第12話『明日の君に花束を』
PART 5
梢 | ごめんなさい。 |
花帆 | え……? |
吟子 | 梢先輩、今、なんて……。 |
梢 | ……できないの。 |
梢 | 私にはもう、曲が作れないの。 |
梢 | だから……スリーズブーケの曲は、あなたたちで作って頂戴。 |
花帆 | どうして、梢センパイ……! |
吟子 | そ、そうですよ。 どうしちゃったんですか。 |
吟子 | あの、まだまだスランプが続いてるんですか? だったら私、コンサートならいくらでもお付き合いしますから。 |
花帆 | あ、あたしも! もっといろんなアイディア出しますよ! 梢センパイが、元気になるようなアイディア! |
梢 | ……そうではないの。 |
梢 | 私の夢は……もう、叶ってしまったから。 曲を作る力も、情熱も、すべて抜けていってしまったの。 |
梢 | 私のスクールアイドル活動は、もう、終わってしまったんだわ。 |
花帆 | あっ。 |
吟子 | 梢先輩……。 |
梢 | 処分するものが、たくさんあるわね……。 |
梢 | ……それもそうね。 私の3年間はずっと、スクールアイドルクラブと一緒にあったんだから。 |
梢 | 本当にずっと……スクールアイドルのことばかり、考えていたわね。 |
梢 | 楽譜も、こんなにたくさん……。 |
梢 | 懐かしいわ。 |
梢 | これは、メンバーみんなに宛てて、考えていた曲ね。 アイディアばかり先行して、未完成だった曲も、たくさん。 |
梢 | 練習して、勉強して、へとへとになっても机に向かって、曲を考えて……。 よくやっていたわね、私も。 |
梢 | ……どうしてかしら。 |
梢 | 遥か遠くのゴールに向かって走り続ける時間は、果てしなくて…… ずっと、苦しかったはずなのに……。 |
梢 | 楽しかったのね……私は。 |
梢 | もう二度と、戻らない日々……。 |
綴理 | こず、いる? |
梢 | ……綴理? |
綴理 | ちょっと、聞きたいことがあって。 今作ってる曲のことで。 |
梢 | DOLLCHESTRAの、ユニット曲? |
綴理 | うん。 とりあえずできたんだけど、もっとよくしたいんだ。 |
綴理 | 聞いてくれる? こず。 |
梢 | ……ごめんなさい、綴理。 私は、あなたの力にはなれないわ。 |
綴理 | ……どうして? |
梢 | 私にはもう、曲が作れないの。 |
梢 | きっと、理由がなくなってしまったからだわ。 スクールアイドルを、する理由が。 |
梢 | ……って、こんな有様じゃ、スクールアイドルどころじゃないわね。 音楽だって、続けられるかどうか。 |
梢 | そういうわけでね、ごめんなさい。 |
綴理 | 待って、こず。 |
綴理 | こずは、他にやりたいことができたの? |
梢 | ……それは、どうかしらね。 |
梢 | とりあえず大学に進学して、そこで、 ゆっくりと決めてゆくことになるかしら。 |
綴理 | じゃあ、こずはスクールアイドルをやめたいの? |
梢 | 続けられるものなら、最後まで続けていたかったけれど……。 |
綴理 | それなのに、やめちゃうの? |
梢 | 花帆も吟子さんも、もう私がいなくても大丈夫。 ふたりならきっと、いい曲を作ってくれるわ。 |
梢 | 仕方がないの。 私の夢は、すべて叶ってしまったのだから。 |
梢 | ……情熱も一緒に、燃え尽きたのよ、きっと。 |
綴理 | こずがそう決めたのなら……ボクは、寂しいけど…… わかった、って言うよ。 |
綴理 | でも、そうじゃないのなら。 夢だって一緒だよ。 終わりを決めるのは、自分だけなんだ。 |
梢 | だけど、終わってしまったのよ、もう、ラブライブ!は。 |
梢 | 私たちはみんなで優勝した。 最高の仲間たちと築き上げたそれは、最高のステージだったわ。 |
梢 | ずっと待ち望んでいた瞬間は、もう過ぎたの! |
梢 | 終わったのよ……。 |
綴理 | ……。 |
綴理 | 聞いて、こず。 |
綴理 | みんなの気持ちを導くのがうまいって、めぐに言ってもらったんだ。 |
梢 | え? |
綴理 | 1月のラブライブ!で、思ったんだ。 こういうの、すごくいいな、って。 |
綴理 | みんなで一緒にがんばって。 目の前で、夢の形が花咲いて、きらめいていって。 |
綴理 | ボクはきっと、こういうのがしたかったんだ、ってわかったんだ。 |
綴理 | ボクは……。 |
綴理 | ……せ、先生になりたいんだ。 |
梢 | あなたが……? |
綴理 | ……うん。 口に出すのは、これが初めてだ。 |
綴理 | でも、誰かを支えて、そばにいてあげたい。 きらめきのそばに、寄り添っていたい。 |
梢 | それがあなたの……次の夢。 |
綴理 | うん。 |
梢 | ……誰にも言っていなかったのに。 どうして、私に? |
綴理 | それを打ち明けることが、寄り添うことだと思ったから。 |
綴理 | 寄り添いたかったんだ。 ずっとボクが大好きな、こずのきらめきに。 |
綴理 | ボクはスクールアイドルを卒業するけど。 続けていくよ。 |
綴理 | やりたいから。 熱をもった未完成な芸術を、いつまでも。 |
綴理 | こずは、どう? |
梢 | 私の、やりたいこと……。 |
梢 | 私にとってラブライブ!は、憧れで、目標で……。 だけど、終わってしまった……。 |
綴理 | それでも、なくならないよ。 憧れに向かった気持ちは。 |
綴理 | 胸の中に、残り続ける。 |
梢 | 私の中に、残る気持ち……? |
吟子 | むしろ、蓮ノ空に注目してもらっている今が、がんばり時かな、って。 |
梢 | ラブライブ!を終えてなお、新しい夢に向かって進む、 吟子さんのように……。 |
梢 | そして……。 |
花帆 | ーー次は、どんな夢を見ましょうか? |
梢 | ラブライブ!が終わっても…… また次のラブライブ!を、始めればいいの……? |
梢 | 私にとっての、また次のラブライブ!……。 |
梢 | それが、夢の先……。 |
梢 | 何度でも、あのステージを、これから先も……。 |
梢 | でも、そんな……そんな夢のようなことが、 本当に、できるのかしら……。 |
綴理 | こずは、できると思ったから、ラブライブ!優勝を目指したの? |
梢 | それは……。 |
綴理 | ボクだって思ってないよ。 自分に先生ができるなんて。 でも、やりたいんだ。 |
綴理 | この気持ちがあれば、きっと、未来はずっと明るいから。 |
梢 | ……でも、果てしないわ。 |
梢 | ラブライブ!優勝だって、3年間必死になって走り続けて、 ようやく叶えられた夢だったのに。 |
梢 | 独りで、また新しい夢に向かって、ゼロからのスタート、だなんて。 |
梢 | いったい、またどれほど努力すれば……。 |
綴理 | こずはひとりになんて、ならない。 |
綴理 | ボクと、離れたくないって、言ってくれた。 だから、一緒だよ。 これから先も。 いつまでも。 |
梢 | そう……そうなのね。 |
梢 | どんなに離れていても、この3年間が、私の背中を押してくれる……。 だったら、きっと……。 |
梢 | ありがとう、綴理。 あなたと同じ3年間を共に歩めたことは、私の誇りだわ。 |
綴理 | ボクもだよ。 |
梢 | 私、ちょっと行かなきゃいけないところが、あるみたい。 悪いけれど、曲の相談は、その後でね。 |
綴理 | うん。 |
綴理 | こず。 |
綴理 | ボクも知らなかったけど、どうやら、人生は長いらしい。 きみの人生に、幸あれ、だよ。 |
梢 | それなら、きっと大丈夫よ。 私にも、あなたにも、みんながいるんだもの。 |