第4話『太陽を目指した背中』
PART 6
広実 | えー……というわけで、ひがし茶屋街は、 加賀友禅や金沢箔といった伝統工芸品とも密接に関わりがあったんです。 |
広実 | 茶屋では三味線や踊りが披露されて、 お客さんたちを楽しませていました。 |
他校の生徒 | へー! |
小鈴 | 広実さん……! ステップの成果が出てるよ……! |
広実 | この街の特徴は、木造建築。 美しい建物です。 格子戸が特徴的で、『木虫籠(きむすこ)』と呼ばれています。 |
他校の生徒 | なんか……スクールアイドルってかっこいいね。 地元のことにも詳しいし……ね、きみもそう思うよね。 |
小鈴 | へ!? あ、はい! そうですね! |
他校の生徒 | 長身できりっとしてるし、ライブとかも素敵なんだろうなあ。 |
小鈴 | 徒町も、そうなるといいなと思ってます。 |
小鈴 | 立ち居振る舞いもすらっとしててかっこいいし、 人に見られてることも意識できてる。 |
小鈴 | あとはもう、カンペ無しでも話すことができれば、あがり症は――ん? |
他校の生徒 | お姉さーん! きむすこ?って、なんでこんな形なのー? |
広実 | えっ。 |
広実 | なんで……えっと、木虫籠ってのはっ。 |
広実 | ……ふう。 これは、中のお客さんが外から見られないようにする工夫なんです。 |
小鈴 | わあ……ちゃんと、話せてる……! |
他校の生徒 | へえ……。 |
広実 | よし……。 それで――。 |
ローカルテレビのアナウンサー | すみません、素敵なことをしてますね! |
広実 | !? か、カメラ……!? |
ローカルテレビのアナウンサー | はい! 地元のスクールアイドルを全国に届けようという試みでして! |
ローカルテレビのアナウンサー | ラブライブ!全国優勝校の蓮ノ空をはじめ、強豪ひしめく北陸の取材を―― と思っていたら、素敵な観光ガイドをしている方を見つけたので! |
ローカルテレビのアナウンサー | あなたはスクールアイドルの方ですか? |
広実 | いや、あの、アタシ、は……! |
他校の生徒 | 本当に素敵ですよ、お姉さん。 |
広実 | あ、う……! |
小鈴 | ど、どうしよ、助けた方がいいかなこれ……。 |
ローカルテレビのアナウンサー | 良かったらこちらにも、金沢の魅力を是非! |
広実 | ぜ、全国……スクールアイドル……アタシは、アタシ、は……! |
ローカルテレビのアナウンサー | あの……? |
他校の生徒 | お姉さん? |
小鈴 | あの! |
広実 | ワターシはスクールアイドルではアリマセーン!! 取材はノーセンキューヨーウェルカーム!!! |
ローカルテレビのアナウンサー | ……。 |
小鈴 | あちゃあ……。 |
広実 | ……誰だよこのキャラ!!!! |
小鈴 | あ、広実さん!! |
小鈴 | えと……蓮ノ空の徒町小鈴です! 金沢よいとこ一度はおいで! それでは!! |
小鈴 | じゃあちょっと、街の中でお昼にして! また14:00にここ集合で案内を再開します! |
広実 | 師匠……アタシは……結局なんの成長も……。 |
小鈴 | 今回は色々予想外のことが起きちゃったからしょうがない! 徒町も失敗なんてたくさんある! 次いこ、次! |
広実 | ……はは。 流石師匠だ。 |
小鈴 | ? |
広実 | やっぱ、師匠はアタシの理想だけど……アタシとは違う。 アタシは……失敗すると、苦しい。 |
小鈴 | ……。 |
広実 | 目を閉じると、さっき居た人たちの顔が浮かんでくる。 |
広実 | こいつなにしてんだ、なにを言うつもりなんだ、なにも言わねえのか、 そんな言葉が聞こえてくるみたいだ。 |
小鈴 | そんなことないよ。 みんな、心配してたんじゃないかな。 |
小鈴 | それは広実さんにとって、べつに嬉しくないことかもしれないけど。 でも、広実さんを嫌な風に見たりは、してないよ。 |
広実 | ……初めての入部試験の日も、そうだった。 |
小鈴 | えっ……スクールアイドル部の? |
広実 | アタシのパフォーマンスを見るって……そう言われて。 たくさんの目がずっとアタシを見てるってことに……耐えられなくて。 |
広実 | 立ってるだけで、 どんどんアタシが何もない人間だって見透かされてくような気がして、 取り繕おうとして……変なキャラ作って……。 |
俯く広実に、小鈴は手を伸ばす。そっと、その震える手を握る。 | |
広実 | 師匠……? |
小鈴 | もしかしたら……あがり症なのは入部試験の時のことが原因なのかもね。 でもさ。 徒町、広実さんに知っててほしいことがあるんだ。 |
広実 | なにを……。 |
小鈴 | 徒町も、自分に自信なんて欠片もないよ。 広実さんの、何もない自分を見透かされてくっていう感覚……分かるんだ。 |
広実 | 嘘だっ。 |
小鈴 | 広実さんはそんなことないって言ってくれるけど…… いつだって徒町は、徒町なんかって思ってる。 |
広実 | スクールアイドルの師匠とアタシじゃ、そもそも違ぇよ……。 |
小鈴 | 同じだよ。 でも……そうだね。 違うところがあるとすれば……背中を押してくれる人、かな。 |
小鈴 | 徒町には、頑張れって言ってくれる人が、たくさんいる。 |
広実 | ……。 |
小鈴 | スクールアイドルになって、いろんな人と出会って、 背中を押してくれる人が増えた。 |
小鈴 | それまでの徒町は、自他共に認めるお荷物だったんだよ。 |
小鈴 | だから、さ。 広実さん。 |
小鈴 | 徒町が、広実さんの、最初の背中を押す人になってあげる。 |
広実 | 師匠……? |
小鈴 | 広実さんは、スクールアイドルになれる。 |
小鈴 | 徒町にないかっこいいところをたくさん持ってる。 嘘じゃないよ。 素直な気持ちを、この特訓中に徒町はずっと言ってきた。 |
広実 | ……そりゃ、でも、お世辞ってもんがこの世にはあって。 |
小鈴 | ない! この徒町小鈴に、そんなものはない! だって徒町は、嘘が下手なんです!! |
小鈴 | だから、頑張れ広実さん。 スクールアイドル徒町小鈴は、広実さんが絶対に、 すごいスクールアイドルになれるって信じてるから。 |
広実 | 師匠……。 |
小鈴 | ってえ! スクールアイドル徒町小鈴、 大したことないやつだから、不安かもしれないけど!! |
広実 | ……いいや。 |
広実 | 師匠が……徒町小鈴が太鼓判押してくれたんだとしたら。 応えられねえのは、それこそ嘘だぜ。 |
小鈴 | ……頑張れる? |
広実 | ああ、やってやる。 世界一のスクールアイドルに、できるって言われたんだから! |
広実 | アタシ……アタシ、行ってくる! |
小鈴 | うん……頑張って! |
広実 | 待ってくれ!! |
ローカルテレビのアナウンサー | あれ、あなたは。 |
広実 | もう一度……もう一度チャンスが欲しい。 ちゃんと……地元の魅力を、話すから! |
ローカルテレビのアナウンサー | 大丈夫ですか……? |
ローカルテレビのアナウンサー | こちらも急な取材で緊張させてしまったのかなと、 反省していたのですが……。 |
広実 | いや、あれはアタシが……今一番乗り越えたいことなんだ。 だから……頼む! |
ローカルテレビのアナウンサー | ……そう、言ってくださるなら。 待っててください、今カメラ回します! |
広実 | ……ふう。 |
ローカルテレビのアナウンサー | それでは、是非金沢の魅力を! |
広実 | ……金沢は、本当に良いところだ。 全国に誇る古い都。 この辺の街づくりは、昔の知恵が詰まった場所……。 |
広実 | そして、だからかな。 この街を愛する人が多い。 この街を誇る人が多い。 |
広実 | アタシの好きなスクールアイドルも…… この金沢のスクールアイドルであることを誇らしく思ってる。 |
広実 | 難しいことはあんま言えねえ……それがだせえかなとか、 恥ずかしいことしてんじゃねえかとか、 頭ん中ぐるぐるして緊張することもあるけど…… |
広実 | 今こうやってアタシが胸を張れるのは、 金沢のスクールアイドルがいるからだ。 |
ローカルテレビのアナウンサー | では、金沢の魅力は、スクールアイドル……? |
広実 | ああ、アタシにとっては、そうだ! 大したこと言えてなくても、これがみんなにとって求めてる答えじゃなくても! |
広実 | アタシが今、こうして話せてるのは、金沢にスクールアイドルがいるからだ! |
広実 | 来てくれてありがとな!! |
広実 | アタシはスクールアイドルじゃねえけど…… でも、みんなとの時間はすげえ楽しかった! |
他校の生徒 | こちらこそありがとうございました! |
他校の生徒 | あの。 |
広実 | なんだ? |
他校の生徒 | 最初のクールな感じも良かったけど、午後からのお姉さんは…… もっと、一緒に居て楽しかった。 |
広実 | ! |
広実 | ……そっか。 こちらこそ、ありがとな。 |
他校の生徒 | はい! |
小鈴 | 今日は本当にありがとー!! また会おうねー!! |
小鈴 | はー……すごいよ、広実さん! もう完全に克服しちゃった! |
広実 | 師匠のおかげだ。 アタシはアタシのまま……やれるって、言ってくれたから。 |
小鈴 | そうだね。 |
広実 | ……ありがとな、師匠。 |
小鈴 | ふぇ? |
広実 | アタシに付き合ってくれて、本当にありがとう。 |
小鈴 | 徒町こそ! 明日の入部試験、頑張って! 今年こそ合格! ちぇすとー! |
広実 | 師匠。 |
広実 | ……村野さやかに追いつきたいって、言ってたよな。 |
小鈴 | あ、うん。 ……そうだよ。 |
広実 | アタシに特訓してくれることで、ちょっとは追いつけそうになったか? |
小鈴 | それは……。 |
小鈴 | 追いつくには、まだまだかかると思う。 でも……さやか先輩にも褒められたんだ。 |
小鈴 | どんどん上達してるって。 それはきっと、広実さんとの特訓のおかげ。 |
広実 | そっか。 ……そりゃ、良かった。 |
広実 | アタシにもさ。 いるんだ、追いつきたいと思った相手が。 そいつらは、先に試験に合格して、今も立派にスクールアイドルをやってる。 |
小鈴 | あ……もしかして、特訓バレたくない、って言ってた相手……? |
広実 | ああ。 ……だからこそ、かな。 師匠が言ってくれたことが沁みたんだ。 |
広実 | 追いつきたいから頑張るって言葉がさ。 追いつけるんじゃないかって、思えた。 |
小鈴 | そっか。 |
小鈴 | きっと追いつけるよ!! 今の広実さんは、すっごくスクールアイドルだから! |
広実 | ……ああ。 |
広実 | なあ、師匠……。 |
小鈴 | ん? |
広実 | アタシは…………。 |
広実 | ……試験、頑張ってくらあ! |
小鈴 | うん、頑張れ、広実さーん!! |
広実 | ああ、じゃあな!! |
小鈴 | 徒町は……良い師匠でいられたかなあ。 |