第4話『太陽を目指した背中』

PART 7

小鈴
ふたりともー! 聞いて聞いてー!!
小鈴
徒町ね、やりたいこと、気づいたんだ!
吟子
……あのねえ。
姫芽
まあまあ、いいじゃん吟子ちゃん。
小鈴
あれ!? 徒町なにかよくないことを……!?
吟子
分かってはいたけど……
やっぱり、あのときはまだやりたいことなかったんだ……?
小鈴
はぅ!?
……嘘ついてごめんなさい~~!!
吟子
べつにそれは良いよ。
……それで? やりたいこと、教えてよ。
小鈴
……広実さんと、スクールアイドルになるための特訓をしてて……思ったんだ。
小鈴
徒町は、スクールアイドルになりたいと思った人なら、
誰でもなれるようなステージが作りたいって。
吟子
へえ……。
姫芽
なりたいと思ったらなれるものだったとしても……
誰かに「きみもなれる」って言ってもらえると、やっぱり違うよね。
小鈴
うん!
自分なんて、って思わずに……居てほしいから。
姫芽
あはは。 それを小鈴ちゃんが言うかね~。
小鈴
え!? なんかダメだった!?
やっぱり徒町ごときの発案じゃ……!
吟子
自分なんてって、思ってほしくないんじゃないの?
小鈴
そ、それとこれとは……っ。
吟子
良いと思うよ。 小鈴の提案。
姫芽
うんうん。 胸張って小鈴ちゃ~ん。
小鈴
ああもう、徒町は広実さんの結果を聞いてきます!
姫芽
はいはい。 楽しみにしてるからね~。
吟子
ん。 またあとで。
小鈴
うん! 広実さんと、この話もしたいんだ!
小鈴
広実さーん! ……あれ?
小鈴
おかしいな……いつもこの辺に……広実さーん!?
小鈴
あれえ……? 広実さん、どこぉ……?
小鈴
へ……? やめた……?
れいかさん
ええ……広実ちゃんは、昨日付けでバイトをやめたのよ。
小鈴
な、なんで!? まさか、クビに!?
れいかさん
いいえ、広実ちゃんが自分から……少し前に聞いて、私も驚いたんだけど。
でも、その。
れいかさん
やめること、小鈴ちゃんには言わないで、って頼まれてて。
小鈴
ど、どうして……?
小鈴
す、スクールアイドルになれるから!?
れいかさん
スクールアイドルに、なれる……?
そういう話は聞いてないけど……。
小鈴
れいかさん! 広実さんがどこにいるか、分かりますか!?
れいかさん
……。
小鈴
お願いします!!
れいかさん
たぶんだけど――。
広実の友達
なー、聞いてるのか、広実―。
広実
あ、ああ。
広実の友達
今日は随分テンション低いな。 最近めちゃくちゃ明るかったのに。
広実
……そうだな。
小鈴
広実さん!!!
広実
師匠……!? な、なんでここが。
小鈴
れいかさんに、聞いて。
広実
ちっ……恨むぞれいかさん……。
広実の友達
その子……スクールアイドルの子じゃん。
ようやく知り合いになった的な?
小鈴
この人たちは……スクールアイドルの仲間、とか……?
広実
いや、その。
小鈴
試験は……試験は、どうなったの?
広実
っ……。
広実
……わりい。
小鈴
え……?
広実
試験なんて……ないんだ。
小鈴
ふぇ……?
広実の友達
えっと? 事情はよく分からないけど……
広実はスクールアイドルじゃないよ?
小鈴
で、でも!
通ってる学校のスクールアイドルになるために、今日は入部試験が――。
広実の友達
いや……。
広実の友達
あたしら、学校通ってないよ……?
小鈴
へ……?
小鈴
どういうこと……?
分かんない、わけ分かんないよ!!
広実
……本当に、悪かった。
小鈴
謝られても困るよ!!
広実
アタシは……去年の末に、学校をやめた。
広実
入部試験があって、それに落ちて……まあ、そのあとかな。
色々あって、やめたんだ。
小鈴
……じゃあ、今日の……入部試験、は?
広実
そんなものは……最初からなかったんだ。
小鈴
なんで。
広実
ん?
小鈴
なんで、そんな嘘を……。
広実
……浅ましい未練、かな。
広実
スクールアイドルが好きだった。
広実
師匠みたいに立派なスクールアイドルになりたかった。
広実
今年も試験を受けるつもりだった。
でもまあ……バカなことやらかして、アタシは学校をやめた。
広実
だから……
師匠に一緒にスクールアイドルやろうって言われて、夢を、見ちまった。
広実
今試験があったとしたら、アタシは合格できる。
広実
そう思えたら……
アタシはスクールアイドルに未練がなくなるんじゃないかって。
小鈴
……未練、だなんて。
広実
おかげで……すっきりしたよ。 ありがとう、師匠。
身勝手だけどさ。
広実
これがスクールアイドルと向き合う最後の時間だって思ってたから。
その最後が、師匠との特訓で……アタシは……本当に良かった。
広実
人生で一番幸せだった。
広実
黙って消えて、悪いとも思ってる。
ただ……もう関わるべきじゃないと思った。
広実
アタシは師匠を騙してた……合わせる顔もない。
ほんとは……だからバイトもやめたんだ。
小鈴
そんなっ……徒町はまだっ……広実さんと、やりたいことが……。
広実
スクールアイドルは、なろうと思えば誰だってなれる。
アタシもすげえ好きな言葉だ。
広実
でも……アタシはスクールアイドルにはなれない。
広実
アタシは、師匠と同じステージに立つことはできない。
学校行ってねえんだから。
小鈴
ぁ……。
小鈴
っ!
広実
アタシはもう……徒町小鈴と関わるつもりは、ない。
忘れてくれ、アタシみてえなヤツのことは。
小鈴
そんな、そんなのっ……!
小鈴
徒町は、何も知らなかった……。
何も知らずに、自分だけ浮かれて……。
吟子
こんなとこに居た。
小鈴
へ……?
なんで、吟子ちゃんが……。
吟子
ぴょんぴょん跳ねて喜んで帰ってくるか、背中丸めてめちゃくちゃしょげて
帰ってくるかの二択だと思ってたのに、そもそも帰ってこないんだもん。
吟子
れいかさんにも会ったよ。
広実さん、バイトやめたんだって?
小鈴
……ん。
吟子
……何があったらあのテンションから一瞬でこうなるの。
小鈴
学校、行ってなかったんだって。
入部試験があるっていうのも……嘘だった。
吟子
……!
小鈴
なのに、スクールアイドルになろうなんて言って……
徒町ばっかりはしゃいでた。
吟子
……なんなん、それ。
小鈴
え……?
吟子
なんなんそれ。 小鈴のこと騙してたってこと!?
小鈴
だ、騙してたっていうか。
吟子
だってそうじゃん! あれだけ小鈴がやる気になって!
あの人のこと、スクールアイドルになれるって認めて!
吟子
なのにずっと裏では小鈴のことバカにしてたってこと!?
小鈴
……バカにしてたわけじゃ、ないと。
吟子
そんなの信じられないでしょ!だって意味分からないじゃん!
吟子
学校辞めてたって言えばいいだけの話に小鈴を付き合わせて、
小鈴はあんなに一生懸命あの人のために時間かけて、やることも考えて、
吟子
スクールアイドルになれたら良いなって本気で思って――!
小鈴
それは、いいの。
吟子
良いわけないじゃん!
どれだけ小鈴が試験に本気だったか――!
小鈴
吟子ちゃん……。
吟子
……そんな顔しないでよ。
なんで私ばっかり怒ってるの。
小鈴
……ほんとに、良いの。
広実さんが黙ってたのは……徒町のためだから。
小鈴
教える方の徒町が成長できるから……そのために、広実さんは。
吟子
……。
吟子
……ごめん。 勝手なこと、言ったかも。
小鈴
ううん。
……吟子ちゃんが徒町のために怒ってくれてるのは、分かるから。
吟子
私はただ…………はあ。
吟子
……小鈴は、何に凹んでるの?
騙されてたこと? 頑張りが無駄だったこと?
小鈴
徒町は、騙されやすいと、思うし。
頑張りも、そのままうまくいくことのが珍しい。
吟子
……じゃあ、なんで?
小鈴
徒町を騙してたから、もう関わらないって……そう言われた。
吟子
小鈴は、騙されてたことよりも、拒まれた方が、凹むんだね。
小鈴
徒町は……もし入部試験に落ちたとしても、一緒にステージやりたかった。
小鈴
その学校にとって広実さんが合格じゃなくても、
徒町にとっては十分合格だから。
小鈴
でも……それは、もうできない……。
吟子
関わるなって言われたから?
小鈴
……ダメって言われたことをやっても、徒町は余計に迷惑かけるだけだから。
吟子
私は、そんなことないと思うけど。
小鈴
……。
吟子
ひとまず、帰ろう。 小鈴。
今日はさやか先輩がハンバーグ作ってくれるって言ってたよ。
小鈴
……うん。
吟子
……小鈴のステージ、私はとってもいいと思うよ。
何か分からないことがあったら、協力するから。
小鈴
……うん。
吟子
……。