の気持ちになって考えられるような気が……する!
花帆
瑠璃乃ちゃん……すごい!
瑠璃乃
やっぱねー、勝つにしても負けるにしても……あ、いや、
もちろん負けることは考えたくないんだけど。
瑠璃乃
みんなで笑って卒業できるように、
がんばりたいからね。
花帆
いい子……! 瑠璃乃ちゃん、さすが聖女……!
瑠璃乃
それ流行ってんの!?
吟子
あの、それじゃあ瑠璃乃先輩。
私は先に、失礼しますね。
瑠璃乃
はいはーい。
花帆
吟子ちゃんはどうするの?
吟子
私の心構えは一通りできたので、
あとは衣装の手直しに時間を割こうかと。
花帆
あ、それじゃあたしも一緒に行ってもいい?
吟子
それは、いいですけど……?
花帆
じゃあ、またね瑠璃乃ちゃーん!
瑠璃乃
ん。 ……花帆ちゃん。
瑠璃乃
花帆ちゃんも、根詰めすぎないよーにねえ。
花帆
……うん、ありがと!
花帆
さ、それじゃ……吟子ちゃんが本当の本当にラストだからね!
吟子
……なにが?
花帆
吟子ちゃんのお手伝いをして、その心に……触れる……!
吟子
心にって……。
吟子
それなんかやだ!
吟子
なんでそんなことしてるの?
花帆
梢センパイに言われたんだ。
あたしには足りないものがある、って。
花帆
でもね、みんなと話していくうちに、なんだかわかってきた気がする。
花帆
あたし、きっと本気じゃなかったんだ。
吟子
……なにそれ。
花帆
話を聞くとね、みんな、すっごくがんばってて。
自分のことも、今なにをすればいいかも、よくわかってて。
花帆
あたしは自分の強みとかもぜんぜんわからないし。
ただ目の前のことで、いっぱいいっぱいだったから……。
花帆
途中でいろいろ考えたけど、わかったんだ。
花帆
梢センパイはね、あたしに『自信』がないってことを、
気づかせてくれようとしてたんだよ、きっと。
吟子
ちょ、ちょっと。
どうしてそうなるんですか。
吟子
周りの人と、自分を比べたって、仕方ないじゃない。
吟子
スクールアイドルの私は『なんか』じゃないって言ったときに……
真っ先に喜んでくれたの、花帆先輩でしょ……。
花帆
でも、吟子ちゃんも見たでしょ。
花帆
瑞河は……泉さんはすごいんだよ。
大会に出場したら、嫌でも比べられちゃうんだから。
花帆
あたしね、参考にしようと思って、泉さんの動画もいっぱい見たんだ。
花帆
そうしたらね、中学までは東京の学校に通ってて……
経歴だけでも、ものすごいんだよ。
花帆
女優としてもいくつも賞を取ってて、フェンシングは全国一位。
プログラミングでも、コンテストに優勝してて……。
吟子
は……? めちゃくちゃな受賞歴……。
花帆
あの人、なんでもできちゃう人だったんだ。
あたしとは、ぜんぜん違うから……。
花帆
その分ね、もっともっとがんばらなくちゃ!
花帆
だって、そうじゃないと……。
吟子
……。
吟子
花帆先輩。 5分でいいから。
聞いて。
吟子
一緒に瑞河に行ってから……花帆先輩、なんだかおかしいよ。
吟子
梢先輩がどういうつもりで、
花帆先輩に『足りないものがある』って言ったのか。
吟子
私……なんとなく、わかる気がする。
花帆
えっ……?
吟子
私だけじゃなくて、たぶん、花帆先輩を見ていたら、みんな。
花帆
それは、やっぱりあたしが、まだまだ足りないから……。
これじゃあ、優勝、できないから……?
吟子
そうじゃなくて……。
吟子
とにかく、今の花帆先輩は、なんかヘン、だよ。
花帆
……ヘンだったのは、今までのあたしだよ。
花帆
あたし、ほんとは、もっと早くこうしてなきゃいけなかったんだ。
花帆
梢センパイを優勝させるって誓ったんだから、
もっとちゃんと、勝つための努力をするべきだったんだよ。
花帆
間違ってたのは、今までのあたし。
吟子
なんで……なんでそんなこと言うの!?
吟子
花帆先輩は私に、スクールアイドルのことを、いろいろと教えてくれて……
私はそれが、間違ってるなんて……。
花帆
でも! 梢センパイにとっては、今年が最後のラブライブ!なんだよ!
花帆
優勝できなきゃ……意味ないんだよ!
吟子
それは、そうかもしれないけど!
だからって、今までの時間を、間違ってたみたいに言わないでよ!
吟子
私は、楽しかったよ!
花帆
楽しいとか、楽しくないとかじゃないの!
花帆
あたし、約束したんだもん! 梢センパイを優勝させるって!
花帆
去年の1月から、もっと早く始めてたら、きっと、間に合ったのに!
吟子
そんなの、私は知らんもん!
吟子
花帆先輩が、泉さんみたいになるなんて、私はやだ!
そんなの花帆先輩らしくない!
花帆
あたしらしく、って……。
吟子
花帆先輩だったら、もっと、こう……!
吟子
みんなを花咲かせたいって……
それが花帆先輩のいつも言ってることなんじゃ、ないの!?
花帆
わかんないよ、吟子ちゃん……。
花帆
だって今のあたしの夢は、ラブライブ!優勝、だから……。
それ以外のことなんて、考えられないよ……。
吟子
だったら、なおさらだよ!
花帆先輩が、花帆先輩らしくない方法で勝っても、私には意味ないし!
花帆
えっ……?
吟子
花帆先輩の、だら!
花帆
なんで……?
花帆
最後のチャンスなんだよ……?
花帆
勝たなきゃ、意味ないのに……。
花帆
あたしが、間違ってるの……?
花帆
足りないものも、もう、わかんないよ……。
花帆
だって……あたし、今まで遊んでばっかり……。
花帆
梢センパイの泣いてるとこ……もう、見たくないだけなのに……。
花帆
えっ、あっ。
瑠璃乃
……ごめんね、ちょっと話、聞こえちゃった。
花帆
瑠璃乃ちゃん、どうして。
瑠璃乃
着替えて、ルリも練習しようかなーって思って。
瑠璃乃
えっと……あのね。
ルリも、花帆ちゃんの泣きそうな顔を見ると、悲しくなっちゃうよ。
花帆
瑠璃乃ちゃん……。
場所を移動して、ふたりで屋上に並んで話をするシーン。
花帆は先ほどよりは落ち着いて、瑠璃乃が花帆を慰めている。
花帆
……ごめんね、ヘンなところを見せちゃって。
花帆
もう、大丈夫だよ。
花帆
あたしね、吟子ちゃんとちょっとケンカしちゃったけど……でも、
めげないよ。 二年生だもん。
瑠璃乃
……。
花帆
……こんな気持ちじゃ、ラブライブ!に出ても、きっと、
優勝なんてできないよね。
花帆
あたしに足りないものって、やっぱり『自信』だったのかな……。
瑠璃乃
ルリは、花帆ちゃんの気持ちも、吟子ちゃんの気持ちもわかるよ。
瑠璃乃
花帆ちゃんにとって、
梢先輩はトクベツな人なんだろうし。
瑠璃乃
……だけど、それで今までの自分が間違ってるって言われたら、
吟子ちゃんはショックだろうってルリ思う。
花帆
でもあたしは……吟子ちゃんのことだって、
優勝させてあげたい……。
花帆
梢センパイだけじゃないよ。 みんな……。
去年、あんな風に、悔しがってたみんなのことだって……。
瑠璃乃
吟子ちゃんは花帆ちゃんのことも、大好きなんだよ。
それは……花帆ちゃんも、わかってるよね。
花帆
……うん。
花帆
けど……。
瑠璃乃
あ、そうだ。
瑠璃乃
ねえねえ、花帆ちゃん。
瑠璃乃
ルリね、これまでラブライブ!に出場した蓮ノ空の先輩の映像とか、
いっぱい見たり、たくさん集めてたんだけどさ。
花帆
う、うん。
瑠璃乃
それでね、
優勝した当時の蓮ノ空のことを知ってる人が、いたんだ。
瑠璃乃
もしよかったら、どういう風に優勝したのか、
明日、話を聞きに行ってみない?
花帆
どういう風に……?
瑠璃乃
ほら、自分が今どうすればいいかわからないってときには、
やっぱ先人の知恵をお借りするべきっしょ。
瑠璃乃
梢先輩の言ってた『足りないもの』の答えだって、見つかるかもだし。
瑠璃乃
ね? ひとりで悩むより、まずは行動!
それでだめなら、次の方法を考えよ。
瑠璃乃
花帆ちゃんが、入部したてのルリに、してくれたことだよ。
花帆
あ……。
花帆
……うん、わかった。
花帆
ごめんね、瑠璃乃ちゃん。
瑠璃乃
そこはお互い様でしょ。
瑠璃乃が微笑んで、花帆に拳を突き出す。
花帆はおずおずと、拳の先で瑠璃乃の拳にチョンと触れる。控えめなグータッチをするのだった。