第3話『星に憧れて、花は舞う』
PART 7
花帆 | おつかれさま、さやかちゃん。 頑張ってるねえ。 |
さやか | はい、おかげさまで。 |
さやか | 花帆さん。 |
花帆 | んー? |
さやか | 改めて、謝らせてください。 |
さやか | 花帆さんが、体調を崩すようなことまでして見つけ出した機会を…… あなたのいないところで、ふいにしてしまった。 |
花帆 | だからさやかちゃんのせいじゃないって。 あたしが居れば大丈夫だったなんてこともないし。 |
さやか | そんなことはっ。 |
さやか | ではなくて。 それでも前を向いていられるのは全部、花帆さんのおかげです。 |
さやか | わたしはただお礼を言いたかっただけです。 |
花帆 | ……。 あたしのおかげ、かあ。 |
さやか | はい。 それで、今度は何を思いついたんですか? |
花帆 | ……思いついたら、乗ってくれる? |
さやか | はい、もちろん。 |
花帆 | あたしの思い付きは、必ずいい方向に転がる、って? |
さやか | はい。 |
花帆は振り返って、屈託のない笑みで答える。 | |
花帆 | あたしね。 ラブライブ!出ることにするよ。 |
さやか | ーーえ? |
花帆 | ラブライブ!は夢を叶えられる場所。 |
花帆 | あそこにもう一度立って、あたしはあたしの夢をもう一度、 あの舞台で叫んでくる。 |
花帆 | そうしたらきっと、ステージを提供してくれる人も居ると思うんだ。 今回のロックフェスみたいにさ。 |
この人は何を言ってるんだ……? とまだ呆然としたさやか。 | |
さやか | ……。 |
花帆 | だからさやかちゃんには、この先のみんなを引っ張ってほしくて。 |
花帆 | 今回一緒にみんなのお手伝いをして、気づいたの。 みんなそれぞれ、どうしたら花咲けるのか、分かってるんだって。 |
花帆 | だったら、うん。 |
花帆 | あたしの夢がみんなの夢になってくれた以上、 この花咲くステージそのものに対してあたしがやることは、 もう終わってるんだ。 |
さやか | ちょ、ちょっと待ってください! |
さやか | それは、まるで、 花帆さんは花咲くステージには出ないと言っているような……! |
花帆 | そうだよ。 |
さやか | っ! |
花帆 | あたしの夢は、もうみんなの夢。 |
花帆 | みんなの夢が叶うように、 あたしはあたしにできることがしたい。 |
花帆 | それが、あたしがラブライブ!に出ることなんだ。 だから……花咲くステージは吟子ちゃんたちに……来年に、託すよ。 |
さやか | 花帆さん! ラブライブ!に出たところで、事態はそう変わりません……! |
さやか | それでステージを手に入れられるというのなら、 もうラブライブ!を優勝した花帆さんが、 声をかければ達成できているはずです! |
花帆 | それは……。 |
花帆 | だったら、だったらラブライブ!じゃなくてもいい。 来年のロックフェスでも、すごいミュージカルでも、なんでもいい。 |
花帆 | あたしたちを知らない人のところで、あたしの全力をぶつけて、 あたしの夢を助けてくれる人を探すから。 |
花帆 | とにかくあたしが、みんなのためにやれることをする。 じゃなきゃ、夢には、届かないんだ。 |
さやか | 花帆さん!! |
さやか | 言っていたじゃないですか! 違うものを目指すからこそ、ラブライブ!には出ないと! |
さやか | ひとりではなく、みんなで叶えるんだって! そこにあなたが居なかったらなんの意味もない! |
花帆 | 分かってる。 分かってるよ。 |
花帆 | でも自分で届かないんだったら、せめてそのためにできることを、 やりたいよ……。 |
さやか | だったらまた考えましょうよ! 花帆さんならきっと良い案を思いつくはずです! |
さやか | そうしたらわたしがいつだってあなたを支えてーー。 |
花帆 | だから……それだよ!! |
花帆 | あたしの思いつきが必ず良い方になるなんて……! |
台詞とともに映る花帆の顔。ぽろぽろと涙がこぼれる。 | |
花帆 | とっくに、あたし自身が信じられないよぉ……!! |
さやか | あっ……。 |
花帆 | あたしの夢は、あたしだけの夢じゃないって分かった! 嬉しかった! もう十分! |
花帆 | あたしを支えるっていうなら……言うこと聞いてよさやかちゃん!! |
さやか | そう、ですね。 |
さやか | わたしは確かに、あなたの言うことを聞いていただけでした。 あなたをこんな風にしたのは、わたしだ。 |
花帆、乱暴に自分の目元を拭う。 | |
花帆 | っ……! なに! そうやって、全部自分でしょいこめば良いみたいなっ……! |
さやか | 花帆さんだってそうじゃないですか……! 自分の夢を自分で叶える以上にやりたいことってなんなんですか!! |
花帆 | みんなが花咲くことだよ!! |
花帆 | スクールアイドルクラブに入ってから、 ずっとみんなで花咲きたいって思ってた。 |
花帆 | その想いはどんどん強くなって……それで、思ったんだ。 みんなが花咲いてくれるなら、あたしはその中心に居なくたっていい。 |
花帆 | 夢のお手伝いができるなら、もう十分だよ。 ちゃんと、考えたんだ。 |
花帆 | あたしがやる。 さやかちゃんにはやらせない。 さやかちゃんが花咲いてくれなかったら、なんの意味もない。 |
さやか | ……。 |
花帆がさやかを睨むと、さやかもまた花帆を睨み返す。 | |
花帆 | 分かって、くれた? |
さやか | でもっ……。 |
花帆 | 分かってよ……お願い。 あたしは……あたしは。 |
花帆 | あたしは……これが精いっぱいだよ。 “本当のあたし”は。 |
さやか | っ……!! |
さやか | ……ごめん、なさい。 |
花帆 | ……。 |
痛い沈黙がここにきて、さやかはばっと背を向ける。 | |
さやか | 失礼しますっ……。 |
花帆 | さやかちゃん……。 |
さやか | わたし……わたしは。 |
さやか | 花帆さんが笑ってくれていないと……花咲くなんてとてもできません……。 |
花帆 | っ……! |
目元を拭い、さやかは立ち去る。 | |
さやか | あなたのために何もできない、できなかった自分が…… あまりに情けないです……。 |
花帆 | そんなこと……言われたって……。 |
さやか | わたしは……何をやっていたんでしょうね。 |
さやか | 花帆さんを支えると、口ではそう言っておきながら……。 |
さやか | わたしたちがどうすればいいのか、 その全てを花帆さんに全部乗せてしまっていた。 |
さやか | 潰れるに決まってるじゃないですか……そんなの……。 わたしは、なんのために……。 |
さやか | 花帆さんの言ってることは間違ってない。 |
さやか | わたしたちの全力に、共感してくれる人を探す。 |
さやか | ロックフェスと同じように、ステージを使わせてもらえるような場所、 大会……そういうところに打って出て……。 |
さやか | 考えろ、これすらできなかったら、 いよいよ部長の資格なんてどこにもない……。 |
瑠璃乃 | ここに居たかー。 |
さやか | 瑠璃乃、さん。 |
瑠璃乃 | 探したよもう。 花帆ちゃんもそうだけど、全然返信くれないんだもん。 |
さやか | すみません、気が付かなくて……。 |
瑠璃乃 | 良いって良いって。 こうして見つけられたんだしね。 |
瑠璃乃 | ただ……なんかあったの? |
さやか | はい……。 |
瑠璃乃 | さやかちゃんと花帆ちゃんがダブル部長であるよーに、 ルリにもふたりを支えるってゆー役割があるからね。 |
瑠璃乃 | 何があったか聞かせてよ。 花帆ちゃんは何も言ってくれなくて。 |
さやか | 花帆さんにも会ったんですね。 ……まあその、ちょっと方向性の違いで。 |
瑠璃乃 | 解散の危機みたいな言い方しないでよ。 |
さやか | ……。 |
瑠璃乃 | え、まじ??? |
さやか | 解散、というわけではないのですが。 まあ、どうにかしますよ。 |
瑠璃乃 | どうにかしますよじゃなくて。 |
瑠璃乃 | ……さやかちゃん。 聞かせて。 ルリが支えたいみんなには、部長も入ってるんだよ。 |
さやか | ……瑠璃乃さんは優しいですからね。 |
さやか | でも……だからこそ。 瑠璃乃さんにはちょっと、これは聞いてほしくありません。 |
瑠璃乃 | えっ……。 |
さやか | わたしがやるべきこと、やりたいこと。 その辺りの整理は、済みました。 |
さやか | だから大丈夫です。 信じて任せてください。 頼ることを思いついたら、頼りますから。 |
瑠璃乃 | ……。 |
瑠璃乃 | 花帆ちゃんにも、同じこと言われたよ。 瑠璃乃ちゃんは優しいからって。 |
さやか | ……そう、ですか。 |
瑠璃乃 | ルリって、そんなに頼りないかなあ? |
さやか | っ、そういうわけでは! ただ、聞かせてしまったら瑠璃乃さんには無理をさせると……。 |
瑠璃乃 | だからそれが……! |
小鈴 | さやかせんぱーい!!! |
さやか | 小鈴さん。 |
瑠璃乃 | みんな。 |
小鈴 | は! なんかお話し中でしたか! |
さやか | いえ……。 |
瑠璃乃 | なにか……いいことあったかな? |
小鈴 | あ、はい! 徒町も、徒町の思うことをしようって。 |
小鈴 | それで……今回のイベントについて、姫芽ちゃんたちに相談したんです。 |
小鈴 | やっぱり、寂しいなって思ってて。 みんなで頑張ったこのロックフェスが、チャレンジ失敗! で終わっちゃうのは。 |
姫芽 | ども~。 小鈴ちゃんに触発された組で~す。 敗北の原因を調べるのは、いちゲーマーとしてもあるべき姿~。 |
吟子 | さやか先輩は、最初から間違ってたって言ってましたけど…… そんなことはありませんでしたよ。 |
さやか | それは……どういう。 |
セラス | 準備が足りなかったっていうのはそうかもしれませんけど…… それはそれとして、 わたしたちはわたしたちのやりたいことを全部ちゃんと乗せました。 |
セラス | それがまったく通じなかったら、やっぱり落ち込むなあと思いまして。 |
セラス | 本当にそうかな、っていうのは、 一度ちゃんと調べておきたかったといいますか。 |
小鈴 | だから……聞いてみました! |
小鈴 | 蓮ノ空の感想はほとんどなかったけど…… ロックフェス行ったって人をSNSで見つけて……かたっぱしから、 徒町たちどうだった!? って!! |
瑠璃乃 | ええええ!? |
セラス | めちゃくちゃ、大変だった。 |
さやか | それは、そうでしょう……。 |
泉 | その割にみんな、機嫌は良いけどね。 |
小鈴 | だって、意味はありました!! ちゃんと、楽しかったって言ってくれた人も居たんです!! |
小鈴 | 徒町たちにとって、なんの価値もないイベントじゃあ、無かったんです! ちゃんとメッセージももらえました! |
小鈴 | この人も、この人も、この人も。 これからの蓮ノ空、興味出たかもって! |
さやか | ……小鈴さん。 |
吟子 | どうでしょうか、さやか先輩。 私は小鈴と一緒に色んな人と言葉を交わして、次も頑張ろうって思えました。 |
さやか | ……。 |
小鈴 | あう……やっぱり意味なかったでしょうか……。 |
さやか | いえ、いいえ。 |
さやか | わたしも……次、頑張ろうって、思えました。 そして……次、頑張ろうって、思ってほしい……。 |
泉 | さやか先輩? もしかして何か……。 |
さやか | 大事なのは、気持ち。 それを、最初からわたしは知っていたはずです。 |
さやか | なのに、行動や結果ばかりを評価して…… わたしは、肝心なことを忘れていました。 |
瑠璃乃 | ……。 |
さやか | すみません、みなさん。 ちょっと、花帆さんのところに行ってきます! |
瑠璃乃 | あ……うん。 さやかちゃん。 |
さやか | はい。 |
瑠璃乃 | がんばって。 |
さやか | はい。 |