第3話『星に憧れて、花は舞う』
PART 6
急転直下、盛り上がりから一気に突き落とされるシーン。 | |
大盛り上がりの会場の熱狂が響き渡る。 | |
客席から見た会場が映ったあと、カメラは舞台袖に控えるスクールアイドルクラブへ移る。 | |
小鈴が目を見張って、思わずと言った感じに言葉を零す。 | |
小鈴 | す、すごい熱狂……! |
吟子 | これが、舞台袖から見るロックフェス、なんだね……。 |
吟子もまた同様に周囲を見やる中、セラスが自分の胸に手を当ててひとつ息を吐く。緊張をほぐすイメージ。 | |
セラス | ふぅ……いよいよだね、花ちゃん。 |
花帆も真剣な表情。準備に何もできなかった分、ここで頑張るぞといった感じ。 | |
花帆 | だね、気合入れないと。 |
さやか | 大丈夫です、今のわたしたちは超ロックです。 きっと最高のステージにできますよ! |
そこでさやかは、改めて全体に向けて伝える。 | |
さやか | ……トークの時間は、ほとんど取れないと思った方がいいでしょう。 前後の演者さんとの間隔は、かなり切り詰められています。 |
それでも大丈夫だよね、と言外に問う花帆 | |
花帆 | さやかちゃん……。 |
それでも大丈夫だよね、と言外に問う花帆に、さやかはひとつ頷く。 | |
さやか | だからこそ、短い時間で最高のロックと想いを届けましょう。 ロックファンのみなさんに。 |
花帆が改めて全体へ。 | |
花帆 | うん! ……みんな! |
花帆 | 必ずここを、みんなで花咲くステージの第一歩にしようね!! 絶対、ステージを手に入れるぞー! |
花帆が円陣の最初の手を差し出す。 | |
さやか、瑠璃乃、吟子、小鈴、姫芽、泉、セラスが手を重ねる。 | |
花帆 | 今この瞬間を大切に! Bloom the smile!! |
全員 | Bloom the Dream!! |
ざっと、光の中に全員が駆け出していく――。 | |
いざロックフェスでのライブ。意気込む花帆。 | |
だが会場は静まりかえっており、思っていたのと違う空気感に花帆は戸惑いながら声をあげる。 | |
花帆 | みんなー! あたしたちは、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブです! |
花帆 | え、えーっと、こーんにーちはー! |
頑張ってマイクを会場に向けるも、ざわざわと戸惑うだけの会場。 | |
瑠璃乃 | か、花帆ちゃん、始めよう! |
花帆 | あ、あの、あたしたちはこの日のロックフェスのために、 たっくさん準備してきました! |
花帆 | みんなに楽しんでもらえるものになってると思うからーー。 |
泉 | ……まずいな、時間が。 |
その泉の声を拾ったさやかは、花帆に声をかける。 | |
さやか | 花帆さん! 始めましょう! |
花帆 | え、でも! |
さやかは険しい表情。思ったよりも空気がアウェーだ。 | |
さやか | やるしか、ありません……! |
そう聞いて目を見張った花帆が、もう一度客席を見渡す。 | |
花帆 | と、とにかく! それじゃあ行くよ、みんなに届くように作ったあたしたちのライブーー!! |
ちょっと険しい表情になりながら、吟子と姫芽が頷き合う。 | |
吟子 | これは……。 |
ちょっと険しい表情になりながら、吟子と姫芽が頷き合う。 | |
姫芽 | やるしかないっしょ~。 |
敗北を悟ったようなさやかの表情を映して〆。 | |
さやか | まずい、ですね……。 |
敗北を噛み締めるパート。なぜ失敗したのかを明文化する。 | |
全員 | ……。 |
全員の暗いムードを見渡して、居た堪れなくなった小鈴が口を開く。 | |
小鈴 | や、やっぱり、ロックの壁は高かった……でしょうか! 悔しいですけど、次をっ……。 |
悔しそうに俯く吟子が呟く。 | |
吟子 | 次が……あるなら、だけど……。 |
空気を変えることすらできない、と凹む小鈴。 | |
小鈴 | ぁう。 |
セラス | どうして、だめだったのかな。 けっこう……自信、あったんだけど……。 |
セラス | ……評判とかは、どうですか。 |
すがるようなセラスの視線に、スマホを見ていた姫芽がゆるゆると首を振る。 | |
姫芽 | SNSじゃ……なにも。 無反応は一周回って、逆に堪えるね~……。 |
完全にダメだった、とばかりに肩を落とす全員。 | |
吟子 | そっか。 なんにも、か……。 |
その中で、さやかは自分の責任の重さを実感して口を開く。 | |
さやか | ……わたしたちは結局、 ステージを手にすることばかりを考えてしまっていたのでしょうか。 |
一瞬、しんと静まり返る部屋。 | |
その空気を察し、慌てて瑠璃乃が口を挟む。 | |
瑠璃乃 | そ、そんなことはないよ! 確かにステージの権利のためにって、頑張ったけど…… |
瑠璃乃 | それ以上に、ロックファンのみんなに届きますようにって、 一生懸命ルリたちの想いを詰め込んだじゃん! |
瑠璃乃 | それが間違ってたなんて……! |
そこまで言ってから、瑠璃乃は気づく。相手のことを考えられていなかった、と。 | |
瑠璃乃 | 間違ってた、わけじゃないけど……。 |
泉も考え込みながら、瑠璃乃を一瞥。 | |
泉 | なにか、分かったのかな。 瑠璃乃先輩。 |
瑠璃乃は小さく頷き、そのまま俯いてぽつぽつ語り出す。 | |
瑠璃乃 | うん……こんな風に後出しで言うの、情けないんだけど。 |
瑠璃乃 | ロックファンに届く曲を作ろう、ってさ。 そうやって、ロックを勉強してきた気になってたけど…… |
瑠璃乃 | 会場に集まったロックファンの子たちが、何を求めてたのか…… みんなの気持ちをちゃんと考えられてなかった。 |
さやかもまた、呆然と口にする。 | |
さやか | ……みんなの気持ち。 |
一方で泉は瑠璃乃の言葉を咀嚼し、自分なりの答えを出す。 | |
泉 | スクールアイドルのライブとは違うのだと、もう少し考えるべきだった。 来てくれたひとりひとりに、届けられる状態になっていなかった、か。 |
ロックフェスの光景を思い出す花帆。 | |
花帆 | あれは……そっか、そういうことなんだね。 |
全員 | ……。 |
さやか | 来てくれた、ひとりひとり……。 |
瑠璃乃 | ごめん……もっと早く気づけてれば……。 |
瑠璃乃の謝罪に、さやかはゆっくりと首を振る。 | |
さやか | ……いえ、分かる話です。 ……最初から、間違っていたというわけですか。 |
小鈴 | さやか先輩……。 |
さやか | すみません。 わたしが言ったんです。 |
さやか | ロックファンのみなさんに届くライブをするためには、 ロックを知るべきだと……それだけを。 |
さやか | 最初から間違った方向に導いてしまっていた……。 |
姫芽 | や、そんな、さやかせんぱいのせいってわけじゃ……。 |
姫芽のフォローに、力なくさやかは首を振る。 | |
さやか | ……きっと、足りなかったんです。 |
さやか | そもそも、わたしたちの望みを、そのひとりひとりにちゃんと 伝えられるところまで……もっともっと、準備をするべきだった。 |
さやか | 至りませんでした……。 |
花帆がそっとさやかの背中に手を添える。 | |
花帆 | 背負いこまないでよ、さやかちゃん。 |
振り向くさやかの表情は、険しい。 | |
さやか | でも! ……花帆さんがようやく見つけたチャンスだったのに! |
風邪をひいた花帆に、自分が花帆の代わりを務めると誓った時を思い出し、顔を覆うさやか。 | |
さやか | 体調を崩すまでして、探して探して、頑張って…… わたしは、あなたにあの時、託されたのに……。 |
そんなさやかを見て、花帆はしばらく黙る。 | |
花帆 | ……。 |
そして、切り替えるように笑顔を作る。 | |
花帆 | しょーがない!! |
花帆がさやかから手を離し、腰に手を当てる。 | |
花帆 | 結果が出たことに落ち込んでてもしょーがないよ! ね、小鈴ちゃん! |
小鈴も空気を変えるように強く頷く。さやかの声は弱弱しい。 | |
小鈴 | へ、あ、はい! 次のチャレンジがあるなら、頑張りたいです! |
さやか | ……ですが。 |
花帆 | 小鈴ちゃんの言う通り、 失敗したらまたチャレンジだよ、さやかちゃん! |
瑠璃乃 | できるの? |
花帆が笑顔でピースサイン。 | |
花帆 | だーいじょーぶ! 実はもう、秘策を思いつきかけてたり? |
その笑顔に、花帆ならまだなんとかしてくれるんじゃないかと周囲の期待がふくらんでいく。 | |
セラス | 花ちゃん……。 |
期待を滲ませて問うセラスと吟子に、花帆は胸を張る。 | |
吟子 | 本当に? |
花帆 | ふふん、それがあたし!! |
その光景を見て、さやかは小さく息を吐く。自分が何を考えても無駄だとばかりに。花帆のことが眩しく映る。 | |
さやか | ……! そう、ですか。 本当に、あなたという人は。 |
さやか | どうか、お願いします。 花帆さんが頼りです。 |
花帆 | うん! 任せてよ。 それじゃあ暗い空気はおしまい! |
花帆 | またこれからに向けて頑張ろう! おー! |
一瞬、みんなが呆ける。花帆は空気を変えるようにもう一度。 | |
花帆 | おー! |
さやか&瑠璃乃&吟子&小鈴&姫芽&泉&セラス | おー!! |
日が落ちたあと。部室で書類仕事をするさやかと、部室の入り口に立っている帰り際の小鈴。 | |
小鈴 | さやか先輩、まだ帰らないんですか? |
さやかは自分の目の前の書類から目を離すことなく、小鈴に答える。 | |
さやか | 先に帰っていただいて大丈夫ですよ。 この時期とはいえ、夜は暗いですから。 |
小鈴 | でも、最近頑張りすぎじゃないですか? いつもだって凄いのに。 |
そう言われてさやかは自分の今の気持ちを整理するように、ぽつりと零す。 | |
さやか | なんというか、仕事していたいんです。 |
一度気持ちを口に出すと、ぽろぽろと零れ落ちていく本音。 | |
さやか | やっぱり、わたしには花帆さんのような、 人を引っ張る力はありませんでした。 |
さやか | でも、だからこそ支える方で役に立ちたいんです。 |
小鈴 | じゃ、じゃあ徒町もやりたいです! |
さやかは小鈴の力強さに助けられたように、微笑む。 | |
さやか | ふふふっ、ありがとうございます。 お気持ちだけ受け取っておきますよ。 部長らしいことをさせてください。 |
さやか | 小鈴さんも、小鈴さんらしく頑張ってくれることが…… わたしにとっては、一番ですから。 |
小鈴はそう言われて、自分らしく頑張れることを考える。今回のこと、これからのこと。 | |
小鈴 | う、うーん……。 |
どうしたんだ、と首を傾げるさやか | |
さやか | 小鈴さん? |
に、小鈴は顔をあげる。心は決まった。 | |
小鈴 | ……分かりました! じゃあ、徒町も徒町の思うことを全力でやってみます! |
さやか | ? |
さやか | はい、頑張ってください。 花帆さん同様…… みなさんがやりたいことをやってくれることが、一番嬉しいです。 |
気合を入れて出て行く小鈴。小鈴はさやかの今の頑張りを心配しているが、それは表には出さない。小鈴なりにさやかが喜ぶことをしようと思っている。 | |
小鈴 | よーっし、頑張るぞー! ちぇすとー! |
切り替えるように、今度こそ前向きに書類仕事に向かうさやか。 | |
さやか | わたしもわたしにできることを探さなくては。 |
と、そこで部室の扉がノックされる音。 | |
さやかが顔を上げると、部室の扉の前に、今度は花帆が立っていた。 | |
さやか | ……花帆さん? |
花帆 | ちょっと、いいかな。 |
はにかむ花帆で締め。 |