第13話『いずれ会う約束の桜』

PART 2

イメージとしては、直前のシーンの続き。
梢の部屋に、花帆と呼び出された吟子が駆けつけてくる。
花帆
それでは、どこにいきましょうか、梢センパイ!
目を輝かせてワクワクしている花帆。
吟子も声を弾ませている。
吟子
卒業アルバムに残すための写真を撮りに行く、ですよね。
花帆
そうじゃないよ、吟子ちゃん!
吟子
ええっ? そういう話だったでしょ?
花帆
梢センパイがアルバムを振り返ったときに、
もう楽しくて楽しくて仕方なくて、
花帆
おひさま色の笑顔になっちゃうような写真を、撮りに行くんだよ!
吟子
言い方を変えただけ!
花帆
意気込みだよ!
ふたりのやり取りに、梢がくすくすと笑う。
なんだか、私よりも花帆のほうがいっぱいやりたいことがありそうね。
花帆
そりゃもう……!
例えば、乙宗 梢三十六景とか……。
なにそれ。
花帆
日本各地、津々浦々の名所をバックに、
雅やかな梢センパイを写真に収めるんです。
花帆
そうすればほら、日本全国のどこにいっても、
梢センパイとの思い出が胸に蘇ってきて……!
スケールが大きい話ね……。
思わずうっとりする吟子。
吟子
……ええかもしれん。
笑いながら否定する梢。
吟子さんまで。
花帆
はっ、でも違いますよ。 これは梢センパイのやりたいことを
叶えるための写真撮影ツアーなんですから!
花帆
あたしのわがままはいつも叶えてもらっているんですから!
きょうからは、梢センパイのやりたいことをやりましょう!
そうね。
日本全国よりは、少しスケールダウンしちゃうかもしれないけれど。
花帆
本州ですか!? 北陸ですか!?
蓮ノ空がいいわ。
花帆
えっ?
翌日、三人で制服に着替えて、部室に集合。
梢と花帆、それに吟子が集まっている。
花帆がコソコソと吟子に耳打ち。
花帆
えっと……。 吟子ちゃん、もしかして南の島とかに
『ハスノソーラ』っていうリゾートがあったりしないよね……?
吟子
ないと思うけど……。
でも、いいのかな。お出かけとかじゃなくて。
それじゃあ、まずは部室で撮ってもらえる?
花帆
あ、はい。 もちろん!
パシャパシャと花帆がカメラで梢を写す。
それは、あまりにもいつもの梢すぎて、本当にこれでいいのかなあ、と花帆は思う。
ほら、今度は花帆や、吟子さんも一緒に。
吟子
は、はい。
吟子
あ、でも。
先輩方とこういう日常生活を撮る機会って、意外と少なかったかも……?
花帆
言われてみれば、確かに!
そうなのよね。
同学年同士で撮ったりしているのはよく見るのだけれど、
吟子さんが私に『写真撮りましょう』と言ってきたりは、
しないでしょう?
吟子
うっ。 それはなんだか、恐れ多かったので……!
苦笑いする梢。
もう。
花帆
じゃあ、ふたりとも、はいチーズ!
部室は、こんなところかしら。
吟子
もういいんですか?
ひとまずは、ね。
それじゃあ、次は廊下で撮りましょう。
花帆
もしかして……ほんとに、蓮ノ空ぜんぶ撮るんですか!?
ええ。 制服だけじゃなくて、練習着姿も。
それに、学校の周りだってね。
私の3年間が満たされていたのは、蓮ノ空のおかげよ。
だから、朝も昼も夕暮れも。 そのすべてを、収めておきたいの。
花帆と吟子、顔を見合わせて、ようやく梢の真意がわかる。
それからふたりはニッコリと笑って、大きくうなずいた。
もちろん……誰よりも大切な、あなたたちと一緒に、ね。
花帆&吟子
はい!
点描。
中庭でピースする、制服姿の梢と花帆。
大倉庫、たくさんの賞状、トロフィーの前で写真を撮る三人。
屋上で練習着姿でプランクする花帆。それを見て笑っている梢と吟子。
そして学校が夕暮れに包まれる風景だけの絵が挟まる。
梢が机に座り、夕焼けの差し込む窓の外を眺めている。
花帆と吟子は、少し離れたところから、そんな梢を写真に写す。
花帆
はい、チーズ!
パシャリ、と梢の姿を写真に収める花帆。
感嘆のため息をつき、うっとりする花帆。
花帆
はぁ……。 窓の外を眺める梢センパイも、絵になりますねぇ~……。
大げさに褒められた梢は、じゃっかん恥ずかしそう。
ふふ、ありがと。
吟子
あ、ほら。
じゃあ花帆先輩も、隣に座ってみたら?
花帆
でもここ、三年生の教室だよ?
吟子
いいからいいから。
花帆
えへへ。 それでは失礼して……。
花帆からカメラを受け取った吟子が、隣同士に座る花帆と梢を、写真にパシャリ。
花帆
こうしてると、まるでクラスメイトみたいですね。
くすっと笑った後、梢はまるで同級生の慈に話しかけるような気安さで、花帆に話しかける。
そうね。
もう、花帆。 また教科書忘れたの?
花帆
うぇっ?
その様子をファインダー越しに眺めながら、笑う吟子。
吟子
ふふっ。
仕方ないわね……。 見せてあげるから、ほら。
花帆
ありがと梢ちゃん! 大好き!
笑いながら吟子を促す花帆。
花帆
ほら、吟子ちゃんも。
吟子
う、うん。
吟子はじゃっかん緊張しつつも、梢を挟んで花帆の反対側に座る。
吟子
コホン、それでは僭越ながら……。
しかし、どうしてもたどたどしい。
吟子
か、花帆ってば、また……こ、梢に。 お世話されて……。
花帆と梢から、笑顔でダメ出しが入る。
花帆
んんー?
吟子。 なにか言った?
吟子
もう!
そ、そんなんじゃ花帆、梢が卒業しちゃったら、どうするの!
花帆
えー? あたしと梢ちゃんと吟子ちゃんは、同学年だもーん。
みんなで一緒に卒業するんだよ~?
ふふ、そうね。
花帆、吟子。
吟子
だからって、いつまでも梢に甘えてちゃ。
花帆
いいんだよ。
あたしは、いつまでも梢ちゃんと吟子ちゃんに、甘えるんだもん~。
ニコニコとそう言った後で、なんとなく寂しい雰囲気が漂う。
花帆
……いつまでも。
噛み締めるようにつぶやく花帆。
思わずしんみりとする吟子。その空気を変えるように、梢が立ち上がる。
さ。
きょうはこんなところかしら。
ふたりとも、付き合ってくれてありがとうね。
笑いながら言う吟子。
吟子
あ、いえ、そんな。
こちらこそです。
もしこんな風にあなたたちと一緒に授業を受けることができたら、
きっと楽しかったでしょうね。
吟子
はい。 私も、そう思います。
梢先輩が同学年だったら、なんだか自信なくしちゃいそうですけど。
なにを言っているの。私のほうこそ、 強力なライバルの出現に、
気を引き締めなくっちゃいけなくなるわ。
吟子
……花帆先輩は。
そうね、花帆は。
吟子
あんまり、変わらないかもですね。
花帆
……え?
ええ。
きっと今と同じように、仲良くなれたでしょうね。
花帆
梢センパイ……。
卒業を意識してまた元気のなくなっていた花帆が、空元気を見せる。
花帆
もう、それどういう意味ですか~?
吟子
誰とでも仲良くなれて、羨ましいな~、って話です。
そうそう。 私たちは、少し人見知りしてしまうから。
憧れだわ。
花帆
入学初日から声をかけて、大親友になっちゃうんですからね~?
吟子
あはは。
花帆
あはは。
ふふふ。
三人で笑い合う。
梢もこの雰囲気を去りがたいと思い、続けて提案する。
ねえ。
日本全国を、というわけにはいかないけれど。
明日から、どうかしら。
なるべく、金沢の名所を、回ってみる?
途端に目を輝かせる花帆。
花帆
え!?
花帆
いいんですか!?
ただし、乙宗 梢三十六景はだめよ?
スリーズブーケ三十六景なら、喜んで付き合うわ。
花帆
! はい!
花帆
吟子ちゃん、金沢の名所だって!
吟子
う、うん! 任せて! きょうの夜には、リストアップしとくね!
花帆
わーい!
明日からも、お出かけだ~!
ニッコニコな花帆。そんな花帆を優しい目で眺める梢。
吟子がこっそりと梢に聞く。
吟子
……でも、あの、梢先輩。
それって、花帆先輩のために……?
違うわ。
あくまでも、私のためよ。
私は……花帆の笑顔が、大好きなの。
吟子
……それは。
つられて、優しく微笑む吟子。
吟子
わかります。 だって、私もですから。
やっぱり私たち、いいお友達になれたかもしれないわね。
恥ずかしそうに梢の名前を呼ぶ吟子。
吟子
今からでも遅くありませんよ。 ……梢。
ふふっ、吟子。
楽しいお出かけにしましょうね。
吟子
はい!