第12話『明日の君に花束を』
PART 6
花帆 | だから、もうちょっとハッピーな感じに……! |
吟子 | 具体的に言ってくれないと、わかんないよ! |
花帆 | 梢センパイなら、これで伝わるのに! |
吟子 | その梢先輩に戻ってきてもらうために、 私たちでたたき台を作ろうとしてるんでしょー! |
梢 | ふたりとも。 |
吟子 | あっ。 |
花帆 | こ、梢センパイ! |
梢 | ごめんなさい! |
花帆&吟子 | えっ。 |
梢 | さっきは、情けないことを言ってしまって……。 |
梢 | 先輩として、あまりにも無責任だったわね……。 |
花帆 | あの……。 でも……。 |
梢 | ……私ね、ラブライブ!を優勝した先のことを、 なにも考えていなかったの。 |
梢 | おかしいでしょう? まだ高校三年生なのに、 もうなにもかも終わってしまったような気でいたなんて。 |
梢 | でも、本当に……他にやりたいことが、思いつかなくて。 そのためだけに、生きてきたから……。 |
梢 | だから、曲が作れなくなった。 そうじゃないかって……。 |
吟子 | 梢先輩……。 |
梢 | でもね。 |
梢 | 私自身、忘れていたの。 花帆に言った言葉。 |
花帆 | あたしに……? |
梢 | 最高のライブができたのなら、 次はそれを上回るライブをしなければならない。 |
梢 | そう、言ったわね。 |
梢 | だから、ラブライブ!を超えるステージを、これから何度でも築いてゆく。 それが私の、新しい夢。 |
花帆 | そんなの……大変じゃないですか!? |
梢 | そうね、きっとすごく大変だわ。 |
梢 | 今度は何年かかるか、わからない。 また何度も、くじけるかもしれない。 |
梢 | それでも……やってみたいの。 |
梢 | 私は、自分のことがあまり好きではなかったわ。 |
梢 | 人と自分を比べて、劣っている部分ばかりを見てしまっていた。 できないのは自分の努力が足りないからだと、そう自分を叱ってばかりいた。 |
梢 | これから先も、きっと、変われない。 この気質は、性分だから。 |
梢 | だけどね。 |
梢 | ラブライブ!を優勝して、立ち止まって、振り返ったその道は…… よくこんなに長い道のりを歩いてきたものだと、自分を、 褒めてあげてもいいかなって、思えたの。 |
梢 | そこで、ようやくわかったわ。 |
梢 | 私は夢を叶えるために努力した自分のことを、好きになれたんだ、って。 |
梢 | だからきっと、これからも夢を追いかけてゆくわ。 私に胸を張れるような私で、いたいから。 |
梢 | あなたたちの、おかげだわ。 |
花帆 | よかったですね、梢センパイ。 本当に……。 |
花帆 | ……本当に……。 |
吟子 | 花帆先輩……? |
花帆 | あ、ううん。 |
花帆 | なんでもないよ! 大丈夫! |
花帆 | 必ず、いい曲を作りましょうね! |
梢 | ええ、104期スリーズブーケ、最後の曲を。 |
吟子 | そして、きっと。 梢先輩の新しい夢へと続く、最初の曲……ですね。 |
花帆 | また梢センパイがスランプになったら、いつでもあたしが手を取って、 駆け落ちしちゃいますからね! |
梢 | もう、大丈夫よ花帆。 だから、ありがとう。 |
梢 | ねえ、ふたりとも、外すのを手伝ってくれる? |
梢 | みんなで、向かいましょう。 次の、夢へ。 |
梢 | そう言ったばかりなのに……。 今度は私が体調を崩すなんて……。 |
梢 | くしゅん……。 |
花帆 | わわわわわ、梢センパイ~……。 |
吟子 | 二月の卯辰山で夜を明かしたら、そりゃ風邪引きますって……。 |
花帆 | あたしの風邪がうつったんじゃ……! 梢センパイ、あたしにまたうつしたら治りますか!? |
吟子 | そんなの迷信だから! |
梢 | うう、ごめんなさいね……。 |
梢 | またあなたたちに心配をかけて……。 だんだん、自分が許せなくなってきたわ……。 |
花帆 | ああっ、梢センパイがまた! |
吟子 | また!? 風邪ぐらい誰でも引きますよ! |
吟子 | ていうか、おふたりが夜中に出かけてたのをごまかしたの、 私なんですからね……。 |
梢 | うう、それもごめんなさい……。 |
吟子 | もう卒業間近なのに……ようやくわかってきました、梢先輩のこと。 |
花帆 | どういうところ? |
吟子 | なんか……けっこう、めんどくさいところあるんだな、って。 |
梢 | う。 |
花帆 | それ吟子ちゃんが言う!? |
吟子 | 私は自覚してますけど! 花帆先輩だってそういうとこありますからね!? |
梢 | 大丈夫よ、少し休んだら、すぐにまた作業に戻るから……。 |
吟子 | だめですよ。 休むときはちゃんと休まなくっちゃ。 ただの風邪もお年寄りには万病の始まりなんですから。 |
梢 | お年寄り……。 |
花帆 | あはは。 |
花帆 | それじゃあさ、吟子ちゃん。 ここで曲作りしない? |
吟子 | そうですね。 見張りながら作業しましょう。 |
花帆 | 梢センパイ、おなかすいたら、いつでも言ってくださいね~? 花帆がりんご剥きますから、りんご。 |
吟子 | え? 花帆先輩できるの? |
花帆 | ウサギの形に剥けるよ! それだけはいっぱい練習したから! |
吟子 | へー……。 |
花帆 | あ、信じてない! 今から購買部でりんご買ってくるからね! |
吟子 | もう開いてないし、いくらなんでも売ってないでしょ……。 |
慈 | 梢~、風邪引いたんだって~? お見舞いに来てやったぞ~。 |
瑠璃乃 | めぐちゃん、病人がいるのにそんな騒がしくするのは~! |
花帆 | わ、慈センパイ、瑠璃乃ちゃん。 |
吟子 | 他にも、まだ誰か……。 |
綴理 | こず、さや連れてきたよ。 食べたいものがあったら、言ってね。 |
さやか | お応えできないリクエストもあるとは思いますが…… なるべく、がんばります! |
姫芽 | めぐちゃんせんぱい、るりちゃんせんぱい~。 頼まれたお見舞いの品、買ってきましたよ~。 |
小鈴 | たまたま街にいたので、よかったです! って、わぁ、人いっぱい!? |
吟子 | あ、りんご。 |
花帆 | 姫芽ちゃんナイスだよ! |
姫芽 | えへへ~? アタシやりましたぁ~? |
慈 | いや頼んだの私だけど! |
小鈴 | 徒町からは、特上のラムネを差し上げます! |
瑠璃乃 | ラムネに上物とかあるんだ……。 |
花帆 | さやかちゃん、ナイフ貸して! |
さやか | え、ええ? あの……わたしが、剥きますよ……? |
花帆 | できるってば~! |
綴理 | ふふ。 |
梢 | まったくもう……。 |
梢 | 騒がしい道のりだったわね……。 本当に。 |