第10話『Believe your love. Believe your live』

PART 5

待っている花帆。そこに吟子がやってくる。
花帆
……あ。
吟子
……う。
ちら、と吟子の様子を窺う花帆。すると吟子も花帆の方を横目に見ていた。目が合って、ふたりは思わず顔をそむける。
吟子
……私は、瑠璃乃先輩に呼ばれて。
花帆
そ、そっか……。
瑠璃乃
ふたりとも、お待たせ!
花帆
あ、うん。
吟子
おはようございます、瑠璃乃先輩。
笑顔で、ふたりの間に入る瑠璃乃。(※その間、瑠璃乃のバッテリーが減っている)
瑠璃乃
よしよし、じゃあ、いこっか。
吟子
はい。 ラブライブ!優勝当時の蓮ノ空を知ってる人に、ですね。
瑠璃乃
ん!
瑠璃乃
ほら、花帆ちゃんも。
花帆
……うん。
瑠璃乃
……ルリの充電、もってくれー。
三人の向かいに、寮母さんが座っているという体。
寮母
それで、私に当時の話を聞きたい、と。
花帆
当時を知ってる人って、寮母さんだったんだ……!?
吟子
あ、確かに……。
元気よく頭を下げる瑠璃乃。
瑠璃乃
はい、よろしくオネガイシマス!
寮母
では、先に理由を伺っても?
瑠璃乃
はい! 寮母さんは、
蓮ノ空でずっとスクールアイドルクラブを見守ってくれてました!
瑠璃乃
なので、優勝したときの話を聞ければ、
今、現在進行形で悩んでるメンバーのお悩みが解決するかなー、と!
瑠璃乃
ぶっちゃけアドバイスとかいただけたら、メッチャ嬉しいです!
寮母
……それはあまり、気が進みませんね。
瑠璃乃
……え!?
寮母
今の時代の伝統は、今の時代の子たちが作っていくものです。
寮母
あまり過去や部外者に引きずられるべきではない。
私はそう思っていますから。
瑠璃乃
や、あの、デモデモ!
寮母
他になければ、私には仕事がありますので。
寮母
皆さん、全国大会、がんばってください。
吟子
ちょっと待ってください!
花帆
吟子ちゃん!?
吟子
私たちは楽しようとか、ズルしようって考えてるわけじゃありません!
吟子
花帆先輩は……先輩のために、泣きそうになるぐらい、思い悩んでたんです!
お願いします! 私たちの話を、聞いてください!
花帆
吟子ちゃん……。
寮母
……。
そんな吟子を見下ろす寮母さん。その目を見返して、もう一度頭を下げる吟子。
吟子
……お願いします。
寮母
……確かに、あなたの言う通りですね。
寮母
少し、待っていてください。
シーン内場面経過。立ち去った後、戻ってきて、改めて目の前に座りなおす寮母。テーブルの上には、寮母が持ってきた紙箱があった。
寮母
『Dream Believers』。
ラブライブ!を優勝した時に披露した曲。
吟子
え?
寮母
あれは、当時のスクールアイドルクラブの集大成です。
そこに、あの子たちの想いが詰まっています。
寮母
それと、これを。
瑠璃乃
これって……スカーフ?
寮母
卒業の際、部長が寮に遺していったものです。
私が預かっているよりも、あなたたちが持っていたほうがいいでしょう。
寮母
それでは、今度こそ失礼しますね。
去ってゆく寮母。残された三人が息をつく。
吟子
えっと……。
瑠璃乃
ふぃ~……。 ルリは寿命が三日縮んだぁ……。
吟子
ご、ごめんなさい……。
頭が熱くなっちゃって……。
瑠璃乃
ううん、ぜんぜんヨシ。
かっこよかったよ。
瑠璃乃
ね、花帆ちゃん?
花帆
あ……うんっ。
吟子の想いに感動して、はにかむ花帆。
花帆
ありがと、吟子ちゃん。
あたし……嬉しかったよ。
吟子
……いえ。
私は、別に……。
吟子
それより、Dream Believersに
想いが詰まってるっていうのは、なんだろ……。
瑠璃乃
ううむ。 このスカーフも、いったい……。
花帆
Dream Believers……。
ずっと、蓮ノ空に歌い継がれてきた曲……。
吟子
いい曲、ですよね。
花帆
うん。 ……でも。
花帆
あれはやっぱり、夢を叶えた人たちの曲、なんだよ。
瑠璃乃
花帆ちゃん……?
花帆
勝つためには、がんばらなきゃいけなくて……。
花帆
努力はつらいもので、早起きは大変で、でも周りもみんながんばってて、
勝つって、そんな簡単なものじゃないから……。
花帆
嫌なことでも、やりたくないことでもやって、ちゃんと、
つらいことを乗り越えなくっちゃいけなくて……!
花帆
信じるだけじゃ、夢は、叶わないから。
吟子
それは……。
なにかを言いかけた吟子を制する瑠璃乃。花帆の言葉は、ここでは終わらなかった。
花帆
……それでも、あたし。
ついに泣いてしまう花帆。ぽろぽろと花帆の本音がこぼれる。
花帆
あの曲が好き……大好きだよ……。
花帆
もしも、梢センパイの夢が叶わなくても……。
楽しかった日々を、間違ってるなんて、思いたくない……。
花帆
梢センパイにも、そう思っててほしい……。
花帆
優勝できなかったから、ぜんぶ無駄になっちゃうなんて、
そんなの、やだ……!
花帆
泣いて、笑って、駆け抜けた毎日が……楽しかったから……!
ずっと、楽しかったから……!
瑠璃乃
……花帆ちゃん、見て。
花帆
え?
スカーフを広げてみる瑠璃乃。そこには、手書きで歌詞が描かれていた。
花帆
あ……。
吟子
『行こうよ! いまを頑張ることが楽しい!』
瑠璃乃
Dream Believersの、歌詞だ……。
花帆
……っ。
息を呑む花帆。
手の甲で涙を拭く。
やっぱり、自分の想いは間違ってなんてないのだ。歌詞に背中を押された花帆は、決意とともに、瑠璃乃と吟子を見やる。
花帆
あたしちょっと、梢センパイのところに、行ってくるね!
吟子
あ……私も!
窓際でガーベラの花を見つめている梢。
そこに花帆と吟子がやってくる。
花帆
梢センパイ。
あら、花帆。 それに、吟子さんも。
花帆
……あたし、わかりました。
わかったんです!
花帆
あたしに足りなかったもの!
聞かせてくれる? あなたの、答えを。
花帆
はい!
花帆
去年、ラブライブ!で負けたとき、あたし、すっごく悔しかったです。
でもそれは、負けたことじゃなくて。
花帆
ステージの上で、応援してくれる人の顔が、見えなかったこと。
花帆
あたしはずっと、楽しいからライブをやってました。
花帆
それは、初めて梢センパイのライブを見たときから、
ずっと、この胸にあった気持ち。
花帆
楽しいって気持ちが周りの人たちに伝わって、
みんなの笑顔が花咲いていく。
花帆
それが、あたしがスクールアイドルを続けていく理由……だったのに。
あたし、自分を、見失ってました。
花帆
勝つために……勝つんだから、
楽しんでる場合じゃないって、そう思い込んでた。
花帆
瑞河のライブを見たとき……すごく、不安になったんです。
花帆
あたしたち蓮ノ空がこれまで積み上げてきたそのすべてが、
無駄になっちゃうんじゃないか、って……。
花帆
でも……それは、違いますよね。
やってきたことが無駄になんて、ぜったいならないんです。
花帆
蓮ノ空の魅力は、誰にも負けません。
花帆
むしろ、この楽しいって気持ちを伝えることが、
今のあたしにできるいちばんの武器なんじゃないか、って!
花帆
勝とうって気持ちも大事だけど!
花帆
繋がって楽しむことができれば、何倍も、
何十倍も気持ちを届けられるんだって、わかったんです!
息を切らしながら喋る花帆を、梢が眩しいものを見るように微笑む。
よかった、花帆。
あなたには、思い出してほしかったの。
初めてスクールアイドルを始めたときの、その気持ちを。
今をがんばっているみんなの心に触れれば……
きっと、思い出してくれると思ったのよ。
『みんなを花咲かせたい』という、素敵な夢を。
あなたが一番最初に抱いた、そして私が一番好きなその思いを。
けれど……あなたががんばってくれているのは、私やみんなのためだから。
あなたに間違っているとは、言いたくなくて。
その役目は……どうやら、吟子さんが果たしてくれたみたいだけれど。
吟子
いえ、私は、そんな……。
恐縮する吟子。
そのまま花帆を向いて。
吟子
花帆先輩、昨日は、その……態度が悪くて、ごめんなさい。
吟子
でも……今の花帆先輩の言った言葉、とても……いいと思う。
花帆先輩らしくて……すごく、スクールアイドルっぽいと思うんだ。
吟子
……そういうところ、好きです。
花帆への想いがあふれて、つい素直に本音を吐き出してしまう吟子。
その言葉に、花帆もまた、感動する。
花帆
吟子ちゃん……!
花帆
だよね! あたしも、スクールアイドル大好きだもん!
吟子
あ……う、うん! そう、スクールアイドルが!
ねえ、ふたりとも。
ありがとう。
花帆
え?
改めてふたりに、この一年の感謝を伝えようと思って。
昔から、苦手だったわね、花帆は。
努力も、早起きも。
でも周りがみんながんばってるからって、なんとか続けてきた。
花帆
うっ、そ、それは……。
いいのよ。
私も、同じ気持ち。
ずっとそうだったから。
すべては、ラブライブ!に優勝するため。
楽しんでいる暇なんて、ないんだ、って。
ゆるゆると首を横に振る梢。
でもね、楽しかったの。 この1年間は、本当に楽しかった。
まるでずっと、夢の中にいるように……。
先輩として成長していく花帆と、
スリーズブーケに入ってがんばる吟子さんを見ていて、
私も、ようやくわかったの。
微笑む梢。
きっと私の夢は、ここにあったんだ、って。
梢の一年間の気持ちが、自分と同じだったことを知って、花帆は嬉しくなる。
花帆
梢センパイ……。
私の憧れたスクールアイドルが輝いていたのは、
ラブライブ!に優勝したからじゃない。
最高の仲間たちと、最高のステージに立っていたから。
この瞬間を全力で生きていたからこそ、彼女たちは輝いて見えたのよ。
同じ輝きを、花帆。
あなたに初めて出会ったとき、見つけたの。
そして今、吟子さん。
綴理や慈、さやかさんに、瑠璃乃さん。
小鈴さんと、姫芽さんの中にも、彼女たちだけの輝きを、見つけたわ。
吟子
私たちの、輝き……。
ええ。 だから、ありがとう。
吟子さん、あなたが蓮ノ空に来てくれて、ありがとう。
ありがとう、花帆。
あなたが私に花咲かせると言ってくれて、本当に、ありがとう。
私はなにももっていない人間では、なかった。
私には、日野下花帆が……かけがえのない仲間たちが、いてくれる。
みんな、今をひたむきに生きて、輝いている。
きっと、ずっとそうだったのね。
あの日見た綺麗な光の中にもう、私は立っていたの。
日々の中で、私の夢は、叶っていた。
みんなが、叶えてくれたのよ。
花帆
梢センパイ……!
そう思ってもらえて、嬉しいです、あたし!
花帆
ほんとに、すごく……!
吟子
梢先輩は……誰よりも、幸せになってほしいって、思います。
それだけのことをきっと、してきましたから。
花帆
梢センパイは、本当に、本当に、あたしの中ではずっと、
世界でいちばんのスクールアイドルですから!
だからね、吟子さん、花帆。 私の愛するこのスクールアイドルクラブが、
世界でいちばんの仲間たちだと証明するために。
叶えましょう、私たちの夢。 ラブライブ!優勝を。
今度こそ楽しみながら、みんなで、夢を叶えにいきましょう。
花帆&吟子
はい!
花帆
あ、そうだ! それで、みんなにも話したいことが!
花帆
ねえ、吟子ちゃん。
スカーフの話!
吟子
あ、うん、そうだね。
スカーフ?
花帆
ふっふっふ。
あたしたちの心をひとつに繋げるための……おまじない、ですよ!