第2話『Dream Match!』
PART 7
小鈴 | 今日は、姫芽ちゃんは何するの? |
姫芽 | 何だか昨日の疲れが抜けなくて~。 今日はダラダラしようかな~と。 |
吟子 | イベントが終わったばっかりだし、今日くらいはいいんじゃない? 三年生も、修学旅行で羽を伸ばしているんだから。 |
姫芽 | そう言うおふたりは、今日はどうするの~? |
吟子 | 私は、昨日使った衣装の手当てかな。 部分洗いしたり、傷んだ部分を繕ったり。 |
吟子 | 次に着る予定はないけど、せっかく作ったんだしね。 |
小鈴 | 徒町は自主練するよー! さやか先輩が帰ってきたときに、少しでもおっきくなってたいから! |
姫芽 | じゃ、行ってらっしゃ~い。 |
泉 | 浮かない顔をしているね。 |
泉 | 何か、よくないことでもあったのかな? |
姫芽 | イベントの運営からメールが来てね~。 |
姫芽 | 昨日のこと、めちゃくちゃ褒めてくれてて…… イベントの成功は蓮ノ空のおかげだとまで言ってもらえて……。 |
姫芽 | 実は、お誘いまでもらっちゃったんだよね~。 |
姫芽 | もしアタシがよければ、 これからもイベントスタッフとして手伝ってほしいって。 |
泉 | ほう? |
泉 | あなたの夢は、最高の形で叶ったというわけだ。 |
姫芽 | そうだね~……。 |
泉 | なのに、なんであなたはそんな顔をしているんだろう。 |
姫芽 | ……何だか、ピンときてないんだよね~。 |
姫芽 | もっと、やった~! 叶った~! って気分になると思ってたんだけど、ぜんぜんそんな感じがなくてさ~……。 |
姫芽 | 全力も出し切っちゃったし、後はもう、 コレの繰り返しになるのかな~って……。 |
姫芽 | あ、でもね、全部終わるまではすごい充実してたんだよ~? これはほんと~。 |
姫芽 | 準備のとき、いずみんに助けてもらったりしたのも、 アタシとしてはすごくグッとくるものがあってね~。 |
泉 | 私は、自分がやりたいようにやっただけだよ。 |
泉 | 私には自分の夢というものがないからね。 だから、情熱を持っている人がとても輝いて見える。 |
泉 | そういう人が夢を叶えるとき、その手伝いをしていると、私も、 夢を叶えるという気持ちを体験させてもらえる気がしているんだ。 |
泉 | だから、あれは私のためでもあるのさ。 |
姫芽 | いずみんって、そういう感じだったんだね~……。 だから、ずっとセラスちゃんのそばにいたんだ~。 |
泉 | そう……セラスは輝いていたよ。 |
泉 | あの夢と向き合う日々は、私にとって、 これ以上はないほど充実した時間だった。 |
姫芽 | あの瑞蓮祭とラブライブ!のプレーオフは、 アタシにとっても忘れられないものなんだよね~。 |
姫芽 | めっちゃ熱い気持ちになれたからさ~。 |
姫芽 | でも、今回だって、終わるまでは熱い気持ちになれてたんだけどな~。 |
泉 | 確かに、昨日までのあなたは輝いて見えていたよ。 |
姫芽 | やっぱり、すぐそういうこと言う~。 |
泉 | 私は思ったことを素直に言っただけだよ。 それ以上の含みはないさ。 |
泉 | ……さて、これであなたの夢は叶ったわけだが。 これからどうするんだい? |
泉 | 次は、花帆先輩の夢に乗っかるのかな? |
姫芽 | ああ、そっか~……。 |
姫芽 | 夢が叶うって、そういうことでもあるんだね~……。 アタシの夢は、もう終わっちゃったんだ……。 |
姫芽 | はぁ……かほせんぱいの夢かぁ……。 |
泉 | 何か、抵抗感でも? |
姫芽 | ……アタシ、ちょっと怖かったんだよね~。 |
泉 | 怖かったというと? |
姫芽 | かほせんぱいの夢を叶えようとすると、 ついでに自分の夢も叶っちゃいそうな気がしててさ~。 |
姫芽 | だけど、もう、アタシの夢は終わっちゃったし……。 |
姫芽 | これからは、かほせんぱいの夢を叶えるために、 お手伝いをしていくのもいいのかもしれないね~……。 |
泉 | いいんじゃないかな、他人の夢でも。 |
姫芽 | いずみんは、そうしてきたんだもんね~……。 アタシ、今ならいずみんの言ってることも、ちょっとは分かる気がする……。 |
泉 | あなたと私では、少し違うんだけどね。 |
泉 | 少なくとも、昨日までのあなたは自分の夢と情熱を持っていただろう? |
泉 | 私は違うんだ。 今までただの一度も、そういう気持ちになれたことがない。 |
泉 | ……きっと私は、最初から何か大事なものが欠けた人間なんだ。 |
姫芽 | いずみん……。 |
泉 | だけど、そんな私でも、誰かの夢に乗せてもらっているときだけは、 情熱を分けてもらえる。 |
泉 | 欠けていた何かが埋まって、自分も血が通った人間なんだと思えるのさ。 |
泉 | あのプレーオフが、そういう瞬間だった。 そしてーー。 |
泉 | あなたの夢に乗せてもらった時間も、 私にとってはかけがえのないものだったんだよ。 |
姫芽 | そっか~……。 |
泉 | あなたも、昨日までは充実していたと言っていたね? 私にとっても、あなたと競った日々は心躍るものだった。 |
姫芽 | 確かに、アレは楽しかったよね~……。 |
姫芽 | 本気と本気でぶつかり合って、そしたら、 アタシが思ってたよりすごいものを生み出せ、て……? |
姫芽 | あれ……? |
泉 | ん? どうしたのかな? |
姫芽 | ちょっと待って……本気と本気を……? |
姫芽 | そうすれば……そこから? |
姫芽 | るりちゃんせんぱいも、言ってた……。 何度もぶつかった、って……。 ってことは、もしかして、コレも同じこと……? |
姫芽 | だったら……。 |
泉 | 姫芽ちゃん? |
姫芽 | アタシ、まだやってないことがある! |
姫芽 | ちょっと東京行ってくる! |
泉 | え? |
泉 | 東京……? |
姫芽 | これからかほせんぱいとバトってくる! |
泉 | ちょっと待て……なんでそうなる……? |
姫芽 | アタシはまだ、かほせんぱいに自分の気持ちを…… 自分の夢をぶつけてない! |
姫芽 | 本気の夢をぶつけ合ったら、何かすごいものが生まれるかもしれない! いずみんとぶつかり合ったときみたいに! そしたらーー。 |
姫芽 | アタシの夢は、まだ終わらないかも! |
泉 | ふっ……。 |
泉 | ふふっ、あはははっ! |
泉 | ……面白いな、姫芽ちゃんは。 |
泉 | ふふ、仲間ができるかと思ったんだが……。 |
泉 | でも、それでいい……いや、それがいい。 それでこそ、私が見込んだ蓮ノ空というものさ。 |